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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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ブラフ

 
「では参るか」
「服は?」
「そのままでかまわん」
「剣は?」
「アイテムボックスに入れておけば問題ない」

 いくつか問題点を挙げるが、すべて却下されてしまう。
 騎士団の冒険者にパーティーメンバーに加入させられ、セルマー伯の居城まで連れて行かれた。
 フィールドウォークで移動したのはロビーのような場所だ。
 ボーデの城と同じような構造になっているのか。

「ハルツ公爵以下六名、到着しました」

 パーティメンバーの騎士が向こうの騎士に来訪を告げる。

「お待ちしておりました。それでは案内させていただきます」

 向こうの騎士が丁寧に対応した。
 話はちゃんとついていたようだ。
 そうでなければ困るが。
 段取りをつけたのは公爵ではなくカシアだから大丈夫か。

「頼む」
「冒険者のかたはここでお待ちください。冒険者を除く五名のかたは私についてきてください」

 案内の騎士が奥に入っていく。
 俺も冒険者なのだが。

「では参る」

 公爵は俺を見てうなずくと、どんどん奥へ入っていった。
 あのうなずきかたは、問題ないということか?

 カシアも続く。
 遅れるわけにはいかないので、俺も入っていった。
 ずいぶん長いこと歩かされ階段もいくつか上って、大きな扉の前に出る。

「伯爵が中でお待ちです」
「うむ。おまえたち二人はここで待て」

 公爵がパーティーメンバーの騎士にオリハルコンの剣を渡した。
 中に入るのは公爵とカシアと俺の三人か。
 この先は公爵といえども帯刀禁止らしい。
 俺の剣はアイテムボックスに入れたし、カシアは元から持っていない。

 案内の騎士が扉を開けた。
 中はそれほど広くない。
 こじんまりとした謁見室だ。
 中央にイスが一つあり、小太りのエルフが座っていた。

 彼がセルマー伯爵だ。
 40歳で騎士Lv21。
 年齢の割りにレベルは高くない。

 エルフでも小太りは小太りなのか。
 小太りでもイケメンっぽいのは腹が立つ。

 イスの後ろにはでかい垂れ幕がかかっていた。
 左側の垂れ幕の模様は見たことがある。
 ハルツ公のエンブレムだ。
 そのエンブレムの方に公爵がずかずかと入っていく。

「さあ、ミチオ様」

 カシアが声をかけてきた。
 公爵、カシア、俺の順だと思ったが、公爵、俺、カシアの順らしい。
 公爵の後ろまで歩いて、頭を下げる。

 頭を下げておけばいいと言われたからな。
 これでいいだろう。
 公爵は頭を下げていないが、同じというわけにはいくまい。

 後ろから来たカシアが公爵の隣に並んだ。
 横を通るとき、香水の匂いが漂ってくる。
 俺は二人の後ろに隠れた形になって、一安心だ。

「ハルツ公閣下、よく参られた。カシアも久しいの」
「はい。叔父上におかれてもご健勝そうでなによりです」

 カシアとセルマー伯が話した。
 実家だと言っていたが、カシアの叔父に当たるらしい。
 しばらくは差しさわりのない話が続く。

「して、その者が?」
「この者が見事兇賊のハインツを倒したミチオ殿じゃ」

 やがて話題が俺のことに移った。

「僥倖であったの」
「この者の手にかかればハインツを倒すことなど造作もないこと。ミチオ殿には領内の迷宮退治にもご助力いただいておる」
「それはうらやましいの。我が領内は騎士団ばかりでてんてこ舞いだ」

 公爵とセルマー伯がなにやら寒々しい会話を。
 話し振りが妙にとげとげしい。

 運がよかっただけだろ。
 彼はこっちの味方だもんね。
 うちには助っ人なんか必要ねえんだよ。
 というところか。

 こんなのが領地のトップで大丈夫なんだろうか。
 いや。ガキの喧嘩みたいな直接の言い争いをしないだけマシなのか。
 オブラートに包んでいるだけ大人だといえなくもない。
 精神年齢が高いんだか低いんだかよく分からん。

「ハインツも討伐できなかった騎士団に迷宮を征伐できるのか、もちろん注目しておる」
「騎士団がハインツを倒せなかったのはそちらも同じではないかの」
「セルマー伯爵もミチオ殿にご助力を願ってはいかがか」
「他を頼らねばならんような騎士団では苦しいのではないかの」

 だんだん低レベルになってきているな。

「そういえば、ハインツの一味が指輪を装備しておったそうじゃ。そうだったな、ミチオ殿」
「は、はい」

 公爵の呼びかけに、頭を下げたまま答える。

「防具鑑定をさせたところ決意の指輪と出た。セルマー伯爵の方で心当たりはないか」
「い、いや。知らぬの」
「であるか。ならば指輪は余の方で所持しておこう。もし必要だというのなら売却することも考えないではない」

