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怖がり少女シリーズ

怖がり少女の視えるモノ

作者: まはろ

パラパラパラ


ピチョン ピチョン


ヒタヒタヒタヒタ



雨の音。


水滴が落ちている音。


自分の足音。


真っ暗な校舎。



おかしい、(あかり)は考える。


何故なら、ここは放課後の学校。


多くはなくても、少なからず人はいるはずだ。


しかし、人の気配がしない。


普段の灯は、この時点で、もつれそうになる足を叱咤しながら、家に帰る。


だが、灯の頭に浮かぶ。


般若のような表情をした教師。


灯はその教師の宿題である、明日までに提出しなければならないプリントを自分の教室の机の中に入れっぱなしにしていた。


あの教師に怒られたら、灯は泣く自信がある。高校生になって、クラスメイトの前で号泣する姿を晒すのは、大変に恥ずかしい。


それは、避けたい。


灯は教室へ向かう。


パラパラパラ


ピチョン ピチョン


ヒタヒタヒタヒタ


「・・・人にー ひかりをー 灯すのだ!

世界にー ひかりをー 灯すのだ!」


灯は歌い出した。廊下に灯の上手とはいいがたい歌声がこだまする。


灯は拳を振りながら歌う。

その姿は戦時中に自らを慰める兵士さながらだ。

実際に、この歌は、小さい頃に灯が自分で作ったテーマソングであり、慰める時に歌うものだった。



「怖いー ことなんてー なーいのだ!

(あかり)ちゃんがー 来たらー

だいじょーぶ! ヘイ!


光れ! 輝け! 灯れ!

最強のー(あかり)ちゃんー」






歌いながら、ついた教室には誰もいない。


曲を何度もリピートしながら灯はプリントを探す。


しかし、中々プリントが見つからない。


何故なら、灯は、おおらかなお人好し、そしておおざっぱ、だからだ。もちろんO型だ。自慢ではないが、灯の両親もO型であるため、O型のサラブレッドだ。


なにが言いたいかというと、机の中が汚い。



灯は中腰で机の中をガサゴソと目的のプリントを探す。

視線を感じて、灯は目線を下げた。


机の下の隙間から床を見ると。










床に這いつくばる女。


その、髪の長い女が灯をジロッと見る。


ニッと笑った。


「ひいっ!」


中腰の灯は仰け反って後ろに尻もちをついた。


女は立ち上がり、灯にヨタヨタと近づく。


長い黒髪で顔は見えないが、青白い肌、赤い唇は見える。


全てが不気味だったが、灯はその女の姿をみて少し安心する。


灯と同じ服ーー、灯の高校の制服を着ていたからだ。灯をわざと驚かせたのだろう、まったく初対面だが、おちゃめな人だ。


「もうっ!びっくらこいたぁ!!」


灯はいつの間にか自分の頬が濡れているのに気づいて、手で拭いながら、そう言う。


女子高生は一瞬驚いたような表情をみせたが、またすぐに笑みを見せた。


「・・・ゴ、ゴメ、メン。タ、タノミタイ事ガ、ア、アルノ」


女子高生は、風邪を引いているのか、ひどく掠れた声で、ヒューヒューいいながら、そう言った。


灯は立ち上がる。


「なんですか?」


「コ、コレヲ、・・・オ、オトウトニ、渡シテ・・・・」


「え?弟なら、自分で渡せばいいじゃないですか?」


「・・・オ、驚カセルカラ・・・。ア、アシタ、オトウトノタンジョウビ、ワタシテ」


「あ!サプライズ!?わかりました!」


灯は、風邪っぴきの女子高生からロケットペンダントをもらう。


「・・・ア、アトツタエテホシイ事ガアルノ・・・コウチャン・・・」



灯はその言葉と弟の名前を聞いて、サプライズ成功するといいですね、と快く引き受けた。


そして、教室に風が吹く。


女子高生の顔にかかった、長い黒髪はさらりと後ろに流れて、顔を見せた。


彼女は綺麗な顔立ちをしていた。


首を寝違えたのか、首を傾けている。


そして、彼女は、オネガイネ、と笑って去っていった。



おちゃめな良いお姉ちゃんだなぁ、と自分の意地悪な兄と比べて感心する灯。



グシャグシャになっている般若教師の宿題のプリントを見つけて帰宅した。


帰りは、校舎は少し明るくなり、部活動をやっている生徒の声が聞こえていた。

灯は、気づいてなかったが。











灯は家に帰ると、早速、兄にいじめられる。


「ヤダー!なんで塩なんかかけるのー!」


「塩焼きにして食ってやろうと思ってな!ガハハハ!」


「ヤメテ!ヘンタイ!お母さんー!お兄ちゃんに塩焼きにされて食べられるぅー!」


「あら、いいじゃない。お母さんにも一口ちょうだい。おほほほほ」


「ナニー!?なんでお母さんも塩かけてくんの!?みんな、私の身体が目当てだったのね!」


その日の灯の晩ゴハンは秋刀魚の塩焼きだった。















無事に般若教師にプリントを提出できた灯は、クラスメイトに、昨日会った女子高生の弟の名前を言って聞いてみた。


「ああ、氷の王子様ね。知らなかったの?隣のクラスじゃない」


「なんていうあだ名なんだ・・・。そんなあだ名を付けられたら私は恥ずかしくて悶絶死するよ」


「私はあんたのあだ名のほうが死にたくなるけどね、バカリ」


灯のあだ名はバカ+アカリ=バカリだった。








昼休みに隣のクラスに行く。

氷の王子様はどれか、友達に聞いた灯は、持参してきたものを装着し、サプライズ作戦を実行した。









「誕生日おめでとーう!!!」


パーン、とクラッカーを派手に鳴らして、氷の王子様に向けて鳴らす灯。

氷の王子様はクラッカーの中のカラフルな細長い紙を頭につけた。(というか、飛んできた)

