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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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身請け


 盗賊を四人倒した。
 レベル的にも、町を追い出された後で壊滅せずに残っていたことから考えても、それなりの懸賞金を期待していいのではないだろうか。

 こんな場所に長居はしたくないので、必要な作業を行う。
 まず、盗賊の衣服を裂いて風呂敷を作った。
 左手首を切り取って四本収める。

 盗賊を倒すときに放ったファイヤーウォールが運よくベッドの板に燃え移っていた。
 炎が岩穴の中を照らしている。

 ファイヤーボールを浴びせたときに盗賊が大声を上げたが、誰も岩穴には入ってきていない。
 近くに仲間がいるというわけではないようだ。
 それでも、せっかく倒した獲物を誰かに横取りされるのはまっぴらだし、インテリジェンスカードが出てくるまでここで三十分待つのもごめんこうむりたい。
 だから手首を持っていくしかない。

 銅の剣も四本集める。
 皮の鎧などの防具やその他金になりそうなものは何もなかった。
 持っていないのか、どこかよそに隠しているのか。

 宝物庫が他にある可能性があるが、今となっては調べようがない。
 四人全員の口をふさいでしまったのは失敗だったかもしれない。
 まあしょうがない。あまり他にやりようもなかった。
 盗賊にブラヒム語がしゃべれたかどうかも分からないし。

 剣だけでも身近に置いておいたのは、さすがは抗争中の盗賊と評価すべきか。
 今回は役に立たなかったとはいえ。

 必要なものを集めて岩穴を後にする。
 まずは川の近くにワープして外套を洗った。血を落とすには早い方がいい。
 星明りと勘だけが頼りだが、多分そんなに返り血は浴びていないだろう。
 手と顔も一応洗ったが、外套以外にはほとんど血はついていないと思う。

 外套を木の枝に干した後は、迷宮に移動して時間をつぶす。
 感情が高ぶっていたせいで、まともな探索にはならなかったが。

 自ら積極的に動いて人を殺すというのは、思った以上に衝撃が大きいようだ。
 落ち着こうとしても、冷静に迷宮を探索することはできなかった。
 魔物は向こうから現れるので狩にはなったが、こんな精神状態であまり戦うべきではないだろう。

 早々に切り上げる。
 適当に時間を見計らってインテリジェンスカードを回収し、必要のなくなった手首を森へ捨てに行った。
 その後、外套を持って宿に帰る。

 部屋に入り、ぬるくなった水で体を拭いた。
 ベッドで横になり、シミターを抱き枕にして目を閉じる。
 気持ちは高ぶっていたが、やがて眠りに落ちた。

 目が覚めたのは完全に日が昇ってからだ。
 盗賊の隠れ家に行く前の睡眠時間はやはり短かったらしい。
 思ったよりもよく寝た。
 盗賊を退治したことで精神は高ぶっていたが、それよりも安心したことの方が大きかったのだろう。

 報復の危険は除去したし、ロクサーヌを手に入れるめども立った。
 懸賞金がいくらになるか分からないので決まったわけではないが、一応できることはすべてやった。
 これでお金が足りなりなければ、それはもうしょうがないだろう。

 インテリジェンスカードの換金をどこで行うか。
 それを考えながら、ベッドの中でまどろむ。

 具体的には、ベイルの町の騎士団詰め所で行うのがいいか、他の町へ持ち込むのがいいか。
 十日前にもベイルの町で換金しているのだから、連続で持ち込めば目をつけられる可能性がある。

 ここの騎士団はスラムの盗賊と繋がりがあるらしい。
 そして、盗賊は新しい賞金稼ぎの登場を歓迎したりはしないだろう。
 たとえ自分たちに敵対する盗賊を殲滅したのだとしても。

 他の町で換金すれば目をつけられる可能性は減らせる。
 しかし、今度はきちんと換金できるかどうかが分からない。

 懸賞金がどのようなシステムになっているか、俺は知らない。
 普通に考えれば、かつてこの町にいた盗賊に賞金を懸けるのは、この町の人たち、この町の騎士団ではないだろうか。
 他の町では、懸賞金が下がる可能性、あるいは出ない可能性があるかもしれない。
 問い合わせを行うために即日では賞金が下りない可能性もあるだろう。
 ロクサーヌを入手する約束の期限は今日までなのだから、それは困る。

 また、盗賊を倒したときの状況を聞かれるおそれもある。
 前に換金したときには何も聞かれなかったが、多分村の商人が何か説明したのだろう。
 いつもベイルの町に来ている商人と騎士団員とは顔見知りだった可能性もある。
 商人に信用があったこと、村ぐるみで嘘をつく可能性は小さいこと、町を追い出された盗賊が近くの村を襲う可能性は十分に考えられること、から、簡単な説明でも受け入れたのではないだろうか。

 あるいは、騎士団から村へ予め警告があったとも考えられなくはない。
 襲撃の後、村から騎士団へ誰かが報告に走った可能性もある。

 今回はどの程度事情を訊かれるだろうか。
 他の町にインテリジェンスカードを持ち込んであれこれ事情聴取されたら、かえって面倒なことになりかねない。
 現場検証したいのでどこで盗賊を倒したか教えてくれと言われたら、ベイルの町の近場であることに不信感をもたれるだろう。
 何故ベイルの町の騎士団に持ち込まないのかと。

