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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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クラムシェル

 
 クラムシェルは二枚貝の魔物だった。
 大きさは一メートルくらい。
 魔物としてはむしろ小さい方だが、二枚貝と考えればでかい。
 ロクサーヌが裸で上に乗ったらリアルヴィーナスの誕生だ。

 大きいといってもシャコガイのように波打ってはいない。
 普通にのっぺりしている。
 アサリを極端にでかくした感じだ。

 横ではなく体を縦にして立っていた。
 二枚貝のくせに。
 足も出してないのにどうやって立っているのかは謎だ。
 どうやって移動しているのかも謎である。

 立ったままの状態でこちらにすり動いてくる。
 スピードもそれなりだ。
 土魔法が弱点なのでサンドボールをぶつけた。
 クラムシェルが接近し、ロクサーヌが正面で向かいあう。

 魔物は一匹なので、セリーは少し離れたところから槍を突き込んだ。
 ミリアが横に回る。
 俺もロクサーヌとミリアの間に位置を変えた。

 クラムシェルが突撃をかまし、ロクサーヌの盾ではじかれる。
 ついで貝殻を少し動かすと、口を開けて水を吐き出した。
 ロクサーヌが上半身を傾けて避ける。

 あんな攻撃もしてくるのか。
 俺なら喰らっていたな。
 横に移動していてよかった。

 貝殻が再び動き、口が大きく開く。
 クラムシェルがその状態でロクサーヌに飛びついた。
 二枚の貝殻で挟み込もうとする。

 ロクサーヌは、エストックを突き入れてから、冷静に盾でいなした。
 貝の向きを変えた後、再びエストックで突く。
 余裕だな。

 俺なんかびびって少し後ずさってしまったというのに。
 斜め後ろの位置にいたにもかかわらず。

「い、今のが噛みつきか」

 なにしろ一メートルもある二枚貝が挟み込もうとするのだ。
 かなり威力があるだろう。

「そのようですね」

 なんでもないことのようにロクサーヌが答える。

「噛まれると麻痺することがあると図書館の本に書いてありましたが、確かにあの攻撃を受けたら麻痺もしそうです」
「あそこまでモーションが大きいと、なかなか当たらないでしょうけどね」

 だそうです。
 思わずセリーと顔を見合わせてしまった。
 まあ戦闘中にこんなことができるのも、ロクサーヌが先頭でがんばっているおかげか。

 五発めのサンドボールをぶつける。
 五発では倒れないか。
 続いて六発めを放つ……前にクラムシェルが倒れた。

「あ。倒れた」
「やりました」

 二枚貝が横になって洞窟の床に転がる。
 セリーが槍を突き入れたのがとどめになったようだ。
 煙となって消えた。

「やりましたね、セリー」
「すごい、です」
「ありがとうございます。口を開けたときにロクサーヌさんが中を突いたのが大きかったと思います。それに、多分水棲の魔物ですから、ミリアの力も大きかったでしょう」

 セリーたちが喜んでいる。
 魔法で倒そうとした魔物をセリーたちが仕留めたのは初めてだ。
 ロクサーヌの武器もエストックになったし、攻撃力が上がってきているのだろう。

「中を攻撃した方がダメージがでかいのか?」

 セリーに確認した。

「硬い貝殻を斬っても傷一つつきませんでしたし、そうじゃないでしょうか」
「うーん。そうか」

 普通に考えればそうなんだろうが。
 魔物が相手ではよく分からん。

 セリーが魔物を倒すのはいろんな意味でおいしくはない。
 俺がとどめを刺さないと結晶化促進六十四倍が効いてこないし。
 獲得経験値上昇のスキルも俺が持っているスキルだ。
 俺が倒さないと、経験値は増えないのではないだろうか。

 まあたまにはしょうがないか。
 とどめは刺さなくても、削ったのは俺の魔法だから経験値は入ってきているかもしれない。

 セリーが攻撃したのは四、五回くらいだ。
 かけることの三人で十二回。
 時々引っかかるくらいはしょうがないだろう。
 攻撃するなというのも無茶な要求だ。

 次には団体と対峙する。
 クラムシェル三匹とビッチバタフライ一匹の組み合わせだった。

「来ます」

 ロクサーヌの声が飛ぶ。
 ロクサーヌの体がぶれたように動いた。
 上半身のあった位置から水が飛び出してくる。

 魔法ではないらしいが、やはり盾では受けないようだ。
 濡れるのも嫌だし、かわせるのなら回避して正解だろう。

 ロクサーヌの真後ろにいなくてよかった。
 さっきの戦闘を見ていたからな。
 ロクサーヌの後ろが危険なことは想像できる。
 俺だって日々成長しているのである。

 クラムシェルとビッチバタフライが接近した。
 水を放ったクラムシェルもほとんど遅れることなく並ぶ。
 水を飛ばしてくるのは魔法でもスキルでもない。
 魔法陣を構築する時間がいらないから遅れることもないのか。

