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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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流される

 
 騎士団員によって鏡が片づけられ、木剣が何本か用意された。
 ここでやるのか。
 確かに何もない広い部屋ではあるが。

 公爵はロクサーヌに試合をさせるためにこの部屋で俺たちを迎えたということだろうか。
 抜け目がない。
 初めからそのつもりだったんじゃねえか。

 ロクサーヌも腰のレイピアとネックレスをはずし、セリーに預けている。
 完全にやる気だ。

「無理して怪我などしないようにな」

 しょうがないので許可を出した。
 本人がやると言っている以上、止める理由がない。

「はい。ありがとうございます」

 ロクサーヌが木剣を選ぶ。
 片手剣だ。
 木の盾も騎士団の方で用意してくれた。

 盾を準備してくれるのはありがたい。
 アイテムボックスからロクサーヌの盾を出さないですむ。
 せっかくアイテムボックスを使わないようにしているのに、水の泡になるところだった。

 ロクサーヌと聖騎士が部屋の中央に向かった。
 距離をおいて向かい合う。

「では」

 聖騎士が一声合図をして駆け寄った。
 両手で持った木剣を振り下ろす。
 聖騎士の方は両手剣を使うらしい。
 ロクサーヌが剣を合わせて受け流した。

 間髪をいれずに次の一撃が飛んでくる。
 ロクサーヌはわずかに上半身をそらせてかわした。
 その後も聖騎士による怒とうの攻撃が続く。

 聖騎士が剣を振り回した。
 右から左へ、左から右へ、右上から左下へ。
 左上から右下に斬り下ろし、そのまま反転して右下からなで上げる。
 結構早く、それ以上に力強い攻撃だ。

 ロクサーヌはそのすべてを最小限の動きでかわした。
 かわす、かわす、空振りさせる。
 肩や腰、ときには足を使い、ミリ単位の正確さで剣の軌道からそれる。
 ロクサーヌも剣を突き出すが、聖騎士が弾いた。

 弾いた隙をついて聖騎士が大きく踏み込む。
 胴をなで斬りにした。
 ロクサーヌは測ったかのように同じだけ下がってかわす。
 聖騎士の剣が空を切った。

「それまで」

 公爵の声がかかる。
 ここまでか。
 俺は安堵の息を吐いた。

 試合時間はあまり長くなかったと思う。
 緊張で短く感じたのかもしれないが。
 聖騎士の攻撃を完璧にかわしきったから、ロクサーヌの実力は分かっただろう。
 とりあえず怪我がなくてよかった。

「ありがとうございました」
「ありがとうございました」

 二人が後ろに下がり、剣を収める。
 ロクサーヌはすぐにこちらにやってきた。

「ロクサーヌ、よくやったな」
「はい。ご主人様に恥をかかせずにすみました」

 別に負けてくれてもよかったのだが。
 公爵に目をつけられるくらいなら。

「やはり強かったな」
「は。届きませんでした」

 引き上げてきた聖騎士は公爵と話している。

「さすがでした。完璧に見切っていたようです。やはりこういうのは自分の目で見ませんと」

 ゴスラーが声をかけてきた。
 原因はおまえか。

「ミチオ殿、よいパーティーメンバーをお持ちだ」
「自慢のメンバーです」
「さすがはミチオ殿のパーティーメンバーということか」

 公爵が俺の方にやってくる。
 いよいよか。

「閣下、そろそろ」
「うむ。そろそろ食事の準備も整うころだろう。参られよ」

 何か言われるかと思ったが、ゴスラーが声をかけると、公爵も同意し、先に部屋を出ていった。
 ロクサーヌがほしいとか言い出さないようだ。
 よかった。
 これもゴスラーのおかげだろうか。

 俺たちも公爵の後に続く。
 廊下を進み、公爵が扉を開けさせると、ホールのような広い部屋が現れた。
 部屋の真ん中にでかいテーブルが置かれている。
 テーブルの上にはいくつもの料理がところせましと並んでいた。

 部屋に入ってすぐのところに、カシアとその両脇に二人の女性が控えている。
 夕食会のせいか今まで会ったときよりも少しめかしこんでいるようだ。
 美しい。

「お待ちしておりました。ようこそおいでくださいました」

 俺たちが入っていくと、カシアが頭を下げた。
 明るい水色のドレスを着ている。
 よく似合っていた。
 カシアなら何を着ても似合いそうだが。

 ローブ・デコルテみたいな露出のあるものではないが、そういうのが正装というわけでもないのだろう。 
 両脇の二人も、ほぼ同様のドレスだ。
 カシアを引き立てるかのようにシックな紺のドレスとエンジのドレス。
 二人も美人のエルフだが、カシアの美しさは一つ抜けている感じがする。

