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王子様と改造人間 six
 


 試合が終わって、ブロックから出ようと二人が出入り口のドアに向かって
歩いていると
「お前、負けたことあんまないだろ?」
 メーベルの少し先を歩くハイゼが後ろも振り向かずに言った。
「そう、ですね。最近は、負けなしですね。この力を使えばの話ですけど。
さっきはヒヤッとしましたよ。私じゃなかったら、負けてました」
 メーベルがたんたんとそう言うと
「嫌みかよ・・・・・・、にしてもほんとに便利な能力だよな」
 ハイゼがやれやれと肩をすくめた。
 その後ろ姿を見ながら
「なんで、私ぐらいしかスアとの適合者がいないか知っていますか?」
「えっ?」
「スアとの適合者にしようとされた人たちは、だいたいが拒絶反応で、
よくて廃人、悪くて死」
 メーベルのまるで教科書をすらすらと読むようなその感情のこもっていない言葉に
ハイゼはただ黙っていた。
「私は異例中の異例。生きてること自体、いじくった本人たちも奇跡に
近いって言ってました。確かに、この力は便利かもしれないけど、リスクもある」
「リスク・・・・・・?」
 ハイゼが振り向いてそう言うと、メーベルはごまかすかのように笑って
すたすたと先に行きドアノブに手をかけた。呆然と立ちすくむ一人を残して。









 ブロックの外にいた二人の場所に二人が来ると
「いやぁ、惜しかったな」
 イジャスラフが言って
「惜しかったじゃん」
 アウイが言った。
 言われた本人は、何も返さない。
「メーベル、お前今日は非番か?」
 イジャスラフがメーベルを見下ろして訊ね
「まぁ、そうなりますかね」
「じゃあ、ちょっと俺につきー」
「ご遠慮します」
 メーベルはイジャスラフの言葉を遮って即答した。
「どうせ、ひまなんだろ?」
「いいえ、まだチーム申請してないんで、誰か組んでくれる人探さないと」
「そうか、残念だな」
「すいません、それでは失礼します」
 一礼して、メーベルはその場を去った。









 メーベルが去った後、
「チーム申請、もうそんな時期か。そういや、お前らは決まったのか? なかなかいないってぼやいてたけど」
「俺らもまだなんすよ」
 アウイが頭をかきながら言った。
「俺も大変だったな、なかなか一緒に組んでくれる奴いなくて」
 腕組みをしながらイジャスラフが言うと
「そうですよね、先輩見た目恐いし・・・・・・」
 アウイがぼそり言うと
「言うな、それより、おまえらひまなら俺とー」
「イヤッス」
「遠慮します」
 イジャスラフの言葉を遮り、メーベル同様二人は即答した。
「何でだ?」
 その質問に
「疲れるからっ」
「俺もチーム申請急ぎたいんで」
 二人はそう返す。
「仕方ない、他を探すか」
 イジャスラフが肩を落として言う。
「すいません、それじゃあ、俺たちも今日はここで」
「ハゲ先輩、また来ますねー」
 そう言って二人はその場を後にした。












 体育館を出たところで、
「あいつも多分嘘だろ? チーム申請なんて」
 アウイがさらりと言って
「ああ、チームなんて余った人と組めばいいって言ってたからな」
 ハイゼもさらりと言い返す。
 先のほうで、とぼとぼと歩きながら帰るメーベルの後ろ姿があった。一つ縛りでなくなった髪が、さらさらと風に揺れていた。
「おーいっ!」
 アウイがメーベルに向かって叫んだ。
 メーベルがその声に気づき立ち止まって振り向いた。
















