ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
王子様と春 deux 実戦練習1



 




 
「おはようございますっ! みんな席に・・・・・・着いてますね、さすがです」
 そういって教室に入り、教卓の前についてスーツ姿の男はいった。
 見た目は二十代後半、肩ほどの灰色の髪に灰色の瞳、肌の色はどちらかといえば白いほうで、身長はあるがほっそりとした体はどこか弱々しく感じさせる。そして甘いマスクの顔にはトレードマークのように眼鏡がかけられていた。
「知っている人もいるかもしれませんが、今年度特進クラスである七クラスを担当します、ラザレスです。みなさんに教えるのは、国語と実習になります。これからよろしくお願いしますね」
 にっこりと笑顔でそういうと、持ってきたプリントを手際よく配りだし
「今配ってるのは、みなさんのこれからの時間割と一年間の大まかな行事や特別実習の日程のスケージュールです。大切なものですから、無くしたり、すぐ捨てたりしないように」
 プリントがみんなの手に回る。
 プリントを見る生徒たちを見回し
「みなさんもうプリント見て分かるとおり、最初の特別実習はキャンプです」
 ラザレスがさも楽しそうにいった。


「まじかよ・・・・・・、ダル」
 ドゥエインが顔を引きつらせて一言。
「キャンプという名の野宿だねー。まぁ、でも、楽しそうじゃん」
 リムが慰めるように笑った。

「あぁうぜぇ、やってられっかよキャンプなんて」
 ザンがプリントを机に放り投げ
「まぁまぁ、一応授業の一環なんだから」
 ロジェがなだめるように笑った。
 ロジェの隣でヤナは肩をすくめる。

「ただの、キャンプじゃねぇよな?」
 アウイが隣にいる片眉を上げ、
「・・・・・・さぁな」
 ハイゼがどうでもいいといわんばかりに一言。

 その隣で、
「はぁ、その期間仕事はいらないかな・・・・・・」
 メーベルがうなだれて
「あなたらしいですね」
 キルサンがほほえんでいった。

 メーベルの言葉が聞こえた隣の二人は、金髪の一人は呆れ、黒髪の一人は苦笑い。

 そのような言葉が飛び交う中、
「みなさん、楽しみなのは分かりますけど、まだ一ヶ月はあるので今は置いておきましょう」
 ラザレスがいって教室はまた静まり返る。
「それで、明日からさっき渡した時間割どおりの授業になるわけですが、今日は新しいクラスになったばかりなので各クラスお互いの交流を深めるということで、私たちのクラスは体育館でお昼まで実戦練習しましょう」
 その急な提案に、教室はまたざわめく。
 ハイゼはちらりと左を見た。メーベルは案の定、溜め息一つ。
「戦闘服や武器は持ってきてないと思うので、寮から持ってきてください。あぁ、そのままの服で戦えるというなら構いませんよ。あと、サボったり、ばっくれたりしても私は全然構いませんが、一応その場合欠席扱いしますからね」
 ラザレスのにこやかなその発言に、ドゥエインとリムが軽く舌打ちする。
「じゃあ、みなさん、用意ができたら体育館に集合してください」














 そして、七クラスは半強制的に全員が体育館に集合した。
「あっれー、ザン。お前さぼらなかったんだ?」
 アウイがそういうと
「お前らこそ人のこといえねぇだろうがっ!」
 ザンは呆れていった。
「いやぁ、俺はともかくハイゼが珍しくちゃんと起きてるし、一応来るだけ来るっていうからさぁ」
 アウイが苦笑い気味にいって、ハイゼがあくびを一つ。
「そういやいつもどこかで居眠りするのに、ほんとだな。もしかして、戦いたい奴でもいるのか?」
 ザンが何気なく訊ねるが
「・・・・・・、別に。サボれるときにサボりたいだけ」
 眠そうな目でいった。
「あはは、ハイゼらしいね」
 ロジェが笑って
「さーてと、俺は誰か強そうなやつでも探そっかなー」
 ザンが楽しそうに笑う。その視線の先を見て、アウイは肩を落とし、ハイゼも眠そうな目で溜め息一つ。


「みんな来てくれましたね、それではぼちぼち始めましょうか。あ、始める前に二つほど。あくまで練習なので、けがをしないさせないように注意してくださいね。そうですね、例えば相手の持ち物を盗んだらまけとか、そういった簡単なルールを設けてあんまり無理しなそうな実戦練習にしましょう。でももちろん攻撃はしてもいいですよ、でも相手を殺すような攻撃はなしですよー、攻撃を受ける人も必死に逃げるなりして頑張って回避してください。あと最後に、このクラス八人しかいませんが女の子もいます。余計なお世話と思う人もいるかもしれませんが、男子は女子に顔とかお腹への攻撃は避けてくださいよー、紳士的にね。じゃあ、なるべくいろいろな人と手合わせしてください、じゃあ始めっ!」
 ラザレスがぱんっと気持ちいい音をさせて手を叩くと、生徒がそれぞれ誰かを誘い戦い始めた。