 決意の指輪はハインツがセルマー伯から盗んだと聞いたが、どうやら表沙汰にはしていないらしい。
 公然の秘密、というところか。
 それはまあ、領主が盗賊に物を盗まれました、では拙いだろう。

 もっといえば、結納として送られた品を盗まれ、送った側が取り戻した、では立つ瀬がない。
 公爵が俺を連れてきたのはこのためか。
 ハインツが決意の指輪を持っていたことを俺に証言させたかったと。

「ところで、兇賊のハインツを倒したのは冒険者だと聞いたが、そのようなことはあるまいの」

 突然、会話の風向きが変わった。

「そんなことは」
「であろうの。何かの間違いだの」
「と、当然じゃ」

 公爵があわてている。
 やはり冒険者は駄目だったのか。
 騎士団の冒険者もロビーで止められた。

 冒険者ならフィールドウォークでどこにでも移動できる。
 居城の中をあちこちうろつかせるわけにはいかないのだろう。
 公爵はそれを知っていながら無視したのか。

「城の謁見室にまで冒険者を送り込んだとなれば、セルマー領に対する侵略の意図があると判断してもおかしくはないの」
「そうであろうな」
「インテリジェンスカードのチェックをするのは簡単だが、公爵が連れてきた者を疑うわけにもいくまいしの」

 セルマー伯がぐいぐい押し立てる。
 俺が冒険者だという話をどこからか聞いたのだろう。
 セルマー伯はカシアの実家に当たる。
 カシアの侍女あたりから聞き出すことは多分十分に可能だ。

「そうじゃな」
「しかしそれはそれとして、それなりの誠意を見せることがあってもよいのではないかの」

 本当にすまないという気持ちで胸がいっぱいなら、どこであれ土下座はできる。
 誠意とは、それほど厳しいのだ。

「まさか余のことを」
「もちろん疑ってなどおらん。微塵も疑ってはおらんの」
「それなら」
「そうだの。かねてより懸案の件だが」

 セルマー伯は公爵の態度で俺が冒険者であることに確信を持ったのだろう。
 このチャンスになんらかの譲歩を迫るつもりなのか。
 公爵は俺にハインツが指輪を持っていたと証言させ、セルマー伯は俺が本来連れてきてはいけない冒険者だと指摘する。
 両者痛みわけというところか。

「叔父上」
「もちろん疑ってはおらぬとも。公爵のことも、カシアのことも」

 セルマー伯がカシアの制止をも突っぱねた。
 ハルツ公とセルマー伯の争いは、どうでもいい。
 争いの結果がどうなろうとも。

 しかしカシアに迷惑がかかるのは駄目だ。
 俺は頭を上げた。

「分かりました。疑いを晴らすために、インテリジェンスカードのチェックをしていただきましょう」

 後ろに控えていた案内の騎士のところにゆっくりと歩いて向かう。

「しかしミチオ殿に恥をかかすわけには」
「かまわないのでは」
「ミチオ殿ばかりでなく、連れてきた余やカシアまで侮辱する行為となる」

 公爵と会話しながら。
 俺が冒険者でないことを公爵が知っていたということはないだろう。
 最初の態度を見るに。

 つまり公爵の発言はブラフだ。
 こちらはインテリジェンスカードをチェックされても困らない、困るのはセルマー伯の方だとはったりをかまし、掛け金をレイズしているのだ。
 セルマー伯がゲームから降りるように。

 俺の話にこうしてすぐ乗ってくるあたり、公爵も一応は領主か。
 政治的な駆け引きには慣れているらしい。

「いや。そこまでせずとも公爵やカシアが頭を下げれば」
「私のために公爵やカシア様に頭を下げさせるわけにはまいりません。どうぞチェックを」

 しかし俺の方はブラフではない。
 左腕を騎士の前に差し出した。

 カシアが心配そうに俺を見つめる。
 公爵もポーカーフェイスを保ったまま黙って俺を見た。

「……やれ」

 二人の態度からブラフだと読み取ったのか、引くに引けなくなったのか、セルマー伯が命じる。
 公爵が軽く天を仰いだ。
 騎士が俺のインテリジェンスカードを読み取る。

「ミチオ・カガ様。ジョブは探索者です」

 騎士が告げた。
 もちろん、冒険者と出るはずはない。
 冒険者ではないのだから。
 公爵とカシアが驚いた表情を見せ、セルマー伯がうなだれた。

「話は後日改めてうかがおう。今日のところは失礼させていただく」

 公爵が大またでやってくる。
 カシアも小走りに後を追ってきた。
 俺のインテリジェンスカードを読んだ案内の騎士があわてて部屋の扉を開ける。
 扉の向こうに残っていた騎士二名がすばやく公爵の護衛に張りついた。

