僕たちが恋する理由。(77/83)縦書き表示RDF



 遅くなりました。
 お仕事きっついです><
 
僕たちが恋する理由。
作:美月みゅん



☆72☆ 桜の木の下で



 呆然と熊田君の背中を見つめる。
 熊田君は照れ隠しで凶暴になる優ちゃんを軽々とかわしながら笑う。
 そんな熊田君を見つめながら言葉がでてこなかった自分を恨んだ。

 「どういう……意味?」

 ひとり残されたあたしは首をめいっぱい曲げる。

 優ちゃんとあんなに仲良しじゃない。
 いつだって仲がよくて、妬けちゃうくらいに優ちゃんは熊田君を想ってる。
 受験が終わったら優ちゃんに告白するみたいな事、言ってなかった?
 好きがわからないって言ってなかった?
 それなのに……何?

 「気づかないほうがおかしいよ」

 その声にハッとして振り返ると今度は木の陰に半分だけ顔をだす緑川君がいた。

 「な、何してるの? こわいんだけど……」

 いじけたように木の陰からでてこない緑川君にあたしのほうから近づく。

 「浮気現場を目撃してた」

 言われた瞬間に凍りついた。

 「あ……あれはっ」

 言い訳するようなやましい事はなかったはずなのに、胸の奥が重い。

 「そんな顔しなくてもいいよ。熊田がアヤをどう想ってるかなんてわかってたし。まさか言うとは思わなかったけどね。本当、心臓に悪いよ。おどろかそうと思って隠れてたのに反対に驚かされたな……」

 「だから、あれはっ……そんなんじゃなくて、たぶん違うと思うの」

 「あほ? 本当かどうかなんてどうでもいいよ」

 「どうでもいいって……」

 あたしは険しい顔をする緑川君の顔を見つめる。
 桜の木の下で、あたしたちふたりは向き合って立っていた。

 「あいつもあいつだよ。むかつくんだよ! アヤが鈍いのをいいことに勝手に人のものにさわりやがって……クソッ。本当、どうしようか。もちろん見返りはあるんだよね?」

 うそ。
 やきもち妬いてる?
 
 笑顔で返事を待ってるけど怒っているのがバレバレな緑川君に嬉しいと感じてしまうのは不謹慎なんだろうか。
 あたしはブツブツと熊田君への怒りを吐き出している緑川君をみてニヤけていた。
 そして、気づかれる前に緩んだ顔をひきしめ、あたしは緑川君に注意する。

 「もう! 熊田君は優ちゃんでしょ! それに、もしもそうだったとしても……それって終わってるって事でしょ。そんなの……っつ。もうっ!」

 緑川君がいるじゃない。とあたしはそっぽをむく。

 アホなのはどっちよ。
 あれは告白なんかじゃない。
 ただ、気持ちの整理のためなんだ。
 お願いだからそんな事言わないでよ。
 熊田君の本当の気持ちがどうだったかなんて知らなくていい。
 知りたいのはそんなことじゃないし、欲しいのはそんな言葉じゃない。
 