「なーんか、そこまで厳しいやつじゃなさそうだな」
 遠くにいるラザレスを見ながらアウイが手袋をはめながらいって
「まぁねー、でも優しいと思ったら大間違いよ。優しいようでいろいろやらすことは手厳しいんだから」
 ヤナが最後のほうは呆れていう。
「あー、確かお前らの去年の担任だっけ?」
 アウイが思い出すように上を見ながらいうと
「そういうこと」
 ヤナがほほえんでいった。
「お前、そういや戦う気満々っぽいけど、誰か戦いたい奴でもいるの?」
 アウイがヤナの美しい短槍を見ながらいって
「んー、まぁねー、ひ・み・つ」
 ヤナは楽しそうに返す。




 そのすぐ近くで
「ハイゼは戦わないの?」
 ロジェが首をかしげ
「眠い、だるい」
 ハイゼがまたあくびを一つ。
「そういうロジェは戦わないのか?」
 ハイゼがあくびをした涙目で訊ねると
「うーん、申し込まれたらするかな? ハイゼたちと一緒でもうあんまり同学年で戦いたいと思う奴さほどいないし、申し込まれるのもそんなないだろうしね」
 ロジェが苦笑い気味にいう。ハイゼはそんなロジェの表情を見ながらただ黙っていた。





 その一方、体育館の出入り口のほうでは
「ねー、メーべ、やろうよー」
 リムがメーベルの右手をしっかりと握りながらいって
「だーかーらー、い・や・だっつっんてんでしょ。だめったらだめ」
 メーベルが肩をがっくりと落としながら断言する。
「じゃあ、今からさぼろ? ね?」
 リムがメーベルの右腕を左右に振りながらいって
「あのねぇ・・・・・・」
 そういいながらメーベルは近くにいたドゥエインを睨みつける。ドゥエインはそれにわかったよというように溜め息をつき
「リム、ひまなら俺とやろうぜ」
「えー、だってドゥエイン私とやるとき絶対手ー抜くじゃんっ! 手ー抜かれるならメーべがいいのー」
 ドゥエインの誘いにリムはふくれていった。
 近くで黙っていたキルサンがふと
「だったらメーべとドゥエインが久々に手合わせしたらどうです?」
 面白そうにいった。
 その提案に二人はさも嫌そうな顔をして
「今日はそんな気分じゃない」
 まずメーベルがいって
「右に同じ」
 ドゥエインも同意する。
「まぁ、とりあえず俺とやってからまたメーべ誘えよ。そのときにはメーべだって気が変わってるかもしれないだろ?」
 ドゥエインのその言葉に
「むぅ・・・・・・、じゃあメーべ考えといてね」
 リムがふてくされ気味にいって
「はいはい」
 メーべルがいった。
「どっか行かないでよ」
 リムが釘を刺し
「はいはい」
 メーベルが空返事かのようにいう。
「誰かに誘われても瞬殺していつまでも相手しないでね」
 最後にリムが懇願するようにさらりと恐ろしいことを口にし
「・・・・・・わかりましたよ、ほら早く行きなって」
 メーベルがそういうと、リムは引きずられるようにしてドゥエインに連れて行かれた。







「キルサンは誰かに申し込まないの? 愛刀まで持ってきて、対戦したい人いるんじゃない?」
 メーベルが微苦笑しながらいって
「いるといえば、いるんですが・・・・・・、今あなたを一人にしておくのは心配ですからね」
 キルサンが剣をもてあそびながら優しく笑う。
 その言葉にメーベルは
「やっぱりキルサにはかなわないなぁ。リムたちには気づかれなかったのに、やっぱりキルサは騙せないね」
 その場にしゃがみこんで申し訳なさそうにいった。
「昨日まで仕事だったんでしょう? 無理もないですよ。それにあの二人も多分気づいてたと思いますよ、リムのあれもリムなりの気遣いでしょう。でもリムはまぁ、素かもしれませんが。それでもリム相手ならあなたもそこまで本気にならないでしょうし」
 キルサンがそういうとメーベルは目を細め、
「うん・・・・・・」






