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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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カシア

 
 クーラタルの迷宮から、ベイルの迷宮に移動した。
 ベイルの十一階層ならグリーンキャタピラーはほとんど出てこない。
 スパイスパイダーとニートアントが出てくるので毒を受ける可能性はあるが、多少のリスクはやむをえない。
 倒すのに必要な魔法の回数が増えて毒を受ける危険性が高まっているとしても。

 迷宮に入る以上、リスクとは背中合わせだ。
 リスクゼロにはできない。
 グリーンキャタピラーにしても、ベイルの十一階層に絶対出てこないという保証はない。
 今までだって九階層十階層で出てくる可能性もあったのだし、そのときに糸を浴びたら魔法三発放つ間耐えられたかどうか定かではない。

 そういえば九階層のときに一度出たか。
 あれは八階層だったか。
 とにかくそれくらいの頻度だ。
 ベイルの十一階層では、ほぼ安定して狩を行えた。

 とはいえ、リスクがないわけではない以上、対策は考える必要がある。
 グリーンキャタピラーが出てきて糸を吐かれてからでは遅い。
 簡単なのは、俺の魔法攻撃力を上げるか、セリーの防御を固めることだ。

 とりわけセリーの皮のジャケットはほぼ初期装備といっていい。
 まずはこれをなんとかすべきだろう。
 鏡とコハクの交易で得た資金もある。
 防御力を高めれば、受けるダメージが減って、糸に捕まっても長い時間耐えられるようになるだろう。

 俺が使っているワンドも、ボスとはいえ低階層ボスのドロップ品だ。
 杖を強化するのもいい。
 魔物を倒すのに必要な魔法の数が減れば、敵と対峙している時間も減る。
 一つ減らせれば対峙している時間は四分の三になる計算だ。

 四分の三ではまだきついか。
 安全に戦うためには二つ減らす必要があるか。
 そう考えると結構大変だ。
 ワンドの強化は後回しでいいかもしれない。

 後は、身代わりのミサンガをセリーに着けさせるという手もあるが。
 ただし身代わりは一回限りだ。
 過信することはできない。
 糸で動けなくなったところをぼこられたら、一度くらい防いでもあまり意味はないだろう。

 身代わりのミサンガは、基本的には不意の一撃をカバーするための装備で、想定している危険に対応するための装備品ではないと考えるべきだ。

 迷宮を出た後、まずは防具屋、に行くのではなくてボーデに飛ぶ。
 一日一枚鏡を届ける。
 最近の日課だ。
 ここのところ全然朝食を作っていない。

 公爵の部屋まで案内され、鏡を置いてゴスラーから金貨一枚を受け取った。

「城にもそろそろ慣れたであろう。いちいち案内を通さずとも、これからは直接余の部屋まで来るがいいぞ」

 イスに座った公爵がのたまう。

「いいのですか」
「かまわん。それにこちらの事情もあるのでな」
「騎士団の方はこれから忙しくなります。領内に三つめの迷宮が出現しました。二つめの迷宮もまだ先日見つかったばかりなので、早急に探索を進めなければなりません」

 ゴスラーが説明を引き継いだ。
 迷宮が出てきたのか。
 迷宮を退治するのは領主の責任だ。
 きっと大変なんだろう。

「なるほど」
「城内に詰める騎士団員の数はどうしても減ることになります。余計な業務を増やしたくもありませんので」

 数が減るのに、変な冒険者もどきの俺がうろついてもいいのだろうか。
 まあ向こうがいいというからにはいいのだろうが。

「そういう状況なのでな」
「了解」
「城内の者には話を通しておきます」
「さらに、ミチオ殿には頼みがある。迷宮の探索を手伝ってくれるとありがたいのだが」

 公爵が依頼してきた。
 手伝いというのは何をさせるつもりなんだろうか。
 あまり変なのは困る。
 一緒に戦ってくれとか。

「あーっと。領内の迷宮に入るだけならば」
「受けてくれるか」
「ミチオ殿のパーティーで迷宮に入っていただければ、それでかまいません」

 入るだけでいいのか。
 そういえば、ゴスラーはロクサーヌとセリーを商人ギルドで見ている。
 あまり厄介なのは困るが、迷宮に入るくらいなら問題はない。

「出身地かどこかの騎士団と契約しているということはないのか」

 公爵が探りを入れてきた。

 なるほど。
 冒険者といえど完全に自由というわけではないのだろう。
 地縁や血縁のしがらみに縛られる人も多いと。
 騎士団への勧誘があっさりしていたのもそのせいか。