「ミチオ殿のパーティーメンバー、ロクサーヌ、セリー、ミリア、ベスタじゃ」

 公爵が名前を言った。
 あら。
 すげえな、公爵。
 さっきので覚えたのか。

 ロクサーヌはともかく、他の三人は一回しか名前を言っていないはずだ。
 実は鑑定でも持っているのだろうか。

 田中角栄という人は、すべての国会議員の顔と名前と選挙区と当選回数、またキャリア官僚の入省年次を記憶していたという。
 覚えておけば、当選回数が何回ならそろそろ大臣、省に入ったのが何年ならそろそろ局長、次官レースは誰と誰がライバル、というのがすぐに分かる。
 それと似たようなものか。
 人の名前を覚えるのも、貴族に必要な能力なのかもしれない。

 公爵が続いてカシアと両脇の二人を俺たちに紹介する。
 「余の妻のカシア」と強調したように思えたのは気のせいだろう。
 両脇の二人のうちの一人はゴスラーの奥さんらしい。

「剣をお預かりいたします」

 城の使用人らしき人が声をかけてきた。
 俺以外の四人が渡す。
 預けるのだったら、俺も持ってくるべきだったか。
 別にどうでもいいか。

 ゴスラーも剣を渡した。
 公爵は、テーブルの向こうに回り、護衛の人に剣を預けている。

「ミチオ殿も皆も、座られるがよい。まずは食事にいたそう」

 公爵がイスに座った。
 テーブルの向こう側の左端のイスだ。
 イスは片側に六個ある。
 パーティーメンバー用ということだろう。

 ということは多分、俺は公爵の向かい側に座るべきだ。
 公爵の対面に座る。
 俺の隣にロクサーヌ、以下セリー、ミリア、ベスタと並んだ。

 向こう側は、公爵の隣にカシア。
 その隣にゴスラー、ゴスラーの奥さんと並んだから、俺の判断であっているだろう。
 セリーも何も言ってこないし。

「お飲み物はお酒にいたしますか」

 使用人が恭しく聞いてくる。

「ハーブティーか何かがあれば」
「かしこまりました」

 酒はまずい。
 酔って変なことでも言い出したら大変だ。
 城の使用人は全員に飲み物を尋ねていく。
 こっちはセリー以外は酒にしないようだ。

「それでは、ミチオ殿とそのパーティーメンバーを招いての饗宴を始めたい。よくいらしてくれた。今日は存分に食べ、楽しんでもらいたい」

 公爵の挨拶で夕食会が始まった。
 料理は、随時運ばれてもくるが、最初に置かれてあったものがメインのようだ。
 できたてアツアツのものより、スタート時における見た目の豪華さ重視ということだろうか。

 魚料理もあるのでミリアも安心だ。
 ロクサーヌは、向かい合ったカシアと無難な世間話をしている。
 コハクのネックレスがどうとか。
 これなら問題なくすみそうか。

「今はどの辺りで戦っていらっしゃるのでしょう」
「はい。ハルバーにある迷宮の二十四階層です」
「それはなかなかでいらっしゃいますわね。私どもも負けてはいられません」

 などと、機密情報なのか機密ではない情報なのかはダダ漏れだったりするわけだが。
 まあそのくらいはしょうがない。
 内密にと申し渡したことはロクサーヌも口にしていない。

 俺も話題を選びながら公爵と会話した。
 なるべく無難な話題を。
 気を使いながら料理も食べていく。

「これは?」

 カエルの解剖標本みたいな料理があった。
 そのまま焼いただけの。

「今日のために用意したつぐみの丸焼きじゃ」
「おもてなし用の高級料理ですね。最高級の食材とされています」

 公爵が答え、ロクサーヌが教えてくれる。
 両生類じゃなくて鳥類だったのか。
 ゴスラーはナイフも使わずに手で持ってかぶりついていた。
 丸かじりするものなのか。

 俺も食らいつく。
 魚醤のタレを使った焼き鳥という感じだ。
 柔らかい肉が口の中でほぐれた。
 なかなかの味だ。

 ただしあまり食いではない。
 骨ばっかりで。
 本当に丸焼きだ。

 つぐみの丸焼きはすぐに食べ終えた。
 その後も食事が続く。
 最初は警戒したが、普通に食事会か。
 公爵には、少なくとも今日すぐにどうこうという思惑はなさそうだ。

