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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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 いったんペルマスクの冒険者ギルドからザビルに引き返す。
 本来なら片道の客を集めるところなのだろうが、ペルマスクまで連れて行ってくれた冒険者がすぐに帰ってくるだろうから、やっていない。
 営業妨害になる。

 MPは、分かるほどには減った、という感じだろうか。
 ペルマスクとザビルの間は、クーラタルとザビルの間よりは近いだろうが、距離があることはある。

 ペルマスクからザビル、サビルからクーラタルと考えると結構大変だ。
 クーラタルとペルマスクの間を一度で飛ぶにはちょっと覚悟がいる。
 今はパーティーを組んでいないことも考慮に入れなければならない。

「ペルマスクで鏡を買うとどのくらいになる」

 遅れて帰ってきたザビルに駐留する冒険者に尋ねた。

「鏡ですか。大きさによりますが」
「このくらいで」

 胸から上を映せるくらいのサイズを両手で示す。

「銀貨四、五十枚から金貨一枚といったところでしょう。装飾された高いものは天井知らずです。ペルマスクでなら工房に直接行けばスタンドや装飾のついていないものも手に入ります。これならもう少し安く買えます」

 冒険者が答えた。
 鏡の装飾というのが何を指すのか分からないが、鏡本体に手を加えても見えにくくなるだけだから、枠か何かで飾っているのだろう。

 パーティーを組み、ロクサーヌとセリーを冒険者ギルドの隅に連れて行く。

「セリー、アイテムボックスを開け」
「はい」

 セリーにアイテムボックスを開かせ、銀貨を入れさせた。
 毒消し丸も入っているので、残りの九列×十枚。
 ついでに税金の銀貨一枚ずつをロクサーヌとセリーの手に持たせる。

「今からペルマスクへ連れて行く。渡したお金で鏡を二枚買え。一枚は装飾も何もついてない鏡だけのものを。もう一枚はうちで使う。値段の許す範囲内で好きなものを選んでこい。持たせた銀貨一枚は税金だ」
「一緒にお買いにならないのですか」
「ちょっとな」

 インテリジェンスカードのチェックがある以上、冒険者でない俺がペルマスクに入ることはできない。
 買い物は二人に任せるしかない。

「分かりました」
「時間は、一時間くらいでいいか。まあ俺が冒険者ギルドに戻ったら分かるだろう。戻ったら入手できていなくても一度帰ってこい」

 俺がペルマスクの冒険者ギルドにずっといれば不審に思われる。
 どこかに消えた方がいい。
 待っているのも暇だし。
 パーティーを組めば、パーティーメンバーが大体どの方角にいるかは分かる。

 ザビルの冒険者ギルドの壁から、ペルマスクの冒険者ギルドに飛んだ。
 MPがかなり少なくなった。
 ペルマスクからザビルに戻ったときよりも減った気がする。

 減った。
 相当減った。
 ごっそりと減った。

 やはりパーティーメンバーがいると消費MPが増えるらしい。
 東へ行く場合に消費MPが多いという可能性もあるが。
 もっとありそうなのは俺の能力が足りないという可能性だ。

「それでは行ってまいります」

 ロクサーヌとセリーが冒険者ギルドを出て行くとき、思わず行かないでくれとすがりつきそうになってしまった。
 いや、分かっている。
 MPが減ってネガティブになっているのだ。

 ベイルからザビルに飛び、その後ザビルとペルマスクの間を往復している。
 大量にMPを消費しただろう。
 二人と別れた後、すぐに強壮丸を飲んでMPを回復した。
 今のままでは女房に捨てられた駄目亭主みたいだ。

 二人がインテリジェンスカードのチェックを受け税金を払うまで見送る。
 奴隷でも何の問題もないようだ。
 まあ、この町の担当者も誰でも自由に歩けると言っていたしな。

 別に二人が帰ってこない理由はない。
 ないだろう。
 ないよね。
 ないだろうか?

 俺なんかと一緒にいるのは嫌だからペルマスクに亡命するとか。
 ありそうすぎて怖い。
 ロクサーヌやセリーがいつまでも俺に従っている理由はない。
 主人を変える裏技があるとロクサーヌも言っていたではないか。

 そもそも、この世界のことをよく知らない俺が主人としてまともに振舞えているかどうか、はなはだ疑わしい。
 野に放てば逃げ出すことは十分に考えられる。
 俺みたいな駄目主人には愛想をつかしているに違いない。

 駄目だ。
 思考が悪い方向へばかり向かっている。
 もう一つ強壮丸を飲んだ。

 無駄な出費だ。
 また補充しておかなければならない。

 頭の中が冷静になった。
 感情的にならずに考えれば、二人が戻ってこないなんてことはないだろう。
 ロクサーヌのこともセリーのことも、そのくらいには信用している。
 何の問題もない。

 息を吐き、落ち着くまでしばしペルマスクの町を眺める。
 冒険者ギルドから見るペルマスクの町は、エキゾチックな感じがした。
 白い建物が並ぶ人工的な都市だ。
 低くて白い建物がまばらに建てられている。