 そんな二人に近づく二人組みがいた。
「おいっ、お前本気かよっ!」
 アウイが心配そうにいって
「あら、冗談でいわないわ」
 ヤナが髪をなびかせながらいった。短い黒のショートパンツの周りを覆うかのような、黒と白の上着の長い裾が歩くたびゆれる。
 そして、二人の近くに来ると
「ちょっといいかしら?」
 ヤナはにこやかにいった。
 キルサンが二人に顔を向け、メーベルもしゃがみこんだまま少し顔を上げて見た。
「私と手合わせしてもらっていい?」
 ヤナの丁寧にいったその言葉に
「それは、私じゃなくて、メーベルに、ですよね?」
 キルサンも丁寧に尋ねる。
「はい、もちろん」
 ヤナの即答に
「すみませんが、今日は彼女―」
 そこまでいってメーベルが立ち上がり、右手でキルサンを制する。
 キルサンがそれに少し驚いていたが、すぐ平生に戻り黙って見ていることにした。
 メーベルは深呼吸すると、まっすぐにヤナを見て
「すみません、お断りします」
 はっきりといった。
 ヤナは全く動揺せず
「理由を聞かせてもらえるかしら?」
 ほほえんで訊ねる。
「私もう女子とは本気で戦わないって決めてるんです。昔大怪我させたし、練習とはいえ本気で戦わないなんて失礼ですから」
 メーベルが申し訳なさそうにいって
「なるほどね、よくわかったわ。じゃあ、今日はあきらめるけど、今度本気じゃなくていいから相手してもらえる? そのときは体調万全にして。それに私は別に本気で相手してくれるなら怪我したって恨まないわよ」
 ヤナが笑顔でいった。アウイが額に手を置き、首を振る。
 それにはメーベルもほほえみ
「・・・・・・それなら、わかりました。やっぱり本気でとはいきませんが、それでもよかったらまた今度誘ってください」
「よろこんで、そういえば自己紹介まだだったわね。知ってるかもしれないけど、私はヤナよ。これからよろしくね。アウィたちと一緒のチームでいろいろ大変だろうけど、アウィに苦情があったらどんどんいってね、懲らしめてやるから」
 ヤナはそういって笑顔で右手を差し出した。メーベルはそのきれいな白い手を握り
「メーベルです、こちらこそよろしくお願いします。はい、そのときはヤナさんにお願いします」
 ほほえむ。
「おいおい、なに勝手にいってんだよ」
 アウイがいらだたしくいって
「だってなんだかんだいって面倒事起こすというか問題引き連れてくるのあんたじゃないっ!」
 ヤナがさも当たり前のようにいった。
 それにいわれた本人は
「そ、それは確かにそうだけど。でもそんな人様に迷惑かけてねぇよっ!」
 必死に反論するが
「絶対かけてるわよっ、同室のハイゼ君の気が知れるわ」
 ヤナが冷たい目で言い放った。
「ハイゼにそんな迷惑かけねぇよ、あっちが全然かけねぇんだから」
「ハイゼ君が大人なだけで、絶対迷惑してたときあるに違いないわよ」
「確かにハイゼは物事にこだわんねぇし、すぐ居眠りするし、無表情で無感動で無口でなに考えてるかわかんねぇけどな―」
 アウイがわけが分からないようなことを口走っていると、
「なにいってんだっボケッ!」
 アウイの背に光の尾を引く何かが当たった。アウイはその衝撃で前に倒れる。
 隣にいたヤナはうつぶせに倒れたアウイを見下ろしながらほとほと呆れ、メーベルとキルサンは同情のような眼差しを送る。
 そしてヤナたちの背後では、ハイゼが静かにアウイを睨みつけ、その右隣でザンが腹を抱えて笑い、左隣でロジェが苦笑い。
 



「てめぇ、なにすんだよハイゼッ! 殺す気かっ?」
 アウイは立ち上がり振り向くなりそういうと
「痣になるくらいだろ? それよりなにしてんだ?」
 ハイゼが睨みつけた表情のまま訊ねる。
「痣になるくらいって・・・・・・、不意打ちでいっといてよくも・・・・・・・」
 アウイがわなわなと震えながらいって
「これくらいよけろよバカ」
 ハイゼがそっけなく一言。
 それにはアウイは何も言い返せず地団太を踏む。
「それよりなにしてんだこんなとこで?」
 ハイゼの緑の瞳が凄みを利かせてアウイに向けられ
「なにって、ヤナがこいつ、らに用があっただけだけど」
 アウイは少し遠まわしにいった。
「ふーん」
 そういったのはハイゼではなくザンだった。ザンは上から下までメーベルを品定めするかのように見て、
「あんたが例の改造人間か」
 独り言のようにいった。
 その言葉にアウイがなんともいえない顔になり、ヤナもやれやれと首を振る。キルサンとロジェはただ黙ってザンを見ており、ハイゼはザンに顔をしかめる。ただ当の本人はなんのことでもないとばかりにザンを見ていた。
 ザンはにやりと笑うと、
「お手並み拝見といこうかっ!」
 そういって、右袖からすっと取り出したナイフをメーベルに向かって瞬く間もなく投げつけた。


















 



 


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。