王子様と改造人間 trois
試合が開始しても、二人とも全く動く気配を見せず、相手の出方をうかがって
いた。開始から三十秒ほどたち、先に動いたのはメーベルだった。右足を
一歩後ろにずらしたかと思った瞬間、アウィの視界からメーベルはいなく
なっていた。アウィは目をつむり、深呼吸すると右拳を自分の後ろに
繰り出した。背後から襲おうとしていたメーベルがすぐさま後退する。
「目では追えなくても、その速さなら攻撃を防ぐぐらいはできる。お前の
力はそんなもんなのか? 本気出せよ」
アウィは振り向いてメーベルを睨みつけていった。
「さすがですね、・・・・・・アウイさん、本気を出せというなら条件が
あります」
「なんだっ?」
アウィがぶっきらぼうに訊ねると
「アウィさんも本気を出してください、そして絶対死なないでください」
メーベルが穏やかな表情で言った。
「望むところだ、来いっ!」
その返事にメーベルはにこりと微笑んだ。そして、アウィが構えた
瞬間、その表情は一転して険しくなったかと思うと、アウィの腹部に激痛が
走った。メーベルの右すねの部分が見事にアウィの腹部に命中していた。
アウィは後ろに吹っ飛ばされる形になりつつも、なんとか痛みに耐え
メーベルに拳を繰り出す。しかし、その拳がメーベルに届くことはなかった。
メーベルはアウィが拳を繰り出すか繰り出さないかのうちに、もうアウィの
目の前から消えていた。そして吹っ飛ばされながら、まもなくアウィは
尻餅をつく形となった。
アウィは腹部の激痛に耐えながら、後ろで腕を組んで自分を見ているメーベルに
「なんだよ、その反則的なスピードはっ! 人間離れしすぎだろっ」
今できる限りの大きな声で非難した。それにメーベルは困ったような顔で
「だから、改造人間なんじゃないんですか?」
逆に聞き返すかのようにいった。
「ちくしょー、まだこれからだっ」
アウィが勢いよく立ち上がってそういうと
「いいえ、私の勝ちです」
まるで先生の質問に答えるように、嬉しそうな様子も見せずいった。
「はぁ? 何言ってんだ」
わけが分からないというふうにメーベルにアウィがいったとき
「ばーか、まだ気づいてねーのかよ」
ハイゼはブロックの外で呆れていた。
「これが証拠です」
メーベルが、組んでいた腕を前に戻すと、右手と左手に何かが握られて
いた。それをひらひらとメーベルはアウィに見せて
「あーっ、俺のグローブッ!」
「はい。でも今は私の手の中です。だから、私の勝ちです」
淡々とメーベルは言う。
「いつだ? 確かにさっきまで・・・・・・」
「正確に言うと、左の方は私が蹴られてあなたがパンチを繰り出したとき、
右側に移動して取らせていただきました。そして、右はその後あなたが
吹っ飛ばされている最中にあなたの右側に移動して取りました」
「うそ、だろ。全然わかんなかったぞ」
「腹部の痛みに神経が集中していたんでしょうね」
メーベルは少し困ったような表情で言った。
そんなメーベルを見ながら
「お前って、全然勝ってもうれしそうな顔しないんだな・・・・・・。」
アウィは無表情で言った。
「だって、卑怯でしょう? この能力」
苦笑いしてメーベルが言うと
「なんかむかつくなー、私強いですから的に聞こえるんだけど」
「私じゃなくて、能力ですよ」
「まぁ、勝ちは勝ちだ。・・・・・・ありがとうございましたっ」
そう言ってアウィはメーベルに近づいて右手を差し出した。メーベルも微笑みながら
「こちらこそありがとうございました」
握手ついでに手袋を返した。
「お前、目で終えたか?」
イジャスラフが訊ね
「いいえ、でも、確定はしていませんけどなんとなく分かりました。彼女の
癖みたいなの」
ハイゼがすぐ返答した。
「分かっても、どうにもできないんじゃ意味ないぞ」
「どうにかしてみますよ、相棒の借りぐらい一発は返してきます」
「ま、頑張れ」
「はい」
そう言ってハイゼはブロックへと歩き出した。
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