 熊田君だってバカだよ。
 言わなきゃいけないのはそんな事じゃないってことが全然わかってない。

 本当に好きだったら……。
 本当に好きな人だったら伝えるだけで満足なんかできないんだから。

 あたしがそうだったように。
 優ちゃんがそうだったように。
 自分を見て欲しいと願うようになる。
 そうやって、どんどん欲ばりになっていく。

 あたしが緑川君にそう思うように……。

 「なんだよ、隙が多いってあれだけ言ったのに全然わかってないから」
 
 「何よ! あたしだって知らなかったんだからっ―――……」

 強く反発しようと思ったのに、何故か悔しくて言葉につまる。
 
 「え……、アヤ?」

 うつむくあたしに心配そうな声が優しく届く。
 あたしは唇を震わせて熊田君の言葉を思い出していた。

 ―――もういいじゃん。

 もう秘密にする理由なんてない。
 だって、あたしの気持ちはここにあるから。

 あたしはぎゅってなる胸を押さえるために視線だけを向ける。

 「わかってるの? 今日が最後なんだよ……今日で……」

 「うん」

 「うんって! それだけなっ―――……」

 緑川君のあっさりとした返事に面白くなくて顔をあげると声が出せなくなった。

 だって、目の前の緑川君は今にも泣き出しそうで、今にも消えてしまうそうなくらい悲しい顔をしていたから。

 「淋しい?」

 きかれると全身に鳥肌がたった。
 
 あたしはまた間違ったんだ。
 
 不安なのはあたしだけじゃなくて。
 寂しいのもあたしだけじゃない。

 緑川君も同じ。
 この胸がぎゅってなる感じを緑川君も感じてるの?
 

 あたしはそっと手を伸ばす。
 まるで何かに誘われるように、ゆっくりと緑川君へと。
 そして、そっと緑川君の胸に触れる。

 制服から伝わる鼓動を感じながらゆっくりと瞬きをする。

 「アヤ? ……みんなに見られちゃうよ?」

 「いいの」

 「いいって……ごめん、困らせた?」

 うかがうような寂しい声があたしの胸を苦しくさせる。

 「いいんだって……もう、いいんだよ」

 あやまるのはあたしなの……。
 ずっと秘密にさせてきた。

 緑川君はうつむくあたしにそっと透明の箱を差し出す。
 差し出された箱の中にはリボンのついたコサージュがはいっているのが見えていた。

 そう、約束のコサージュ。

 それであたしが笑うと思ったんだろうけど。
 だけど逆効果みたい。
 あたしはその日、初めて涙をこぼした。
 理由なんて、わからない……。

 式でも、教室でも泣かなかったのに。
 

 「アヤ? 泣いてるの?」と、ききながら胸に触れている手に緑川君の大きくてあたたかい手が重ねられる。
 あたしはちがうちがうと首をふりながら顔をあげる。

 「あたし……」

 「アヤ、泣かないで。大丈夫だから。こうやって今一緒にいる。大丈夫だよ、これからだってきっと……」

 「緑川君……あたし……嫌だよ」

 嫌だよ。
 やっぱり、嫌だよ。
 離れちゃうのは嫌だよ……。

 目に溢れる涙を止めることはできなくて、緑川君は重ねていた手をあたしの頬へのばす。
 そしてきゅっと頬をひっぱる。

 胸の痛みにも似た甘い痛みを感じながら真っ直ぐに緑川君の意思の強い瞳をみつめる。

 「泣くなよ。大丈夫だから、信じろって」

 強い瞳があたしをとらえて離さない。
 そして、必殺緑川スマイルで柔らかく笑う。

 「これ、くれるんでしょ?」

 反対の手の指であたしの胸についているコサージュを指す。

 「うん……」

 「これ、僕のものだよね?」

 指を動かさずにきく。

 コサージュが?
 あたしが?

