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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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決闘

 
「あら。ロクサーヌごときがわたくしに指図するんですの」

 ロクサーヌが声を上げたことで、ロクサーヌを目の敵にしてくるという嫌な知り合いの目が光る。

「いえ。私のことはかまいませんが、ご主人様の悪口はやめてください」
「それならわたくしと決闘なさい」
「決闘?」
「ご主人様とやらの名誉を守りたければ、勝ち取ればいいだけの話ですわ。そんなにいいご主人様なら、奴隷の決闘も認めてくださるでしょう?」

 女がほほを緩めてにやけた。
 ロクサーヌが俺の方を向く。

「ご主人様……」
「わたくしとロクサーヌとの決闘を認めるなら、わたくしの方から決闘を申し込んで差し上げてもよろしくてよ」
「どういうことだ?」
「決闘を申し込めるのは自由民だけです。ただし、決闘は申し込んだ本人がやらなければなりません。申し込まれた方は代理の者が代わりに受けて立つことができます。誰かの保護を受けている場合などです。奴隷は当然主人の保護下になりますから」

 セリーが説明した。
 いや、決闘の説明ではなく状況の説明がほしかったのだが。
 話がめまぐるしすぎて、ロクサーヌと女との会話についていけん。

「ロクサーヌに代理の者を立てないというのなら、わたくしが決闘を申し込もうというのです」

 女の説明も、状況の解説にはたいしてなっていない。

 奴隷であるロクサーヌは決闘を申し込めない。
 この女からは申し込めるが、申し込まれたロクサーヌは代理の者を立てることができる。
 具体的には、俺が代わりに受けて立てる。
 俺が代理として立たないといえば、この女がロクサーヌに決闘を申し込むわけか。

 まあこの世界は裁判で決闘するくらいだ。
 決闘もありふれているのかもしれない。
 そう簡単に決闘されても困るが。

「ロクサーヌより強いのか?」

 一応小声でロクサーヌに尋ねた。
 獣戦士Lv29だと獣戦士Lv32を持つロクサーヌよりレベル低いわけだが。
 決闘を申し込んでくるくらいだから勝算があるのだろうか。

「半年前に練習で一度試合しただけですが、私の攻撃がほとんど通じませんでした」
「向こうの攻撃は?」
「もちろん、かすらせません」

 ですよねー。

「どんな卑怯な手を使ったか知りませんが、今度は半年前と同じ引き分けにはなりませんわ。半年の間にわたくしも強くなっています。尻尾を巻いて逃げ出すなら今のうちですわね。小生意気な雌犬など、叩き潰して差し上げます」

 半年の間にロクサーヌはもっと強くなっている。
 半年前は獣戦士Lv6以下だった。
 現在獣戦士Lv29のこの女が半年前にLv6以下だったということはないだろう。

「ご主人様、やらせてください」
「でも、やったら勝っちゃうだろ」
「な、何を言っているんですの」

 ロクサーヌに話した内容を女が聞きとがめる。

「どう考えてもロクサーヌが負ける想定ができないのだが」
「それならばなおのこと決闘させてもかまわないではありませんの。主人と奴隷そろって勘違いしているその鼻をへし折って差し上げますわ」

 めんどくさいことになった。
 決闘だから、万が一ロクサーヌが負ければ、ロクサーヌを失うことになるかもしれない。
 それは困る。
 負けるところは想像もできないとはいえ。

 無事勝ったとしても、こちらにメリットがあるわけではない。
 ただただ面倒だ。

「ここまできておまえが決闘を受けないというのなら、我がバラダム家に対する侮辱となる。なんなら、俺がおまえに決闘を申し込んでもいいのだぞ」

 今まで黙っていた獣戦士Lv99のサボーが口を開いた。

「ご主人様、サボーは獣戦士で最も強いと言われています。危険です。ここは私に決闘をさせてください」
「いや。俺がやっても負けるとは思わないが」

 Lv99デスがあるからな。

「何だと。この女ならともかく、俺を誹謗することは許さんぞ」

 サボーが怒る。
 女の方が偉いのかと思ったが、唯々諾々と従っているわけではないのか。

 しかし、この女が何故ロクサーヌに勝てると思っているのかが分からん。
 何か秘策があるのではないだろうか。
 特別なアイテムを手に入れたとか、スキル呪文を手に入れたとか。

「私もロクサーヌさんなら負けないと思います。やらせてみてもよいのではないでしょうか。万が一のときにはあれがあります」

 セリーが耳打ちしてきた。
 あれというのは、身代わりのミサンガのことだろう。
 ロクサーヌも向こうの女も装備している。
 何かあっても一撃は防げるか。

「ロクサーヌなどのために貴重な装備品を無駄にすることはありませんのに。ですが、決闘の途中でも手をついて謝るのなら命までは取らないで差し上げますわ。バラダム家にもそのくらいの慈悲はありましてよ」