「剣を」

 騎士がオリハルコンの剣を差し出す。
 公爵が受け取り、ずんずんと進んだ。
 俺も後を追う。
 ロビーに戻り、ボーデに帰るまで、公爵は一言も発しなかった。

「ミチオ殿、すまなんだ。セルマー伯の居城にも当然遮蔽セメントは使われておる。冒険者を入れないというのは古くさい伝統にすぎぬ。まさか持ち出してくるとは思わなかった」

 到着早々、公爵がぼやく。

「ミチオ様が冒険者だというお話は、実家から連れてきているわたくしの侍女の誰かから聞いたのでしょう。きちんと口止めしておくべきでした」
「いまさら仕方あるまい。余も迂闊じゃった」
「セルマー伯がこんな嫌がらせをしてくるとは思いませんでした」

 カシアも同意見のようだ。
 よく分からないが公爵やカシアにも想定外の言いがかりだったということか。

「それにしてもミチオ殿が探索者にジョブを変更していたのは驚いた。インテリジェンスカードをチェックされるときには冷や汗をかいた」
「こんなこともあろうかと」
「冒険者から探索者にジョブを変更することは不可能ではない。貴族の館には冒険者を入れないとする古い慣行が残っているところもあるしな。それを見越していたとは。いや、さすがミチオ殿じゃ。なるほど、それで来るときにロビーの壁には出なかったのか」

 公爵が勝手に判断して勝手に納得している。
 最悪のときを考え外から入ってきて本当によかった。

「たまたまうまくいっただけで」
「見事じゃ。ところで帰りはどうするのじゃ。必要なら誰かに送らせるが」
「外に仲間もおりますので」

 適当なことを言って断る。
 冒険者に戻るには通常どこかの冒険者ギルドで転職しなければならない。
 どのギルドか特定されると、俺が転職していないことがばれてしまう。

「それとこの間預かった指輪だがな。確かに決意の指輪で間違いないそうじゃ。対価として金貨二十枚を支払おう。それでよろしいか」
「ありがたく」

 金貨二十枚か。
 かなり高額だと思っていいだろう。
 他の装備品の値段も考えたら、相場の限度は多分どんなに高くても十万ナールくらいのはずだ。
 その倍を出そうというのだから。

 予め決めてあったのか、すぐに他の騎士が巾着袋を持ってきた。
 公爵がそれを渡してくる。

「それではミチオ様。本日はありがとうございました」

 巾着袋を受け取ると、カシアが礼を述べて奥に引っ込んだ。
 最後までいい匂いを香らせて。

「それでは私も」
「うむ。今日は世話になった。この礼はまたいずれ」

 カシアもいなくなったし、いつまでもいる意味はない。
 俺もボーデの城から歩いて外に出た。
 後をつけられていないか気にしながら、ボーデの迷宮まで徒歩で移動する。

「探索はどこまで進んでいる」
「十階層です」

 入り口の探索者と会話して、中に入った。
 別につけられてもいなかったし、迷宮の中に入ってしまえばどの階層に行ったかは分からない。
 俺は一階層しか入ったことはないが。
 一階層入り口の小部屋から、すぐ家に帰る。

「悪い。待たせたか」
「いえ。大丈夫です」

 家に帰ると、朝食の準備はすっかりできていた。
 日取りの話を聞いてすぐに帰るつもりだったからな。
 いきなり連れて行かれるとは思わなかった。

 何がこんなこともあろうかとだよ。
 それでだまされる公爵も公爵だ。

 イスに座り大きく息を吐く。
 今日は疲れた。
 まだ朝だというのに。
 寿命の縮む思いだ。

 休むほどではないので、迷宮には入る。
 その日の狩でジョブが二つ増えた。
 戦士Lv30になったからだろう。


賞金稼ぎ Lv1
効果 器用小上昇 腕力微上昇 MP微上昇
スキル 生死不問

騎士 Lv1
効果 体力小上昇 知力微上昇 精神微上昇
スキル 防御 任命 インテリジェンスカード操作


 賞金稼ぎと騎士だ。
 どちらも戦士を鍛えることによってなれるジョブか。

 タイミングがもうちょっと早かったら、セルマー伯のところでインテリジェンスカードのチェックを受けるとき、ファーストジョブを騎士にしておいたのに。
 公爵が驚いたに違いない。

 まあそんないたずらのために危険を冒すことはないか。

 冒険者になるには探索者Lv50が条件だ。
 冒険者なら必ず探索者のジョブを持っている。
 冒険者だと思っていたのに探索者だったから、公爵は何も言ってこなかったのだろう。
 冒険者だと思っていたのに騎士だったら、さすがに不審を抱いたはずだ。
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