 全部の建物が白いのは、遮蔽セメントが使われているからか。
 日本にもないし、帝都やクーラタルとも違う。
 エーゲ海に浮かぶギリシャの都市。
 あるいは砂漠の中に作られたオアシス都市みたいな感じか。

 そう。この町には緑がない。
 木や森がない。
 かといって本当に砂漠なのではない。
 建物の間の空き地には雑草が生えている。

 何か妙な感じがしたが、考えていて気づいた。
 木は全部切られているのか。
 大木があればフィールドウォークが使える。
 全部の建物に遮蔽セメントを使うくらいだから、木も邪魔なのだろう。

 理由は分からないが徹底している。

 俺のワープなら遮蔽セメントが使われている建物にも移動できるが。
 まあそこまですることもないか。
 見つかったら大変だ。
 夜中ならばれずに移動できるとしても、朝まで待つのが面倒である。

 すっかり冷静になるのを待って、ベイルの迷宮まで飛んだ。
 ちゃんと飛べるかどうかテストしてみなければならない。

 MPは、またしてもかなり減った。
 ごっそりといって誇大表現ではないだろう。
 西へ行く場合にもMPを使う。
 距離はあるようだ。

 往復ではきっと飛べない。
 片道でも飛びたくない。
 MPが減ってネガティブになっているからではなく、本当に答えがネガティブだ。
 多分。

 ベイルの迷宮でデュランダルを使ってMPを回復する。
 回復した後、再びザビルの冒険者ギルドへ飛んだ。
 ペルマスクまでの途中のどこかに中継ポイントを作る必要があるだろう。

「この辺りに迷宮があるか」

 駐留しているさっきの冒険者に尋ねる。

「えっと。どのような迷宮をお探しでしょうか」
「希望をいえばきりがないが、とりあえず近くであれば」
「本当に近くでよければ、一番近い迷宮はここからまっすぐ行って東門を出た先、すぐのところにあります。ただし、管理はされていないので担当の探索者はいません。利用する人もいて小道ができているので、すぐ分かるはずです。途中で道が分かれますが、左側の迷宮の方が近くにあります。わざわざフィールドウォークを使わなくても歩いていける距離です」

 銀貨二枚を払ってフィールドウォークで飛ばしてくれるのかと思ったが、歩いて行ける場所にあるようだ。
 城壁を出たすぐ脇にあるベイルの迷宮と同じか。

 俺ならたとえ近くでもフィールドウォークで飛んで銀貨二枚をせしめるが、
そこまで悪辣ではないらしい。
 良心的だ。
 礼を述べ、冒険者ギルドから出た。

 ザビルは、落ち着いた風情のある町だ。
 緑豊かで、赤いレンガ造りの町並みとよくマッチしている。
 木がなく白い印象のペルマスクとは対照的だった。
 比較して余計に落ち着いて見えるのかもしれない。

 レンガが積まれた赤茶けた城壁も高くて立派なものだ。
 三メートルくらいはあるんじゃないだろうか。
 反面、門は小さい。
 幅一メートルちょっとくらいの片開きの扉が開け放たれていた。

 門の上には割と立派なやぐらが乗っている。
 門番もそちらにいるようだ。
 この門をしょぼいといっていいのかどうかはよく分からない。
 門よりは通用口という感じなんだろうか。

 門を出ると、多少の空き地はあるが畑はなく、すぐ林になっていた。
 うっそうとした森ではなく、木立も少し広めにあいた林だ。
 その林の中を、人が踏み固めただけの小道が通っている。
 あれが冒険者の教えてくれた道だろう。

 五分ほど歩いて迷宮の前に出る。
 入り口に探索者はいなかった。
 担当の探索者がいないとはこのことか。

 入り口の探索者がいれば上の階層に連れて行ってもらうこともできるが、いないので一階層に入る。
 デュランダルを出した。
 ロクサーヌがいないので、行き当たりばったりにさまよう。
 ロクサーヌのありがたみを実感した。

 その後、ベイルの迷宮を経由して一度家に帰る。
 シエスタの時間を取って寝不足を解消した。
 起きてから迷宮でMPを回復しつつ、ペルマスクに飛ぶ。
 どれだけ距離があろうが途中でMPを回復しながら進めば万全だ。