 あたしはきゅっと胸がつぶれそうで苦しくなると目をそらした。
 そして一度だけコクンと頷く。
 
 どっちも同じ。

 コサージュもあたしも同じ。
 「大丈夫だから」と魔法の呪文をくりかえす緑川君の声をききながら涙を指でぬぐう。
 
 落ち着きを取り戻すと、緑川君はその時を待っていたようにきいてきた。

 「受験、あさってだよね」

 緑川君の落ち着いた声。

 「うん。大丈夫、ちゃんと最後の勉強する」

 あたしは顔をそらしたまま答える。
 そんなあたしをからかうように緑川君は小さく笑い出す。

 「合格発表の日、一緒に行こうか?」

 「ダメ! 受かったら電話するから!」

 勢いよく顔をあげると目の前に疑うような瞳があたしをとらえる。

 「ふ〜ん。すぐにしてくれる?」

 「う、うん」

 「絶対だよ」

 緑川君はそう言うとポケットから何かを取り出す。

 「これ。お守りに持っていって」

 目の前に出されたのはシャープペンシル。
 
 「これって」

 「僕がいつも使ってるヤツ。ご利益があるかもしれないよ?」
 
 「ありがとう……」

 あたしはペンを受け取ると胸からコサージュをはずす。
 そして持っていた箱にいれて緑川君に差し出した。

 「ちょっと痛んじゃったかも」

 バラの花びらが少しだけぐったりしていて申し訳なくて肩をおとした。

 「気にしないよ。ずっとここでアヤからもらうのが夢だったから」

 そう微笑む緑川君にクラクラした。

 好き。
 どうしてこんなに好きだと思うのかな。
 どうしたらいいの?
 今日が最後なのに……もう一緒じゃなくなるのに……。
 どんどん好きになっていくなんて、つらいよ。
 
 「あ、松田さんだよ? 何か言ってるみたいだけど」

 遠くを見つめる緑川君の瞳があたしじゃない場所をみつめる。
 そして、すぐにあたしの姿を瞳にうつす。

 本当に……ズルイ。
 本当にズルイのはあたしじゃない。
 緑川君だよ。

 大丈夫って何が大丈夫なのよ。
 でも、なんでかな。
 そう言われると心が軽くなるの。
 
 離れてしまう不安があるのは確かだけど。
 緑川君の言葉は不安を隠してしまうくらいにあたしを幸せにしてくれる。

 不思議。

 「あのっ……さ」

 あたしは緑川君の横顔に近づく。

 「どうしてあたしなの? どうしてあたしの事! あたしを好きだって言ったの?」

 唐突にあたしは人目なんか気にもしないできく。

 「え? どうしてって……」

 緑川君は一瞬、驚いて。
 そして何かを思い出すように笑い出す。

 「春だったからかな? そんなのわかんないよ。アヤが笑うと嬉しかったから、いっぱい笑わせてみたかったからかな?」

 「なにそれ……」

 「理由なんているの? まあ、あえていうなら桜と毛虫がね」

 緑川君は嬉しそうに笑うと桜の木を撫でる。

 満開の桜。
 大量の毛虫。
 キーワードになにかがひっかかる。
 
 「毛虫って……意味わかんないし。それにあたし毛虫大っ嫌いなんだけど……」

 あたしの不機嫌な顔を見てさらに笑顔になり「わかってる」と言った。

 「それじゃ答えに―――……」
 
 「さーちゃーん! 帰るよーっ」

 振り返ると少し離れたところで熊田君と優ちゃんが手をふっていた。
 あたしは手をあげて合図をする。

 「時間切れだね。今日はここまでかな?」

 緑川君の穏やかな声があたしの記憶と重なる。

 『時間切れだね。何組なの?』

 そうきいてきたのは誰だったかな。

 満開の桜の下で確かに誰かと交わした言葉。
 
 あれは、入学式の―――……。

 「もしかして……緑川君って……」
 
 入学式の前にあたしと会ったことある? ときこうとしてチラリと見上げる。

 「ほら。松田さんが怒りだしそうだよ。行ったほうがいいんじゃない? 受験がんばってね」

 「え、うん。ありがとう……」

 「連絡まってるから」

 あたしは小さく「うん」と答えて優ちゃんのほうへ走り出す。
 
 満開の桜の下。
 そう、丁度この桜の下で。
 毛虫によって遅刻しそうだったあたしを助けてくれた男の子。
 
 遠い記憶の中で真新しい制服を着た男の子を思い出す。
 そして、それが緑川君の顔と重なって、あたしはすぐにふりかえる。

 「ま、またね!」

 言いたい事はあったけど。
 もしもこの記憶が間違っていても。
 今の気持ちは変わらないから。

 理由なんかいらないんだよね。

 あたしは軽く手を振るとすっと晴れた冷たい3月の空気を吸い込み、緑川君に背をむける。
 そして、吸い込んだ息を吐き出そうとした時に名前を呼ばれた。

 「澤田さん!」

 突然、緑川君の大きな声であたしは止まる。

 その声に近くにいた数人があたしたちを見ていた。
 生徒の中に神田さんや野村さん、田巻さんまでもが見える。
 少し前だったら慌てて逃げ出したと思うのに、今のあたしは誰に見られてもかまわないと堂々と振り返る。

