アマノジャック・ア・ランタン
彼が地獄に落ちたのは、神様の事が気に入らなかったから。生きている内に、さんざんっぱら神様の悪口を言いまくったから。
傲慢で、偉そうで、威圧的で、優しくない。あんなヤツに従っていたって、良い社会が作れるはずないさ。さっさと自分たちの手だけで、この世の中を作り直さないか?
そんな感じ。
その主張は神様の耳にもついには届いて、彼は徹底的な蔑視の内に罰せられ、そうして、地獄に落ちました。彼が落ちた地獄には、他にも落とされた人間がいっぱいで、その人間達はやっぱり神様の悪口を言っていた。彼も最初の内はそんな連中と、神様の悪口を一緒になって言っていた。けれども、ある時、皆の主張を聞いていて疑問に思った。神様ってそこまで酷いヤツだったか?なにも、そこまで言う必要はないのじゃないか?そうして、だんだんと、その中で一緒になって悪口を言っているのが嫌になってきた。神様の事を思ってというよりも、その悪口が実を離れたインチキになっている事に気が付いて、それに我慢できなかったのだ。
皆は悪口を言う事で、共通の認識を作って気持ちよくなり、その揺りかごの中で満足していた。その中では、その悪口が実だろうが偽物だろうが関係なかった。否、自分達が気分良くなる為に言われるそれは、むしろ誇張してある偽物の方が喜ばれた。
そりゃ、確かにヤツには悪い点がいっぱいあったさ。だけども、全てが全て駄目だって訳じゃない。少しは良い点もあったはずだよ。文句を言うにしたって、それは適切なものにするべきだ。それができなけりゃ、結局、僕らはあいつと同レベルじゃないか。
彼はその中でそう思い、そうして、地獄のその中で、神様の弁護を始めてしまった。そんな中でそれをすれば、彼が徹底的な蔑視の内に罰せられてしまうのは、分かり切った事実であったにも拘わらず。彼はそれを止められない。生きている内にだって、神様の文句を止められなかった彼だから、どんな悲惨な現実が待っていようと止められない。そうして彼は、地獄を追放、追い出され、たった独りで永久に地上を彷徨うハメになった。
彼はたった独りでいるしかない。
何故なら、誰も彼には触れたがらないから。神様にも地獄の亡者達にも嫌われている彼に触れたら、自分達も同じ様に、神様にも地獄の亡者達にも嫌われてしまう。だから、誰も触れたがらない。
オーケー
その中で彼は思う。
一人でこのままで充分さ。たった独りでいつまでも、歌を歌って過ごすから。
"誰も僕には触れたがらない"