王子様と改造人間 dix-sept
「さてと、とりあえず降りるか」
ハイゼがいって
「そうですね」
メーベルが同意した。
「早くしないと締め切りすぎちゃうからな」
そういってハイゼが普通に木を降りようとして
「えっと、降りるのに何分くらいかかります?」
メーベルが気まずそうに答える。
「さぁ?」
ハイゼがどうでもいいといわんばかりにいって
「・・・・・・、えっとですね、もし、よかったらですけど、すぐ降りれる方法があるんでそれでおりませんか?」
メーベルが言いにくそうに提案した。
ハイゼはその意図を理解し
「お前、もう少し能力頼らないで生きてもいいんじゃない? 木登りくらいこれから覚えたって損はないと思うけど?」
眉を吊り上げる。
「はい、その通りなんですけど、今日はちょっと・・・・・・。制服なんで」
メーベルが申し訳なさそうにいった。
「・・・・・・これから覚えろよ。ったく」
「努力します・・・・・・」
「で、どうすればいいの? お前の力で降りるには?」
ハイゼがあくびをしながらいって
「・・・・・・制服の裾掴ませてください。それで十分です」
メーベルがハイゼの制服の裾を指差していった。
「あのさぁ・・・・・・、それって危なくないの?」
ハイゼが訝しげにメーベルを見て
「大丈夫ですよ、私が落としたりしなきゃ」
メーベルが恐ろしいことをさらりという。
「脱臼しねぇか?」
「そんなんで脱臼するなら、ドゥエインとか今頃どうなってるやら」
メーベルが笑っていって
「あいつともしたことあるの?」
ハイゼが少し驚く。
「えぇ、ドゥエインが私とリムが飛んでるの見てたらうらやましくなったというか、嫉妬して」
その言葉に
「・・・・・・その様子じゃ、あいつが好きって知ってんのな」
ハイゼが微苦笑していった。それにはメーベルも笑って
「そもそもあいつはあの子と仲良くなろうって私たちに近づいてきたっていうのがバレバレだったし。そうでもなければ、多分あいつと話すこともなかったと思います」
困ったようにいった。
そんなメーベルを見ながら
「まぁ、とりあえず分かったから、早く降りようぜ。ほら」
ハイゼは左腕を差し出す。
「じゃあ、失礼します」
そういってメーベルは軽くハイゼの裾を握って
「じゃあ、行きますね」
いうと同時に立ち上がった。そしてハイゼが立ち上がるのも待たずに、ハイゼは左腕を引っ張り上げられている状態で、
「ちょっ、待てー」
ハイゼがいうのも聞かずに、足に力を入れると幹を蹴って空を飛んだ。
こんの馬鹿女、人の話ぐらいちゃんと聞けよっ! つーか、準備はいいですかくらいの気ぐらい遣えっての。
俺は溜め息をつく。
にしてもだ。
引っ張られるような力とかなにかしら体に負担がかかるかと思っていたが、全然そんなことはなかった。本当にふわりと体だけが宙に浮いてるといったもの。ただ地に足が着いていないだけ。ひんやりとした風が妙に気持ちよかった。目の前にはいつもより近くに感じる空、そして足元には春らしい緑の森が広がる。
そんな面白い感覚と、普通なら見られない光景に
「あのリムって子が怖がらずに飛んでたわけが分かったよ。景色はいいわ、気持ちいいもんだな」
ぼそりとつぶやく。それに彼女は
「まぁ、リムは肝が据わってるというか」
苦笑い。そんなあいつをちらり見て
「お前が能力であちこち移動する気持ちも分かるな」
「・・・・・・、まぁ極力使わないほうがいいんですけどね」
メーベルがぼそりといった。
それに俺はあることを思い出す。
「そういりゃ、前リスクがあるっていってたよな?」
俺のその言葉にあいつはまた
「いずれお話します・・・・・・」
笑ってごまかすだけだった。そして
「でもハイゼさんやっぱり何しても動じないですよね、まぁ怖がられたらどうしようって思ってましたけど」
話題を変える。
「いきなり飛んどいてよくいうよ」
俺が呆れていうと
「それもそうですね、あ、そろそろ降ります」
ゆっくりと校舎のほうへ降りていくのが分かった。降りるときは、少し落ちている感覚がする。
俺が下を見ながら
「どこに降りるつもりだ?」
「屋上です、人いないし」
メーベルは即答する。
ふと、俺に視界にあいつの靴が目に入る。スアだろう。周りや靴自信がきらきらと光っていた。
「お前のその靴、夜すぐに目に付いてある意味厄介そうだな」
俺が正直にいうと
「そうですね、夜の仕事とかでは光ってると敵にばれやすくはなりますね。でも、一応頑張れば光らないように抑えることもできるんですよ、結構神経使うんで好きじゃないんですけど。それにばれたらばれたで、素早く動けばいいことですから」
