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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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デリバリー

「それはそうだが」

 俺たちだけで偵察してくるというと、公爵は渋い表情になった。
 ゴスラーに決行日を教えず味方に引き込む次期伯爵にも何も伝えないほど徹底して情報漏洩に気を使っているのに、俺たちだけ好き勝手にさせるわけにもいかないのだろう。
 ただし、俺が裏切るなら冒険者を連れてエンブレムのところへ行くときに他へ飛べばいいだけの話だ。
 こればかりは冒険者でない公爵にはどうにもできない。

「俺たちが帰ってきたらすぐにそのまま作戦決行でいいし、帰ってこなければ失敗とみなして作戦を中止してもいい」
「危険では」
「元より危険性は変わらない。俺たちだけで行けば、失敗したときに騎士団の冒険者を失わずにすむ」

 公爵に利点を説明する。

「ミチオ殿を使い捨てるつもりはない」
「分かっている」
「見張りがいる可能性もある」
「俺たちでなんとかできるならしてくるし、帰ってまた行くだけならたいして手間もかからない。見つかったところでセルマー伯側に迎撃の準備を整える時間はないだろう」

 二往復のところを三往復することにはなるが。
 それなりに時間は食うか。
 そこは勢いでごまかすしかない。

「見張りに見つかっていれば、エンブレムが撤去されてしまう」

 俺が考えてもいなかった問題点を公爵が指摘した。
 ワープで行くから、俺は垂れ幕に出るつもりはない。
 公爵はそれを知らないから、エンブレムに出ると思っているだろう。
 見張りがいて、ハルツ公のエンブレムから誰かが出て帰っていくのを見れば、真っ先に幕を取り外すはずだ。

「それなら俺だけが帰ってくればいい」
「大丈夫です。一度偵察に行けるなら、私も安全です」

 ロクサーヌ、ナイス援護射撃。

「行って帰ってくるだけだから裏切って何かをするような時間はないし、裏切って俺たちが帰ってこなければ作戦をやめるだけだ」

 俺が裏切る可能性も考えているだろうから、それもつぶす。

「そうだな。ではこちらからも人を出そう。向こうがどうなっているか分からん。何かあったときのためだ」

 公爵も事前偵察に傾いてくれたらしい。
 しかし重要なのは俺たちだけで行くことだ。
 誰かがいたのではワープを使えない。

「何かあるといけないなら俺たち全員で行く。そうなると枠は少ない。ならば俺たちだけで偵察してきた方がいいだろう。俺たちだけの方が連携を取りやすい。人が増えるとは何かあったときに犠牲も増えるということだ。公爵から預かった人材を気にして俺たちがうまく立ち回れなくなっては本末転倒だろう」
「そうか。うーん。分かった。ミチオ殿たちだけで偵察を認めよう」

 公爵から許可が下りる。
 よかった。
 これでかなり安全に進められるだろう。
 一度決断すると、公爵はそれ以上は何も注文をつけずに立ち去った。

 俺たちだけになったので装備品をロクサーヌたちに渡す。
 アイテムボックスにはロクサーヌたちの装備品も入っている。
 こんなこともあろうかと。

 なるわけがない。
 アイテムボックスにはジャケットやプレートメイルは入っていなかった。
 迷宮を出てロクサーヌたちが手入れをした後、部屋においてある。
 こんなことになるとは思ってもみなかった。

 剣と帽子は入っているが、他の装備品は少ない。
 胴装備としてはアルバだけが入っている。
 魔法使い用の装備品なので俺が着るわけにはいかない。

 ロクサーヌは巫女だからこれでもいいか。
 あるいは騎士団の装備品を借りるか。
 まあロクサーヌたちの胴装備はなしでいいだろう。

 公爵は危険を考えているが、俺は何の心配もしていない。
 エンブレムに直接出るのではないからなおさらだ。
 見張りにすら見つからない可能性があるのではないか。

 この部屋みたいに大勢の人がいてかがり火でもたいているなら確実に発見されるだろうが、たくさん人がいるとは考えにくい。
 決行日が分かっていればともかく、毎晩待機させられるほど人材に余裕があるなら迷宮に入れとけよという例の話になる。

 薄暗い隅っこに人が出ても、エンブレムにしか注意が行ってないだろうし、見逃す公算は大きい。
 見張りがいても中にいるのではなく入り口から中を見ているだろうから、俺はその逆をついて入り口側の壁にワープすればいい。
 帰ったときに何と報告するかが問題になるが、見張りがいたがよそ見をしており気づかなかったようだと伝えればすむ。

 エンブレムに剣を向けてあるなどの罠が仕掛けてあったときは蹴倒して帰ってくる。
 罠と見張りがセットになっていた場合が問題だが、そのときは見張りの口を塞ぐしかあるまい。
 罠を仕掛けるのは見張りを置く代わりだろうから、セットになっている可能性はあまりないはずだ。

