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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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八階層


 七階層を突破し、クーラタルの迷宮八階層に移動する。

「ここの八階層の魔物って知ってるか」

 セリーに尋ねた。

「えっと。分かりません。ここがどこかも知りませんし」
「いや、クーラタルの迷宮だが」
「やはりここはクーラタルの迷宮なのですか?」
「言ってなかったっけ」

 そうだっただろうか。

「聞いたかもしれませんが。確かに魔物はクーラタルの迷宮と同じ配置でした。でもお金も払っていませんし。あ、そういえば特別な時間空間魔法が使えるのでしたか。それならばお金を払わなくても」

 セリーがぶつぶつとつぶやく。
 クーラタルの迷宮に入るにはお金を払う必要があるが、払っていない。
 だからクーラタルの迷宮だとは思わなかったということか。
 そこに気づくとは、やはり天才か。

「金払ってないのは駄目だったか?」
「いいえ。クーラタルの迷宮の入場料は迷宮入り口を入るときに支払うのが決まりになっていたはずです。入り口を使わないのであれば、むしろ払わないのが賢明です。さすがといえるでしょう」

 せこいとか、探索者の風上にも置けぬとかは言い出さないようだ。
 よかった。

「さすがはご主人様です」

 ロクサーヌも褒めてくれるが、最初はロクサーヌが提案したような。

「で、クーラタル迷宮八階層の魔物だが」
「あ、はい。クーラタル迷宮八階層の魔物はニードルウッドです。ベイルの迷宮でも戦っていますから、大丈夫でしょう。まれにですが水魔法を使ってくることがあります。水魔法には耐性があるので使わない方がいいでしょう」

 セリーが説明してくれた。
 やはりニードルウッドに水魔法は使えないようだ。

「魔法を撃ってくるところは見たことがないな」
「ベイルの迷宮は低階層でしたから。二階層や三階層で使われることはまずありません」
「そうなのか」
「基本的に、魔物は上の階層で出てくるほど厄介な魔法やスキルを使ってきます。ニードルウッドはあまり魔法を放ってきませんが、八階層ならたまに使ってくると思います」

 階層にあわせてレベルも違ってくるから、そういうものなんだろう。
 レベルが高いほど魔法やスキルを使ってくるというのはうなずける。

「分かった。やはりセリーは役に立つな」
「ありがとうございます」
「これからも頼む。ロクサーヌ、最初は少ないところへ」
「かしこまりました」

 魔法を使ってくるのならデュランダルを装備しておくべきだろうか。
 しかし、どれくらいの頻度で使ってきて、どれほどの威力があるのかは分からない。
 最初は様子見でもいいか。

 一応、セリーのジョブは探索者Lv10のままにしておいた。
 鍛冶師Lv1では魔法一発でアウトという可能性もないわけではない。

 八階層で狩を行う。
 しかし、ニードルウッドはなかなか魔法を使ってはこなかった。
 まれに使ってくるというだけのことはある。

 しびれを切らして、セリーのジョブは鍛冶師Lv1に変えてしまった。
 探索者もLv11に上がっている。
 放っておけばすぐにもLv12になりかねない。
 最初に魔法を使ってきたのは、ニードルウッドが四匹出てきたときだ。

 ファイヤーストームを喰らわせながら待ち受けると、三匹のニードルウッドが前に出た。
 一匹は速度を落とし、後ろに回る。
 ニードルウッドは枝を振り回してくる植物の魔物だ。
 四匹が並ぶには迷宮の洞窟は狭いのだろう。