 そうした可能性を考えると、ベイルの町の騎士団で換金するのが妥当だ。
 村を襲った盗賊の仲間が逆恨みして返り討ちにあったと解釈してくれる可能性もある。
 目をつけられかねない可能性については、この際多少はしょうがないだろう。


 朝食を取った後、宿を出て向かいの建物に赴く。
 中をうかがうが、顔見知りの見習い騎士や美人騎士はいないようだ。

 さてどうするか。
 目をつけられないように、という点では、顔見知りがいない方が有利だ。
 しかし、事情を知っている人の方が話が通じやすいかもしれない。
 もし仮に騎士団とスラムの盗賊が繋がっているとして、俺のことが盗賊ハンターとして伝わる可能性があるならば、俺の顔を知っている人間は少ない方がいいだろう。

 せっかく市が立っている日だ。
 市をぶらつきながら、時間をつぶす。
 銅の剣も四本うっぱらった。
 ロクサーヌがいれば必要になるかもしれないが、そのときはそのときだ。

 騎士団の詰め所要員は昼に交代があったらしい。
 日が高くなったころに行くと、詰め所の入り口近くに見習い騎士がいるのを発見した。

「よう。がんばってるようだな」
「あ、ども」

 見習い騎士に声をかける。
 見習いというのはこっちが勝手に思っているだけだが。
 騎士Lv5。この間は確かLv4だったので、レベルが上がっている。

「ちょっといいか」
「はい」
「実は昨晩、変なやつに絡まれてな。盗賊のようだ」

 盗賊たちのインテリジェンスカードを取り出し、見習い騎士に渡した。

「盗賊ですか?」
「まあもちろん返り討ちだがな」

 胸を張る。
 大物感を出してごまかす作戦。
 別名、たまたまよたまたま、べ、別にこっちからしかけたわけじゃないんだからね、作戦だ。

 見習い騎士が愛想笑いを返してきたので、成功だろう。
 成功だとしておきたい。
 成功だと言って。
 あきれられただけかもしれない。

「一応、あなたのインテリジェンスカードを見せてもらえますか」
「うむ」

 左腕を見習い騎士の前に差し出した。
 騎士は、俺のインテリジェンスカードを確認すると、では調べてきますと言って、詰め所に引き込む。

 詮索されなかったので、作戦成功だ。
 たとえ変なやつだと思われて避けられたのだとしても、作戦成功には変わりないだろう。

 やがて、小袋を持って見習い騎士が出てきた。
 今回は美人騎士はスルーらしい。

「確認できました。盗賊四名、ソマーラの村を襲った盗賊の仲間です。そのために狙われたのかもしれませんね」
「物騒だな」

 向こうからそう解釈してくれるならありがたい。

「連中の仲間はもう残っていないでしょう。あまり危険はないと思いますよ」

 賞金の小袋を渡してきたので、受け取ってさっさと立ち去る。
 盗賊の遺体をどうしたとか、詳しい事情聴取もいらないようだ。
 前のときもそうだったし、町で殺されていた盗賊の扱いもぞんざいだった。
 この世界の盗賊とはそんなものなのかもしれない。

 案ずるより産むがやすし。
 思った以上に巧くいった。

 素早く物陰に移動して小袋を覗く。
 銀貨がたくさんと金貨も何枚か。
 金貨が五枚以上あるのを確認して、胸をなでおろした。

 すでに金貨三十三枚と銀貨四百枚以上は持っている。
 これでロクサーヌを手に入れる資金はそろった。

 通りに戻り、悠々と奴隷商の館へ向かう。
 この十日間は長かった。
 それもあと一歩で終わる。

 思わずにやけそうになるのをこらえた。
 まだ最後の詰めが残っている。
 全部終わるまで安心してはいけない。
 奴隷商人が詐欺を働くとか、可能性がないわけではない。

「ミチオという。主人のアラン殿に取り次ぎ願いたい」

 奴隷商の館に着き、出てきた男に告げた。
 男は一度立ち去り、戻ってくると俺を中に入れる。

「こちらでお待ちください」

 入り口横の部屋に通された。
 絨毯の敷かれた待合室で、デュランダルを出す。
 一応の用心だ。

 俺が四十二万ナール以上の現金を持っていることは奴隷商人にも分かっているから、ことさらデュランダルに目をつけられることはないだろう。
 むしろ、今後の利益をちらつかせるためにも、豪華な装備品を見せつけることに意味があるかもしれない。
 デュランダルが豪華に見えるかどうかは分からないが。
 今後とも上客になりそうだと思えば、変なことはしてこないだろう。
 そう考えると皮の鎧は微妙すぎるか。

「ミチオ様、お待ちしておりました」
「うむ」

 奴隷商人はすぐにやってきた。

「資金の方は、ご用意できましたか」
「まあなんとかな」
「それでは、こちらの部屋にお越しください」
「分かった」

 過去二回通された部屋に案内される。

「やはり私が見込んだとおりでございました」
「どうだかな」

 奴隷商人が言うほどには、迷宮では稼げなかった。
 むしろ、奴隷商人の見込みははずれたのではないだろうか。
 ソファーに座ると、ロクサーヌではない使用人がやってきて、ハーブティーを置く。

