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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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猫の目

 
 心地よい倦怠感の中で目覚めた。
 けだるく、甘い朝だ。
 昨夜の狂熱がまだ残っている。

 訂正させてもらおうか。
 あれは別腹ではなくメインディッシュだった、と。 
 久しぶりに色魔までつけてしまった。
 メインディッシュなので反芻することはやむをえない。

 甘い余韻にひたりながらしばしまどろむ。
 やがて桃色の霞が晴れてきた。
 と同時にロクサーヌが口づけをしてくる。

 ま、まずい。
 せっかく残り香が薄らいだところだというのに。
 毎朝のこととはいえ、今朝はまずい。
 色魔をつけたまま寝てしまったしこのまま押し倒したくなる。

 ロクサーヌの柔らかい唇もなめらかに動く舌も甘い。
 俺の官能を刺激する。
 情欲の波に飲まれながら、ぐっと我慢した。

 誘惑に負けると駄目な人一直線になりそうだ。
 今朝は踏みとどまる。
 ロクサーヌに続いてセリーとミリアの唇を堪能しても、耐え忍ぶ。
 俺は忍耐の人だ。

「おはよう、です」
「おはよう、ミリア」

 ミリアを解放して起き上がった。
 むさぼるように激しくいったので変に思われていないだろうか。
 まあ毎朝こんなもんという気もしないでもないが。

「はい、です」
「悪いな」

 ミリアがいつものように服を持ってきてくれる。
 誘惑を断ち切って着替えることにした。
 今日はやるべきこともある。
 気持ちを切り替え、一日に臨んだ。

 着替えてまずは迷宮に入る。
 ハルバーの十六階層もそれなりには慣れてきたか。
 攻撃を受けることも減って、落ち着いてきた。

 減ったといってもゼロになったわけではない。
 戦闘時間も延びてきているので結構大変だ。
 三人が前線で魔物の群れを迎え撃つ。
 ロクサーヌが敵の攻撃をかわし、セリーが槍を突き入れ、ミリアがレイピアで切り裂いた。

 俺は後ろから魔法を放つ。
 六発めのサンドストームでクラムシェル三匹が倒れた。
 最初の一グループを倒すと、後は楽になる。
 残ったビッチバタフライを全員で囲んで倒した。

 次はビッチバタフライ三匹にクラムシェル二匹の団体だ。
 ビッチバタフライの方が多いのは珍しい。
 数の多い方から倒すために、ビッチバタフライの弱点である風魔法を放つ。

「来ます」

 ロクサーヌの声がかかった。
 クラムシェルが水を飛ばしてくる。
 ロクサーヌがなんなく避けた。

 遠距離攻撃は正直たいした脅威ではない。
 ロクサーヌを先頭に置けば全部避けてくれるからな。
 スキルでも魔法でもないクラムシェルの遠距離攻撃は魔物の進軍の遅延にはあまりならないのが残念だ。

 魔物が正面にやってくる。
 ビッチバタフライ三匹とクラムシェル一匹。
 残りのクラムシェル一匹は二列めに回るようだ。
 前線に到着したビッチバタフライの下にオレンジ色の魔法陣が浮かび上がる。

「セリー」
「はい」

 声をかけると、すぐにセリーが槍で突いた。
 詠唱中断のスキルがついた武器でキャンセルさせる。

「来ます」

 続いてロクサーヌが宣言し、首を傾けた。
 首を動かしながら、盾でビッチバタフライの攻撃を受け止める。
 ロクサーヌの頭のあったところから水が飛び出してきた。
 水が途切れると、首を戻しながら右に動き、今度はクラムシェルの突撃をかわす。

 今のは二列めに回ったクラムシェルから放たれたらしい。
 正面の魔物二匹と対峙しながら、二列めからの遠距離攻撃にも対応する。
 ロクサーヌは相変わらず恐ろしい。

 六発のブリーズストームで蝶を落とした。
 気を抜いてはいけないが、これで楽になる。
 二匹なら攻撃を喰らうことも少ない。
 二枚貝はサンドストームで問題なく片づけた。

「次は剣で戦う」

 MPが減ったのでデュランダルを用意し、ロクサーヌに指示を出す。
 デュランダルを出すときには魔法を使わないので、魔物の組み合わせは何でもよくなる。
 今までどおりの戦い方で変更はしていない。

 本来、単に魔物を倒すだけなら魔物が接近するまで魔法を使った方が早く倒せる。
 何もしなければゼロだが、魔法を使えば幾分かはダメージを与えられる。
 今は経験値よりも結晶化促進を重視している。
 だから本当なら、デュランダルを出しているときも魔法を使った方がいいのかもしれない。

 やり方を変えないのは、指示を変更することが混乱の元だからだ。
 デュランダルを出すときには経験値効率が悪くなる。
 経験値を重視するなら、デュランダルを使うときはMPを回復することに専念した方がいい。
 ラッシュくらいは使うが。

 MPを溜めようとデュランダルを出しているのに、魔法を使ってMPを消費していては本末転倒だ。
 デュランダルを出している時間がその分長くなる。
 トータルで見れば、稼げる経験値が減ってしまうだろう。
 今は経験値よりも結晶化促進重視だからそれでいいとしても。

