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この身が悋気で焼き尽くされても構わないわ

「凄いぞ、六連星。見直したぜ。」


 プリ様のグラビティブレットでも破れなかった結界に穴を開けたのだ。天羽々矢が、それだけ強力である証拠だ。

 和臣は素直に賞賛の言葉を送った。


「この調子で、ケルベロスも穴だらけにしてくれよ。」

「例えるなら、ガキのグラビティブレットは打撃力のあるマグナム弾。私の天羽々矢は、謂わば、貫通力のある九ミリ弾。だから当然の結果なんだけど……。」


 そう言った後、六連星は膝から崩れ落ちた。

 説明しよう。六連星二十六の秘密能力の一つ、天羽々矢を使用すると、そのあまりの集中力の反動で、一時的に戦闘能力が著しく減退してしまうのだ。


『使えねぇ……。』


 と思ったが、一応結界を破った功績を鑑み、口には出さなかった。


「お嬢! 立派だったぞぉ。お嬢〜!」


 倒れた六連星を、泣きながら乱橋が抱き上げていた。


『なんだかんだ言って、あいつも過保護だよな……。』


 二人の様子をチラリと見ながら、和臣は溜息を吐いた。


 俺がやるしかないな。

 魔法の杖を握る右手に力が篭った。




『弱過ぎる……。』


 フルとの戦闘を開始したリリスは、そのあまりの他愛なさに、弱い者虐めをしている様な罪悪感を覚えていた。


 日記帳を奪おうとしたリリスから、ヒラリと身を交わしたフルは、書庫を飛び出し、一目散に闘技場らしき広間に逃げ込んだのだが、逃げ回るばかりで、全く反撃して来ないのだ。


 時々、攻撃が当たると、痛そうに顔を歪めて睨んで来たが、それだけだった。

 そして、とうとう、リリスに闘技場の隅まで追い詰められてしまった。


「素直に、その日記帳を渡してくれるなら、これ以上は手を出さないわ。」


 リリスが情けをかけると、フルは目を丸くして驚いた後、口に手を当てて笑い出した。


「なにそれ? もしかして、ゆういに たっている つもりなのかしら?」


 ああ、可笑しい。と、彼女は手を打った。


「むしろ、あなたは もう わたしに ゆびいっぽん ふれられなく なるのに……。」

「あらあら、その様で良く言うわね。お尻ペンペンして上げましょうか?」


 凄んでも、薄笑いを返されるばかりだった。


「ふしぎ だったんでしょ? なぜ、わたしが つくよみ(月読) なのか。」


 その言葉に、リリスの動きが止まった。


「この からだは たきのぼり しずか(滝昇 静) という こどもの ものよ……。」

「まさか、貴女……。あの禁断の邪法を……。」

「そうよ『じんかくてんい(人格転移)』わたしは ひなぎくさまの ようじょしんせいどうめいに さんかする ために、からだを すてたのよ。」


 人格転移とは、御三家に伝わる、邪法中の邪法であった。

 高度な魔法技術と強力な魔法力を必要とし、失敗すれば死んでしまうという、リスクの高過ぎる術なので、成功させた者は皆無と言われていた。


「さんねんまえ、じんかくてんいを せいこう させた わたしは、じっと このこの いしきの うらがわで まっていたの。ようじょしんせいどうめいが かつどうを かいし するまで……。」

「狂っているわ。自分の身体を捨て、その子を犠牲にしてまで、雛菊に仕えようというの?」

「『さま』を つけろと いっているでしょ!」


 素早い動作で、フルは着物の両方の袂から、二本の扇を取り出した。それを広げると、両手に扇を持ったまま、舞う様な動きで、緩やかにあおいだ。その途端、先程プリ様を襲った紙吹雪が、フルの着物の彼方此方から飛び出して、リリスに襲い掛かった。