「ロクサーヌが二匹を、セリーが一匹を頼む」

 こちらに来るまでに三発のファイヤーストームを叩き込む。
 前衛が対峙したところで四発め。

「来ます」

 ロクサーヌの警告が飛んだ。
 見ると、魔物の頭上に青い球が。
 ウォーターボールみたいなものか。

 ニードルウッドが水魔法を発射した。
 速い。

 水球が速く、まっすぐに飛んだ。
 その先にはロクサーヌが。

 ロクサーヌがほんの少し上半身をひねった。
 ひねっただけで魔法をかわす。
 水の球がロクサーヌのすぐ横を通った。
 魔法はむなしく壁に当たって弾ける。

 あ、あれをかわすのか。
 とても避けられそうにはないスピードだったが。

 五発めのファイヤーストームを念じた。
 火の粉が舞い、魔物に襲いかかる。
 ニードルウッドが四匹とも倒れた。

「さすがはロクサーヌだな。魔法までかわすとは」
「二列めから放ってきましたので。さすがにあれだけ距離があれば魔法を見てから回避余裕でした」

 いや。無理だから。
 そんな余裕ないから。
 いうほど距離はなかったから。

「そ、そうか」
「魔物の方もけん制に使っただけで、当たるとは思っていないでしょう」

 そんなことは絶対にないと思います。
 セリーがアイテムを拾って渡してきたので、目でどう思うか問いかけると、無言で小さく首を振った。

「やっぱりそうだよな」
「何がやっぱりなのですか」

 ロクサーヌが訊いてくる。

「いや。ブランチは鍛冶に必要だから、何本か売らずに取っておこうかと」
「そ、そうです。やっぱり必要です」

 なんとか話をごまかした。
 残ったアイテムはブランチが三本にリーフが一枚だ。

「そういえば、ブランチってどう使うんだ?」

 ブランチを鍛冶師が使うという話は、ベイルの宿屋で聞いた。
 鍛冶師が使うものだからうちではいらないと言われたのだった。

「ブランチは剣や鎧などの金属製の装備品を作るときに、素材と一緒に利用します」

 金属を加工するときに必要なようだ。
 当然といえば当然か。

「炉とかも必要なのか」
「基本的にはすべてスキルで行います。特別な装置などは必要ありません」

 アイテムを用意すれば、後はスキルがやってくれるらしい。

 その後も、ニードルウッドはあまり魔法を使ってはこなかった。
 セリーのジョブは、鍛冶師Lv1のままどうしようかと考えているうちに、Lv2に上がってしまった。
 もうこのままでいくことにする。

 ただし、ニードルウッドが魔法を放つのは必ずしも後列に回った場合だけということでもないようだ。
 ニードルウッド二匹とスローラビット一匹で一列に対峙しているときにも、撃ってきた。

「来ます」

 ニードルウッドの足元に青い魔法陣が浮かび、ロクサーヌが警告する。
 魔物の頭上に水の球ができ、飛んできた。
 俺の方へ。

「ぐっ」

 避ける間もなく喰らってしまう。
 回避なんて無理。
 とても無理。
 絶対に無理。

 避けなきゃいけないと頭では分かっていたが、右に避けるか左に動くか、と思っている間に太ももに当たってしまった。

 これを回避余裕とか。
 ないわー。

 メッキのおかげもあり一発で死ぬほどではないものの、結構強烈だ。
 足がもげそうな感じ。
 しかも水なのでびちょびちょだ。
 火よりはましかもしれないが。

 魔物を五発めのファイヤーストームで屠っても、水は消えなかった。
 グリーンキャタピラーの吐いた糸は消えたのにこっちは消えないようだ。
 足に当たったのでおもらししたみたいに思える。
 迷宮の中はそれほど明るくないから、目立つことはないのが救いだ。

 水は、迷宮を出るころには乾いた。
 最後に小部屋に入り、装備品や魔結晶を受け取る。
 魔結晶は換金価値の高いものなので、リュックサックに入れっぱなしにはしないものらしい。

「ようやく乾いたか」
「魔力によってあるように見せているものは魔力がなくなると消えてなくなります。魔力によって現実に作られたものは、魔力がなくなっても消えません。魔物の体は魔力によってイメージされたものですが、一部が実際に構築されるため、ドロップアイテムとして残るとされています」

 セリーが説明してくれた。
 なんだかよく分からないが。

「ふうん」
「あっ」

 魔結晶をアイテムボックスに入れるとき、セリーが声を上げる。

「何?」
「いえ。何でもありません。紫魔結晶から青魔結晶になったのですか」

 なるほど。結晶化が進んでいるからか。
 俺の魔結晶は、魔物千匹分以上の魔力を蓄えた青魔結晶になっていた。

「紫のは私が持っていますが」

 ロクサーヌが紫魔結晶を渡してくる。
 この魔結晶は昔テストをして紫にまでしたのだった。
 セリーの魔結晶も、あれこれ試させたので赤にまではなっている。

「昨日は紫魔結晶が一つで黒魔結晶が二つではありませんでしたか」
「そ、そうだったかな」
「ご主人様なら造作もないことです」

 ロクサーヌ、ナイスフォロー。
 セリーは少し疑わしげに見てくるが、いつもの冷たい目ではなかった。


 朝食の後、帝都に赴く。

「はー。さすがに大きいです」

 帝都の冒険者ギルドを出ると、セリーが周囲の建物を見上げた。
 俺には大きいとか言ってくれたことないのに。

「セリーは帝都は初めてか」
「はい」

 おのぼりさんか。

「まあ俺とロクサーヌもついこの間が初めてだったが」
「そうですね」

 顔を向けると、ロクサーヌがうなずく。

「特に用事がなければ、普通は来ることもありませんから」
「そうなのか」

 この世界にはまだ観光という考えはないようだ。
 普通の人はセリーのいうとおりあまり帝都に来ることもないのだろう。
 フィールドウォークがある冒険者なら結構自由に飛びまわれるはずだが。
 普通の人にはそこまでの冒険心はないということか。

