挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
4/218

現状把握

 
 ログアウトできない。

 俺はあわてた。
 考えてみれば、俺はログアウトのやり方を知らない。
 説明も、チュートリアルも受けてはいなかった。

 どうやって現実に戻るのか。

「ログアウト……」

 つぶやいてみるが、何も起こらない。

「ログオフ。終了。中断。エンド。メニュー。オープン。セーブ」

 何も変わらない。

「メニューオープン。メインメニュー。終了メニュー。オプションメニュー。終了オプション。ウインドウ。ウインドウオープン。メニューウインドウ。終了ウインドウ。記憶。保存。保存して終了する。上書き保存。リセット。クリア。戻る。リターン。終了する。終わる。終わって。終わった……」

 考えうる限りのことを言ってみるが、何も起こらなかった。

 これでは現実に戻れない。

 いや、そもそもこれは本当にゲームなのだろうか。

 感覚は、この場所が完全に現実であると告げている。
 それは疑いようがない。
 夢などではありえなかった。

 現実で、かつゲームの中だとすると、ヴァーチャルリアリティーだが、完全なヴァーチャルリアリティーが実現したという話など聞いたことがない。
 それも、ブラウザーの画面をマウスでクリックしただけで。
 ヘッドギアとか何とか、それらしい装置を着けたわけでもないのだ。

 現実感があるのにヴァーチャルリアリティーでもない世界。
 それは何かといえば、要するにただの現実だ。

 それでも、ここがゲームだと思える理由。
 鑑定、と自分の姿を見て念じる。


加賀道夫 男 17歳
村人Lv2 盗賊Lv2
装備 サンダルブーツ 決意の指輪


 こんなことが可能なのは、ゲームの中くらいだろう。

 しかし、自分の姿を確認したことで、俺は見てしまった。
 ジャージについた返り血を。

 ゲームなら、返り血なんかを残すだろうか。
 ここがゲームの中なら、何故いつまで経っても返り血が消えないのだろう。

 本当にここはゲーム内なのか。
 いや、ゲーム内だったとしても、ログアウトできなければ同じことだ。
 俺は現実に戻れるのだろうか。


 警告!
 あなたはこの世界を捨て異世界で生きることを選択しました。
 二度とこの世界に帰ってくることはできません。
 続けますか?


 自宅にいたときの最後の記憶。
 設定の最後に、こんな表示が出たはずだ。
 あれは本当のことだったのではないだろうか。

 確かに、鑑定もできるし、武器六であるらしいデュランダルも持っている。
 だからといって、ここがゲームの世界だと安心できるものではない。
 もしここが設定どおりの世界なら、設定のときに出た警告もやはりそのとおり事実なのだろうから。


「失礼いたします」

 そんなことを考えていると、村長が入ってきた。
 木製のタライに入ったお湯を持ってこさせている。

「あ、ああ」
「こちらのお湯で体をお拭きください」

 下女らしきおばさんがタライを置き、粗末なタオルを手渡してきた。
 タオルというよりただの布切れだ。

「すまんな」
「それと、着替えを用意いたしました。今お召しになっているものは汚れてしまったので、洗濯させましょう」
「頼む」

 別のおばさんが折りたたまれた衣服を板の上に置く。
 66歳という年齢と受けた感じからいって、村長の奥さんだろうか。
 用事を済ませると、村長と一緒に出て行った。


 一人になった俺は、ジャージを脱いで、タオルで体を拭く。
 ジャージにはところどころ赤い染みがついていた。
 盗賊たちの血だ。

 いつまで経っても消える気配はない。
 ゲームの中でないのなら、もちろん消えたりはしないだろう。
 やはりここはゲームの中ではない。

 息を大きく吐き出す。

 なるほど、鑑定もできるし、武器六も持っている。
 だからといって、ここがゲームの中だと誰が決めたのだろう。


 最終警告!
 本当に二度と帰ってくることはできません。


 最後の警告まで含めて、あの設定のすべてが有効な世界。
 それはつまり、ただの現実だ。
 警告がいうところの異世界である。


 そう。
 俺は認めるべきなのだ。

 俺は気づいてしまった。俺が現実逃避していることに。

 何から現実逃避するのか。

 殺人。

 ここがゲームの中なら、俺はゲームキャラを倒しただけだ。
 ゲームの中でないとすると、俺はゲームキャラでない人を殺したことになる。

 だから、俺はここがゲームの中だと思いたいのだ。

 それは現実逃避であり、願望だ。
 希望的観測にすぎない。

 俺は認めるべきなのだ。
 ここが現実であると。

 殺人を犯してしまったと。
 人を殺してしまったと。

 斬ったときはただのゲームイベントだと思って必死だったが、デュランダルの手ごたえははっきりと手のひらに残っている。
 俺は人の命を奪った。

 しかし、ものは考えようだ。
 ここは盗賊が普通に村を襲うような世界である。
 このままログアウトできなければ、また誰かを殺すことになるだろう。
 おそらくそれは避けられない。