 「何?」

 離れた距離は廊下の幅ほどだけど、周りの音がうるさくて普通の声じゃ届かない。
 桜の木の下でまるで捨てられた子犬のように寂しく微笑む緑川君に駆け寄りたい衝動がおしよせる。

 好きだから。
 だから、そんな顔しないで。
 ごめんね、今までずっと緑川君の優しさに甘えてた。
 今度はあたしがおかえしするよ。

 あたしは真っ直ぐ緑川君の方を向くと、人差し指で緑川君を指す。

 「ほらっ! あたしの受験が終わったら、いっぱい甘えるんだから覚悟しててよ!」
 
 周りにも聞こえるような大きな声で甘い声を出す。
 そして驚くほど自然に優しい笑顔をつくった。

 もう、秘密じゃなくていいんだよ。
 誰に聞かれてもかまわない。
 だってあたしの気持ちは本物だってわかるから。

 いつの間にかあたしたちを取り囲むように人垣ができていた。
 その中にはクラスメイトの顔も見える。

 「なんだよ、お前らつきあってたのかよ!」

 「うっそ〜、委員長の本命って本当にいたんだ!」

 「神田の情報網もそこまでは知らなかったわけだ」

 口々に漏れる冷やかしの声と驚きの声。
 でも、一番驚いてるのは目の前の緑川君。

 「アヤ……」

 「ばらしちゃった」

 あたしはペロッと舌をだすと悪戯のバレた子供のように笑ってみせた。

 「ばらしちゃったって……」

 「いいよね! 今日から新しい一歩だから……ね!」

 あたしが笑うと一瞬、戸惑うように笑ってから嬉しそうに緑川君も微笑んだ。

 「じゃあ、あたし行くよ?」

 「あ、あのさ! さっきの話しだけど、一目ぼれって言ったら信じる?」

 少し離れたところで緑川君が恥ずかしそうに笑う。
 あたしと緑川君の間を数人の生徒が行き来していて、時々見え隠れする表情にあたしは笑った。
 
 「そういうことにしてあげる!」

 「ちぇっ」

 みんなには「またね」はないって言ってきたけど、緑川君には言える。

 ばいばい、またね。

 だって緑川君はちがう。
 
 必ずまた会える人。
 進む道が違っても、またねが言える。

 あたしはクスッと笑って「緑川 翠」と書かれたコサージュのリボン見る。
 そして、手を振って迎えてくれる優ちゃんたちの方へ走る。





 
 


 ※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
    (あとがきパスな方用に見えないようにしています。

























 















 ■あとがきという名の懺悔■

 本日もご来場ありがとうございました!
 い、いかがでしたでしょうか? 少しは甘かったですか?
 もう、甘さがわからない! エロはダメでそれ以外の甘さって……。
 大げさにするとまさにハーレクイン状態です。
 これでドライだと言われたら、あたしの甘さってなんだったんだろう……。
 ご意見聞かせていただけたらうれしいです。
 甘さとはなんぞや? みたいな。

 さて次回♪ ★☆Christmas presents☆★ 君の瞳に降る雪 [Side by Midorikawa]

 いきなりですがクリスマスソングならぬクリスマスストーリーをひとつ。
 とびきりスウィートなヤツ。とか言って甘い恐怖症になりそうな私。
 でもやっぱり書きたくて! ウズウズ。(美月スーパードライでも許してください;;
 もう、これでもかってくらいにギャーってなるやつ書きたい!
 ババッと書いてみます。
 男の子視点なんて書けないと思うので「へたっぴ!」とかわかってますから!
 でも、書いちゃうあたりチャレンジャーだ。

 お仕事が忙しいので更新は明日か明後日の予定です。






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