王子様と改造人間 seize
「で、見つけられない、と・・・・・・」
ヤナが屋上で呆れていった。
「仕方ねぇだろ、あんな反則的な動きする奴、罠張っても無理だって」
アウイがお手上げといわんばかりに投げやりにいう。
「昨日のうちに何かいってくれれば協力したのに」
ヤナのその言葉に
「あ、あははっ、いいっていいってっ! これは俺らの問題だし」
アウイが取り乱していった。
遡ること、約半日前。
「見つかった?」
リムがドゥエインとともにハイゼたちのクラスにやってきた。
「いいや」
アウイがぐったりとベランダに寄りかかっていた。ハイゼはすました顔で、あくびをひとつ。
「あいつが確実にいそうな場所って・・・・・・、やっぱ部屋?」
アウイが額に手を当てながらぼそりといった。もう夕方近くになり、生徒はぞろぞろと寮に帰りだしていた。
「でも、リムに頼れないんじゃな。他に誰か、俺らは入れないし・・・・・・」
アウイのその言葉にリムとドゥエインが顔を合わせる。
「なぁ、アウィ、例えば誰に頼む気だ?」
ドゥエインが恐る恐るといったように訊ね
「んー、そうだな、あいつと俺の仲いい女友達がいればそれにこしたことないんだけど、最悪ヤナにでもー」
「だめっ!」
「やめろっ!」
アウイの言葉をリムとドゥエインの言葉が遮る。
「へ? なんで? なんかあるの、あの二人?」
アウイが愕然とした顔でいうと
「メーべ絶対、お前ら同様マドンナみたいな気が強いタイプ嫌いだって、それは絶対止めとけ。余計嫌われるぞ」
ドゥエインが周りに聞こえない声量で必死に訴える。リムもうなずいて同意する。
「だとさ、それは止めようぜ。俺たちのことは俺たちで何とかしよう」
そういってハイゼがアウイに手を置いて、二人は部屋に戻ったのである。
「女もいろいろあるのね・・・・・・」
アウイがぼそりとつぶやき
「なんかいった?」
ヤナが右隣のアウイを覗き込む。
「いや、別に・・・・・・」
「そう、でも、申請は今日の午後六時までだよ? それまでに本当に間に合いそうなの?」
心配そうにヤナがいうと
「どうなるかなぁ、最悪、組みたくもねぇやつと組むんだろうな・・・・・・」
アウイが真っ青な空を見た。そんなアウイを見ながら、ヤナは考え込む。そしてふと、
「あ、いいこと思いついたっ!」
独り言のように叫ぶ。
「なんだよ?」
興味深そうにアウイがいうと、ヤナがアウイに耳打ちした。
「なるほどね」
アウイがにやりと笑い
「かくなる上は、強硬手段でもいいでしょ?」
ヤナが意地悪そうにほほえんだ。
二人に何度も申し込んでくるものたちと二人は断り続け、時刻は午後四時を過ぎ、
「ハイゼ、俺ちょっと学校内回って探してくるわ」
アウイがにこにこ顔でハイゼにいった。
「あぁ、あんま無理すんなよ」
「はいよ」
そういってアウイがいなくなってしばらくして、ハイゼは五組に向かった。
五組につくと、出入り口のそばにいた話しかけやすそうな女の子にハイゼは
「ごめん、リムっている? いたら、呼んで欲しいんだけど」
そう話しかける。話しかけられた子はびっくりして、頬を赤らめるが、すぐにリムを呼んできてくれた。
「どうかしたの?」
リムが開口一番そういって
「あいつの今いそうな場所、分からない?」
ハイゼが単刀直入に聞いた。
リムは教室内の時計をちらりと確認し
「んー、もしかしたら、あそこかも」
悩ましげにいう。
「教えてくれ」
「でも、いるって保証はないよ?」
困ったようにリムが笑う。
「いいよ、それでも。少しでも可能性あるなら教えて欲しい」
ハイゼが微笑しながらいって、リムはハイゼにある場所を教えた。
「おいおい、まじかよ・・・・・・」
その場に来るなり、ハイゼは顔を引きつらせた。
ハイゼがいるのは、女子寮の西にある森の中。ハイゼの目の前には、巨大な大木が聳え立つ。とても立派な大木を、ハイゼは見上げた。木の上のほうに、布か何かがちらりと見える。
ハイゼは溜め息をつくと、器用に大木に登り始めた。
それからしばらくして
「よくここがわかりましたね・・・・・・」
気の頂上の太い幹に器用に腰掛けながら、ハイゼを見ることなくメーベルはいった。
