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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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ブレス

 
「では、俺は風呂を入れてくるから、ベスタのことは頼むな」

 家に帰った後、さらに風呂場へと逃げる。
 ベスタのことはもうロクサーヌにまかせた。
 というのに、すぐに二人も追いかけてくる。

「ご主人様、よろしいですか」
「どうした」
「ベスタが風呂を知らないと言いましたので」

 風呂を見に来たのか。
 そのくらいなら何も問題はない。

「風呂を知らないのか」
「すみません。見たことがありません」
「これが風呂だ」
「あの桶にお湯を張ってつかります。王侯貴族の人などは入ることがあるそうです」

 ロクサーヌがベスタに説明している。
 貴族ぐらいしか入らないらしいから、知らなくてもしょうがない。
 知らないのなら見たくもなるだろう。

「そうなのですか」
「ベスタも入るとなるとちょっと狭いが」
「え?」

 ベスタが固まった。
 まさか、入らないとか言うつもりか。

「いや。入ってもらうつもりだが。風呂に入れないとか、なんかあるのか?」
「風呂に入るのは貴族のかたとかなのですよね」
「大丈夫だ」
「大丈夫です。ご主人様ですから」

 まだ言うか。

「よろしいのでしょうか」
「問題ない。みんなで入るし、ちょっと狭いが」
「はい。それは大丈夫だと思います」

 よかった。
 ベスタもちゃんとみんなで風呂に入ってくれるらしい。
 みんなで、というところが重要だ。

 みんなでということは、俺も一緒ということである。
 素晴らしい。
 待ち遠しい。
 今すぐ入れないのがもどかしい。

「では今から入れるから、少し見ていけ」

 代わりに風呂を入れるところを見せることにする。
 ウォーターウォールと念じた。
 風呂桶に並べた水がめの上に水が出現する。
 魔法で作られた水の壁だ。

「わ」

 ウォーターウォールを見て、ベスタが声を上げた。

「どうだ」

 かっこいい。
 あまりにかっこいい俺の姿。
 ベスタも尊敬してくれるに違いない。
 中二の王とは俺のことだ。

「すごいです」

 ベスタが驚いている。

「そうだろうそうだろう」
「ご主人様ですから」
「初めて見ました。水を出せる種族の人もいるのですね」

 あら。
 なんか発想がおかしい。

「種族、なのか」
「違うのですか?」
「これは魔法だ」
「ですがご主人様は魔法使いではなく探索者……あ。ご主人様というジョブですか?」

 ロクサーヌが吹き込んだやつだ。
 まあそれでいいか。

「そうです。ご主人様ですから」

 俺が肯定するよりも前にロクサーヌが肯定しやがった。

「そうなのですか。すごいです」
「水を出せる種族がいるのか?」

 水を出せる種族もいるのだろうか。
 マーマンとか。
 この世界ありえないわけではないのが恐ろしい。
 魔物は水で攻撃してくるしな。

「水を出す種族は知りませんが、竜人族は火を出せます」
「え。そうなのか」
「はい」

 さすが中二感溢るるかっけー人たちだ。
 竜人だからブレスを吐けるのか。
 すごそうだ。

 魔法が使えるくらいでいきがっていた俺とは中二のレベルが違う。
 例えるなら、中二の夏休み初日みたいな感じだ。
 ひと夏の経験でこれから一皮剥けるぜ、という無駄な決意がある。

 それに比べたら、俺の中二感など一学期の始業式に過ぎない。
 かろうじて中二に引っかかる程度。
 新一年生を見下しているくらいが関の山だ。
 わけが分からん。

「見せてもらってもいいか」
「もちろんです。あまりたいしたことはありませんが」
「火を出して水がめの水を温めることはできるか」

 水がめを指してみる。
 ことによったら、風呂を入れるのが楽になるかもしれない。

「温まるほどは無理だと思います」
「そうなのか」
「一応、やってみます」

 楽になるほどは無理らしい。
 ベスタが風呂場に入って、水がめの前に立った。
 腰をかがめて、顔を水がめに近づける。
 口から火を吹いた。

「おおっ」

 すげ。
 炎が水面をなめる。

「このくらいしかもちません。魔物や敵の注意を一瞬だけそらす技です。長く使うことも続けて使うこともできません」
「そうなのか。でもすごいな」
「ありがとうございます」

 火自体は数秒で消えてしまった。
 長時間はできないらしい。
 たいまつを持って踊るファイヤーダンサーみたいな感じか。
 大道芸とかには使えるかもしれない。

「あれ。火が出せるのなら、竜人族は全員魔法使いになれるのではないか」

 魔法を使えば、魔法使いになれる。
 魔法使いでない普通の人は魔法を使えないが、竜人族ならブレスを吐けるから全員魔法使いになれるのではないだろうか。

 さっき確認したとき、ベスタは魔法使いのジョブを持っていなかった。
 火を出したことがなかったのか。
 いや。魔法使いになるには村人Lv5が必要なんだろう。
 あるいは、魔法を使うだけではなくて魔法でとどめを刺さないと駄目だとかいうことも、ありえなくはない。

