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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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コハク

 
「ペルマスクに直接行かれるのでしたら、コハクを買われるのがいいかと思います」

 鏡を売るとゴスラーがアドバイスをくれた。

「コハク?」
「はい。領内の特産品です。宝石ですから小さくて高価です。ペルマスクでの相場は知りませんが、それなりの値段になるでしょう」
「なるほど」

 ペルマスクから鏡を持って帰るだけではなく、行きにも何かを持っていけば二重の利益が出る。
 当然そうすべきだろう。

 ちゃんと翻訳されたからこの世界にもコハクがあるようだ。
 ダイヤモンドのような高いものではなく、かさばるものでもないから、冒険者が持ち運んで交易するにはきっといい商品に違いない。

「ボーデにある業者を紹介しましょう。うちとも取引のある、確かな業者です。ボーデの冒険者ギルドのすぐ隣にあります」
「では余が紹介状を書こう。紹介状があれば、変なものを売りつけられるようなことはあるまい」

 公爵が羽ペンを取って何か書きだした。
 書き終わるとパピルスをたたみ、合わせ目に融けた蝋を落とす。
 落とした蝋に印鑑か何かを押しつけ、封をした。
 紹介状というのはこうやって作るのか。

 紹介状を受け取って、部屋を辞する。
 ロビーに戻って、宮城を後にした。

 時間もないのでそのまま家に帰る。
 朝食を取ってベイルの迷宮に入り、探索の後ザビルにある迷宮に移動した。

 行きは楽なのだ、行きは。
 迷宮でMPを回復しつつ進めば、何の問題もない。

「ここはどこでしょうか?」
「ペルマスクへの中継地点となる迷宮だ。一階層はミノがいるから、探してくれ」

 こうしてただロクサーヌに頼めばいい。

「ペルマスクへ行かれるのですか」
「昨日買ってもらったのと同じような、装飾も何もついていない鏡をまた買ってきてくれ。全部で十枚、買い手がついた」
「十枚ですか」
「すぐにというわけではないから、買って運ぶのは一人一枚ずつでいい」

 ガラスだから割れやすいし、梱包もしっかりしたものではない。
 持つだけなら何枚か持てるだろうが、大量には運ばないほうがいいだろう。
 割れたりしたら大変だ。
 別に五往復すればいいだけの話である。

 五往復って。

 あれを五回も味わうのか。
 行きはいいのだ、行きは。
 問題は帰りだ。
 一気に飛ぶから、MPをごっそり消費することになる。

 まあしょうがない。
 鏡を持って帰ることになるから、迷宮に寄ることもできない。
 鏡を持つのはロクサーヌとセリーだから、割れたら厄介なことになる。

 俺が自分で持って自分で割ったのなら笑ってすませられるが、奴隷の二人が割ってしまったらどうなるか。
 笑ってすますでは済まされないだろう、多分。

 MPを回復して、ペルマスクへ飛んだ。

「それではいってまいります」
「鏡は、前と同じ大きさか、少し大きさの違うものを二枚。それと、コハクを買ってくれるところでしたね」

 セリーが確認する。
 うなずいて見送った。

 二人を送った後、迷宮づたいにボーデまで移動する。
 迷宮づたいなら何の問題もない。
 面倒ではあるが。

 宮殿で冒険者ギルドの場所を聞き、街に出た。
 コハクを扱う業者があるのは冒険者ギルドのすぐ隣ということだ。
 石畳の静謐な道を歩いていくと、場所はすぐに分かった。

 どこの冒険者ギルドにも入り口には四角いエンブレムの描かれた看板が掲げられている。
 多分、大地をモチーフにしたものだろう。
 冒険者なら大地のどこにでも移動できる。

 その看板がある冒険者ギルドの横に、入り口の開け放たれている建物があった。
 そこがコハク商の店に違いない。
 中に入る。

 店の中にはコハクも何も置かれていなかった。
 店というよりは事務所に近いのか。

「いらっしゃいませ」
「ここはコハクを扱っている店で間違いないか」
「手前どもで間違いはございません」

 出てきたのは、渋いネコミミの商人、♂だ。
 恰幅のよい大店おおだなの番頭さんがネコミミをつけている感じ。
 意外と似合うな。

「エルフではないのか」
「コハクは海で採れますので。海であれば私ども猫人族のテリトリーです」

 小さくつぶやいたのを聞きとがめられてしまった。
 なんかよく分からないが、そういうものらしい。
 コハクは海で採れるのか。
 実はコハクじゃなくて真珠?