「教えてもらった、多分ここだろうって」
ハイゼがメーベルの下のほうの太い幹に足をかけていう。
「そう、ですか・・・・・・」
メーベルはそういって遠くを見ているようだった。
「なんで逃げなかった?」
ハイゼが聞くと
「ただの、きまぐれですかね。それにいま向こうの空がとてもきれいなんです」
きれいな夕焼けを見てメーベルがいう。
ハイゼもメーベルの目の向けているほうを見る。
いつもの夕焼けとは少し変わった、赤いピンクのような空。そして、水色の雲。
「さすがに絶景だな・・・・・・」
ハイゼが独り言のようにいって
「ですよね、こんなにいい場所、多分この力がなければ知らなかった」
メーベルも独り言のようにいう。
しばらく二人は黙っていたが
「ここに来るまで、大変じゃありませんでした?」
静寂を破ったのはメーベルだった。
「まぁな、お前に途中で逃げられたらとんだ無駄足になったよ」
ハイゼが皮肉めいていう。
「そこまでして、どうして?」
「ここまでしなくちゃ、どっかの誰かさんはまともに話もしてくれないからな」
「・・・・・・、どうして私なんです? 私よりいい人いるでしょうに」
メーベルがさめた口調でいって
「・・・・・・、初めてだったんだよ、俺もアウィも組みたいって思ったのは、それがお前だっただけだ。俺たち並か俺たちより強くて、足手まといにならないそんなの、いくら考えてもお前ぐらいしか思いつかなかった」
ハイゼがはきはきという。
「そうですか・・・・・・」
「お前は、どうして組みたくないんだ? そんなに俺たちが嫌か? そんなに目立つのが嫌か」
ハイゼのその言葉にメーベルは目を閉じ息を深く吐く。
「そうですね、確かに目立ってしまうことは避けたい。でも、きっと、私、自分が嫌なんです。期待されてもそれに答えられない、努力できない自分が嫌いなんです」
ハイゼはただ黙る。
「昔からそうでした、誰かに注目されず目をつけられるまではなんだってうまくいくのに、いざ期待されたり、目をかけられたりするとうまくいかなくて・・・・・・。今回だって、私自身ありません。二人と同じ実習に耐えられるか、足引っ張らないか。前あなたがいってたように、この力がなければ、私なんて普通以下なんですよ? いざお二人と組んでも絶対失望される、周りからも・・・・・・。そうなるくらいなら、始めから組まないほうが得策だと思いませんか?」
メーベルがかわいたようにいって
「だから、ドゥエインたちとも避けたんだな?」
ハイゼが視線を落としていった。
メーベルはただ黙って、空を眺める。
「頑張るなよ」
ハイゼがいった。
「え・・・・・・?」
その言葉にメーベルがようやくハイゼを振り向く。
「お前、十分頑張ってんじゃん。仕事に借り出されても、ちゃんと勉強もして、誰に褒められるわけじゃないのに」
ハイゼのその言葉にメーベルが目を丸くする。
「・・・・・・、これはアウイの受け売りだけどな。・・・・・・昔いわれたんだよ、あいつに。仮実習も勉強もよく飽きずに頑張れるなって、誰がなにいうわけじゃないのにってさ。あいつだって、同じくせによく俺にいったもんだよ」
ハイゼがふっと笑う。続けて
「働きすぎないように働けってあったけど、お前の場合頑張りすぎずに頑張れよ。そりゃ怠けすぎは困るだろうけどな」
「頑張りすぎないように頑張れ、ですか? けっこうそれひどい言葉ですよね。なんだかんだいって私みたいのには一番難しい・・・・・・」
そういってからふと、メーベルはあれというふうに首をかしげた。そして恐る恐る
「もしかして、あの本、読んだんですか?」
ハイゼに訊ねる。
「そんなに意外か?」
「はい」
メーベルが目を丸くしていった。
「俺はお前のほうがあんな物語読むようには思えなかったけどな?」
ハイゼが苦笑いすると
「結構失礼ですよね? ハイゼさんって」
「お互い様だ」
「でも、ハイゼさんが子供向けの本とか読むなんて、似合わない・・・・・・」
メーベルが声を抑えて笑う。ハイゼがそれに呆れつつも、メーベルの隣の方の太い幹によじ登り、お腹を抱えて笑うメーベルに
「笑うな馬鹿っ」