 セリーの声が聞こえたようだ。
 あれの意味も分かったのだろう。
 まあ自分も着けているしな。
 普通に考えれば慈悲を乞うのは向こうになると思うが。

「うーん。まあ分かった」

 決闘させなければ納得しないようだし、うなずいておくしかない。

「ありがとうございます、ご主人様」
「おーほっほっ。しかと承りましたわ。ロクサーヌ程度、惜しいこともないでしょう。それでは、ハルツ公騎士団の詰め所まで参りましょうか。逃げ出すなどもってのほかですわ」

 女がきびすを返し、出口の方へと向かう。
 他のパーティーメンバーも続いた。

「大丈夫か?」
「大丈夫です。入り口の小部屋まで魔物はいません」

 小声でロクサーヌに尋ねると、斜め上の答えが。
 そういうことを聞きたかったんじゃない。

「決闘には騎士団の許可が必要です。私たちも早く行きましょう」

 セリーの説明も、なにやら斜め上のような気がする。
 どうも日本で生まれ育った俺とは感覚が異なるようだ。
 決闘なんて生まれてこのかた、身近では見たことも聞いたこともないからな。

 この世界では決闘も日常茶飯事なのか。
 ロクサーヌもセリーも慣れているらしい。
 ため息をつき、遅れないように出口へと向かった。


「それでは、ここで待っていなさい」

 ボーデの城の前に着くと、女が一人で中に入る。
 しばらく待つと、中から女とゴスラーが出てきた。

「ハルツ公領騎士団のゴスラーである。彼女が自由民であることを確認した」

 ゴスラーは、俺たちを見て少し眉を上げたが、それ以上は表情を変えることなく宣告する。
 中立的な第三者の立場でないと拙いのだろう。

「はい」

 ロクサーヌが一歩前に出た。

「そのほうがロクサーヌか。決闘に異議はないか」
「ありません」
「それでは、申し出に従い、自力救済の原則にのっとって決闘を認める。被指名者に誰か保護するものがいれば、代理の者とすることができる。代理の者を立てるか」
「いいえ」

 ロクサーヌの答えを聞いて、ゴスラーがちらりと俺を見る。
 俺が当然代理に立つと思ったのだろうか。

「相手方は非公開での決闘を望んでいる。それでよいか」
「日にちを延ばして、また卑怯な手でも使われては困りますからね」

 女が理由を説明した。
 よく分からん理屈だ。

 ロクサーヌが俺の方に振り向く。
 わざわざ公開にすることはないだろう。
 うなずいてやる。

「かまいません」
「それでは、双方のパーティーメンバーのみついてくるがいい」

 ゴスラーが城の中に入った。

「これでもう逃げられませんわよ」

 女も捨て台詞を残して入っていく。
 俺たちも続いた。

 ゴスラーが案内したのは、城の中庭の一角だ。
 木も芝生も植えられておらず、雑草がまばらに生えている。
 騎士団の訓練場だろうか。

「ここでやるのか」
「公開で行うのであれば場所を設営しますが、非公開なのでさっさとすませるのでしょう。ほとんどの決闘は非公開で行われるようです。騎士団にとっても面倒ごとは手間をかけずに終わらせたいはずです」

 セリーと小声で会話する。
 すぐにやるのか。

「ロクサーヌ、俺の剣を使うか」

 すぐに決闘するなら、せめてデュランダルを持たせた方がいい。
 デュランダルにはHP吸収と、向こうに何か隠し技があったときでも詠唱中断がある。
 ゴスラーに見せることになるが、しょうがないだろう。

「いえ。使い慣れた片手剣の方がいいので」

 ロクサーヌが断った。
 それもそうか。

 他のボーナス装備を出すこともできるが、慣れてないものはまずいだろう。
 フルフェイスの兜をいきなり渡されてもな。
 出すのを見とがめられたり、持っていることがばれるのもまずい。

 せめてセブンスジョブまで取得して、ジョブをたくさんつけておくか。
 ジョブの効果はパーティーメンバーに及ぶ。
 七番めのジョブまできっちり有効かどうか、確認はできていないが。

 ボーナス呪文のパーティライゼイションもつけた。
 使ったことはないが、アイテムの効果をパーティーメンバーに及ぼすことができる魔法だろう。
 いざというとき、俺が回復薬を飲めばロクサーヌを回復させられる。

 MP全解放も念のために取得する。
 万が一のときには使うかもしれない。
 ロクサーヌやセリーには分かるだろうが、ゴスラーには分からないだろう。
 決闘に手を貸すことは拙いが、ロクサーヌを失うよりはマシだ。

 Lv99デスもつけた。
 単体攻撃魔法であることは確認済みだ。
 単体攻撃魔法なら、人にも使える。

 その後、パーティージョブ設定でロクサーヌのジョブを獣戦士Lv32に戻す。
 ロクサーヌを騎士にしようとしたのは失敗だったか。
 戦士Lv25のままでも勝ちそうではあるが。