そして、彼は灯をみて、固まった。


それはそうだろう、灯は鼻眼鏡をつけて、パーティ用のとんがり帽子を頭につけている。

完全に大阪のくいだおれ人形だ。


「はい、プレゼント!!!!」


そして、灯は氷の王子様に女子生徒からもらったロケットペンダントを渡す。


「これは・・・」


氷の王子様はロケットペンダントを手にして、さらに驚愕する。



「お姉ちゃんからのサプライズ!あと、伝言。ゲフンゲフン」


わざとらしい咳をしてから灯は言う。



『コウちゃん、長い間、苦しめてごめんね』


続けて灯は言う。


『お姉ちゃんは幸せだよ。

コウちゃんがこんなにもお姉ちゃんのこと、考えてくれて。けど、むこうでラッキーが私を待ってるから、行ったら遊んであげなきゃ。

コウちゃん、あなたは何も気にしないで。これはしょうがなかったことなの。

ね、お姉ちゃんの大好きな、コウちゃん。お姉ちゃんとラッキーがコウちゃんを見守ってるよ。だから、お姉ちゃんのことは気にしないで。

コウちゃん、あなたはお姉ちゃんの分も元気に暮らして欲しいの。


誕生日おめでとう。じゃあ、コウちゃん。お姉ちゃんは行くよ。元気でね』


氷の王子様は目を見開いて灯を見る。


「以上、お姉ちゃんからの伝言でした!美人で優しいおちゃめなお姉ちゃんで羨ましい!それはそれは幸せそうに天使みたいに笑ってたよ」




灯がそう言うと、教室の扉がバシーンと開く。


「ゴラァァァァ!!!さっきの音はお前か!!!!!」


般若教師が灯の鳴らしたクラッカー音を聞きつけて、教室に現れたのだ。


逃げる!を選択する灯。


追いかける般若教師。


嵐のように去っていった彼らにポカーンとする氷の王子様とクラスメイト一同。













教師に捕まった灯。

鼻眼鏡ととんがり帽子は没収された。

そして教師は、お互いの鼻先がぶつかりそうなくらいに、般若のような顔を灯に近づかせて説教をした。

すみませんでした、すみませんでした、と土下座する勢いで謝る灯。

無事に釈放された。






恐怖で死にそうになりつつ、クラスに戻ってきた灯は、自分のホームに戻ってきたようにそれはそれは安心した。


そして、号泣した。





うわぁぁぁぁん


はんにゃがぁぁぁ


はんにゃにぃぃぃぃ


おこられたよぉぉぉ


こわかったぁぁぁぁ



友達の膝に突っ伏して、そう喚き泣く灯。


バカリ、大丈夫かよ。

バカリ、また怒られたの?

バカリ、よちよち。

バカリ、なにしたの?

バカリ、うるせーよ


バカリちゃん、ありがとう。

ワンワン!


クラスメイトに色々言われながら、もみくちゃに慰められた灯。

泣いていた灯は、昨日会った氷の王子様の姉の声が混じっている事と、犬の鳴き声には気づかなかった。













氷の王子様は、開いたロケットに入っていた写真を見て、静かに涙をこぼした。


「お姉ちゃん・・・」


幼い頃の自分と死んだ姉が二人で笑っている写真だった。


彼が中学2年生の時、姉が高校1年生の時に交通事故で亡くなった。


夏休みに入ろうとしていた時期だった。


姉と些細な喧嘩をして、姉が話かけてきても無視していた時。


姉は、学校に大切なものを置いてきてしまった、明日から夏休みだから取りに行く、と言い、学校に向かっている最中に事故は起きた。


首が折れていて、即死だったそうだ。


なんで、もっと優しくしてやれなかったんだ。なんで、もっと、もっと・・・。


後悔しかなくて、彼は暗くなっていった。


幸せになんかなってはダメだ。そう思った、彼は笑わなくなり、氷の王子様という変なあだ名がついた。




そして、彼の誕生日。


突如、大阪のくいだおれ人形みたいな身なりをした女子生徒が現れた。


そして、ロケットペンダントを貰った。


これは、彼が姉の誕生日にプレゼントしたものだ。


中に何かを入れていたのは知っているが、見せてはくれなかったのをよく覚えている。


そして、女子生徒は彼に姉の伝言を伝えた。その間、彼には彼女が姉に見えた。


ラッキーというのは小学校のときに死んでしまった飼い犬だ。


学校に忘れた大事なものって、こんなのだったのかよ・・・


彼は涙を流しながら、思う。


けど、ラッキーと幸せにしてるんなら、俺も幸せにならなきゃ、怒られるな・・・。



ロケットペンダントを握りしめる氷の王子様。





そうして変わっていった彼のあだ名は、氷の王子様から、はにかみ王子に変わる。















「なに?今日は塩かけてこないの?」


「お前まずそうだからな。食べるのやめたわ。それとも、え?なに?食べてほしいの?」


「まずくない!!ぴちぴちの女子高生なんだから!!!このヘンタイ!!お母さん!私って美味しそうだよね!?」


「美味しそうか、まずそうか、そう聞かれたら、まずそうね!!!」


「えぇぇー!!!」




怖がりの灯が


おちゃめなお姉さんと


般若教師にびびった


そんな2日間の話。












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