「遠方へ赴くことがあるので、コハクを商いたいと思っている。騎士団の話ではここがよいということだったのでな」

 紹介状を渡した。

「こちらは……公爵様直々のご紹介状では」
「書いていただいた」
「公爵様直々のご紹介状をいただいたお客様を無碍にすることはできません。こちらにお越し願えますか」

 奥に通される。
 ハーブティーまで出された。
 領主からの紹介状だけに威力は絶大なようだ。

「すまんな」
「近場のお客様や帝都へは当商会でも直接卸しているので、あまり邪魔されるのは困ります。どちらに持っていかれるご予定でしょうか」
「今度行くのはペルマスクだ。赴くついでなので、本格的、大量に扱うわけではない」
「さようでしたか。ごく少量であれば、どこでお売りになってもかまわないでしょう。ペルマスクほどの遠方であればまったく問題はありません」

 商人が小さな木箱を出してくる。
 テーブルの上に置いた。
 中に、淡い琥珀色の透明な宝石がある。

 ちゃんとコハクだ。
 真珠じゃなかった。

「よかった」
「このような小さいもので数千ナールから。ネックレスなどに仕立てますと数万ナールするものもございます。こちらのネックレスですと五万五千ナールです。大きな粒を使ったもので、大変希少な品となっております」

 商人がネックレスを渡してくる。
 楕円にカットされ磨かれた卵型のコハクが十数個つながったネックレスだ。

 現代日本にもありそうか。
 あるいは、ちょっと古めかしいだろうか。
 装飾品なんてよく分からない。

「ふうん」
「もしくは、ペルマスクは工芸で有名な都市ですから、持っていかれるのなら加工する前の原石がよろしいかもしれません」

 ネックレスをすぐ返したので興味ないと思われたか、さらに説明してきた。

「そうだな。原石の方がいいかもしれん」
「原石は今、手元にありません。今度こられるときまでに用意しておきます」
「どのような需要があるか、実際ペルマスクへ行って探らせよう。調達するときにはまた世話になろう」
「そのときをお待ちしております」

 顔だけつないで、ボーデを後にした。
 迷宮をつたってペルマスクに戻る。
 めんどくさくはあるが、回復しながらなので弊害は生じない。

 冒険者ギルドでしばらく待つと、二人が戻ってきた。
 今回も、鏡を二枚、ちゃんと買えたようだ。

 いったん直接家に帰った後、鏡を置いてクーラタルの二階層に飛ぶ。
 スパイスパイダーが大量に出てくるような過ちは犯さない。
 毒ごときにびびってしまう己のへたれ具合には愛想が尽きかけたが。
 MPを回復して、家に戻る。

 これをまだあと四回か。

「ちゃんと買えたようだな」
「はい。十枚で銀貨三百枚でいいそうです」
「ほお」

 値切ったのか。
 えらいな。
 さすがはセリーだ。

「ただし、すみません。手付けということで、銀貨を全部置いてきました。鏡一枚分先払いになります」
「その程度はしょうがないだろう」

 銀貨は前と同じく九十枚持たせておいたから、ちょうど鏡三枚分だ。
 所持金を全部出すからと値引き交渉をまとめてきたのかもしれない。
 合理的に考えるセリーはしたたかでもあるようだ。
 大口で買ったから安くもしてくれたのだろうが。

「鏡の大きさは、大きいものと小さいものの組み合わせで買えるように交渉しました」
「さすがだな」
「コハクについては、原石であれば是非ほしいとのことでした。装飾加工もやっているので装飾に使うか、他の工房に売ることもできるそうです」