「はい、です」
「ありがとう、ミリア」

 ミリアが頑丈の硬革帽子をロクサーヌに渡した。
 柳の硬革靴は最初からロクサーヌが着けている。
 必要かどうか分からないが、できる限りいい装備をすべきだろう。

「それでは、両者前へ」
「しっかりやってこい」
「ロクサーヌさんなら負けるはずがありません」
「お姉ちゃん、がんばる、です」

 二人が前に進む。

「おーほっほっ。決闘をするとなれば、命のやり取りは常道ですわ。覚悟なさい、ロクサーヌ。もちろん、はいつくばったところで許すことなどありえませんわ。今日がおまえの命日になりましてよ」

 女が前言をあっさり翻した。
 バラダム家に慈悲はないらしい。

「行きます」
「教えて差し上げましょう、ロクサーヌ。半年前の試合にはお互いパーティーメンバーはいなかったのに、今日はサボーがわたくしのパーティーメンバーなのですわ。サボーはわたくしのバラダム家が総力を結集して求めたドープ薬を服用しているのです。その意味がお分かりになりまして」

 ドープ薬というのはやはりレベルアップアイテムのようだ。
 サボーが獣戦士Lv99になったのはそのおかげか。

 ジョブが持つ効果は、レベル依存でパーティーメンバーに効いてくる。
 Lv99なら相当な効果が見込めるだろう。
 この女の勝算はパーティーメンバーのレベルだったのか。

「……」
「おーほっほっ。意味が分かるようですわね。いい気味ですわ。それでは、まいりますわよ」

 無言で剣をかまえるロクサーヌに、女が言い放った。
 踏み込んで、剣を振るう。
 ロクサーヌが半歩下がってかわした。
 続いて振り下ろされた剣をわずかに身体をゆすって避ける。

 大丈夫だ。
 ロクサーヌの動きにはまだ余裕が感じられる。
 Lv99の効果があっても、ロクサーヌには当たらない。

 ロクサーヌがまたも女の攻撃を回避した。
 女の斬撃をわずかの動きで避けていく。
 首を振って剣先をかわし、肩を引いて剣筋から逃れた。

 女が大振りになって突っ込んできたところに、ロクサーヌのレイピアが振られる。
 女が飛びのき、勢いあまって尻もちをついた。

「半年前と違って私の攻撃が通用するようですね。どうしたのですか。本気を出してください」
「くっ。相変わらずちょこまかと」

 女が憎々しげに立ち上がる。
 剣を振るった。
 ロクサーヌがそれを冷静に避けていく。

「半年前の方が強いと感じました」

 いや。半年の間にロクサーヌが強くなったのだ。
 相手が弱くなったわけではないだろう。

「あと少しのところですのに……。どうして……。そこですわ」

 あー。
 これはロクサーヌが悪い。

 ロクサーヌの回避は必要最小限の動きで紙一重のところを避けていく。
 相手の攻撃を完璧に見切っているからだ。
 相手からすると、あと少しで自分の攻撃が当たるように思えるだろう。

 あと一センチ、いや、あと一ミリのところを剣が通っていくのだ。
 そんな曲芸を何度もこなせるはずがない。
 避けられたのはたまたま運がよかっただけ、次こそは、と考えてまったく不思議はない。

 半年前にロクサーヌと試合したとき、この女もそう考えたのだろう。
 今度こそは勝てると。
 その結果がこれか。

 やはりロクサーヌの個人的な技量は群を抜いているようだ。
 獣戦士Lv6で獣戦士Lv29と引き分けられるほどに。
 それが獣戦士Lv32になったらどうなるか。
 もはや相手にもなるまい。

「ご主人様の薫陶を得て少し強くなったような気がしたのでどのくらい強くなったのか計りたかったのですが。ものさしにもなりません」
「くっ。そんなはずはありませんわ」
「もういいです」

 ロクサーヌは、興味を失ったように一言吐き捨て、剣を突き入れた。
 レイピアが女ののどにヒットする。
 正確に繰り出された剣が女を突き飛ばした。

 女がのけぞって倒れる。
 あおむけにばったりと横たわった。

 今の一撃は効いただろう。
 レイピアの突きを喰らったのだ。
 死んでいてもおかしくない。

「ま、まだこれくらいで……」

 それでも、女は震えながら身を起こそうとする。
 立ち上がろうとひざを寄せた女の足元から、切れた紐が落ちた。

 身代わりのミサンガだ。
 ロクサーヌの一撃を肩代わりして、役目を終えたのか。
 鑑定してみると、確かに女の装備から身代わりのミサンガが消えている。

 女にもその意味は分かったようだ。
 そのまま立ち上がれないでいる。
 次に一撃を喰らえば、もう身代わりのミサンガはない。

「私の家が困窮するように、いろいろと画策してくれたようですね。しかし、そのことには感謝しないといけないのかもしれません。素晴らしいご主人様に出会えましたから」

 ロクサーヌが剣をかまえた。
 このまま突き入れれば、勝負は終わりだ。

「ロクサーヌ」

 後ろから声をかける。
 ここまでやれば十分だ。
 ここで終わらせた方がいい。
 ロクサーヌが手を汚すことはないだろう。
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