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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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10/221

街道

 
 その夜、ティリヒさんは来なかった。

 ……分かっていた。
 もちろん分かっていたさ。

 そんな旨い話はなかったということだ。
 あるいは、イケメン限定だったということだ。

 どこに住んでいるか知らないので、こっちから赴くこともできない。

 俺は、寂しく一人寝をし、村長宅の土間横にある部屋で目覚めた。
 何か夢を見ていたような気がするが、思い出せない。

 目覚めたら東京のアパートだった、という展開も期待したが、無理のようだ。

 ティリヒさんも来なかったし、目覚めとしては最悪だ。

 ベッドに身を横たえたままため息をはく。
 ベッドは板の上にマットと毛布を敷いただけの粗末なものだ。
 この扱いはどうなのか、という気もするが、この世界の標準が分からないので、こんなものかもしれない。

 ちなみに、この世界がヴァーチャルリアリティーだなんていう幻想はトイレに行ったときに捨てた。
 病院に入ってシビンがあてがわれてでもいない限り、俺の本体が別にあったら、えらいことになっているはずだ。
 むしろ目覚めたくない。

 ここは現実の世界であり、俺はここで生きるのだ。


「んー」

 せめて腕を伸ばす。

「失礼いたします」

 村長の声がした。

「村長か」
「もう起きていらっしゃるでしょうか。そろそろ、出発の時刻になります」
「分かった」

 荷物を持って部屋を出る。
 荷物といっても、銅の剣と巾着袋だけだ。巾着袋には、大枚百三十ナールと盗賊たちのインテリジェンスカードが入っている。
 今の俺の全財産だ。

「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「こちらが、昨日着ていたお召し物でございます」
「ジャージがあったか」

 忘れてた。
 銅の剣と巾着袋だけが全財産じゃなかった。

 入り口近くの台の上にジャージが置かれているのがなんとか分かる。
 土間の中はまだ暗い。玄関が開け放たれているが、外もようやく白ずんできた程度だ。

 俺はジャージの代わりにもらった服を着ている。
 どうやって持っていこう。

「こちらの衣装はとても珍しい布で作られているようでございます。さぞや貴重なお召し物かと存じます」
「貴重というほどでもないが」

 安物のジャージだし。
 まあ、ポリエステル繊維はこの世界には存在しないのだろう。

「よろしければ、こちらの袋をお使いください」

 村長が割と大きめの袋を差し出してきた。
 肩紐がついている。
 リュックサックだ。

「ほう」
「それと、こちらは朝食になります。馬車の中ででもお召し上がりください」
「いろいろとすまんな」

 リュックサックも朝食もありがたくもらっておく。
 リュックサックの中に、ジャージと巾着袋、朝食が入った包みを入れた。
 包みの感じだと、中身はパン一個というところか。まあ贅沢を言ってはいけない。

「それからこちらが、村を救っていただいたお礼でございます」

 村長が袋を渡してくる。
 昨日もらったのと同じ巾着袋だ。

「うん?」

 なにげなく受け取って開くと、硬貨が入っていた。
 明るければ山吹色を示すだろう鈍い光。金貨か。十枚以上はあるな。

「あまりにも些少で心苦しいのでございますが」
「いや、かたじけない。ありがたくいただいておく」
「なにぶん、その程度のお礼しか差し上げることができず、申し訳もございません」

 少し考えるが、もらっておくことにした。
 もらっておくことによるデメリットは少ない。
 向こうから出してきたのだし、強欲なやつだなどと後ろ指を差されることはないだろう。

 遠慮するメリットもない。
 目立つつもりもないし、清廉なやつなどという評判をもらってもしょうがないだろう。
 この村に特別に恩を売っておく理由があるのでもなく。
 ティリヒさんも来なかったしな。

 すべての荷物を入れ、リュックサックを肩に担いだ。

 村長に連れられて外に出る。
 村はずれまで行くと、商人が荷馬車を準備していた。

「おはようございます」
「うむ。おはよう」

 商人と挨拶と交わす。

「明るくなったらすぐに出発いたします。馭者席の横にお座りいただけますか」
「分かった」

 荷馬車に乗り込んだ。
 揺れなければいいが。

 荷台には、盗賊たちの装備品、ティリヒさんの剣が二本、それに犬小屋みたいなケージが置いてある。ティリヒさんはタガーを売るのはやめたようだ。
 ケージは、三面が板で囲まれ、一面だけ格子がはめられていた。

 あれは何だ、と思っていると、男が連れてこられてケージの中に入れられる。
 昨日の盗人だ。

「この者もベイルまで連れて行き、奴隷商人に売却いたします」

 村長が説明した。

「そうか」
「売却金の半額がミチオ様への賠償金になります」
「……い、いや。正しい装備品は返ってきたので、そこまでしてもらわなくともよいが」
「売却金を全部家族に渡してしまうと、早期に買い戻すことが可能になってしまいます。それでは罰を与えたことになりません。どうぞ、お納めくださいますように」