 原石か。
 コハク商の意見が正しかった。
 送り出したときにはコハクというだけだったのに、ここまで話をしてくるとは、やはりセリーに任せておけば間違いはない。

 その日は風呂を入れて労をねぎらう。
 もちろん一緒に入ったので、こちらもたっぷりと慰めてもらったが。

 翌々日の昼間、ロクサーヌとセリーを連れてボーデに赴いた。
 朝には一人でボーデの宮城に行って、鏡を運んでいる。
 二日かけて二枚。
 ゴスラーのジョブである魔道士にはカルクはなさそうだし、あまり高く買わせるのも悪いので、売却は一枚ずつだ。

 まあ一万ナールで売れれば十分だろう。
 一人で二枚持っていくのは大変だし、ロクサーヌと一緒に行ってイケメンに逢わせるのも癪だ。
 今回はコハクを選ぶことになるかもしれないから、二人を連れてきている。

「これはこれは。お待ちしておりました」

 商会に入っていくと、ネコミミの番頭商人が出迎えた。
 一ミリも可愛くはないが、妙にほのぼのとした感じがある。
 揉み手でもしそうな人当たりのよい柔らかさとネコミミがマッチしている。
 外見にだまされそうだ。

「やはりペルマスクで原石の需要があるようだ」
「さようでございましたか。いくらか用意できております。こちらにお越しください」

 奥に通された。
 従業員らしきネコミミ少女がハーブティーを四つ置く。
 ネコミミはいいものだ。

 ロクサーヌとセリーもちゃんとお客扱いらしい。
 ハーブティーに口をつけた。
 のどを潤していると、商人が大きめの木箱をテーブルの上に置く。

「わあ」

 両隣から声が上がった。
 ロクサーヌとセリーだ。
 綺麗なものはやはり好きらしい。

「こちらなど、いかがでしょうか」

 商機と見てか、早速商人が勧める。
 さすが利にさとい。
 商人め。

「いえ……」
「まあ見せてもらうだけは見せてもらえ」
「分かりました。見るだけなら」

 遠慮する二人に促した。
 ロクサーヌとセリーがコハクを手にする。

「それで、これが原石なのか」

 磨かれたコハクとは別に、赤っぽい石が箱に入っていた。
 コハクだから、石ではないが。
 商人が一個取って、渡してくる。

「原石そのままというわけではございません。海岸などで採れた原石を荒削りしたものでございます。そうしませんと、質がまったく分かりませんので」
「なるほど」
「お客様は、どのようなコハクがよいか、ご存知でいらっしゃいますか」
「知らないな」

 知っているはずがない。
 地球のコハクについても知らないし、知っていたとしてもこの世界にはこの世界の好みがあるだろう。

「基本的には、透明度が高く、赤みがかった色合いのものが上等とされます。荒削りすることである程度の色は分かりますが、絶対ではございません」
「そうか」
「磨くと中に異物が入っていることもございます。コハクは、女神がたかってくる虫などを魔法で追い払ってできたものだとされています。そのために虫が入っていることも多々ございます。小さなアリなどが一匹丸ごと入っているものは、それはそれで美しく、高い価値を有します。荒削りの段階ではそこまでの判断はできません」

 コハクは松脂などが固まってできた化石だと思うが。
 この世界でも。
 分からないことはセリーに聞いてみよう。

「女神の魔法なのか?」
「女神の魔力が閉じ込められているはずなので、装備品に使えないかと考えるドワーフはいます。製作できたという話は聞きません。魔物が落とすアイテムではないので無理だという理解が一般的です。他には、魔力を取り出せないかと研究している学者さんもいます」

 敢えて言おう、無駄である、と。

「そうなのか」
「昔の偉い学者さんで、こすることで魔力を取り出したと主張する人もいました」

 それは多分静電気だ。
 商人に向き直って、原石を返した。

「荒削りの段階でコハクのよしあしを判断するのも難しそうだな」
「長年扱っている者でないと無理だと思います。今回はあまりくせのないものを用意させていただきました。これと同程度の大きさ、品質で一個八百ナール。今回は全部で二十個まで融通できます」