「ミチオ殿、少しよろしいか」

 テーブルの上の料理も減ったころ、公爵が立ち上がった。
 手にコップだけを持っている。
 俺もハーブティーの入ったコップを持って立ち上がった。
 横の方に連れて行かれる。

「何でしょう」
「ミチオ殿は帝国解放会というのを知っておられるか」
「いいえ」

 何かの怪しい地下組織みたいな名前だ。
 公爵も声を落としている。
 聞かれたらまずい組織なんだろうか。

「迷宮に入って戦う者の相互扶助を目的とした団体じゃ。迷宮や魔物からの解放を目指しておる」
「なるほど」

 それで解放会か。
 帝国からの解放を目指す組織というわけではないようだ。

「皇帝に直属する帝国騎士団の母体ともいえる。その帝国解放会にいずれミチオ殿を招請したいと考えておる」
「帝国解放会ですか」
「迷宮に入って功を立てようとするならば、入っておいて間違いがない。パーティーメンバーの実力も見させてもらった。ミチオ殿ならば、余も自信を持って推薦できる」

 ロクサーヌに試合をさせたのはそのためだったのか。
 ロクサーヌがいれば推薦しても恥はかかないと。
 確かにロクサーヌだし。

「実力がいるのですか?」
「迷宮で戦う者の相互扶助が目的じゃ。戦えない者を入れても仕方あるまい」
「それはそうですね」
「帝国解放会に入れば様々な援助を受けられる。任意だが入っている迷宮を伝えれば、迷宮を倒したときすんなりと承認を得られやすい。帝国解放会では装備品の売買も行っている。また迷宮に関する情報などを得ることもできよう」

 公爵が推してきた。
 いろいろとメリットはあるようだ。
 そうでなければ誰も入らないだろう。

 装備品の売買というのは魅力かもしれない。
 武器屋にはオリハルコンの剣などは置いてない。
 オークションでは空きのスキルスロットの確認が難しいし。

「装備品の売買ですか」
「売買には多少の制限もあるがな。入会したことでデメリットが生ずることはない。義務や禁則事項もほとんどない。すべての人々の解放を目指しているので異種族に対する差別が禁止されているが、これはミチオ殿なら問題はあるまい。その他には、会で得た情報やメンバーについての守秘義務が課せられることくらいか」

 禁則事項があるのか。
 守秘義務くらいはしょうがない。

「それくらいなら」
「そうであろう」
「しかし何故?」

 何か落とし穴がありそうで怖い。
 問題は、公爵が何故俺を推薦しようとするのかだ。

「ミチオ殿ほどの力があるならば遅かれ早かれ入会することになる。推薦者になるのは当然のことじゃ。ミチオ殿ならば、いずれ迷宮を倒して貴族に列せられることにもなろう。パーティーメンバーの実力から申しても」
「貴族ですか」

 早いうちにつばをつけておこうということだろうか。
 この世界では迷宮を倒せば貴族になれる。
 公爵としては、俺に迷宮を倒す力があると判断したわけだ。
 ロクサーヌの試合を見ただけで。

 いや。力というよりは可能性か。
 万が一にもなることがあるかもしれない。
 多少の助力ならしておいて損はないということだろう。

「しかしミチオ殿が二十四階層で戦っておられるというのはちょうどよかった。帝国解放会の入会試験は、余の推薦があれば二十三階層で受けられる。十、十一階層辺りで戦っておると聞いておったのだが」

 ロクサーヌが今は二十四階層で戦っているとばらしたのはまずかったか。
 ゴスラーに会ったときには十階層と十一階層に送ってもらった。
 その情報も抜かりなく把握しているらしい。

「あれはまあ様子見も兼ねて」
「なんにせよ好都合じゃ。申請は余の方から出しておこう」
「入会試験というのは?」
「二十三階層のボス部屋を突破する実力があるかどうか、確認するだけじゃ。二十四階層で戦っているなら問題はあるまい」

 公爵はどんどんと勝手に話を進めていく。
 大丈夫なんだろうか。
 流されるままではまずいような気がする。
 かといって、断るべき理由もない。

「うーん」
「何も難しく考えることはない。すぐに申請しても話が通るまで十日近くかかるであろう。ミチオ殿には十日後にまた来ていただきたい」

 あと十日あれば、俺は冒険者のジョブを取得できる。
 それなら問題はないか。
 いや。本当に問題ないのだろうか?
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