「まあ今後しばらくこちらの迷宮に入るくらいは問題ないです」

 だから、俺も故郷とのつながりを否定はしないでおく。
 ないと分かったらもっと強引に誘ってくるかもしれない。

「優秀な冒険者が迷宮に入ってくれれば心強い」
「まだ低階層にしか入れませんし、探索の役に立つことはないと思いますが」

 そこは否定しておかなければならない。

「かまいません。入るだけでも効果のあることはミチオ殿もご存知でしょう」

 全然ご存知ではない。
 そうなのか。
 ここはゴスラーに話をあわせておくべきだろう。

「なるほど。入る迷宮に指定は?」
「入っていただけるのであれば、基本的にはどこに入っていただいてもかまいません。ただし、お渡ししているエンブレムを見せれば、騎士団関係者ということで探索の進んでいる最上階への案内が無料になります。新しく見つかった迷宮の方が有利ではあるでしょう。騎士団関係者にも階層突破の報奨金は出ます。一つめの迷宮はハルバー、二つめの迷宮はターレ、三つめの迷宮はここボーデの南にあります」
「了解」

 一部よく分からないところもあるが、うなずいておいた。
 “優秀な冒険者”が基本的なことも知らない、では困る。

「ターレは洪水のときに援助物資を運んでいただいた村です。ハルバーの迷宮には、この後で冒険者に案内させましょう」

 運んでくれるのか。
 それは助かる。

「ありがたく」
「では今日は余がすぐに出よう。そのとき一緒に来ればよかろう。ミチオ殿はロビーにて待たれよ」

 公爵が立ち上がり、すぐに部屋を出て行った。
 せっかちだ。
 あそこはやっぱりロビーでよかったのか。

「では、失礼します」

 ゴスラーに挨拶して、俺もロビーに戻る。

 ロビーで待っていると、公爵がやってきた。
 美人三人にイケメン二人を連れている。
 エルフどもめ。
 しかも、うち一人はものすごい美人である。

 周囲に日の光が差してきたと勘違いするかのような美しさ。
 明るい金色の髪に透けるような白い肌、大きな淡い瞳にほのかに色づいた桜色の唇。
 花束の中でひときわ大輪のバラが咲き誇っているかのような女性だ。

 美人ぞろいのエルフの中でも、一段レベルが高い。
 いや、二段高いかもしれない。
 上には上がいるもんだ。

「紹介しておこう。余の妻室のカシアだ」

 その美人を、公爵が紹介した。

 妻……だと……。

「カシアです」

 カシアが足を引いて挨拶する。
 美人がやると挨拶までエレガントである。
 ロクサーヌとはまた違った、すべてが完璧という感じの美しさ。
 ギリシャ彫刻かフランス人形かという感じだ。

 イケメンともなるとこんな美人の奥さんがもらえるのか。
 それともやっぱり公爵だからか。
 ねたましい。

 なんという身分制度。
 なんという格差社会。
 なんという不平等。

 このような搾取が許されていいものだろうか。
 このような苛政が許されていいものだろうか。
 このような理不尽が許されていいものだろうか。

 不公平だ。
 不条理だ。
 革命だ。

 支配階級は恐れおののくがいい。
 プロレタリアには失うものはない。
 彼らには勝ち取るべき世界がある。
 万国の労働者よ、団結せよ。
(『共産党宣言』より)

「はじめまして、ミチオです」

 しかしカシアの前では頭を下げる。
 淑女の前では紳士として振舞わねばなるまい。

「とても優秀だという話は公爵からうかがっております」

 カシアからのお言葉が下賜された。
 俺のことを公爵が話していたらしい。

 公爵はいい人だ。
 革命なんてとんでもない。


カシア・ノルトブラウン・アンセルム ♀ 29歳
魔法使いLv41
装備 ひもろぎのスタッフ 耐水のティアラ 耐火のローブ 耐風のアームロング 耐土のビットローファー 身代わりのミサンガ


 というか、公爵夫人も戦うのか。
 耐水、耐火、耐風、耐土の四属性そろい踏み。
 これが公爵夫人クラスの装備か。

「公爵夫人も迷宮に入られるのですか」
「当然の務めですから」

 優雅にうなずかれる。
 民のために率先して戦う公爵夫人。
 これでは革命の起こりようがない。

「では、ミチオ殿も入れて最初に四人でハルバーへ向かう。カシアとクラウスも入れ」

 公爵が宣言した。
 パーティーは六人までだから、俺がいると二往復することになる。
 悪いね。

 多分ここにいる六人が公爵のパーティーメンバーなんだろう。
 聖騎士と騎士、魔法使い、巫女、探索者、冒険者。
 魔法使いに回復役の巫女までいるから、整ったパーティーだ。
 冒険者は運ぶだけかもしれないが。