 なるほど。
 それはそれで合理的なような気がする。
 村の掟によそ者が異を唱えることではないだろう。

 俺はうなずいて同意を示した。

「××××××××××」
「××××××××××」

 盗人の家族だろうか。男が一人来て、ケージの中の男となにやら言葉を交わしている。
 小さな娘さんがいて、パパ行かないで、とか言われなくてよかった。
 言葉は理解できなくても、雰囲気で分かるだろうしな。
 この家族の人は、ある程度諦めがついているのか、淡々と会話している。


「それではそろそろ明るくなってまいりました。出発いたします」

 商人が隣に乗り込んだ。
 手綱を操作し、馬を発進させる。

 まだ日は昇りきっていないが、村の近くだし慣れているのだろう。

「世話になった」
「いえいえ。村を救っていただき、本当にありがとうございました」

 村長と別れの挨拶を交わした。
 荷馬車が村の外へと走り出す。
 この村へ来ることはもう二度とないかもしれないが、俺にとっては最初の村だ。
 後ろを振り返り、村の様子を記憶に留めた。

 荷台には、ケージや装備品の上からシートが張られている。
 奴隷に落とされた男はおとなしくしているようだ。

「道中は安全なのか?」

 走り出して少し落ち着いたところで、商人に問うた。

「ベイルの町までの街道沿いは、定期的に魔物の討伐が行われております」
「なるほど」
「危険は大きくございません」

 辺りがようやく明るくなり始め、荷馬車がスピードを上げる。
 荷馬車がガタガタとかなり揺れた。
 道が悪いのか荷馬車が悪いのか。おそらくはその両方だろう。

 街道の周囲には広葉樹の森が広がっている。
 奥へ行けば分からないが、街道に沿った辺りでは木の高さもそれほど高くない。
 あまり深い森というわけでもないようだ。

 森が続いているだけなので楽しめるような景色でもない。
 それ以前に、この揺れでは景色を楽しむどころではない。

 俺は黙って揺れに耐えるしかなかった。
 朝食のパンもかじってみるが、揺れながらでは結構大変だ。
 他にやることもないので、前方を凝視し続ける。


 うーん。
 結構暇だ。
 ただし、時々座る位置を変えないと、けつが痛くなってくる。


 と。前の方で、小さな影が蠢いた。
 何かいるようだ。


スローラビット Lv1


「スローラビットがいるな」
「お分かりになるのですか」
「昨日狩ったからな」

 スローラビットだと分かったのは鑑定スキルのおかげだ。
 あまりに小さすぎて、ここからではよく見えない。

「さ、さすがでございます。スローラビットならば安心です。このまま速度を落とさすに進みます」
「うむ」

 荷馬車はみるみると魔物に近づき、スローラビットの横を通りすぎた。
 俺一人なら狩っていきたいところだが、ベイルの町に早く着いた方がいいだろう。

「た、確かにスローラビットがおりましてございます」


 さらに進むと、遠くの方にまた何かいるのが目に入る。
 距離がありすぎるので、何かいるかも、という程度だが。


グミスライム Lv1


 結構魔物が出るのかね。

「グミスライムだな」
「グ、グミスライムでございますか」

 商人が荷馬車の速度を落とした。

「どうした」
「グミスライムは人を見ると襲ってくる魔物でございます。しかも、体が柔らかいのでこちらの攻撃がなかなか効きません」
「それならば問題ない」

 デュランダルがあれば大丈夫だろう。

「こ、この辺りでは一番の難敵にございます。グミスライムに捕まって覆われると、体が溶けてしまいます。出現したときには村人総出でかかるほどの魔物でございます」

 商人がグミスライムの恐ろしさを説明してくる。
 さすがにやばいのだろうか。

 とはいえ、捕まるようなドジを踏まなければ大丈夫だろう。Lv1だし。
 一度問題ないと言った以上、やるしかない。
 どうせ遅かれ早かれ戦うことになるはずだ。

「大丈夫だ。このまま進め」

 商人に命じる。

「か、かしこまりました」

 商人が荷馬車を進めた。

 デュランダムを出そうと、キャラクター設定画面を呼び出す。
 あれ? 2ポイントあまっていたはずのボーナスポイントが0になっていた。
 いや。今は魔物が優先だ。後で考えよう。
 買取価格三十パーセント上昇をゼロにして、武器六までつぎ込む。

 そういえば、英雄のジョブにはスキルがあったはずだ。デュランダルで倒せない場合、それを使ってみるしかあるまい。
 ジョブ設定と念じて、確認する。


スキル オーバーホエルミング


 なんだかよく分からん。

「オーバーホエルミング?」

 と、頭の中に呪文が浮かんできた。
 これを唱えるのか。

「……いかがいたしましたか」
「いや、なんでもない。進め」
「かしこまりましてございます」

 中二病患者の俺に商人が気を使ってくるが、無視する。
 俺はリュックサックを下ろし、身軽になった。銅の剣も足元に置く。デュランダルを鞘から抜き、鞘だけを腰に差した。
 荷馬車が近づくと、グミスライムもこちらを認めたのか、俺たちの方に向かって進んでくる。