「昔は来たかったです」

 セリーが小さくつぶやいた。

「ん?」
「あ、いえ。何でもありません」
「今じゃ駄目なのか?」

 気になったので訊いてみる。

「えっと。帝都には図書館があるのです。昔は行ってみたいと憧れました」
「図書館か」

 図書館に行きたがるとか。さすがは頭脳派か。

「昔は家に十冊くらい本があったんです。ドワーフなので鍛冶関連の本ばかりでしたけど」

 十冊というのが多いのか少ないのかは分からない。
 この世界では紙は貴重だ。
 きっと本のある家は多くないだろう。
 セリーはお嬢様だったのか。

 それが何故奴隷になったのかは知らない。
 昔はあったと言ったからな。
 没落したということなんだろう。
 その辺には触れない方がいい。

「本がある家なんてすごいですね」

 ロクサーヌは考えなしか。
 天然めぇ。

「昔の話です。祖父が生きていたころは羽振りもよかったらしいです」
「なるほど。そういう本を読んで物知りになったのか」

 話を元に戻す。
 あんまりこの話題を続けない方がいいだろう。

「昔は家にいてばかりいました」
「よく鍛冶師になろうと思ったな」
「探索者になってからは、がんばって迷宮に入りました」

 お嬢様疑惑に続いてセリーに引きこもり疑惑が。
 だから村人のレベルは低かったのか。

「昔は本が好きだったから、図書館にも行ってみたいと思ったと」
「はい」
「今は?」

 俺も本は持っていない。
 クーラタル迷宮の攻略地図が載った小冊子を本と呼べれば、一冊あるが。

「えっと。今は奴隷になってしまったので」
「それと行ってみたいとは別じゃないの」
「でも実際行けませんし」

 そういうものなんだろうか。
 どうせ行けないなら、最初から行こうとは思わない、という選択も賢明なのかもしれない。

「図書館って、奴隷だと利用できないのか?」
「いいえ。お金を出せば誰でも入れます。ただ、すごく高いので」
「高いのか」
「入館料の他に預託金がいるのです。本を破損したりしなければ出るときに返してもらえますが、金貨が一枚必要です」

 貴重な本を損失しないための保証というところか。
 それはそれで合理的なんだろう。
 保証金を取られるなら変なやつは入ってこない。
 実際に何かあってもそのお金で補填できる。

「なるほど。まあでも、セリーには図書館に入ってもらうかもしれないが」
「え?」
「いや、セリーは魔物のこととか教えてくれる担当だから。分からないことがあれば、調べてもらう。せっかく図書館みたいな場所があるのだし」

 何か分からないことがあったら、セリーに調べてもらえばいい。
 我ながらいいアイデアだ。
 なにしろ、俺はロクサーヌから文字を習うのもサボっている。

 俺は英語だって得意ではなかった。
 日本語に加え、中高時代は英語に今はブラヒム語とか、勘弁してほしい。
 シュリーマンがうらやましい。

「あ、ありがとうございます」
「そういえば、セリーはブラヒム語は読めるのか」
「はい。ブラヒム語は商館で習いましたし、文字は同じですので」

 なるほど。
 アルファベットが分かれば、英語でもドイツ語でもフランス語でも読むだけなら読めなくはない。
 それと同じようなものか。

「昔家にあったという本はブラヒム語じゃなかったのか」
「鍛冶関連の本なのでドワーフの言葉で書かれていました」
「セリーは偉いのですね。私は商館で文字から習いましたが」
「ロクサーヌは、どこか行きたかったところとか、ある?」

 横に並んで訊いてみた。

「いいえ。特には」
「そっか」
「あ、あの。もしあったら、連れて行ってくれますか」

 ロクサーヌが俺の目を見てくる。

「そうだな。行ける場所であれば」
「えっと。ご主人様が行きたい場所が、私の行きたいところです。是非私も一緒に連れて行ってください」

 何これしおらしい。
 思わずイヌミミをなでてしまった。
 やはりロクサーヌは最高だ。

「分かった。ありがとう」
「はい」
「わ、私も一緒に行きたいとは思っています」

 セリーが声をかけてくる。
 無理やり言わせたみたいで悪かった。
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