メーベルがたんたんといった。
「だから、あんなに早く動くようにしてんのか?」
「・・・・・・そうですね、そうれもあります。でも、まぁ、なんというか早く動くよう訓練されてましたからね」
メーベルのその言葉に俺は黙った。俺らの代は仕方のないことだと割り切っていても、割り切れないものが俺らの中には根強く残っているのだ。
数年前まで、生まれて直後からまだ物心もつかないころまでの子どもの体を、この国は研究者たちにいじらせるのが当たり前だった。その結果、メーベルのようなスアとの適合者や、以上に記憶力がいいもの、力が飛びぬけてすごいものなどが生まれた。それと同時に人とはかけ離れたものになったり、命を奪われたものも多い。
勿論俺だって、なにかしらいじられたのだろう。そう思うと、寒気がすることがある。
数年前、遅すぎるがやっとその決まりはなくなった。
でも、俺たちが体を何かしらいじらたことは消えない。
彼女はその中でも珍しい、スアとの適合者。言い方は悪いが、研究者たちに実験に実験を重ねられたといっても過言ではない。訓練といっても結局はそういったものには違いないのだ。
そんなことを思いながら、どんどん体は落ちていく。
そして俺たちは屋上に降り立ったのである。
屋上に着くと、二人はとりあえずアウイを探しに七組へ向かった。
中等部の校舎はもう人があまりいないとはいえ、ハイゼは知る人ぞ少ない有名人。勿論、メーベルは距離をとって後ろを歩いていたのだが、そうすると何故かハイゼが歩くスピードを緩めメーベルの前の前に来て、逆にメーベルがハイゼの前を早歩きで行こうとすると、ハイゼも歩くスピードを速めメーベルの後ろにつく。
メーベルは急に立ち止まりハイゼが横に並び立ち止まる。
「ハイゼさん、もしかして嫌がらせしてます? さっきから私が少し距離置いて歩いてるのに・・・・・・」
メーベルがしらとした顔でいって
「そうだったの? てっきり俺はおまえ疲れてるからかと」
ハイゼが本当に嘘とは思えない口調でいった。それにはメーベルは肩を落として溜め息一つ。
そして二人は七組に着いた。メーベルはとりあえず廊下で待つことにし、ハイゼだけが教室に入る。ハイゼが教室に入るなり
「どこ行ってたんだよ、ハイゼッ! 探したんだぞっ!」
アウイがハイゼのもとに飛んでくる。そして
「ほら、早く行くぞっ! チーム申請っ! もう時間ねぇっての」
切羽詰ったようにいうが、どこか嬉しそうなアウイに
「なんかご機嫌だな・・・・・・」
ハイゼが無表情でいった。
「ふふふ、聞いて驚くなよっ! なんと俺はあいつがどういおうとチームに入れさせる画期的アイディアを見つけたんだ。いや、まぁホントいうと考えたのはヤナなんだけどどうでもいいとして・・・・・・」
興奮しながらいうアウイに、ハイゼはちらりと背後を見る。動く気配はない。
「で、その方法って?」
「それはな、名づけて既成事実大作戦っ! チーム申請って、メンバー三人と本人だと分かる証明が一つありゃいいだけじゃん。まぁ、みんな学生証だろうけどさ。で、本人かどうかなんてそれさえあればあんま厳しく確認しないらしいし、あいつの学生証盗んで誰かに身代わりになってもらって勝手にチーム登録完了させちまえばいいんだよっ。これで勝手にしちまえばあいつもどうしようもないってわけだ」
アウイのどこからわいてくるのか知らない絶対自信のあるその言葉に
「・・・・・・学生証なんてそうそう盗めないだろ?」
ハイゼが呆れていう。
「いやいや、それならもう入手済みだ」
そういってアウイはカードのようなものをハイゼに見せつける。ハイゼはちらりと後ろを見るが、動く気配はない。
「どうやって・・・・・・?」
「実はな、リムに頼んだんだ。あいつが俺らと組むってOKしてくれたんだけど、急な仕事が入って申請間に合いそうにないから、ばれないだろうし代わりに申請しといてくれってあいつにいわれたって嘘ついたんだよ。いや、リム優しいから信じてくれてさ。学生証は正直賭けだったんだけど、あいつの机かロッカーにあるって嘘ついてリムが探してくれたら運良く見つかったってわけ。で、身代わりも頼めたわけだし、ってことで早く行くぞ。いやほら、身代わりはヤナに頼んでもよかったんだけどさぁ、ヤナは目立ちすぎて顔知られてるかもしれないからさすがに頼めなかったというか、本人が絶対私じゃばれるとか言って無理だったけど、リムならだいじょぶだろ」
アウイがにこにこしながらいった。ハイゼはまたも後ろをちらりと見る。あいつが動く気配はない。
