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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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皇帝

 
 ロッジからワープで家のリビングに出る。
 家に戻ると、ミリアがテーブルの上に釣り道具を広げていた。
 確認準備に怠りはないようだ。

「使えそうか?」
「はい、です」

 まあそんなに長い間放っておいたわけでもない。
 すぐに使えなくなるものでもないだろう。
 ロクサーヌはミリアの横でゆったりと座っているが、ベスタはいないので出かけたようだ。

「ベスタはもう出たか」
「はい。鍵も持たせています。昼前に家に帰ってくるか、もしくは冒険者ギルドで合流するように伝えました。それでよかったでしょうか」
「それでいい」

 パーティーは組んだままなので、待ち合わせは難しくない。
 パーティーメンバーのいる方向が分かるというのは大変便利だ。
 迷宮でパーティーが別れたとき一緒になれる機能なんだろうか。
 バラバラにされたことはないが、今後そういうことも起こりうるのだろうか。

 釣り道具は家に置いたまま、ロクサーヌ、ミリアと三人で迷宮に赴く。
 クーラタルの十七階層だ。
 ロクサーヌ、セリー、ミリアの三人で前衛を務めていたこともあったのだし、問題はないだろう。

「それではボス部屋まで行きますね」
「魔物の数が多いところはなるべく避けてくれ。ボス戦に集中した方がいいだろう」

 道中の魔物を避けるように指示を出してから、理由もつけたした。
 かえって白々しくなっただろうか。
 怯懦の虫に取りつかれていることがバレバレだ。

「分かりました」

 ロクサーヌはスルーしてくれるらしい。
 先頭に立って案内する。

 三人で五匹の魔物を相手にしても十七階層なら問題なく勝てるだろうが、多分何発か攻撃は受ける。
 主に俺が。
 魔物の数の多いところは避けるべきだろう。

 そもそも、階層の魔物は避けてボス狩りに行くとか。
 世も末だな。

 途中、数の少ない魔物を蹴散らしながら進んだ。
 三匹までなら問題ない。
 ボス戦は繰り返す予定だから、数の多い団体があったら掃除しておかないと次の周回でまた出会うだけのような気もするが。

 ちなみに、ミリアが石化させた魔物はいつもとは逆に魔法で始末している。
 今回はデュランダルメインで戦っているので、特にMPを回復する必要はない。
 その分、魔道士と遊び人ははずした。
 ファーストジョブ用に残した魔法使いの初級魔法でちまちまと倒してく。

 入会式に出るときはファーストジョブを冒険者に変更する予定だ。
 インテリジェンスカードのチェックをされてもいいように。

 ブラックダイヤツナは、石化しなかったのでデュランダルで倒した。
 ボス戦でいつも使っている状態異常耐性ダウンはやはり偉大なのか。
 状態異常耐性ダウンを使わなかったせいか、ボスは倒しきるまで石化しなかった。
 マグロの正面に立ちはだかり攻撃を苦もなくかわし続けるロクサーヌを横目に見ながら、もう一匹を片づけ、ボスはミリアと一緒に斜め後ろから攻撃する。

 鍛錬とは何だったのか。
 ボスが相手なのにロクサーヌには練習にもならない。
 ストレス発散くらいにしかなっていない気がする。
 そのくらいでなければ休みの日にわざわざ来たりしないのだろう。

 最初のボスは赤身を残した。
 ドロップアイテムのために、料理人をつけたというのに。
 ぎりぎりのボスではないし博徒までは必要ない。

「赤身、です」

 赤身でもミリアは嬉しそうだ。
 ブラヒム語までばっちり覚えたのか。

「今日の夕食は魚三昧だろう。赤身を使って俺も一品作ろう。魚三昧になるかどうかは、釣果次第だが」
「ご主人様の作る料理は美味しいので楽しみです」
「釣る、です」

 赤身をアイテムボックスに入れて二周めに挑む。
 二匹めのボスはミリアが石化させた。
 状態異常耐性ダウンがなくてもボスもちゃんと石化するようだ。
 残したのは赤身だったが。

 三匹めのボスは石化もせずトロも残さず。
 四匹めのボスが、石化はしなかったがトロを残した。
 ボスは石化しにくいようだ。

「トロは明後日の夕食ということでどうだ」
「あさって、です」

 提案にミリアも納得してくれる。
 今日も魚だしな。
 明後日で文句はないだろう。

 迷宮には結局、トロを四つ確保するまで滞在した。
 魚食材は一回の料理で二つずつ使っているから、二回分だ。
 明後日の分ともう一回分もあれば十分だろう。
 アイテムボックスに入れておけば腐らないとはいえ。