 前衛の三人が四匹を相手にした。
 クラムシェル三匹はサンドストーム六発で倒す。
 一匹のときと違って全員でぼこれないので、俺がとどめを刺せた。

 ビッチバタフライを追加のブリーズボール三発で落とす。
 こっちもとどめは魔法だ。
 ドロップアイテムを三人が拾った。
 最後にミリアからシェルパウダーを受け取る。

「はい、です」
「そういえば、蛤も二枚貝だよな。食材の蛤って」
「クラムシェルの残すアイテムです。レアアイテムですが、尾頭付きほど残りにくいわけではないようです」

 セリーが教えてくれた。
 やはりそうか。
 ミリアは何か言いたげに俺の方を見ている。

「蛤を今夜の夕食に、尾頭付きの竜田揚げを明日の夕食でどうだ」
「明日の夕食、です」

 それは喜んでいるんだか嘆いているんだか分からん。
 嬉しそうだから喜んでいるのだろうが。
 明日にまわされて悲しい、ということはないようだ。
 魚醤に漬けておく必要もあるしな。

「一度、三種類の魔物がいるところにも案内してくれ」
「分かりました。三匹と一匹一匹の組み合わせなら確実に分かると思います。クラムシェルかビッチバタフライが三匹で、他の魔物が一匹ずつの団体がいたら、案内しますね」
「頼む」

 さすがロクサーヌは頼りになる。
 十六階層だと魔物は最大で五匹だ。
 三種類の魔物がいて合計の最大が五匹だから、一種類の魔物が三匹いれば残りは一匹一匹になるのか。
 その組み合わせならば判別できると。

 二匹と一匹の組み合わせでは確実な判定はできない。
 サラセニアが二匹で他が一匹ということもあるのか。

「えっと。多分クラムシェルが三匹で、ビッチバタフライとピッグホッグのいるグループがありますが、どうしますか」
「クラムシェルとピッグホッグか。まあ一度は試してみるべきだろう」
「分かりました。こっちです」

 ハルバーの十六階層で最初に戦った魔物三種類の団体は、クラムシェル三匹にビッチバタフライとピッグホッグの組み合わせだった。
 クラムシェルを全体土魔法六発、ビッチバタフライを全体風魔法三発で落とした後、ピッグホッグは追加のウォーターボール三発で倒す。
 かなりの長期戦になった。
 これは結構大変だ。

「ウォーターボール三発か。この組み合わせはなるべくなら避けた方がいいな」
「そうですか」

 ただし、僧侶はつけてもつけなくても回数に変わりがないらしい。
 料理人をつけていたのに蛤は残さなかったが。

 次に魔物三種類の団体と対戦したのはクラムシェル三匹にビッチバタフライとサラセニアの組み合わせだった。
 クラムシェル三匹を土魔法六発、ビッチバタフライを風魔法三発で倒し、サラセニアを魔法一発で火まみれにする。

「こっちの組み合わせなら大丈夫か」
「そうですね。何の問題もないようです」

 ロクサーヌにかかれば何でも問題がないような気もする。
 しかし現実問題として戦闘時間が延びるのは大変だ。
 戦うのはロクサーヌ一人ではないから、こちらの事情も斟酌してほしい。

 メテオクラッシュも使ってみた。
 火魔法に耐性があるなら倒せないのでは、という俺の予想をあっさり裏切って、クラムシェルはメテオクラッシュ一発で沈む。
 どうなっているんだろう。
 メテオクラッシュは土属性も持っているのだろうか。

 いや。土属性が弱点のマーブリームを倒せたのは十二階層だったからか。
 マーブリームがメテオクラッシュ一撃で倒れるかどうかは、まだ確定していない。
 メテオクラッシュはもう少し試してみる必要がありそうだ。

 ミリアの目が気になったので、ハルバー十六階層の様子見はそこそこで切り上げ、ボーデの十二階層に行く。
 尾頭付きが二個出るまで狩を行った。
 十五階層突破記念料理の食材を手に入れる。

「尾頭付きは二個でいいだろう」
「はい、です」
「よし」

 ミリアも二個でいいようだ。
 あんまりたくさんあってもな。
 すぐに飽きてしまう可能性がある。
 飽きのこないほどの美味しさではあったが。

 本来の狩場であるハルバーの十六階層に戻った。
 ハルバーの十六階層ではフィフスジョブまで取得して僧侶と料理人を両方つける。

 最大五匹を相手にするので、僧侶はあった方がいい。
 五匹いればロクサーヌだって攻撃を浴びることもある。
 攻撃を受けたときにいちいち僧侶をつけるのも面倒だし、万が一を考えれば常時はずしておくことはしない方がいいだろう。

 結晶化促進六十四倍にも振っているので経験値系のスキルは大幅に犠牲になるが、しょうがない。
 白魔結晶ができるまで、あるいはオークションまでの辛抱だ。
 蛤が大量に残れば売って儲けにすることもできるし。