 ペルマスクの冒険者ギルドで少し待つと、二人が帰ってきた。
 それぞれ大きな荷物を前に抱えている。
 鏡を二枚、ちゃんと買えたようだ。

 しまった。
 買えたのはいいが、鏡があると中継ポイントが。
 ガラスの鏡は割れやすいだろう。
 考えが足りなかった。

「すみません。お待たせしました」
「大丈夫だ。買えたようだな」
「はい」
「じゃあ帰るか」

 まあしょうがない。
 それに一度はテストしてみる必要もある。
 ペルマスクの冒険者ギルドから、一気に家まで飛んだ。

 家に着くと、大地がゆがむ。
 ゆがんで悲鳴を上げた。
 大地がゆがみ、闇が満ち、空気がよどむ。
 大気が俺に重くのしかかってきた。

 原因はもちろんMPの使いすぎである。
 ここまで減ったのは久しぶりだ。

 ああ、駄目。
 ああ、神様。
 ああ、お許しください。
 私が何かいけないことをしたというのでしょうか。

「やはりペルマスクから一度に飛べるのですね。さすがはご主人様です」
「……ぎりぎりだ。荷物を置いたらすぐ迷宮に飛ぶから、魔物を探してくれ」

 ロクサーヌにお願いする。
 せっかくほめてくれたのに、なんかかっこ悪い。
 しかも飛んだ先はクーラタルの四階層だ。

 背に腹はかえられない。
 安全第一。

 家からならベイルよりクーラタルの迷宮の方が近い。
 近い方がMPを消費しない。
 そして、デュランダル一振りで魔物を屠れる四階層がベストだろう。

 と思ったのに、出てきた魔物はチープシープ一匹とスパイスパイダー二匹の団体だった。
 団体はやめて、団体は。
 スパイスパイダーは毒グモなのだ。
 戦ったらまた毒を受けるに違いない。

 スパイスパイダーはクーラタルの迷宮三階層の魔物だから、四階層でも結構な頻度で出てくる。
 考えたらずだった。
 俺は知能が少ない。

 もちろんロクサーヌはよかれと思って団体を探したのだ。
 俺に意地悪をするために団体を探した可能性もなくはないが。
 クーラタルの四階層ならこうなることは少し考えれば分かったはずだ。

 低能な俺の脳。
 やはり俺の知能は間違っている。

 なんとかデュランダル三振りで倒した。
 頭の中のもやが晴れる。
 冷静になって考えてみれば、いまさらスパイスパイダー二匹程度でびびる必要はない。
 逃げ出さなくて正解だ。

 ロクサーヌとセリーにみっともない姿をさらしてしまったような気がするが、しょうがない。
 さらにMPを回復して、家に帰った。

「これがロクサーヌさんと選んだ鏡です」

 家に着くと、セリーが鏡を包んだパピルスをはがす。
 中くらいの大きさの卓上鏡だった。
 机の上に置けるようスタンドがついている。

「ご主人様のおかげで、いいものが買えました」
「私も実際にペルマスクの鏡を見るのは初めてです。話には聞いていましたが、きれいに映る鏡です」

 別に普通の鏡だ。
 むしろ、少し映りが鈍くないだろうか。
 まあこの世界で普通にある金属鏡とはくらぶべくもない。

「なんにせよ気に入ってもらえたようでよかった」
「はい。ご主人様、ありがとうございます」
「ありがとうございます。この鏡は銀貨五十五枚です。装飾のついていない鏡が銀貨三十五枚でした」

 渡したお金をきっちり使い切ったようだ。
 スタンドがついて二十枚か。
 結構な値段だ。

 ただし、装飾のついていない鏡の方が一回りちょっと小さい。
 その差が銀貨十枚分くらいはあるのかもしれない。

「スタンドだけで結構取るもんだ。こっちの方が大きいこともあるが」
「大きい方が使いやすいと思いましたので。駄目でしたでしょうか」
「いや。そんなことはない。いいものを選んでくれてよかった」

 ロクサーヌをフォローしておく。

「商品としてペルマスクで鏡を買う人はより華美な装飾のついた鏡を好むそうです。元の値段が高い方が高く転売できますから。ペルマスクの方でもそれを分かっていて、金銀や宝石などで枠を飾るそうです」

 セリーが説明した。
 もう一枚の鏡も装飾ありのものにした方がよかっただろうか。

 しかし、ハルツ公のところに持っていくとして、まだ売れると決まったわけではない。
 ロクサーヌが選ぶにしても俺が選ぶにしても、貴族の好むようなものを選べるかどうかも分からない。
 装飾なしのものにして正解だろう。

「付加価値をつける戦略か」
「ガラス加工の技術、鏡を作る技術、時計を作る技術、金銀や宝石の細工技術など、ペルマスクにしかないものが多くあります」
「時計があるのか」

 この世界に時計があったとは知らなかった。
 今まで見たことも聞いたこともない。

「ペルマスクはガラス製品の本場ですから」
「ガラスで、時計を作るのか?」
「ガラスでないと中の砂が見えません」

 砂時計かよ。

「ま、まあなかなかやり手のようだな」
「ペルマスクは全体が一つの島なのだそうです」

 確かに周囲に山はなさそうだった。
 冒険者ギルドから見える範囲内でだが。

「へえ」
「島なので、ガラス職人や鏡を作る職人、金銀や宝石の細工師が容易には逃げ出せません。そうやって職人や技術を囲い込んでいるそうです」

 冒険者ギルドでしかフィールドウォークを使えないようにしているのはそのためだったのか。
 逃亡および技術流出対策か。
 職人には自由のない厳しい都市だ。

「島だってことは、迷宮もないんだろうか」
「そうだと思います」

 俺の疑問にセリーがうなずく。
 ペルマスクに中継ポイントを作ることもできないようだ。
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