「よし、とまれ」
「は、はい」

 荷馬車のスピードが緩くなったのを見計らい、馭者席から飛び降りた。
 馬の横を駆け抜け、グミスライムの正面に出る。デュランダルを左後ろにかまえ、バットを振るように横殴りにスイングした。デュランダルがグミスライムの青い身体を切り裂き、グミスライムの右に抜ける。
 一撃では倒せないようだ。

「受け渡されし英……おおっと」

 ならばとスキル呪文を唱えようとした俺に向かって、グミスライムが跳ねた。あわてて体をひねり、なんとかグミスライムをかわす。
 戦闘しながら詠唱なんて、無理無理。

 剣をかまえたところにまたグミスライムが飛びかかってきた。今度はグミスライムの動きをよく見ていたので、剣を使って軽くいなす。
 着地したところに上段からデュランダルを振り下ろした。脳天から体の下部まで打ちつける。さすがにこれを喰らってはおしまいだろう。脳天があるかどうか知らないが。
 グミスライムは、力なくうなだれ、地の上に広がった。緑の煙となり、溶け込むように消え失せる。
 緑のモヤがかき消えると、白い何かが残った。


スライムスターチ


 なんだかよく分からないドロップアイテム。
 とりあえずもらっておこう。

 グミスライムを倒すにはデュランダルで二回攻撃する必要があるようだ。
 あと、戦闘中にスキルを詠唱することは難しい。集中力が持たん。先制攻撃にのみ使うか。
 ピンチに陥ってスキルを使いたい場合にはどうするか。
 訓練する必要があるな。

 先ほどの戦闘について省察していると、商人が荷馬車を進めてきた。

「お倒しになったのでございますか」
「うむ」
「こんな短時間で……さすがでございます」
「まあ、な」

 そうは言ってもデュランダルだと二発だからなあ。
 銅の剣だったら何回攻撃すればいいか分からん。多分その前にやられるだろう。

「ひょっとして、ミチオ様は魔法使い様でいらっしゃますか」

 商人が訊いてくる。

「剣で倒したのは見たと思うが」
「確かに。昨日も剣を使っておいででした」

 盗賊を倒したとき、俺は魔法を使っていない。
 というか使えないし。

「だろう」

 荷馬車に乗り込む。

 この世界には魔法が存在するはずだ。設定でそう選んだ。
 魔法使いも普通に存在するのではないかと思うが、違うのだろうか。

「それはスライムスターチでございますか」
「そうだ」
「いかがでございましょう。守っていただいたお礼もかねて、買い取らせてはいただけませんでしょうか」

 あわててキャラクター再設定と念じた。
 武器六をはずし、買取価格三十パーセント上昇を身につける。
 商人に見えないよう、デュランダルを後ろに隠してから、設定画面を終了させた。
 変に思われるのも嫌だし。

「そうだな。そうさせてもらうか」

 スライムスターチを商人に渡す。
 間にあったのかね。

「スライムスターチは水で溶いてから醗酵させると、お酒になります。スライム酒といって、好む者が多い一品です」
「ほう」
「通常の買取価格は八十ナール。馬車を守っていただいたお礼に十倍の対価を出させていただきたく存じます。ミチオ様がお相手ですから千四十ナールでお引き取りいたしましょう」
「悪いな。遠慮なく受け取っておこう」

 サンパニジュウシに足す八百で千四十。
 きっちり三割アップが効いているようだ。
 商人から銀貨十枚と銅貨四十枚を受け取る。

 巾着袋に入れ、リュックサックを背負った。

「魔法使いがこの辺にいるか?」

 気になったので訊いてみる。

「さあ、存じません。魔法使いになるためには、五歳までになんとかいう特別な薬を飲まなければならないそうです。魔法使いになれるのは貴族や大富豪の子弟だけ。この辺りでは聞いたことがありません」
「そうか」

 魔法使いになるのにそんな制約があったとは。
 俺は魔法使いにはなれないのだろうか。
 いや、あるいは……。

 それより、今は他に考えるべきことがあった。
 荷馬車に揺られながら、ボーナスポイントについて考える。

 増えたと思ったボーナスポイントがあまっていなかった。

 今使っているのは、買取価格三十パーセント上昇で63。
 必要経験値五分の一で15。
 獲得経験値五倍で15。
 ここまで合計93。
 サードジョブで3、計96。
 鑑定、ジョブ設定、キャラクター再設定の99だ。
 残り0だから、最初からまったく増えていない。

 と、計算したところで分かった。

 ボーナスポイントが増えたのは村人のレベルが上がったときだ。
 今は村人Lv3をはずして農夫Lv1にしているから、ボーナスポイントが当初と同じなのではないだろうか。

 試しに、ジョブ設定と念じて、ファーストジョブを村人Lv3に戻す。
 そしてキャラクター再設定を行うと……。

 ほら、やっぱりボーナスポイントが2ポイントあった。
+注意+
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