「ほらほら、リムが申請するとこで黒いかつらかぶって待っててくれてるだろうし、早く行くぞ」
アウイがそういって教室から一歩出たとき
「もうその必要ないかも」
ハイゼがそういったのと、アウイが誰かの足に躓き転ぶのはほぼ同時だった。
申請所になっている教室に向かう途中、
「なぁ、どうやって誘ったんだよ?」
アウイが左にいるハイゼを小突くが、
「どうでもいいだろ?」
ハイゼがそっけなくいう。
「なに、色仕掛けでもしたのか?」
アウイがそんな冗談をいったものの
「いやぁ、それはないか。普通の女はなびくが、こいつはそんなんでなびかなそうだしな」
自分でそう納得する。
「馬鹿なこといってないでさっさと行くぞ」
ハイゼがさらりといって
「えー、気になる気になる。教えてくれたっていいじゃん」
アウイが駄々をこねる子どものようにいって
「なぁ、ハイゼどうやってお前を口説いたんだよ?」
標的をメーベルに変える。
メーベルは二人の少し後ろを歩きながら
「そう、ですね。しいていうなら、木登り、ですかね?」
目線を上にしながらいった。
メーベルのその言葉に、アウイはただぽかんと口をあけ
「はい?」
首をかしげた。
申請所として使っている職員室近くの教室前には、登録間近になり急いで申請しているものがちらほらいて、いうまでもなくアウイとハイゼそしてその後ろを歩くメーベルにみな釘付けになる。
「もしかして・・・・・・」
ある女子がささやき
「嘘ー、あの噂ほんとだったの?」
またある子が興奮していって
「信じらんなーい」
また違う子が目を見開き
「すげぇ面子だな」
ある男の子がぼそりといった。
登録所の近くにはアウイがいったとおりリムと、ドゥエインもいた。
「あれ、メーべ仕事じゃ」
リムが三人が来るなりいって
「嘘だよ、嘘。気づいてたくせに」
メーベルが少し怒りながらいった。
「だと思ったよ。お前がそうやすやすとこいつらと組むとは思えなかったし」
ドゥエインがいって
「あちゃー、やっぱばれてた?」
リムが苦笑い。
「え、なに、リムお前、俺の嘘に付き合ってくれてたの?」
アウイが驚いて
「うん、まぁ。メーべのためかなって思ってさ」
リムがかつらを取っていった。
「・・・・・・、でもま結局どっちにしろ組むことにしたんだろ? その様子じゃ」
ドゥエインが屈託なく笑うと
「あぁ」
アウイとハイゼが同時にいった。
「王子様のとこにお姫様が入ったってとこかな」
ドゥエインのそんな冗談に
「違うよ、ドゥエイン、それをいうなら、二人の王子様のとこにもう一人王子様が増えましたってとこだよ」
リムがうれしそうにいった。
「へ? なにお前、ほんとは男だったの?」
アウイが驚愕した顔でいって、メーベルは呆れた顔でアウイを見る。
「違うよ、アウィ。私がいいたかったのは、メーべはか弱いお姫様いうよりは、どっちかっていうと強いしかっこいいから王子様っぽいでしょ? だからそういったの」
「あぁ、なるほどね」
アウイが納得し、ドゥエインとメーベルは何故か溜め息一つ。
「でもさぁ、なんで今日になってお前アウィたちと組む気になったの?」
ドゥエインがそういうと
「俺もさっきから聞いてんのに教えてくれねぇんだよ」
アウイが悔しそうにいった。
「私も気になるなぁ」
リムがそういうと
「だろだろっ! なんかハイゼが説得してくれたみたいなんだけど、ハイゼは教えてくれないし、こいつも決めては木登りとはわけわかんねぇこといいだしてごまかすし、あー、もう、イライラするっ!」
アウイがふくれっつらになる。アウイのその言葉にリムだけがハイゼをちらりと見てから、メーベルをちらりと見て一人納得した。
そんなやり取りを黙ってみていたハイゼが
「そんなことより、さっさと申請済ませよーぜ」
ポツリと一言いった。
「失礼します」
ドアを叩き、黒髪の少年と金髪の少年と黒髪の少女がある部屋に入ってきた。
ドアとは反対の窓側のほうにある机に座っている教師が一人、三人をちらりと見て
「では、名前をいって本人確認できるものを見せて」
そっけなくいった。
「アウイです」
黒髪の少年が学生証を見せていって
「ハイゼです」
金髪の少年も学生証を見せていった。
そして最後に
「メーベルです」
黒髪の少女が学生証を見せていった。
そうして、二人の王子と改造人間がチームを組むことになったのである。
王子様と改造人間 -完-
三人の話はまだ続きます。次の話は、チームを組んだその後のお話です。
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