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王子様と改造人間 deux








 もっと前に会っていたのかもしれないが、記憶はない。友人が多い
アウィですらそれまで知らなかったというくらい、影の薄い人物
だった。いや、俺達がもしかしたら光ばかり見すぎていたのかも
しれない。














「改造人間? って・・・・・・」
 アウィが独り言か、誰かに訊ねるかのようにポツリそうもらすと
「アウィ知らないの? まぁ、知らなくても当然か・・・・・・」
 近くにいた今日もめげずに二人に申し込んでいた、アウィの女
友達が、一言目は驚愕したように、二言目は納得したようにそう返答
した。
「で、誰なんだ? さっきの? 」
 珍しくハイゼにそう話しかけられたその女友達はどぎまぎしつつ
「えっ! あ、うん。彼女はね、本名メーベルっていって、スア
との・・・・・・適合者なの。だから、みんな改造人間って
言ってる。本人自体そんなにすごくはないんだけど、スアとの
適合者なだけあって、ありとあらゆる攻撃は防げて、超人的な攻撃も
出来るわけでしょ。攻守完璧な彼女は、小学部の頃からもう実習に
行かされたり、高等部の先輩の実践相手をしたり、上のお偉いさん
にも目をかけられてて引っ張り凧ってわけ。影での期待のルーキー
なんてされてるらしいね。まぁ、みんな勿論本当の期待のルーキーは
二人だって思ってるけどね」
「なーるほど」 「・・・・・・」
 アウィは合点がいったというふうにそう言って、ハイゼはただ
黙り込んでいた。
「サンキュー、お前いい加減あきらめて他探せよ。お前なら組んで
くれるやつたくさんいるだろ」
「分かったわよ、アウィの馬鹿っ」














「あんたとしか組みたくなかったのになぁ・・・・・・」
 その少女がその後、一人学校の窓の外に向かってそうつぶやいて
いた。勿論、もうすでにチーム登録をしてしまったことは言うまでも
ない。

















 放課後、たくさんの人を巻いてやっと二人きりになった二人の
王子は、高等部へ足を赴いていた。
「みんな好き勝手言うよな。俺らの年代で、体いじくられてるやつ
なんてほとんどなのにな。アイツが改造人間なら、俺らだって同類
だろうが・・・・・・」
「まぁ、確かにな。でもさ、他のやつらもそう妬みたくはなるの
かもな。同じくいじられた体なのに、正当な評価って言えばいいのか
わかんねーけど、そういうのを誰もが密かに得たいって思ってる中、
ごっそり得てるんだから。結局そいつがどんな思いかなんてみんな
お構いなしってわけだ」
 ハイゼがため息混じりに言って、アウィがまぁまぁとなだめる
ように続けた。
「人のこと妬む暇があるなら、少しは強くなるよう努力するべきだろ」
 ハイゼが吐き出すように言って、アウィはそんな彼に微笑みながら
「お前って何だかんだ言っていい奴だよな、無口だけど」
「それ、ほめてんのか? 一応」
「一応ほめてんだぜ、無愛想でも」
 アウィがからかうように言って
「勝手に言ってろ」
 相手にしても無駄だと言わんばかりにハイゼは肩をすくめた。









 高等部、体育館。体育館とは名ばかりで、実際には実習、つまり
模擬戦闘のようなことが毎日行われている場所である。とにかく広く、
スアで防音・防強されていて、傷がつきにくい造りになっていた。
「おまえら、また来たか」
 体育館に入るなり、二人はすぐ声をかけられた。その声はどこか
呆れていたが、二人を邪魔者扱いする様子は微塵も感じられない。
「また来ちゃいました、ハゲ先輩」
「こんにちは、今日もよろしくお願いします」
 一人は陽気に、もう一人は礼儀正しく言った。
「おう。アウィ、俺が怒んねーからって、ハゲハゲ言うんじゃねぇ」
「ちゃんと使い分けられるから大丈夫ですよ、赤き獅子、イジャスラフ先輩」
 イジャスラフと呼ばれた者は、長身かつ見事な体つきをしていた。
無駄な贅肉がないと思われるばかりの胸板・腕・腹・そして足。逞しい
と言わんばかりの筋肉である。頭は勿論スキンヘッドで、顔はいかにも
舞闘家のような男らしい顔立ちをしていた。
 二人は、第九学年に入ってからここにちょくちょく顔を出していた。
何故なら、もう中学部では二人の相手になる奴がいなかったからだ。
だから、二人は中学部の先生に相談し、ここを勧められたのである。
「ま、参った!」
 三人の近くでそんな声が飛んできた。すぐ隣のブロックからだ。
この体育館は、スアで出来た透明な壁で、いくつかのブロックに分かれている。
と言うのも、模擬戦闘は複数にしろ一対一にしろ、それがないと厄介
だったからだ。ブロックがない頃、戦っていない相手、つまり他に
模擬戦闘をしていたものの飛び道具などの攻撃に当たってしまったり、その戦闘者自身が
吹っ飛んできてぶつかってしまったりしていた。そして最悪なことに
死者まで出てしまい、すぐこのブロックが設けられたというわけである。
 三人がそのブロックに目をやると、そのブロックには腰を抜かしたように
床に座り込んでいる一人の男子と、その二、三メートル先に突っ立っている
一人の少女がいた。髪を後ろで束ねたその少女の顔を見て、
「あっ!」
「だな」
 アウィが驚き、ハイゼが同意した。
 その少女は、改造人間、メーベルだった。

