 避けられないのならば、ゲームだと思っているうちに済ませられてよかったのではないか。
 いざというときに腰が引けて、こちらがやられては目も当てられない。

 相手は盗賊。

 悩んだり、落ち込んだりすべきではない。
 やらなければやられる。
 その現実を受け入れるべきだ。

 俺は一つ深呼吸をして、覚悟を決める。

 ここは現実だ。
 そして、俺はこれからこの世界で生きていかねばならない。
 生きていくためには、これからも手を汚す必要があるだろう。それを恐れてはならない。
 できることは何でもすべきなのだ。


 そういえば、ここがあの設定の中だと思える理由がもう一つあった。
 キャラクター再設定、と念じてみる。

 脳裏に、キャラクター設定の画面が浮かんできた。
 カーソルもイメージで動かせるみたいだ。

 設定したボーナススキルのキャラクター再設定は有効らしい。
 やはりあの設定のすべてが適応されるのだろう。
 最後の警告まで含めて。

 ボーナスポイントが何故か1になっている。
 使い切ったはずだが、見落としたのだろうか。

 とりあえず、そのままキャラクター再設定を終了した。


 村長が置いていった服に着替えることにする。
 ブッカブカのシャツにブッカブカのズボン。ともに藍色だが、ズボンの方が色が濃い。
 ごわごわしてあまりよい着心地ではないが、着れないほどではない。ありがたくいただくことにする。 


加賀道夫 男 17歳
村人Lv2 盗賊Lv2
装備 サンダルブーツ 決意の指輪


 装備品には当たらないようだ。
 装備にデュランダルが入ってないのは、腰から抜いて横に立てかけてあるせいだろう。

 そういえば、ボーナス装備ははずした方がいいか。

 デュランダルは確かにすごい剣だ。すごすぎる剣だ。盗賊との戦いで実感した。
 それだけに、狙われやすい。

 ゲームの中ならば、盗まれないだろう。
 しかし、ゲームの中でないなら、そんな制約はない。

 俺は今、サンダルブーツをはいている。これは誰かのものだったはずだ。
 誰かのものであったサンダルブーツを俺のものにできるのなら、俺のデュランダルも誰かのものにできるのではないだろうか。

 これは二つの意味で危険だ。

 一つは、デュランダルを奪われたとき、ボーナスポイントの63ポイントが失われる可能性があること。
 ボーナスポイントは、俺がこの世界で生きていくための数少ない味方だ。
 いや、今はただ一つの味方といっていい(99ポイントあるが)。
 それを失うわけにはいかない。

 もう一つは、デュランダルをさらおうとする者が、俺の命をも奪う危険性があることだ。

 この世界におけるデスペナルティーは何だろう。
 レベルが下がって教会で生き返るのだろうか。普通の死だろうか。

 いずれにしても、デュランダルは普段あまり持ち歩かない方がいい。
 どうしても必要になったら、再設定すればいいのだ。

 デュランダルを盗まれたときに消せるのかどうか。
 試しに、デュランダルを持たないままでキャラクター再設定と念じる。
 武器六はいじれなかった。
 指輪ははめているので、アクセサリー二ははずせる。
 やはり、デュランダルを奪われたとき、ボーナスポイントは失われるらしい。

 いったんキャラクター設定を終了させ、立てかけてあったデュランダルを持つ。
 頭の中でキャラクター再設定と念じた。

 武器六をはずす。ボーナスポイントが67になった。

 ボーナスポイントは何に回すか。
 必要経験値十分の一と獲得経験値十倍を選ぶ。残りボーナスポイント35。
 必要経験値二十分の一を選んで、ボーナスポイント3。
 ジョブ設定とサードジョブ(ボーナスポイント2)を選んで、ボーナスポイント0だ。

 キャラクター設定を終了する。
 持っていたデュランダルが消えた。

 ジョブ設定、と念じてみる。

 頭の中に俺のジョブが浮かんだ。
 村人Lv2 盗賊Lv2 英雄Lv1。

 キャラクター再設定でサードジョブを選択したせいか、一つ増えている。
 英雄Lv1を選ぶと、情報が浮かんできた。


英雄 Lv1
効果 HP中上昇 MP中上昇 腕力中上昇 体力中上昇
   知力中上昇 精神中上昇 器用中上昇 敏捷中上昇
スキル オーバーホエルミング


 最初から持っていたのだろうか。
 それはないか。
 サンダルブーツを盗んだときに盗賊ジョブを獲得したのなら、英雄ジョブを得たのはその後だ。
 盗賊たちから村を守ったことで、このジョブを獲得したのだろう。

 ファーストジョブを英雄に変えようとしたが、できなかった。
 ファーストジョブとしては村人か盗賊しか選べない。何故だ。

 村人の効果は体力微上昇らしい。スキルなし。しょぼ。

 しょうがないので、セカンドジョブを英雄Lv1に設定する。
 英雄の効果はかなりすごい。少なくとも村人とは比べ物にならない。

 サードジョブを盗賊Lv2にした。
 盗賊の効果は敏捷小上昇だ。こっちもスキルはない。
 村人よりはマシ、というところだろうか。

 ジョブ設定を終え、ステータスを確認する。


加賀道夫 男 17歳
村人Lv2 英雄Lv1 盗賊Lv2
装備 サンダルブーツ
投稿して一日で思ってもみなかったほど多くのかたがたに読んでいただき、またお気に入りに登録していただきました。厚く御礼申し上げます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