 冒険者がパーティーを結成する。
 その間に準備を整えた。

「では、まいります」

 俺が最後に公爵のパーティーに入ると、冒険者が壁に向かう。
 その隙に、と。

 聖騎士Lv14、騎士Lv50、戦士Lv30、村人Lv6、魔法使いLv1、探索者Lv1、剣士Lv1、森林保護官Lv1、薬草採取士Lv1。

 パーティージョブ設定を使った。
 公爵のジョブを見る。
 今まで誰にも指摘されたことはないから、使っても分からないはずだ。

 察するに、戦士Lv30→騎士Lv50→聖騎士という流れだろうか。
 森林保護官というのは、エルフの種族固有ジョブのようだ。
 他のエルフでも持っている人がいた。

 薬草採取士があるということは、リーフか何かを拾ったのか。
 せっかちな公爵らしい。
 自らアイテムを拾いまくる姿が目に浮かぶようだ。

 冒険者に続いて公爵が壁にできた入り口に入る。
 次にカシア。
 俺は最後に入った。

 ちなみに、パーティージョブ設定ができるということは、公爵のジョブを変更することも可能だということである。
 薬草採取士Lv1とかに。

 くっくっくっ。
 公爵はこの後迷宮に入るのだろう。
 一階層からというわけではあるまい。
 上の階層で魔物も強くなっているのにジョブが薬草採取士Lv1に変わっていたらどうなるか。

 くっくっくっ。
 カシアは晴れて未亡人に。

 いや、やらないけど。
 やらないけど。
 やらないけどお。

 ハルバーに着くと、冒険者はパーティーを解散してすぐに戻っていった。
 ハルバーというか、どこかの森の中だ。
 すぐ近くに迷宮の入り口がある。

「誰か四十一階層を突破したものはおるか」
「いいえ。まだです」

 公爵と入り口にいた探索者が話す。
 現状、この迷宮の探索は四十一階層まで進んでいるらしい。

 入り口が出てきたということは、この迷宮は五十階層以上ある。
 一番上まで行って迷宮を駆逐するのにまだどれくらいかかるのか。
 今の状態でさらに二つの迷宮を相手にするのは大変だろう。

 ワッペンを見せれば俺もただで四十一階層まで連れて行ってもらえるが。
 まあ今はいいか。
 さすがに俺が四十一階層まで進むころにはこの迷宮も攻略されるだろう。

「それでは、お先に失礼します」
「今後ともよろしく頼む」
「よろしくお願いしますね」

 公爵とカシアに挨拶して、迷宮に入った。
 いつまでも一緒にいられるわけもなし。
 一階層入り口の小部屋からすぐ家に帰る。

 朝食を取りながら、迷宮のことをロクサーヌとセリーに話した。

「ハルツ公領内にある三つの迷宮に入ることになった。これからは、ベイルとクーラタルの迷宮ではなく、そっちに入る」
「分かりました」
「どこにある迷宮か分かりますか。探索者ギルドで調べてきます」
「ボーデ、ハルバー、ターレだ」

 セリーに教える。

「ボーデ、ハルバー、ターレですね。分かりました」
「いくつか質問があるんだが。階層突破の報奨金って何だ」
「管理されている迷宮なら入り口に探索者がいます。最初にボス部屋を突破した場合には、この探索者を新しい階層に連れて行くとお金が払われます」

 なるほど。
 それが報奨金か。
 入り口の探索者だって一度はその階層に行かないと、案内はできない。

 入り口の探索者は、新たに階層を突破した人に報奨金を支払う。
 他の人たちからは金を受け取って新しい階層に連れて行くと。
 うまくできている。

「そういえば、ザビルの迷宮は管理されていない迷宮だった。管理されていない迷宮というのもあるのか」
「帝国の領内にある迷宮は基本的に全部管理されています。設定された領土の外にある迷宮は管理されていません。ザビルは辺境にあるので、管理されていない迷宮も近くにあるのでしょう」

 あのザビルの迷宮は帝国の領外にあるということか。
 ペルマスクの領内なんだろうか。
 ペルマスクは管理したりしないのだろうか。
 まあいいや。

「なるほど。ありがとう。最後に、迷宮に入れば最先端を探索していなくても効果があると言われたが、そういうものなのか?」
「えっ。あ、はい」

 またちょっとセリーに変な顔をされてしまった。
 誰でも知っているようなことなのか。

「そうか」
「迷宮にとって人は獲物です。だから、人が入らない迷宮は活動が激しくなり、人がよく入る迷宮は活動が和らぎます。多くの人が入る迷宮はそれだけ危険が少なくなります」
「そういうものなのか」
「例えば、都市や村の近くにある迷宮はあまり外に魔物を出しません。出しても積極的には人を襲わない弱い魔物です。人里離れた場所にある迷宮は、より強い魔物を迷宮の外に出すようになり、積極的に人を襲わせます」

 迷宮の活動にそのような違いがあるのか。
 つまり言い方を変えれば、公爵は俺に餌として迷宮に入れといったわけだ。
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