 顔が青ざめたままだったが、メーベルの相手は深呼吸するとすぐに立ち上がり
「相変わらず、手加減なしか。殺されるかと思ったぞ」
「手加減したら痛い目見るのは私ですよ、ありがとうございました」
 メーベルはにこやかに言って、一礼した。
「こちらこそ。いやぁ、お前とやるとこの頃怠けてるってますます
自覚させられるよ」
 彼女があんなふうに笑うとはハイゼは思っても見なかった。先ほど
見たときの仏頂面の持ち主とは思えないその笑顔に目がいっていると
「そういえば、おまえらと同じ学年だったな」
「先輩あいつのこと知ってるんですか?」
「知ってるも何も、お前らなんかよりずっと前からここの常連だぞ」
 アウィとイジャスラフがそんなやり取りをしていると、二人はブロックから
出てきた。男子のほうはさっさと違う練習相手を見つけ行ってしまい、
少女も辺りを軽く見回して相手を探していた。
「ちょうどいい、おまえらがどれくらい強いか、同じ学年の彼女と
戦って見せてくれ」
「へっ?」
 イジャスラフの言葉にアウィはすっとんきょんな声を上げ、ハイゼは
少し顔をしかめた。そんな二人にお構いなしに
「おいっ、メーベルッ! ちょっとこっち来い」
 イジャスラフは少し大きな声でメーベルを呼ぶ。少女は、言われたとおり
少し小走りで彼のすぐ近くにいた少年二人に目もくれずこっちにやって来た。
「先輩、何ですか?」
「ちょっとこいつらと戦ってみてくれ」
 イジャスラフに言われ、やっと彼女は二人に目を向けた。そして、
見た瞬間に顔が白くなった。それには二人は少し驚いた。女子に顔を
赤くされるのは日常茶飯事だが、顔面蒼白になられたのは初めてだった
からだ。そんな彼女の心境などお構いなしに
「よー、改造人間」
 アウィが考えなしに発したその一言に、イジャスラフはアウィの頭の
上から左こぶしを垂直にふるい落とし、ハイゼは右足でアウィの左足を
踏み、少女は困惑した表情になっていた。二人の躊躇ない攻撃に
「いってー! 何すんだよ」
「まったくっ、デリカシーのない奴だ」
 イジャスラフがやれやれと肩をすくめる。
「はぁ? ああ」
 アウィは何のことかすぐ分かり
「わりぃ」
 そう自分の失言を素直に詫びた。
「気にしないでください、そう言われてるのは知ってますから」
 メーベルは苦笑いしつつ、返事をする。
「・・・・・・おまえら、見たところ初対面ってとこか?」
「はい」
 ハイゼが即答し
「じゃあ、まず自己紹介からだな」
「いやぁ、俺らのことは言わなくても知ってると思いますよ。な?」
 アウィは一言目はイジャスラフに、二言目はメーベルに向けていった。
「そうなのか?」
「はい、お二人は有名ですから」
「それでも一応しとけ、お互い長い付き合いになるかもしれないし」
「じゃあ、俺から。知ってるだろうけど、アウイだ。アウィって呼んでくれ。よろしくなっ」
 アウィがはきはきと言って
「同じく知ってるだろうが、ハイゼだ。よろしく」
 対照的にハイゼはたんたんと言った。
「メーベルです、よろしくお願いします」
 少し緊張しながら最後にメーベルが言って
「よし、じゃあ早速試合だ、試合」
「あ、あのっ、どうしてもしなくちゃいけませんか?」
「ん、あぁ。今日は人出も少ないし大丈夫だって。気にするな」
「で、でも・・・・・・」
「つべこべ言わず試合してみろっ」
 イジャスラフが問答無用とばかりに言うと、メーベルは諦めた。二人の
そんなやり取りに、後の二人は何のことだろうと少し顔を見合わせる。
「じゃあ、最初はどっちからだ?」
「じゃあ、俺から!」
 勢いよく志願したのは、アウィだった。
「なーに、女相手に本気にならねぇから安心しろって」
「え、あ、はい・・・・・・」
 アウィが緊張がほぐれるだろうと思って言ったその言葉に、メーベルは
ますます顔を白くするばかりであった。
