「どうぞ、お飲みください」

 使用人が去ると、奴隷商人が勧めてきた。
 形だけカップを口につけ、飲んだ振りをする。
 奴隷商人が何かたくらんでいるとすれば、飲み物に毒を混ぜるのが手っ取り早いだろう。
 飲むことはない。

 懸賞金の小袋を出して、中を確認した。
 懸賞金は十万と何千ナールか。前回の方が多かった。

 懸賞金の小袋から金貨十枚を出す。
 そして、リュックサックから巾着袋を取り出した。
 予め銀貨四百二十八枚を別にしてある。

「銀貨が多くて悪いが」
「もちろんかまいません」

 横を向いてアイテムボックスオープンと小声で唱え、アイテムボックスから金貨二十八枚も出した。
 これで四十二万二千八百ナールだ。

「確認してくれ」

 銀貨が四百枚もあると、数えるのも大変だ。
 嫌がらせに近い。

「ありがとうございます。確かに受け取りました。すぐに連れてまいりますので、しばらくお待ちください」

 奴隷商人は硬貨の数を確認すると、皿に載せ、全部持って出て行った。

 ハーブティーも飲まずに待っていると、やがて帰ってくる。
 ロクサーヌも一緒だった。

 奴隷商人の後ろに隠れるように立っている。
 萌黄色のチュニックに同系色のズボンを着用していた。

 顔は、やはり美人だ。
 会わない間に思いが募ってかなり美化してしまっているのではないかと疑ったが、そんなことは全然なかった。
 むしろ現物の方が記憶の中より綺麗かもしれない。

「ありがとうございます」

 ロクサーヌが俺を見て頭を下げる。
 イヌミミが揺れた。
 あの耳は可愛い。

 まあ、礼を言われるようなことをしたかどうかは疑問だが。

「よろしくな」
「はい。よろしくお願いします」
「それでは、契約を行いますので、インテリジェンスカードを確認させていただきますか」

 奴隷商人が部屋の中に入ってきて告げる。

「うむ」
「はい」

 左手を伸ばした。
 ロクサーヌも横に来て腕を出す。

 奴隷商人が呪文を唱えると、インテリジェンスカードが飛び出してきた。
 その後も奴隷商人はなにやらブツブツと唱えている。

「これで契約が終了しました。インテリジェンスカードをご確認ください」


加賀道夫 男 17歳 探索者 自由民
所有奴隷 ロクサーヌ


 促されて見てみると、インテリジェンスカードが書き換わっていた。
 奴隷商人は詐欺師ではなかったということだろう。
 表示をごまかせるような魔法でもあれば、まだ分からないが。

 ジョブは探索者になっている。
 やはりファーストジョブが表示されるようだ。

「えっと、はい」

 少し安心して息をはいた俺の前に、ロクサーヌが手を伸ばしてきた。


ロクサーヌ ♀ 16歳 獣戦士 奴隷
所有者 加賀道夫


「なるほど。確かに契約がなされたようだ」

 ロクサーヌのインテリジェンスカードも同様になっている。
 見せてもらったので、俺も一応ロクサーヌの前に腕を出した。

「あの……よろしいのですか?」

 ロクサーヌが美しい瞳で俺の方をうかがうように覗いてくる。
 インテリジェンスカードは奴隷に見せるものではなかったらしい。

「まあ見られて困るものでもないだろうし」
「はい」

 ロクサーヌが俺のインテリジェンスカードを読んだ。

「これでミチオ様は所有者になりました。所有者には、奴隷に住まいと食事を与え、また税金を支払う義務がございます。これらの義務を放棄したり、奴隷を著しく不当に扱った場合、契約が破棄されることもあります。遺言の作成、変更も奴隷商人の仕事になります。その際にも是非当館をご利用ください」

 ロクサーヌにカードを見せている間、奴隷商人が淡々と説明してくる。
 通り一遍の通常業務という感じだ。
 決まりきった定型文なんだろうか。
 アメリカの刑事ドラマにおけるミランダ警告みたいなものか。おまえには黙秘権がある、ってやつ。

 著しく不当な扱いというのが具体的にどんなものなのか訊いてみたいが、ロクサーヌの前で尋ねることではないだろう。
 限界にチャレンジしたい、と俺が考えているように捉えられても困る。

 遺言というのは、おそらく所有者が死んだときに奴隷をどうするか決めておくやつだ。
 税金の話は聞いていない。

「税金とは?」
「人頭税です。奴隷には支払う義務はありません。その分は所有者が支払うことになります」

 まあ、この世界にも当然税金はあるのだろう。
 初めて聞いたが。

「税金については知っているか」
「は、はい。……一応のことは」

 ロクサーヌに訊くと、知っているとの回答が返ってきた。
 ロクサーヌが知っているなら、後で話を聞けばいいだろう。

「分かった」

 俺は奴隷商人に対してうなづいた。
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