本人は軽いつもりで頭をはたく。しかし実際には
「いたっ・・・・・・、ハイゼさんってやっぱり見た目どおりの人ですよね」
はたかれたところを片手で抑えながらメーベルがいった。
痛がるメーベルに
「見た目どおりって?」
ハイゼが謝りもせずにいう。
「冷たいというか、厳しいというか、男女問わず人に優しくしなそうってことです」
メーベルがハイゼのほうを向くことなくいった。
「ふーん・・・・・・、で、お前が心配してんのはそんだけ?」
「はい?」
メーベルが首をかしげ
「俺らについていけない、目立ちたくない、それだけか?」
ハイゼのエメラルドグリーンの瞳がメーベルに向けられる。
「あと、二人のファンが恐ろしくて無理です。それだけです、だから二人と組むのは嫌です。ハイゼさんも女になってみれば、どれだけ女が辛いか分かりますよ。まぁ、男の人も男の人の悩みがあるとは思いますが」
メーベルが苦笑していった。
「そうだな、男も・・・・・・まぁ、それはいいとして。極力俺らのそばにいればいいだろ? そうすりゃそんな悪いことされねぇし、させねぇよ。俺もアウィも」
ハイゼのそっけないその言葉に、普通の女の子がいわれたらうれしい言葉に、
「それは遠慮しますね、二人の近くにばかりいたほうが身の危険を感じます。それに目立つ二人の近くになんてあんまりいたくないですね」
メーベルもそっけなくいった。
「目立つのなんてどうどうとしてりゃ、そのうち慣れるって。普通にしてればそこまで見てこないだろうしな。見てくるギャラリーなんて風景みたいなもんだ」
ハイゼのその言葉にメーベルはほとほと呆れる。
「つーか、もう十分目立ってるだろ? お前。今更なんだってんだよ?」
「お二人の目立つとは違うんですよ、いろいろとね。それに陰口とかも多くなるだろうし。結構きついんですよ、特に女のは」
メーベルは深い溜め息一つ。
「辛いことがあったら、相談くらい乗ってやるよ」
ハイゼがさらりといって
「ハイゼさんにもいえないことだったら?」
メーベルが呆れて聞いた。
「そんときは・・・・・・、お前と手合わせしてやるよ。嫌なこと全部殴るなり蹴るなりして消化すりゃいい」
ハイゼのその言葉にメーベルは絶句する。
数秒後、
「ハイゼさんって、やっぱり男なんですねぇ、考え方が」
メーベルがぽつりもらし
「当たり前だろ、男なんだから」
ハイゼが即答する。
そしてまた沈黙。
「・・・・・・、だからさ、俺らはお前のこと見捨てたりとかしねぇから、目立つのはどうしようもないけど、できることはいろいろして助けてやるから、残ってる奴なら誰でもいいとかいってんなら、俺らのとここいよ」
ハイゼがゆっくりとした口調でいった。メーベルは下を向く。
「俺らはお前のこと必要としてんだからさ」
ハイゼがポツリといって、メーベルはますます下を向く。
「・・・・・・、後悔しませんか? あとで他の奴と組めばよかったとか思っても、知りませんよ」
「さっきからそういってんだろ、・・・・・・俺と、俺たちと、組めよ。な? そうしないとあの本返さねぇぞ」
ハイゼがまっすぐ空を見ながらいった。
「それ、って、交換条件ですか?」
「まぁ、んなとこだな」
「・・・・・・、わかりました。こんな私でよければ、組ませてください」
メーベルがようやくハイゼを見ていった。ハイゼはそんなメーベルを見ながら
「あぁ、よろしく」
右手を差し出す。メーベルは、ためらいながらその手を握り
「はい、よろしくお願いします」
泣きそうな目でいった。その後
「まぁ、あんまりにも足引っ張るようなら俺がどうにかしてやるよ。そこは覚悟しとけよ」
ハイゼが真顔でいって
「それ、今いいます?」
メーベルが嘆息をもらす。そして続けて
「ハイゼさんって、策略家だったんですね・・・・・・」
小さく小さくつぶやいた。
あたりではメーベルを馬鹿にするかのように鳥たちが鳴いているのであった。
もしかしてと思われた方はその通りです。二人の話している本はあの話になっています。
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