「ちょっと早いかもしれないが、このくらいまでにしておくか」
「分かりました」
「はい、です」

 ミリアも不満はなさそうか。
 この後は釣りだしな。

「ロクサーヌたちはどうする? すぐ帝都に行ってそこで別れてもいいし、一度ミリアを釣り場まで送ってから帝都に行くときに一緒でもいい」

 帝都には、釣具屋に行くときとミリアを釣り場に送った後でロッジに行くときとで二回訪れることになる。
 どのタイミングでロクサーヌとベスタを帝都に送るべきか。

「釣り場まで一緒に行きます。荷物もあるでしょうし」
「荷物は俺とミリアでなんとかなるだろう。な?」
「なる、です」

 ミリアを見ると回答が返ってくる。

「よろしいのですか?」
「大丈夫だ」
「ではお言葉に甘えさせていただきます。ベスタも家の方に戻っているみたいなので、すぐ帝都に行きます」
「分かった」

 クーラタルの迷宮十七階層のボス部屋を出たところにある小部屋から家にワープした。

「お帰りなさいませ」

 家では帰っていたベスタが迎えてくれる。

「ただいま」
「大丈夫でしたか?」
「休みの日に危険なことはしたくないからな。それより、すぐに帝都に行けるか?」
「はい」

 ベスタを加えて、四人で帝都に移動した。
 場所は図書館の内壁だ。
 釣具屋へはここが近い。

「向こうへ行くと冒険者ギルドがある。繁華街は冒険者ギルドのある方だから、帰るときは冒険者ギルドで待ち合わせよう」

 図書館の外に出てから、腕を伸ばして場所を指示する。
 釣具屋とは反対側だ。

 セリーがいるのは釣具屋の方向。
 図書館から向こうの上品な地区だ。
 帝国解放会のロッジは帝宮の方にあるらしい。
 いい場所にありやがる。

「分かりました」
「よい休日をな」
「ありがとうございます。では、行ってまいります」
「いってきます」

 ロクサーヌとベスタを送り出した。
 別れた後、ミリアと二人で釣具屋に入る。
 ミリアは、ロクサーヌほど買い物に時間はかけず釣り針だけを買った。

 この後の釣りが楽しみなようだ。
 いや。店員と釣り道具談義をしようにも通訳のロクサーヌがいないからかもしれない。
 ブラヒム語は結構話せるようになってきているが、専門分野はまた勝手が違うだろう。
 専門用語だとロクサーヌが訳せるかどうか問題だが。

 釣り針をいくつか買ったのは、大きさの異なる針で違う魚を狙ってみるのか。
 予備ということもあるのかもしれない。
 壊れたり根がかりしたりするだろうし。

「こちらの針は一個二十ナール、こちらにあるのが三十ナールになります」
「これでいいか?」
「はい、です」

 ミリアからいったん針を受け取って、俺が店員に差し出す。

「二十ナールの針が四個に三十ナールの針が二個ですね。先日お勧めのセットを購入していただいたお客様ですから、今回は特別サービスで九十八ナールで結構です」

 ミリアだけ買い物が三割引だが、食べる魚を買い取らなければいけない分と相殺ということでいいだろう。
 ミリアが取り出した銀貨一枚を払い、つりの銅貨二枚をミリアに戻した。
 釣り針の値段は、高いような気もするが、一般的なものではなく貴族の趣味らしいのでこんなものかもしれない。

 釣具屋を出て図書館から家に戻り、釣り道具を持ってハーフェンの磯にワープする。
 ハーフェンは北にあるのでクーラタルより少し暑くなさそうか。
 海に入れない温度ではないが、ロクサーヌも注意したみたいだし入らないだろう。

「では迎えに来るまでこの辺りでな」
「はい、です」

 あまり移動しないようには伝えて、帝都のロッジに移動した。
 ロッジのロビーに出る。
 ロビーでは、長い廊下の端の方に人が集まっていた。
 何かあったのだろうか。

 その中からセバスチャンが出てきて俺を迎える。

「お待ちしておりました、ミチオ様。エステル様は、すでに見えられましたが、現在所用ではずしております」
「そうか」
「すぐに戻られると思います」
「あれは何で集まってるんだ?」

 人が集まっているところを目線で示し、質問した。
 今朝ほどはセバスチャンの後ろにいた人も人波の中にいる。
 職員の朝礼、時間的に昼礼みたいなものだろうか。
 セリーはいないが、セリーを資料室に連れて行った女性はいる。