 これまでずっと魔法を使わずやってきたのだし、白魔結晶ができるかオークションが終わればまた元に戻すことになる。
 指示はころころ変えない方がいい。
 理由を尋ねられたら説明するのも大変だし。

 後はジョブとの絡みもある。
 結晶化促進六十四倍にデュランダルまで取得すると、さすがにフォースジョブが限界だ。
 できればサードジョブで戦いたい。
 魔法を使わないなら、魔法使いをはずして戦士をつけられる。

 というわけで、デュランダルを出すときは魔法を使わない。
 MPの回復に専念する。

「分かりました。こっちですね」

 ロクサーヌが案内した。
 迷宮を歩いて移動し、魔物を確認すると同時に駆け出す。
 待ちかまえていても遠距離攻撃にさらされるだけだ。
 魔法を使わないから組み合わせはどうでもいいので、クラムシェル二匹にビッチバタフライ、サラセニアまでがいる相手だった。

 ロクサーヌの斜め横を走り、一番端のクラムシェルに斬りつける。
 真ん中の敵から戦うのは危険だ。
 端から倒す。

 ラッシュを叩きつけた。
 クラムシェルの体当たりをかわし、お返しに斬りつける。
 ロクサーヌとミリアも魔物に対峙した。
 セリーが後ろから槍を突き入れる。

 クラムシェルが貝殻を開いた。
 水は吐かずに口を大きく開く。
 そのまま俺に噛みついてきた。
 ぎりぎりで避ける。

 貝殻が動いたときは、まず水が放たれるのを警戒し、その後で噛みつきに対処しなければならない。
 噛みつきはモーションが大きいからといって、簡単ではないんだよな。
 ある種フェイントをかまされているような感じだ。

 ラッシュを連発してクラムシェルを倒した。
 次はサラセニアだ。
 こいつも消化液を飛ばしてくることがあるので厄介だ。
 やはりラッシュを連発して屠る。

 ビッチバタフライもラッシュで倒した。
 最後のクラムシェルは、ロクサーヌが相手をしているところを後ろから斬りつければいい。
 ロクサーヌは大変だろうが。

 クラムシェルの貝殻が動いた。
 ロクサーヌが上半身を傾けて水を避ける。
 やはり華麗な回避だ。
 全員でぼこって、クラムシェルを片づけた。

「クラムシェルにもだいぶ慣れてきたが、動きのパターンが分かんないんだよなあ」
「そうですか?」
「クラムシェルの貝殻が動いたとき、水を吐き出すのか噛みついてくるのか分からん」
「えっと。そうですね。水を吐き出すときには貝殻がスッと動いて、噛みついてくるときには貝殻がフッと動きます」

 ロクサーヌが説明してくれるが。
 それで理解するのは無理だ。
 セリーを見て首を傾げておく。

「ミリアはクラムシェルの動きの違いが分かるか?」
「見分けられるように努力しているそうです」

 つまり分からないってことね。

「がんばる、です」
「なるほど。偉いな」

 諦めるのではなく、この心意気が必要なのかもしれん。

 迷宮から帰り、朝食の後、コハクのネックレスを取り出した。
 久々の出番だ。

「コハク、です」
「知ってるのか」
「ミリアがいたところではめったに採れませんが、北の海に行くと魚の代わりに網にかかることがあるそうです。ミリア以外の人は魚が獲れるよりも喜ぶと言っています」

 ミリアは魚の方が嬉しいのね。

「綺麗なものだろう」
「きれい、です」
「ミリアに似合うものがあったら、買おう」
「買う、です」

 それなりには喜んでいるようか。
 魚とどっちがいいか聞いてみてもいいが、そこまではしない。
 普通に魚を選ばれても困るし。

「ペルマスクへ行くのですか」

 セリーがすぐに俺の意図に気づいた。

「そうだ。鏡を三枚、頼むな」
「分かりました」
「ではロクサーヌ」
「はい。ありがとうございます」

 ロクサーヌの首にネックレスをかける。
 やはりロクサーヌの胸にコハクのネックレスは映える。
 この場でもみしだきたいくらいだ。

 形のよい白桃を鷲づかみにして。
 柔らかな果肉に指を食い込ませ。
 昨夜エプロンの脇から手を差し込んだように。

 い、いや。
 この情欲は色魔をつけていたからだ。
 つけっぱなしで寝てしまったのがまずかったのだろう。
 普段の俺はこんな風ではない。はずだ。多分。

 セリーにもネックレスをかけ、外に出た。
 まずはボーデのコハク商からだ。
 ボーデの冒険者ギルドに飛ぶ。

「いらっしゃいませ」

 冒険者ギルドのすぐ横にあるコハク商の事務所に入ると、ネコミミのおっさんが迎えた。
 いつものおっさん商人だ。

「邪魔をする」
「これはこれは。お待ちしておりました」
「またコハクの原石をもらえるか」
「はい。もちろんご用意できます」

 俺のことを覚えていたようだ。
 コハクも手に入りそうか。

「それと、彼女に似合うコハクのネックレスがあったらもらいたい」

 ミリアの肩に手を置く。
 オークションが近づいているのに余計な出費はまずいが。
 ミリアだけないというわけにもいかない。

 コハクの原石と鏡の売却益があれば、ネックレスの値段分以上は稼げる。
 大丈夫だろう。
 白魔結晶ができる可能性もある。
 今日も結晶化促進六十四倍をつけて狩をしているし、なんとかなるに違いない、と思っている。