「これは……、何……?」


 リリスは全身から気を発して吹き飛ばそうとしたが、逆に、身体中から気力を奪われて、膝を折った。


「かみふぶき いちまい いちまいに、まほうしを すいとる じゅつしき(術式)を かいているの。」

「なん……ですって……。」

「ふつうの のうりょくしゃ には、まず やぶれないわ。」


 そう、重力を操れでもしない限りはね……。

 フルは、プリ様のグラビティボールを、思い出していた。


「ほらほら、さっきまでの いせいの よさは どうしたの?」


 紙吹雪は、リリスの全身に貼り付いて、なおも魔法子を吸収し続けていた。

 立っている事も出来ず、倒れてしまった彼女の腹部を、フルは遠慮無く蹴り上げた。


「あっははは。ひなぎくさまの きもちが わかるわ。あなた、いじめたくなる たいぷ よね。」


 次に髪の毛を掴むと、頰に往復ビンタを喰らわせた。


「わたしが しつけて あげる。ひなぎくさまに かわいがって もらえる がんろうぶつ(玩弄物)に なれる ように。」

「あ、貴女……、雛菊の事が好きなのではないの?」

「すきよ。あいしているわ。それが どうかしたの?」

「雛菊が他の()を……、例えば私を、抱いたりしても平気なの?」


 リリスの疑問を聞いたフルは、心底呆れた様に、深い溜息を吐いた。


「それは しっとで むねを こがすわ。はっきょう しそうな くらいよ。でもね……。」


 フルの真っ赤な目が、不気味な光を発し、揺らいだ。


「それでも、あのひとの のぞむものを あたえて あげたいの。あのひとが みたされるなら、この()りんき(悋気)で やきつくされても かまわないわ。」


 狂気……、などという生易しい歪みではなかった。

 雛菊という孤高の星に、砕け散りながら、ぶつかって行く、箒星の如き妖しさだった。


 フルの迫力に呑まれていたリリスは、気が付くと、随分、彼女の顔が間近にあった。


「顔が近いわ……。」

「だって、きす するんですもの。」


 咄嗟に顔を背けたが、動けないリリスは、頭を固定され、無理矢理に唇を奪われた。


「ああ、すこし すっぱい。もぎたての かじつの あじね……。これが、あのひとを むちゅうに させている いけない くちびる なのね。」

「…………!」


 フルの舌は、躊躇いも無く、リリスの唇を蹂躙した。抵抗出来ないリリスは、目を瞑り、必死に耐えた。


「ひなぎくさまが さわりまくった やわはだの かんしょくも あじわって みたいけど……。」


 紙吹雪まで取れてしまうので、服を脱がす訳にはいかないのだろう。


 どうも、フルは、オクの追体験をする事で、心を焦がす嫉妬心との折り合いをつけているみたいだ。


 ……これ、もしオクにエッチな事をされたら、もれなく、こいつ(フル)にも、同じ事をされるんじゃ……。

 冗談ではないわ。

 そう思い至って、リリスは全身に鳥肌が立つのを感じた。




 その頃、勢いよく屋敷内に突入した、プリ様と紅葉は……道に迷っていた。


「へやが おおすぎなの。わからないの。どこに りりすが いゆか。」

「こんな時、リリスが居れば、的確な判断で導いてくれるのにね……。」

「だから、その りりすを さがして いゆの。もみじ、ばかなの。」

「何をぅ。未だに三語言葉のお前に言われたくないわ。悔しかったら、二つの文章を繋げてみな。」

「いま、そんなの かんけいないの。もみじ、ばかなの。」


 ……。おまけに、醜い争いをしていた。


「ぴっけちゃん、においで わからない?」


 プリ様は、紅葉の背中を離れ、自分の肩に戻っていた、ピッケちゃんに語りかけた。


「バーカ。犬じゃないっての。」

「うるさいの、もみじ。ぴっけちゃんは まかいのらねこ なの。もしかしたら、わかるかも しれないの。」


 そう言われたピッケちゃんは、再び翼を広げて、パタパタと浮かび上がった。暫く滞空して、辺りの様子を窺っていたが、突然プリ様達の方を振り返り「ピッケ!」と鳴いた。


「……。いま『ぴっけ』って ないたの……。」

「鳴いたわね……。それが名前の由来なのかも……。」


 二人が話している間にも、ピッケちゃんはスィッーと飛んで移動を始めた。


「と、とにかく ぴっけちゃんを しんじるの。」

「なんか、藁にすがっているような気もするけど、しょうがないわね。」


 プリ様達も、ピッケちゃんの後に続いて、移動を始めた。




 一方、フルはリリスのスカートをめくっていた。


「何やっているの? 止めて〜!」

「ないても さけんでも たすけなんか こないわよ。」


 リリスはフルを追うのに夢中で気付かなかったが、この部屋の扉は隠し扉になっているのだ。


「あなたが すかーとを ひるがえして たたかって いるときから きになっていたの。なにいろ かなって……。」

「何で、そんな事が気になるの? 変態、変態、変態〜!」


 急げプリ様! リリスの貞操のピンチだ!!




フルさん、理知的でクールな悪役というつもりだったのに、気が付いたら狂信者みたいになっていました。

おかげで、リリスさんを狙う変態が、二人に増えてしまったのです。


……。というか、キャラクターのほとんどが、何かしら歪んだ性癖を持っているような気もします。

リリスさんの貞操の危機は、これからも続いていくのです。

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