「魔法使いの魔法とは違うらしいです。竜人族でも幼いときに薬を使わないと魔法使いになれません。魔法が使えるご主人様はすごいです」
「違うのか」

 何が違うというのだろう。
 火を吐くのも立派な攻撃魔法ではないだろうか。
 後でセリーに相談だ。
 今は風呂を沸かすために水がめにファイヤーボールをぶち込む。

「わ。本当にすごいです」

 ベスタは、しばらく見ていたが、やがてロクサーヌと一緒にキッチンに帰っていった。
 俺は、半分くらい風呂を入れた後でキッチンに行く。
 ロクサーヌがスープを煮込んでいた。

「あ。迷宮ですか?」
「……いや、ちょっと休憩」
「そうですか」

 火種はもらいにこなかったが、すでに始めていたようだ。
 考えてみればベスタが火を出せるのか。

 ロクサーヌの言ったとおり迷宮に行きたかったのだが、煮込み始めているのなら火の番に誰かを残していかなければならない。
 ロクサーヌに案内してほしいのだからロクサーヌを残す手はないし、ベスタを一人で残すのは不安だ。
 別に逃げ出したりはしないと思うが、万が一ということもある。
 ベスタだって、無理に逃げるつもりはなくとも、初日から明らかにほっておかれたら魔が差すということもあるだろう。

 まだ何もしていないうちに逃げられるのは嫌だ。
 せめて逃亡するなら明日にしてほしい。
 今はミリアも一人だが、ちゃんと魚を食べさせているので逃げ出すことはない。

「ベスタ、これを洗って食べやすい大きさに切ってもらえるか」

 とっさに方針を改め、ベスタに野菜を渡した。
 今夜の夕食は天ぷらにでもすれば、ミリアが釣った魚も食べられるだろう。

「かしこまりました」
「こっちのキノコは半分にしてくれ。夕食はそれを揚げる。楽しみにしておけよ」
「すごそうです」

 こう言っておけば夕食までは逃亡したりすまい。
 風呂場に戻って、もう少し風呂を入れる。
 風呂場から黙ってクーラタルの七階層に飛び、MPを回復した。

 一人だと少し時間はかかるが、問題はない。
 運よく兎の肉も手に入れたから、ミリアがボウズになっても大丈夫だ。
 風呂を入れ終わって、キッチンに行く。

「スープができたら、一度火を落としてセリーを迎えに行くか」

 キッチンで夕食の準備をある程度済ませ、三人で図書館に飛んだ。
 図書館のロビーに出て、中ほどまで進む。
 すぐにセリーが俺たちを見つけて、外に出てきた。

「滅びればいいのです」

 とセリーの口が動いたような気がしたが、気のせいだ。
 ブラヒム語だから唇の動きでは何を言ったのか分からない。
 幻だ。
 ひょっとして、口の動きだけでも翻訳されるのだろうか。

「セ、セリー。彼女はベスタだ。今日から仲間になる」
「滅びれば……あ。竜人族のかたですか?」
「はい。そうです。よろしくお願いします」
「そうなのですか。大丈夫です。こちらこそよろしくお願いします」

 なんだろう。
 セリーの態度が急に柔らかくなったな。
 仲よくやってくれるならいいことだ。

「ベスタ。この酒の匂いをさせているのがセリーな」
「はい」
「預託金です」

 セリーが金貨を渡してくる。
 ジトッとした目で。
 やっぱり駄目なんだろうか。

「な、仲よく頼むな」
「もちろんです。竜人族で胸の大きい女性に悪い人はいません」
「そうなのか?」
「はい。それを見る者は滅びてしまえばいいですが、竜人族の女性に罪はありません。竜人族は子どもを母乳で育てたりはしない種族です。竜人族の女性の胸には空気が詰まっています。気嚢といいます」

 キノウねえ。
 夢と希望が詰まっていそうだが。

「へえ」
「胸の大きい竜人族の女性は不当な扱いをされるのです」
「そうなんだ」
「竜人族の女で胸が大きいと、無駄に空気が入っているだけだと馬鹿にされます。わ、私なら大丈夫です」

 ベスタが引き継いで説明した。
 胸が大きいと馬鹿にされる竜人族の女性に限って、胸が大きくてもセリーはオーケーということか。
 胸にコンプレックスがある者同士ということなんだろう。