「かしこまりました。ではこちらに来てお座りください」
「頼む」

 ネコミミのおっさんに促され、四人で座った。
 おっさん商人がコハクを持ち出してくる。

「コハクの原石は、前回と同品質のもので十二個ご用意できます」
「全部もらおう」
「ありがとうございます。それから、こちらがネックレスになります」

 おっさんがコハクのネックレスを取り出した。
 やたらいっぱいある。
 前にも買ったから、上客だと判断されたのだろうか。
 ロクサーヌやセリーの前にも広げていた。

 いやいや。
 ロクサーヌとセリーの分はもうあるから。
 ロクサーヌもうっとりした表情で見ない。
 セリーは、ただ商品を鑑定しようとしているだけ、だよな?

「すごいです」
「これなどはかなりの品だと思います」
「きれい、です」

 ミリアが喜ぶのはいいが。
 三人が真剣な表情でコハクのネックレスを見つめる。
 細かくチェックして、品定めを始めた。
 本当に大丈夫だろうか。

「ミリアにはこういうのが」

 お。ロクサーヌが戻ってきた。
 コハクのネックレスをミリアの胸元に当てている。
 自分の胸元に当てなければ、大丈夫だ。
 ネックレスをつけさせておいてよかった。

「一番いいのはこのネックレスでしょうか」
「これはお目が高い。最高級のコハクを使った、当店自慢の一品です」

 セリーとおっさん商人が会話している。

「澄んで輝きもあります」
「これだけのコハクはなかなか手に入りません。ここ数年で一番の品です」
「私がしているのも赤く味わいのある色ですが」
「お客様にお譲りしたものも十年に一度の一品です。こちらの方もそれと同様の申し分のない品質となっており、しかもそれが複数個ついております」
「でも、お高いんでしょう?」
「いえいえ。これだけの品ですが、今回はなんと七万ナールを割り込むお値段、特別に六万九千八百ナールでご奉仕いたしましょう」

 たけえよ、十分。

「しかしミリアにはもう少しソフトな方が似合いそうですか」

 セリーが持っていたネックレスを置いた。
 ちゃんと目的はわきまえているらしい。
 おっさん商人と漫才をしているわけではなかったようだ。
 こちらも大丈夫そうか。

「そうですね。そちらのかたには、このネックレスなどいかがでしょう」

 おっさんが別のネックレスを取り出してくる。
 ごそごそとカウンターの下をまさぐった。

「まだあるのか」

 お勧めがあるなら最初からそれを出せといいたい。
 机の上に並べられた品は、ロクサーヌとセリーに売りつけるつもりだったに違いない。

「赤、ピンク、黄色、乳白色といった、さまざまに色の違うコハクをつないで作ったネックレスでございます。着ける位置によって印象が猫の目のように変わります。猫人族のかたに是非着けていただきたいネックレスです」

 シャレか。
 おっさんがネックレスをミリアに渡す。

「きれい、です」

 確かに、いろいろな色のコハクがあって面白い一品だ。
 悪くない。
 ミリアが首にかけた。

「いいじゃないですか」
「似合うと思います」

 ロクサーヌとセリーも賛成らしい。

「猫人族のかたにつけていただけるのなら、特別に四万五千ナールでお譲りいたします。いかがでございましょうか」

 値段も穏当か。

「どうする?」
「え……」

 ミリアに声をかけると、遠慮するようにためらった。
 気に入ったらしいことは態度で分かる。

 一度セリーの表情も確認する。
 四万五千だとセリーのネックレスと同額だ。
 セリーの方も大丈夫そうか。

「では、これをもらえるか」
「ありがとうございます。コハクの原石とあわせ、私と同じ猫人族のかたにつけていただけるのですから、全部で三万八千二百二十ナールとさせていただきましょう」

 さっきの釈明と同じじゃねえか。
 三割引きの言い訳が元の値段の説明と同じだった。
 四万五千というのは、ちゃんと適正の価格なんだろうか。
 三割引きになることを見越して、予め高い値段をつけたとか。

 しかしロクサーヌやセリーのネックレスと比較して劣るわけではない。
 こんなものか。

「よかったですね、ミリア」
「はい、です」
「こちらがコハクの原石と、お客様にお約束のタルエムの小箱でございます」

 お金を払い、品物を受け取った。
 タルエムの小箱は、作るようにアイデアを提供したので、代わりにただでくれることになっている。

「ネックレスはミリアが着けたままでいろ」
「はい、です。ありがとう、です」

 ミリアが頭を下げる。
 喜んでいるみたいだし、いいだろう。
+注意+
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