「ミチオ様もいかがでしょう。エステル様もまもなくあそこからまいられると思います」

 俺も参加させられた。
 セバスチャンに連れられて人が集まっている方に向かう。

「おなりになられました」

 途中で誰かから声がかかった。
 セバスチャンが走り出す。
 あっという間に集まっている人の先頭に立った。

 誰か来るのだろう。
 廊下の向こう側の扉がゆっくりと開いていく。
 そういえば職員の通用口があるとか言っていたな。
 会員は使えないという話だったが、エステルもそこから来るのだろうか。

 扉は、観音開きになっていて、ロッジの外側に向かって両側に徐々に動いた。
 日本式の玄関だ。
 この世界の玄関は、何故か全部内側に向かって開くようになっている。
 クーラタルにある我が家もそうだ。

 外に向かって開く日本タイプの玄関は珍しい。
 初めて見た。

 扉が開いていくと、セバスチャン以下全員がそろって頭を下げる。
 あ。
 出遅れた。

 まあ、職員の専用口だからいいだろう。
 総書記のセバスチャンより偉い人でも来るのだろうか。
 帝国解放会主席とか。
 それはやばそうな雰囲気。

 扉の向こうにもズラリと人が並んでいた。
 やはり偉い人なのか。
 扉の近くに、エステル男爵とハルツ公爵もいる。

 扉のこっち側で頭を下げていないのは俺だけだ。
 まずいだろうか。
 しかしいまさら変換できない。
 雰囲気だけに。

 人ごみの中からエステル男爵とハルツ公爵の二人がこちらにやってきた。
 なんだ。来るのはこの二人か。
 驚かせやがって。

「セバスチャン、委細問題ないな」
「はい、エステル様」
「では」

 エステルがセバスチャンと言葉をかわし、扉の前で立ち止まる。
 ハルツ公爵と二手に別れて扉の両側に進み、振り返ると中央に向かって頭を下げた。
 二人が頭を下げると、向こう側の人波から三人の男が出てくる。

 先頭に立っているのは頭の薄いいかついおっさんだが、まあこれはいい。
 一応伯爵らしいが、公爵までが頭を下げる相手ではないだろう。
 そのおっさんの後ろに、もう一人いた。


皇帝ガイウス・プリンセプス・アンインペラ 男 39歳
冒険者Lv41
装備 オリハルコンの剣 聖銀のメッシュウェア 身代わりのミサンガ


 皇帝だそうです。
 偉い人です。
 公爵も頭を下げます。

 俺はどうすればいいのだろうか。
 皇帝ということは鑑定で分かっただけだから、あわてて頭を下げるのは違うような気がする。
 かといって突っ立ったままでいいのか。

 空気読めばよかった。
 空気読め。
 俺は後ろのほうにいるので大丈夫、だと思いたい。

 三人がロッジの中に入ると、エステル男爵とハルツ公爵も続いて中に入り、扉が閉められる。
 セバスチャンが皇帝の前に進み出て迎えた。
 皇帝といっても着ているのはカジュアルっぽいチュニックだ。
 鑑定で出た聖銀のメッシュウェアというのは、服の下にでも着けているのだろう。

「ガイウス様。この場ではガイウス様で失礼させていただきます」
「苦しゅうない。解放会の決まりはよく理解しているつもりだ」
「わたくしめの代にてガイウス様のご入会を賜ること、歓喜に耐えません。まことに喜ばしい限りです」
「これからよろしく頼む」

 皇帝とセバスチャンが会話する。
 入会するということはまだ会員ではないということだ。
 確かに、現皇帝は会員じゃないというような話は聞いた。
 間違ってはいない。

 時と場所の指定まではしていない。
 そのことをどうか諸君らも思い出していただきたい。

「お。ミチオも来ていたか」

 エステル男爵が俺を見つけて話しかけてくる。
 文句の一つも言いたくなるが、それは飲み込んだ。

「……はい。ついさっき」
「ちょうどよかった。騒がせたかもしれんが不審がるな」
「はあ」

 不審には思っていない。
 皇帝だと分かっているので。

「会では世俗の役職など関係のないことだ」

 皇帝を紹介するつもりもないらしい。
 紹介されたところでどうするのかという話だが。
 皇帝だとは知らないふりをしておけばいいのだろうか。

「この者は?」

 しかし、俺とエステルが話しているのを見て、皇帝が割り込んできた。
 おかしい。
 絡んでくるなという空気が出ていなかっただろうか。
 空気読め。

「本日入会儀礼を行う予定のミチオです」
「ミチオです」

 さすがのエステル男爵も敬語だ。
 俺も空気を読んできちんと挨拶する。
 それほど深くはないが頭も下げた。

「ミチオか。朕のことはガイウスでいい」

 いやいや。
 一人称がおかしい。
 朕のことはガイウスでいいと言われても。
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