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156話 静電気と海の王者②


「《蹴兎》に続けぇ!!!!」

「覚悟を決めろお!」

「魔法騎士! ファイヤーボールを放て!」

「俺、生き残ったら、あいつと結婚するんだ!」


おい、フラグを立てるのはやめろ。

花ちゃんの攻撃を皮切りに、ちらほらと大蛸に立ち向かう騎士達が現れた。フレデリカは未だ腰が抜けているようだが放っておこう。優しく慰めている時間なんて一秒たりともないのだ。


不安定に揺れる船上で腰を落とし、脚に力を入れ、腰にぶら下げた意味をなさないままだった片手直剣を引き抜いた騎士達が、船に組みついているもう一本の触手腕を切りつけていく。


「花ちゃん! その調子で頼む! どんどん捌いてくれ!!」

「任せて! 花ちゃん頑張る!」

「キョウカ! この魔物って絞める時どうやって絞めるんだ!?」

「絞める!? ……!」


そうか、なるほど!と、俺の言っている意味を正確に理解したキョウカが叫ぶ。


「胴体をひっくり返して、内臓を抜き取れ!!!」

「無理いいいいいいいい!!! 状況を見て言ってくれません?!」

「そ、そうか……。 一番美味しく絞められる方法なのだが」

「美味しく食べるのも重要だけど、今はタゴン焼きから離れて!? もっと簡単な方法はないのかよ!?」

「それだったら目と目の間を狙え!!」

「目と目の間だな! それなら何とかなりそうだ!」


触手腕の一本を切り落とされた事で、目の前で暴れていた怪物は攻撃頻度を減らし、警戒感を露わにしている。


ただ闇雲に叩きつけるだけだった触手腕の攻撃は、その先端に生えている黒光りする巨大な鉤爪を、突き刺すような行動に変化して行った。


面での攻撃でさえ《魔障壁》にひびが入る威力だったのだ。

それが硬質な鉤爪による点での攻撃に変わる事が意味するのは、残酷なまでの防御力不足。耐えられるはずもなく、無残にも《魔障壁》は貫かれ、頰を掠った黒鉤爪は甲板に巨大な穴を開けた。


「くっ!」

「ベック!」「パパ!?」

「掠っただけだ! 問題ない!」


目尻のちょうど下、鉤爪によって出来た傷口から溢れる血液が、一筋の線を残しながら頰をつぅっと垂れる。


(一枚がダメなら三枚! 三枚がダメなら五枚! それでも足りないなら何枚でも重ねてやる!!)


二枚、三枚と立て続けに魔障壁を張り攻撃をいなす。

五枚目にして鉤爪は貫通しなくなり、更に倍の十枚を重ねると数発攻撃を受けても平気になった。


「《多重魔障壁》!」


久しぶりの《魔法創造》により新魔法を開発する。

手に魔方陣が展開され、毎度のごとく体に魔力が馴染むのを感じる。

多重というだけあって複数層になっている新しい魔障壁だが、層の厚さは任意で切り替えができる為、非常に汎用性のある魔法にできた。


駆け出した花ちゃんの持つ獄炎の剣(レーヴァテイン)も黒い鉤爪を切り裂く事は出来ないようだ。


だがそれでも、少しずつではあるが傷をつけることには成功している。それに、触手腕の部分はレーヴァテインで斬りとばすことができる為、隙さえあれば花ちゃんは必ずやってくれるはず。


「てやあああああ!!!」

「GYAOOOOOOO!!」


花ちゃんと触手腕の激しい打ち合いが続く。

何合かの打ち合いの末、花ちゃんの獄炎の剣(レーヴァテイン)がもう一本の触手腕を切り落とした。


「良し! このまま腕を削っていけば弱点を狙える!」


切り落とした触手腕は船上に落ち、ぐわんと船が揺れた。

形勢が傾き始めた時、巨大なタコは不利を察したのか、水柱をあげながら水中に潜って行った。


「うおおおおおお!」

「恐れをなして逃げたか!!」

「領主様!やりました!」

「……やったのか?」


見覚えのある騎士が呟く。

さっきの結婚フラグ野郎だ。

フラグを乱立させるんじゃないよ全く。

船上にいる他の騎士達も興奮している。


たしかにダメージ与えることはできたが、油断はできない。

《探知》にはまだ水中で漂いこちらの様子を伺っている巨大タコの様子がわかるからだ。


海中を漂っていた魔物が突如、船の真下で止まった。

ゆっくりと海底側に潜水している。


「どっかに行っちゃった?」

「終わったか?」

「この脚、持って帰っていいか?」


ノーチェも花ちゃんもキョウカも、波一つ起きない状況に安心し始めている。

キョウカに至ってはもう既に、興味がタコの腕に向いているようだ。

俺が広げていた《探知》の範囲からも外れ、遂に行方が分からなくなった。


(本当に逃げたのか?)


疑っていた俺も本当にそう思い始めていた。しかし船上でたった一人だけ、その行動の意味することを正確に理解し、行動に移している人間がいた。


「…………違う! これは攻撃だ! 真下からの──」


フレデリカが声を上げる。

何度もクラーケンと対峙した事がある彼女だから判断できた。

これは攻撃だ。クラーケンは一定のダメージを負うと水中に逃げ込み態勢を立て直した上で強襲してくる。

それを知っていたからこそ、彼女は行動に移していた。


フレデリカの声を聞き、俺が広範囲に広げていた《探知》を慌てて真下に切り替えると、海底に止まっていた海の王者が、ボロボロの船舶を纏った胴体をこちらに向け、物凄い勢いで浮上しているのがわかった。


失敗した! 俺は思わず奥歯を噛み締めた。


「下から突き上げが来るぞ!!! 花ちゃん! 風魔法で船を退避させ──!」


船底に《多重魔障壁》を張る。

船体の直接ダメージを防ぐことはできても、その下から突き上げられる衝撃まではどうにかすることは出来ない。

衝撃で突き上げられた船体は、恐らく俺たちごと空中に放り出されてしまう。


俺は状況が最悪だということを理解した。

明日2/27はお休みさせていただきます。

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