 二人がブロック内に入り準備をしているとき
「あいつ、噂ほど強くないんですか? 俺らと戦うの嫌がってますけど」
「いや、その反対だ。噂以上だよ、あいつの実力、というより能力は」
「俺ら馬鹿にされてるってことですか?」
「それは違うな、まぁ名実一体、いつも周りに人がいるおまえらにはちょっと
分からないか。あいつはな、とにかく目立ちたくないんだよ。ただでさえ
あの能力だろ? 上から目をかけられるわ、それで周りのやつらからは
妬まれるわで苦労してるはずだ。あいつはうまく立ち回れるタイプじゃないし、
おとなしくしてるってのが一番の解決法なんだろ」
「だからですか、確かに俺らと戦うのは、彼女にとっては避けたかったでしょうね」
「ああ、でもな、俺はもったいないと思うんだよ。あれだけの実力を
噂だけにするのは。お前らと戦うってだけで、確かにあいつにとっては
厄介なことだろう。ましてや・・・・・・」
 イジャスラフが言葉に詰まっていると
「ましてや何です?」
 ハイゼが鋭い眼で先を促した。
「すまない、先に謝っておく。俺はさっき否定したが、絶対今のお前らじゃ
勝ち目はない」
「・・・・・・ましてや俺らに勝ったことが知られれば、嫌でも話の
種にされるでしょうしね」
「・・・・・・そういうことだ。あいつ、なめてかかると骨の一本や
二本持ってかれるぞ」
「大丈夫ですよ。勝つか負けるかはともかく、あいつそんなにやわじゃありません」
「だといいがな・・・・・・」











 二人がブロック外でそんな話をしているとき
「お前ってさ、去年一昨年どこのクラスだったの?」
 アウィが、指先が出るスアで加工された光沢のある黒いグローブをはめながら言って
「一昨年が一で、去年が二です」
「じゃあ、ハイゼが知らなくて当然か。俺ら二人とも第七第八と七クラスだったし。
俺、一昨年の一クラスしょっちゅう行ってたんだけんだけどな、お前
いたっけって感じ。てか多分一クラスほぼ友達だったと思ってたんだけど、なんか悔しいな」
「私、目立たなかったし、あんまり学校来てなかったんで。でも、アウイさんの
ことは覚えてますよ。よくうちのクラスで遊んでましたよね。黒板壊したり、
花瓶壊したりして」
 メーベルが黒いショートパンツの裾の長さを再確認し、シンプルな黒いブーツ
の紐を締めなおしながら言う。
「あったなー、ってそれって嫌味?」
「いやぁ、まぁ先生方は迷惑でしたでしょうけど」
 二人は用意が終わり、ブロック中央で向き合っていた。
「・・・・・・試合方法は?」
「私は特には」
「じゃあ、相手が負けを認めるか、戦闘不可能となったら試合終了な。
後は自由ってことで」
「戦闘不可能って、例えばアウィさんの武器を取ったり壊した時点でも
終わりってことですか? 私だったらこのブーツとか」
「ああ、それでもいいな。うん、俺だったら、このグローブが俺から
なくなったら終わりってことで」
「分かりました」
 そう言って二人はブロック中央から十メートルほど離れた。そして、
二人はイジャスラフの方を向き、こくんとうなづいて見せた。それを見て
「よしっ、試合開始っ!」
 イジャスラフが合図し、二人の戦いが幕を開けた。



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