 問題は、エンブレムが撤去されていた場合か。
 ワープでは飛べているのにフィールドウォークでは飛べないという恐ろしい事態になってしまう。
 一度めは行けているのだから、二度めは飛べませんとは言えない。
 なんと言ってごまかすか。

 そのまま立ち去って公爵たちとは二度と会わないというのが一つの手だ。
 うまくすれば、俺たちが倒されたものと解釈してくれるだろう。
 セルマー伯爵側の証言とは食い違うことになるが。

 どうせ食い違うなら、見張りに見つかってほうほうの体で逃げ帰ったことにした方がいいか。
 その後でエンブレムが取り外されたことにすれば何の問題もない。
 証言が異なるのをどうごまかすか。

 人が来ることもあるから、友好と信頼の証のエンブレムを昼間はおそらく撤去していないだろう。
 取り外しているとすれば、人のいない夜間だけということになる。
 今日だけ忘れていたという可能性は十分にありうる。
 担当者がそれをごまかすために嘘をついていると言い張れば、証言の食い違いは許容範囲に留まるはずだ。

 エンブレムが撤去されており、かつ見張りのいた場合は、無事に解決する。
 見張りを倒してしまえば証言の取りようがない。
 後は野となれ山となれ。
 垂れ幕を撤去した後に事切れたものとしておけばいい。

 つまり、エンブレムが撤去されていて見張りがいなかった場合はそこらにいる人を誰か捕まえて見張りに仕立て上げるよりほかあるまい。
 さっきから俺の思考が真っ黒だな。
 仕方がない。
 他に抜け道はないように思われる。

 軍事行動に手を貸すというのは、そういうことだ。
 公爵やカシアやロクサーヌたちも、その点は分かってくれるだろう。
 悲しいけどこれ戦争なのよね。

「ロクサーヌたちはこれを」
「はい」

 武器と帽子はあるので全員に渡した。
 俺もデュランダルを用意する。

「これから行く部屋には垂れ幕が下がっている。そこがどうなっているかを見てほしい。誰か他に人がいても、可能なら逃げてくる。戦闘はなるべく避けるつもりだ。手を引いたら撤退の合図だと思ってくれ」

 周囲に人がいない隙を見てこっそりと指示も出した。
 他人が聞いたら、エンブレムの垂れ幕にフィールドウォークで飛ぶのにそこを確認しろというおかしな命令になってしまう。
 戦闘については、場合によってはこちらからしかけることもあるが、そのときは俺だけが動けばいい。
 見張りがいてもエンブレムだけを見ているなら、黙って帰ってくる予定だ。

「そろそろ必要な準備が整ったようだ。全員いいだろうか」

 やがて、装備を整えた公爵が部屋の一番奥に立った。

「よろしいようです」

 喧騒が静まると、公爵の横にいるゴスラーが促す。

「作戦内容については諸君らも理解していよう。この作戦は、全エルフ最高代表者会議の賛同を得た正当なものだ。必ずや正義の秤はこちらに傾く。怠慢と怯懦は、平和と繁栄にとって罪であり、許されるものではない。余らの戦いはそれを正すためにある。臆することはない。勇敢に戦い、気高き勝利を。未来はみなの双肩にかかっている。ハルツ公爵家とセルマー伯爵家に栄光あれ。諸君らの奮闘に期待する」
「オー!」

 周囲の騎士団員が声を張り上げた。
 公爵はこんなアジ演説もできるのか。
 意外といえば意外だが、さすがは公爵だ。

「では、まずは偵察に」

 俺たちも奥に進む。
 奥には大きな垂れ幕がかかっていた。
 フィールドウォークが使用できるだろう。

「ミチオ殿、注意して行かれよ。自分たちの安全をまず第一に考えて行動してほしい。どのような事態になろうとも責任はすべて余が持つ」
「はい」

 いろいろ注文をつけたいこともあるはずだが、ここで何も言われないのはありがたい。
 公爵の激励を受け、幕の前に立つ。
 部屋の中は作戦に従事する人がいっぱいいる。
 がやがやしているので、スキル呪文は適当でいいだろう。

 フィールドウォークの呪文を偽装しつつ、ワープと念じた。
 セルマー伯の居城へ飛ぶ。
 エンブレムのある謁見室だ。

 出たところは、真っ暗な部屋の中だった。
 ボーデの城と違い、真っ暗で、物音一つしていない。
 見張りの人がいないのはいいが、何も見えない。
 垂れ幕があるのかどうかさえ分からん。

「ここには誰もいないようですね」

 ロクサーヌが小声で報告してきた。
 誰かいればロクサーヌならにおいで分かるか。
 現代日本と違ってここには赤外線監視カメラも集音マイクもない。
 誰もいないなら俺たちのことがばれる心配はないだろう。

「たれまく、です」

 小さくミリアの声もした。
 ミリアには見えるらしい。

「垂れ幕におかしなところはないか?」
「ない、です」

 ハルツ公のエンブレムの入った垂れ幕かどうかまでは分からないが、そこまではしょうがない。
 大丈夫そうなので、俺は戻ることにする。
 デュランダルを消し、パーティーも解散した。
 ここでやっておけばパーティー編成の呪文が必要ない。