 八百ナールというのは、安いような気もするが、所詮石ころだと思えば高いような気もする。
 磨いて数千ナールか。
 手間を考えればそんなものなんだろう。

「まあ公爵からの紹介だからな。全部もらうとしよう」

 どうなるか分からないが、全部買ってみる。
 すでに公爵に鏡を三枚売却してそれ以上の利益は出ている。
 失敗しても高い授業料だと諦めのつく範囲だろう。

 商談を終えても、ロクサーヌとセリーはコハクにかかりっきりだ。
 素人によしあしが分からないなら、二人を連れてくることはなかった。
 まあ、コハクを見て喜んでいるみたいだからいいか。

 ロクサーヌなどは熱心にネックレスを見つめている。
 あの胸にコハクのネックレスが載ると考えると。

 いかん。
 これは暴力だ。

 コハクのネックレスがじかに載った胸を思う存分鑑賞できたら。

 もみたい。
 もみしだきたい。
 ベッドの上で着けさせたい。

 そのためには買うしかない。
 買えばロクサーヌも喜ぶだろう。

 か、買うしかないのか。

 待て。
 あわてるな。
 これはコハク商の罠だ。
 そんなことは無理だ。

 目をそらした。
 セリーはと見ると、やはりネックレスとにらめっこしている。
 ちょっとしかめっ面だ。
 セリーの方はあまり気に入ってはいないらしい。

「そちらのおかたには、このようなものが似合うかと存じます」

 商人が違うネックレスを持ってきた。
 濃い赤い色の、大きな粒がそろったネックレスだ。
 セリーがそれを胸元に当てる。
 とたんにセリーの顔がほころんだ。

「わあ」
「確かに」

 なるほど。
 セリーの胸元でネックレスがゴージャスに輝いている。
 これはかなり引き立つ。

「で、でも。あの、私は別に……」

 セリーは遠慮しているが、気に入ったらしいことは分かった。

「こちらのネックレスは赤みが濃く、好まれる色合いなので四万五千ナール、あちらのおかたが手にしておられる方は三万ナールとなっております」

 商人が勧めてくる。
 買えない金額でもないというところにいやらしさを感じる。

 しかし残念。
 ロクサーヌのネックレスがセリーのネックレスよりも安いというわけにはいかないだろう。
 なにしろ一番奴隷らしいから。

 これで難を逃れた。
 買わずにすむ。
 コハク商は最後に高いものを勧めすぎたのだ。

「そうか」
「あちらのおかたには、このようなものもお勧めです」

 俺がそっけなく振舞っていると、商人がまた違うネックレスを取り出した。
 それをロクサーヌの前に置く。

「ほう」
「色は薄めですが、異物などがまったく入っていないものを集めた当商会自慢の一品です」

 やや薄い色合いの、その分透明度の高いコハクだ。
 中央にひときわ大きな粒があり、その前後も大きな粒がみっちりと連なっている。

「どうですか?」

 ロクサーヌが胸元に当てながら訊いてきた。
 山が、三つだと……。
 中央にコハクの大きな山が一つ。
 透明なコハクの向こう側に、左右に大きな山が二つ控えている。

 淡いだけにネックレスは強い自己主張をしない。
 ロクサーヌの胸のふもとに静かにはべっている。
 その一歩引いたたたずまいが、後ろにある山の高さを煽り立てた。

 ふ、ふざけるなよ。
 戦争だろうが。
 見ているうちはまだしもそれを胸に載せたら。
 戦争だろうがっ。

「に、似合ってるな」
「ありがとうございます」

 笑顔がまぶしい。

「いかがでございましょう」
「た、確かにこっちの方が似合っているような」
「こちらのネックレスですと、五万ナールになります」

 セリーのネックレスより五千ナール高い。
 つまり、退路はふさがれたということだ。
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