 その日の夕食のスープは久しぶりに蛤のクラムチャウダーを作った。
 やはり旨い。
 ロクサーヌやセリーだけでなく、ミリアも美味しそうに食べている。

「はい、です」

 というのに、ミリアはまだ蛤のブラヒム語を覚えやがりませんか。
 翌朝、蛤がドロップしてミリアが拾っても、渡してくるときには「はい」としか言わなかった。

「蛤だ。蛤」
「はまぐり、です」

 その場では口にしても、すぐに忘れるくさいんだよな。
 魚に関連しないと駄目なのか。
 ならば蛤と魚の相性のよさをとくと味わってもらうより他ない。

「今日の朝食は俺がマカロニを作るから、後はスープを頼む」
「分かりました」
「では、スープは私が作ります」

 迷宮を出て、担当を決めた。
 スープはセリーが作るようだ。

 白身、蛤、豚バラ肉、野菜をたっぷり入れて、焼きマカロニを作る。
 海鮮あんかけ焼きマカロニだ。
 パンも買ったので、具材を多めにした。

「旨い。蛤は旨いな」
「はい。ご主人様の料理は最高です」
「とても美味しいです」

 蛤の出汁が白身にも効いている。
 これならミリアも文句はあるまい。

「白身、おいしい、です」

 うん。俺が悪かった。
 魚があるとミリアの興味は魚にのみ向かうようだ。

「これは何だ」

 その日の終わり近くに訊いてみる。

「シェルパウダー、です」

 シェルパウダーは天ぷらのときに使ったから覚えたらしい。

「ではこれは」
「はまぐり、です」

 おおっ。
 覚えたのか。

「今朝白身と一緒に食べたと言っています」
「なるほど」

 無駄ではなかったようだ。
 ミリアにブラヒム語を覚えさせるにはやはりこの手が一番ということか。

 迷宮を出て、家に帰ってくる。
 帰るとルークからの伝言メモが残っていた。

 ついに恐れていたものが。
 思ったよりも早い。
 時間が経っているから、公爵からの呼び出しはかかっていると見た方がいいだろう。

「ご主人様、蝶のモンスターカードを落札したようです」

 ロクサーヌがメモを読む。
 もう何日か後でもよかったのに。
 余計なものを落札してしまったので早く連絡が来たのか。
 蝶のモンスターカードめえ。

「蝶のモンスターカードは何のスキルになる」
「武器につけると風属性の剣、防具につけると風の属性防御になります」
「人魚のモンスターカードみたいなもんか」
「そうです」

 セリーに確認した。
 人魚のモンスターカードは防水の皮ミトンを作るときに使ったやつだ。
 水属性がつく人魚のモンスターカードの風属性バージョンと考えればいいらしい。

 確かカシアの装備には四属性の耐性がついていた。
 ああいうのを作ってやればいいわけだ。
 ダマスカス鋼の額金には空きのスキルスロットがちょうど四個ある。
 一個の装備品で四属性に対する耐性が上がる、だろう。

「ダマスカス鋼の額金につけようと思う。コボルトのモンスターカードもあった方がいいだろうか」
「そうですね。ダマスカス鋼の装備品なら後々まで使えます。効果の高いものにした方がいいでしょう」

 セリーも積極的だ。
 まあ今まで融合に失敗させたことはないしな。
 自信もついたのだろう。
 いい傾向だ。

「モンスターカードで耐性をつけられる属性は四つだけか?」
「知られている限りでは四つです」

 魔法使いが使える魔法属性と一緒か。

「ダマスカス鋼の額金にその四つをつけても大丈夫だよな」
「え?」

 セリーが止まってしまった。
 順調にきてたのに。

「複数のスキルをつける研究はあんまり進んでないんだったか。まあ大丈夫だろう。別に効果が重複するわけでもないし」
「えっと」
「安心しろ。使えなかったら使えなかったときだ」
「いえ」

 実際に効果が出ているかどうか試すのは大変だ。
 錬金術師のスキルであるメッキは魔物にかけてみることで効果を調べることができたが。
 ダマスカス鋼の額金を魔物に装備させることは難しい。
 捕まえて動けなくしてから装着するとか。

 でなければ、自分で試してみるしかない。
 人体実験ということになる。
 ファイヤーウォールを出して自分の手を突っ込んでみるとか。
 やりたくねえ。

「確かにそうだな。効果があるかどうか調べるのが難しい。セリーの懸念はもっともだ」
「そうではなく。いや検証も大変かもしれませんが、複数のスキルを融合しようとして失敗してしまったら」
「そこはセリーの腕を信頼している」
「はあ」

 なにやらセリーが俺を冷たい目で見てくるが、俺はマッドサイエンティストではないぞ。
 科学の進歩のためなら人体実験も厭わないような連中とはわけが違う。
 奴隷か盗賊を連れてきて魔法を撃ち込み何発で死ぬか試してみるとか。
 そこまで極悪非道ではない。

 魔物が魔法を使ってきたときに、効果があるかどうか自分の感覚で確かめるくらいだろう。
 他に実験の方法がない。
 それくらいはしょうがないだろう。
 十分に許容範囲だ。
+注意+
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