 この部屋には、罠も見張りもないらしい。
 セルマー伯は何も用心していないのだろう。
 杞憂だった。
 警備に力を入れる余裕があるなら迷宮に投入しとけということだよな。

「ミチオ殿」
「大丈夫そうです」

 ボーデに戻ると公爵が声をかけてくるので、安心させる。
 ほぼ同時に、パーティーへの参加要請が来た。
 手回しがいいな。

「そうか」
「では」

 今度はフィールドウォークの呪文を唱え、セルマー伯爵の居城にとんぼ返りする。
 パーティーメンバーの一人がカンテラを持っていた。
 部屋がぼんやりと明るくなるが、やはり誰もいない。

 ロクサーヌたちも無事だ。
 垂れ幕の近くではなく部屋の端にいるのが変といえば変だが。
 別にそこまで気にしないだろう。
 すぐにボーデの城に戻る。

「それでは、行ってまいります」
「期待している」
「おまかせください」

 帰ってくると、次期伯爵であるカシアの従兄弟が乗り込むところだった。
 入れ替わりにフィールドウォークで移動していく。
 正面から入ると言っていたからロビーに飛んだのだろう。
 擾乱を引き起こすのが彼の役目だ。

「ミチオ殿、次は余らを頼む」

 パーティーの冒険者がパーティーを解散させると、公爵が話しかけてきた。
 公爵たち五人が俺の前に並ぶ。

「はい」

 パーティー編成の呪文を唱え、五人を順次パーティーに入れた。
 五人も入れるとなると結構時間がかかる。
 その間に、他のパーティーがいくつか飛んでいった。
 探索者のいるパーティーだ。

 予め探索者が五人のパーティーを組んでおき、俺が連れ戻ってきた冒険者のうちの一人をパーティーメンバーに加えて、すぐに移動したのか。
 これなら準備にかかる時間は最小限ですむ。
 作戦計画は結構きっちりと考えられているらしい。

「向こうについたらパーティーを解散し、そのまま待機していてほしい。あるいは、パーティーメンバーをここに戻してもよい。彼女たちはこの部屋にいればいい」

 公爵が俺の次の行動を指示する。
 パーティーメンバーというのはロクサーヌたちのことだ。
 向こうにいさせる理由はない。
 セルマー伯側の反撃があれば向こうだと危険もある。

 パーティーを組んで、またしてもセルマー伯の居城に飛んだ。
 部屋は明るくなり、やや騒然としている。
 一回めに来たときの真っ暗な静謐さが嘘のようだ。

 パーティーを解散すると、公爵らは勢いよく部屋を出て行った。
 他のパーティーも順次に散開していっているみたいだ。
 部屋の外がどうなっているかまでは分からない。
 戦闘が行われているのかどうかも分からない。

 それでも、かなりの兵員を一気に送り込んだから、優位にはことが進んでいるだろう。
 圧倒的な機動力だしな。
 冒険者というのはたいしたものだ。
 この世界では、冒険者を多く抱える有力な騎士団が絶対的な力を持っているのだろう。

 公爵も出て行ったので、俺はロクサーヌたちとパーティーを組む。
 公爵側の軍勢は、すでに謁見室を出て行ったか、通り過ぎるだけだ。
 俺たちに注目するやつはいない。

 これ幸いと適当にパーティーを組んだ。
 呪文を唱えなくていいので早い。

「俺はまだ仕事があるが、ロクサーヌたちは向こうに戻って待機だ。今から戻る」

 選ばせれば、ロクサーヌのことだからここに残ると主張するだろう。
 だから有無を言わさず退避させる。
 ここより安全だ。

 ボーデの城に戻ると、部屋にカシアがいた。
 彼女も向こうに行くようだ。
 ドレスではなく戦闘用の装備に身を固めている。
 残念ながら俺ではなくて他の冒険者が割り当てられているらしい。

 カシアたちが向こうに飛んだ。
 俺もすぐにセルマー伯の居城に移る。
 何度めの移動だろう。
 四回めか。

 カシアたちは、ちょうど謁見室を出るところだった。
 外に出ようとして、立ち止まる。
 向こうから公爵が入ってきた。

「カシア、大丈夫だ。作戦は順調に推移しつつある。お。ミチオ殿もおられたか。ミチオ殿のおかげで、こちらにもセルマー側にも損害はほとんど出ていない」

 作戦は順調らしい。
 そういうときが一番危ないともいうが。
 それはいいだろう。

 公爵は一人の若い女性を後ろに連れていた。
 上品な雰囲気を醸し出した圧倒的な麗人。
 セルマー伯の居城にいた女性だろうか。

 カシアによく似た美人だ。
 カシアと同様、美人ぞろいのエルフの中でも飛び抜けて美しい。
 どことなくカシアより少し幼い感じがする。

「ルティナ」

 彼女を見て、カシアが声をあげた。
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