王子様と改造人間 douze
三人が向かったのは、五組だった。二人のせいで人目を引く中、案内してきた
ドゥエインが
「あぁ、いるいる」
教室に少し足を踏み入れそういうと
「呼んで来るから、ちょっと待ってろ」
すたすたと中に入っていった。
少しして、
「あいつ、ほんとに好きなんだなぁ・・・・・・」
ハイゼがぼそりといった。
「はい?」
アウイが訝しげな顔をして
「いや、ドゥエインのやつすっげぇ笑顔だなぁと」
「そうかぁ? あいついっつもへらへらしてるじゃん」
アウイが呆れるようにいって
「かもな」
ハイゼが同意する。緑の瞳が見つめる先には、満面の笑みの少年が立っていた。
しばらくして何故かドゥエインだけが戻ってきて
「ちょっと場所移動しようぜ、後から連れて来てくれるってさ」
来るなりそう口にした。
「そうだな、ここじゃ人多いし」
アウイが周りをちらと見て
「そういうこと、じゃあ行くぞ」
ドゥエインは行き場所をつけずにずんずん歩いていった。二人もその後についていく。
三人が行き着いたのは、人気のない中等部の体育館裏だった。体育館裏の周りは
木々が生い茂り、薄暗くひんやりとした空気と土のにおいが立ち込めていた。
「やっぱり、まだ来てないか・・・・・・」
ドゥエインが頭をかきながらそう言って
「まぁ、用があるのは俺らだし気長に待つよ。悪いな、巻き込んで」
「いや、俺は別にいいんだけどさ・・・・・・。ただ・・・・・・」
歯切れの悪いドゥエインに
「ただなんだよ?」
アウイが訊ねる。
「あいつ、いくらリムの頼みとはいえ今回ばかりは来ない気がしてさ」
「はぁ? なんだよそれっ!」
「だってメーべ絶対お前ら嫌いだもん」
嘆息をつきながらドゥエインはやれやれといわんばかりに言った。
「そりゃあ最近のことは悪いとは思ってるけどさ、俺たちだって好きで迷惑かけたわけじゃねぇよ」
アウイが一気にそう言うと
「いや、最近以前の問題だよ」
ドゥエインががっくりと肩を落とし、溜め息一つ。
「俺ら最近まであいつの存在はおろか、ここにスアとの適合者がいるってこと自体
知らなかったんだぞ。接点もねぇのに何で嫌われなきゃいけないんだよ!」
「接点がないねぇ・・・・・・。アウィ、お前一年のとき俺らのクラスの花瓶割りまくったの
覚えてるか?」
「あぁ、わざとじゃねぇけど。そういえば、あいつも俺が花瓶を割ったこと
いってたっけな。そんな印象残るもん? てか、それが何だよ?」
「印象残るも何も残りすぎだバカッ。お前五、六個割ったけど、そのほとんどが
あいつが日直で水取り替えたり、花持ってきたりしてた奴なんだよ。で、だいたいお前
活けてある花も台無しにしたろ。わざわざ持ってきた花が一日もたたずに台無しにされるのは
普通に嫌だったと思うぜ。あと、黒板! 次の授業で黒板きれいじゃないと文句言う
教師のときとかに、めっちゃきれいにあいつが黒板拭いたのにお前休み時間に友だちと落書き
メッチャしてたじゃんか。で、あいつやり直ししてさ」
アウイは額に手を置き、何も言い返せない。
「あとテスト前も。お前勉強しなくても高得点取れるからって、テスト当日の朝に俺らの
クラスでテスト捨ててる奴らとしょっちゅううるさくしてたじゃん。あいつその頃から
仕事と学校で大変だったからうざかったんだってさ」
「それ、本人が言ってたのか?」
「本人とリムからそう聞いた」
「なんで注意してくれないんだよっ?」
アウイが責め立てるように言って
「だって、花瓶のことは二年になってから知ったし。黒板は、お前が一緒に落書きしてる
奴らの中に嫌いな奴いたから、後からそいつと面倒あっちゃ困ると思ってそのときには
言えなくて、で後から言うにも忘れちゃってさ。テスト前も俺いつも
学校ぎりぎりに来るからどうしようもねぇじゃん、黒板と理由は似たようなもんだけど」
「忘れないで言えよ・・・・・・」
アウイが消え入りそうな声で言った。
「でも、アレは注意したじゃん。ほら、お前が誰かと喧嘩して黒板粉々にしたとき。
アレは俺もいいとばっちりだと思ったよ。それもちょうどテスト前で俺らのクラスだけ
テスト範囲超高速で終わらせられるし」
アウイは上目遣いに