 メーベルに小走りで追いついた二人に
「あれ、もうお帰りですか?」
 メーベルが驚きながら言った。
「あぁ、あのままあそこにいたら先輩にしごかれるとこだったし」
 アウイが溜め息混じりにそう言うと
「私も、今日はちょっと手合わせする気にはなれなくて・・・・・・。
先輩と手合わせすると、この能力使わないで戦わせられたり、翌日筋肉痛に
悩まされたりしますから」
「だよなー、あのスパルタはまじないって」
 二人の会話をそばで聞きながら、ハイゼは一つあくびをした。
「そういや、お前の癖って何なの?」
 アウイの唐突な質問に
「えっ?」
 メーベルは驚いてそう言う。
「なー、ハイゼ知ってんだろ?」
「・・・・・・本気で来るときは、地面を右足一歩下げて蹴ってから、一直線に突っ込んで
くるっていうなんとも芸がないことかな」
 その言葉にメーベルは軽く苦笑い。
「そうなの?」
 アウイが確認し
「はい、絶対とは言い切れませんけど、そうしてしまうことが多くて・・・・・・」
 メーベルが恥ずかしそうにうなづく。
「なぁ、歩きながら話そうぜ」
 アウイはそういい終わらないうちに、歩き出していた。二人は、黙って
後ろについていく。
「何で今日呼び出されてたんだ?」
 ハイゼが隣を歩くメーベルに言って
「あぁ、次の仕事の依頼が入ったんですよ、それで」
「ふーん・・・・・・」
 メーベルはそう言うハイゼを横目でじっと見つめた。
「なに?」
 視線に気づいたハイゼが聞いて
「いや、ハイゼさんってアウイさんとしか話さないイメージあるんで、ちょっと
意外だなぁって」
 メーベルは素直に言った。
 それを前で聞いていたアウイがあははと笑って
「みんなそう思ってるんだな、まぁ俺もハイゼはどっちかって言うと無口って
思ってるけどさ」
「お前に比べればな」
 ハイゼは呆れて言う。
「でも、お前もおとなしくて話さないイメージあるぜ」
 アウイがメーベルに顔を向けて
「よく言われます」
 メーベルは困ったような顔をして返す。
 空は日が沈みかけて、じきに夜の帳が下りようとしていた。鳥たちのさえずりが
聞こえてくる。
「腹減ったなぁ」
 アウイが独り言にようにぼそりといって
「今日の食事当番お前だぞ」
 ハイゼがはっきりと言った。
「今日は外食にしない?」
「お前のおごりな」
「けち」
 二人のやり取りをほほえましく見ていたメーベルをチラッとみて
「お前はどうすんの?」 
 ハイゼが訊ねる。
「今日は久しぶりに作ろうかなと思ってます。でも、お二人がうらやましいです」
「どこが?」
 二人が同時に言って
「相部屋って楽しそうじゃないですか?」
「そうかぁ、まぁ俺はハイゼだからいいけど。お前って一人なの?」
「はい」
「女って多いよな」
「そうですね、私はたまに仕事で夜遅くに帰ってくるんで一人にしてもらったんですけど」
 ホルスは寮があり、里親や保護者などがいないものはだいたい寮に入っている。原則は、
二人一部屋だが諸事情により一人で一部屋使ってもいいことになっている。
「・・・・・・お前も来る?」
 アウイがふと考えたようにメーベルにいって
「えっ?」
「だから、ハイゼのおごりでお前も来れば外食」
 その思いもかけない言葉にメーベルは動揺して
「え、いや、それは・・・・・・」
「なんで俺のおごり? 別にいいけど」
 ハイゼはまたあくびをしながら言った。
「ハイゼもそういってんだし、来いよ」
 アウイが言って、メーベルはしばらく考えて
「いえ、お気持ちだけもらいます。二人水入らずでどうぞ」
 遠慮がちに言った。
「水入らずって、俺らできてるみたいに言うなよ」
 アウイが言って
「そんな噂ありますけどね」
 メーベルが言ったその一言に
「うわ、ありえねぇ」
「最悪」
 アウイとハイゼが同時に言った。
 二人の反応にほほえみながら
「そんな噂まで流れる女子の憧れの的の王子と食事なんて改造人間がいけませんよ。
本当にお二人と食事に行きたい人に悪いです」
「おまえなぁ・・・・・・」
 アウイは呆れたがハイゼはただ黙っていた。
「では、私はここで」
「へっ?」
 アウイがわけがわからないというように言うと、メーベルは二人にぺこりと軽くお辞儀し
その場から消えてしまった。








 二人は、メーベルが去った後
「わけわかんねぇやつ」
 アウイがぼそりとつぶやいた。
「あいつ、早く俺らから離れたかったんじゃねぇの」
 ハイゼのその一言に
「はぁ? 何言って・・・・・・、あ、そか、あいつ・・・・・・。でも、ここまでするか?」
 アウイは呆れた。
「俺らと手合わせすること自体嫌がってたくらいだぞ。ましてや中等部のやつらに
俺らといることなんて見られたくなかったんだろ」
 二人がいたのは、もうすぐ中等部と高等部の境目となる場所だった。
「ほんと、変な奴だったな」
 アウイが空を見ながら小さくつぶやいた。
「そうだな」
 ハイゼも同じように空を見た。
 空は、ただゆっくりと黒に染まっていっていた。
















 

 このときまさか、これから俺達があいつと同じ時を過ごすことになるとは
俺もアウィも思ってもいなかった。







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