「いいえ。ベスタには何の問題もありません。胸のことを気にするやつらなど滅びてしまえばいいのです」

 セリーが慰めている。
 珍しい光景だ。
 子どもが大人を慰めているみたいでもあるし。
 セリーとベスタが並ぶと捕まった宇宙人みたいだ。

「では、ミリアを迎えにハーフェンに飛ぶ」
「はい」

 深くは立ち入らず、ハーフェンの磯近くの森の木に出た。
 岩礁の上にミリアがいる。
 他の人も何人かそばにいた。
 注目を集めているらしい。

「どうだ、ミリア。釣れたか」
「はい、です」

 ミリアが嬉しそうに答える。
 ちゃんと釣れたようだ。
 釣れたから注目を集めているのか。

 着ているのものは濡れていない。
 海に入ったわけでもなさそうだ。

「じゃあそろそろいいか」
「はい、です。あの……」
「彼女たちに魚を分けてもいいかと言っています。取り入れるのを手伝ってもらったようです」

 ミリアが何か言い、ロクサーヌが通訳した。
 釣った魚を他人に分けるとか。
 ミリアも成長したもんだ。

「ミリアが釣ったのだから、もちろんかまわない」
「はい、です」
「この間作った料理、テンプーラにするつもりだから、合わなそうな魚から分けてあげればいい」
「そうする、です」

 ミリアが竿を引き上げ、籠のところに向かう。
 やっぱり食べるつもりか。

 籠にはそれなりの量の魚がいた。
 ただし、大きいのから小さいのまで入っている。
 キャッチアンドリリースという発想はないようだ。

「ミリアには魚の動きが分かるようです。すごい漁師だとこの人たちも言っています」
「魚の気持ちになって釣る、です」

 ミリアが魚を分けると、周りの人がミリアを褒めたらしい。
 ミリアもなんか立派な釣り師っぽいことを口にしている。
 まあ魚に対する執着心にはすごいものがあるのだろう。
 魚をもらうと、周りの人は去っていった。

「ミリア、彼女はベスタ。今日から仲間になる」
「よろしくお願いします」

 誰もいなくなってから、ミリアにベスタを紹介する。
 ベスタが頭を下げた。

「ミリア、です」
「ベスタ、彼女がミリアだ」
「お姉ちゃん、です」

 ミリアが胸を張る。
 いや。胸を張ったのか上半身をそらせてベスタを見上げたのか。
 ロクサーヌのことを姉と思えと教えたからな。
 新しく入ったベスタは妹になるのだろう。

「はい」
「お姉ちゃんと呼ぶ、です」
「お姉ちゃん」
「ベスタ、です」

 ミリアが手を伸ばしてベスタの頭をなでた。
 届かないわけではないが、おかしな光景にしか見えない。
 ミリアの方が精一杯背伸びしている微笑ましい子だ。

 セリーがやったら届かないだろう。
 さっき慰めていたときも頭はなでていなかったし。

「今のところ、この五人がパーティーメンバーだ。仲間は増えていくこともあるだろう」

 ベスタにもハーレム拡張宣言はしておく。
 最初が肝心だ。
 他の三人にも聞こえるように。

「はい」
「よし。じゃあ家に帰って夕食にするか」

 ベスタがうなずいたのを見て、家に帰ることにした。
 ミリアが釣り道具を片づけるのを待って、林の木からワープする。
 籠はベスタが、ざるはセリーが持った。
 釣り道具は物置部屋にしまわせる。

「置いてきた、です」
「ではミリアは魚の下ごしらえを頼む」
「はい、です」

 魚は五人の一食分にはちょっと多いくらいの量がある。
 ミリアがたくさん食べるからちょうどいいくらいか。
 兎の肉を焼く必要はなさそうだ。

「スープを温めなおしますね。ベスタ、お願いできますか」
「はい」

 ベスタが火を吐いて薪を燃やした。
 見るとやはりすごい。

「あれは魔法ではないらしいが、分かるか」
「竜人族は体の一部に燃えるガスを蓄えておくことができるようです。ガスそのものは可燃性で、竜人族でなくても火をつけられるので、魔法には当たりません」

 セリーに尋ねると説明してくれる。
 メタンガスか。

 ガスに火をつけるのなら、確かに魔法ではないのかもしれない。
 化学反応ということなんだろう。
 魔法使いになれなくても不思議はないか。
 どうやって着火しているのかはともかく。

「へえ。そうなんですか」

 当のベスタがそんな感想でいいのかどうかもともかく。

「さすがはセリーだ。よく知っているな」
「ありがとうございます」
「セリーはテーブルで油を温めていてもらえるか」
「分かりました」

 セリーにも仕事を頼んだ。
 酔ってはいないらしいので大丈夫だろう。
 ベスタにはレモンを渡す。

「ベスタはこれを搾ってくれ」
「はい」
「それをつけて食べるから、頼むな」

 俺は衣を作った。
 その後で兎の肉を一口サイズに切る。
 切ったら塩とコショウで下ごしらえしておけばいい。
 魚が結構あるから、肉は少しだけ天ぷらネタにすればいいだろう。
+注意+
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