「あれは・・・・・・よけた相手が悪いっ!」
小さく叫び、
「いや、お前が悪い」
ドゥエインとハイゼが同時に言った。
「だいたい、お前の戦闘用グローブつけたパンチまともにくらいたくねぇから」
ドゥエインがうんうんとうなずくように言うと
「いくらかっとなったからって場所考えろよ」
ハイゼもさらりと言う。
「なんだよ俺ばっかり! おいドゥエイン、ハイゼもあいつになんかやらかしてねぇのか?」
アウイがいじけて言う。
「ハイゼというより、二人だな、きわめつけは。ほら、あいつ能力が能力だし教師たちから少し
優遇されてるようなとこあってさ。それで、お前らより強いってある教師が
口を滑らすこともしばしばあって、お前ら好きの女子の中にはそれが気に食わないやつらが
いたんだと。それで、よく集団で陰口叩かれたり、嫌がらせうけたりしたらしいよ。まぁ、
でもアウイがあいつにした数々の嫌がらせほどじゃない気がするけど」
さらりというドゥエイン。
「ほんっと、女ってよく一対多数でそういうことできるよな」
呆れたようにアウイが言って、ハイゼはただ下をうつむいて黙っていた。
うっそうとした陰気なこの場所から青々とした空を眺め
「来ないなぁ・・・・・・」
ドゥエインがポツリとつぶやいた。
三人がそんなやり取りをしていた頃
「ねぇ、会ってあげなよ」
「い・やっ!」
「お願いっ! 今度メーべが食べたい新作スイーツおごるからっ、ね?」
両手を合わせ、片目を閉じて相手の様子を伺うリム。さっきまでは、何を話してもイヤだの
会わないの一点張りだったメーベルの即答がない。しかし
「い、いくらそんな条件を出されてもだめだってば」
帰ってきたのはNoという返事。
「どうしてそんな会ってくれないのよっ?」
とうとういらだたしくなったリムに
「どうしてもっ。お互いのためっ!」
つんとメーべルは横を向いた。
「お互いのため? 自分のためでしょ。自分が後々の面倒事避けたいだけでしょ!」
その言葉にメーべルは下を向く。
いくらなんでも勢いに身を任せ言い過ぎたという罪悪感がリムをよぎる。
「ごめん、言い過ぎた」
「いいよ、謝らなくて。ほんとのことだし。あたしが、単にもう二人には関わって自分に
嫌なことあるのが嫌なだけだから」
メーベルがわざと明るく言って
「私、なんであの二人がそんなにメーべに会いたいかわからないけど・・・・・・。でも、二人とも
外見からくるイメージよりもずっといい人だよ」
「多分、そうなんだろうね」
「それに、ハイゼ君と何かあったでしょ?」
きらりと眼を光らしたリムに
「別に」
メーベルは顔を逸らす。
「まーた、なんかやらかしちゃったんでしょ。不器用だもんね、メーべは」
「どーせ、不器用ですよ」
「もう一回ちゃんと話してみなよ。それでお互いすっきりしないと後々絶対後悔するって。
それ以上ストレスためないほうがいいよ」
「あーもう、分かった。会うよ、会います。何の用か知らないけど」
メーベルがお手上げといった感じで言うと
「ほんと、何の用だろうね? でもいいじゃん、いい男だし」
「リムあの二人好きだったっけ?」
メーベルが呆れて訊ねると
「まさかっ! 私きれいな顔の男の人タイプじゃないし」
「そうですか、それよりさー、いい加減・・・・・・」
メーベルがそういいかけて
「いい加減なに?」
リムが首を傾げる。
「なんでもない、待たせてるみたいだし早く行こう」
メーベルはごまかすと、リムのほうに手を差し伸べた。
「うん、行こっか」
リムもリムでそれ以上問わずメーベルの手をとる。そして
「行くよっ!」
メーベルは光り輝くヒールの高い黒いパンプスを思いっきり蹴った。
蹴ったのは地面でもコンクリートでもなく、とても高い場所の木のてっぺん辺りの立派な
枝だった。そう、二人はどうやって上ったのか、はるか高い木の頂上で話していたのである。
空中で風を切りリムに気をかけながら、メーベルは目的地に向かう。その途中
「いい加減、ドゥエインのこと本気で考えてあげなよ」
メーベルがつぶやいたその言葉は風にかき消された。
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