僕たちが恋する理由。(76/83)縦書き表示RDF



 部屋が寒すぎで手がカチカチです!!
 ごめんなさい、なんだか予定より伸びそうな予感。
 理由はあとがきで。
僕たちが恋する理由。
作:美月みゅん



☆71☆ さようなら、ありがとう


 
 式は思ったよりもあっさりと終わり、あたしたちはたくさんの拍手の中で退場した。
 涙をながしている子もちらほら見かけたけど、あたしは泣かなかった。

 そして、これが本当に最後の授業。

 教室のうしろには参観日のときと同じく、フォーマルな姿の父兄が並ぶ。
 でも、そんな事は少しも気にならなかった。
 在校生が運んでくれた椅子に座り、物足りなかった机がホッとしているように感じながら、あたしたちは静かに前だけを見る。

 見慣れない先生のフォーマルスーツ姿に見惚れているわけじゃない。

 最後にと山田先生の姿があまりにも寂しそうであたしは胸が熱くなる。
 先生は黒板に大きく文字を書きはじめると、あたしたちはその文字に注目した。

 そして。
 「感謝」と書いて振り返る山田先生は満足そうに微笑んでいた。
 静まり返る教室は言葉にならない想いが溢れているように思えた。

 そう、先生までもが必死で堪えてるような……。
 
 先生が泣いた?
 まさか……ね。
 
 たぶん、誰もが思ってるはず。
 潤んだ先生の瞳がキラキラと光って見えた。

 「じゃあ、最後にひとつだけ。似合わないかもしれないが最後だからな。ちょっと我慢して聞いてほしい」

 先生はくしゃっと恥ずかしそうに笑う。

 「先生からみんなに最後の連絡だ。これからみんなそれぞれの世界へ飛び立つわけだが。先生はお前たちにたくさんの事を教えてきた、だけど先生もたくさん教えられた。これから先、いろいろな人と関わっていく、大切なのは気持ちだ。思いやりだったり優しさだったり、忘れそうな時には今、このときを思い出して欲しい。みんなが力をあわせてすごした3年間を―――……」

 山田先生はそこで言葉をつまらせる。
 鼻の先が赤くなり、涙をこらえているように見えた。

 「かっこわりーぞ! 山田! 最後決めろ!」

 教室のうしろからイケメン林くんが声を上げる。
 先生は困ったように笑うとすぐに「こら!」といつもの声を出した。

 「先生を呼び捨てにするな! お前は〜っ高校行ってもそんなじゃダメなんだぞ!」

 「わかってるってっ」

 林君と先生のやりとりがあまりにいつも通りすぎてクラス中が笑った。
 その笑顔をぐるりと見渡すようにして先生は言葉をつなげる。
 
 「本当にお前たちには感謝してるよ。本当にいいクラスだった。委員長、ご苦労様!」

 山田先生は緑川君に拍手する。
 それを見たクラス中が緑川君に拍手を送った。
 
 「僕より田巻さんだよね。お疲れ様!」

 緑川君は田巻さんに拍手をする。

 「やだ、やめてよ。緑川君のほうがご苦労様でしょ」

 田巻さんは顔を赤らめながら緑川君に拍手した。

 「いいクラス委員だった。いいクラスだった。みんなありがとうな!」

 山田先生は満面の笑みで手を高くあげてさらに拍手する。
 
 あたしたちは笑顔を見合わせながら同じように手を高く上げてクラス中を拍手でうめつくした。

 「せんせーっありがとーっ」

 「山田ーっありがとうございました!」

 「せ〜んせっ!お疲れ様でしたぁ〜っ」

 クラス中から拍手と一緒に先生への感謝の言葉が次々と溢れ出した。

 「お前たちこそありがとな! 本当に素晴らしい1年だった。今の気持ちを忘れないで高校にいってもがんばってください!」

 山田先生はそう言うと深く頭を下げた。
 その姿にあたしたちは一瞬、静まる。

 「きりーーーーつ!」

 どこからともなく号令がかかりあたしたちは反射的に立ち上がる。
 その号令が最後の号令だとみんながわかっているようにシャキッと立ち上がる。
 クラス全員がまっすぐに先生に笑顔を向ける。

 「山田先生に最後のあいさつ! 代表で委員長たのむぞっ!」

 イケメン林くんが緑川君にバトンをわたす。

 「えっ! なんだよ急だな」

 「しっかりやりなさいよ!」

 田巻さんの声と一緒にバシッと叩く音がする。
 きっと背中でも叩かれているんだろうとあたしは呆れるように微笑む。

 「じゃあ、代表して」と緑川君は咳払いをする。

 「先生、本当にいろいろとありがとうございました。先生の最後の授業、「感謝」という言葉を忘れずに僕たちはこれから歩んでいきます」

 即興とは思えないほど立派な言葉に先生もみんなも驚いているようだった。
 そんなみんなに緑川君は大きな声で最後の号令をだす。

 「礼っ!」

 クラス最後のシンクロ。
 一斉に深く礼をする。
 そしてまるで決まっていたかのように全員が「ありがとうございました!」と口にした。

 顔をあげると先生は目に涙をにじませて顔をそむける。

 「これから在校生が見送りをするからゆっくりと帰るように。あと受験を忘れるなよ! 卒業して終わりじゃないんだからな。以上! 解散!」

 横を向いたまま、山田先生はそう言うと散れ散れと手を振った。
 あたしたちは笑顔で教室を出た。

 バイバイ、教室。
 ありがとう、先生。
 
 あたしはコサージュを胸につけたまま優ちゃんと久美、雪ちゃんの4人でいつものように生徒玄関に向かった。

 廊下ですれ違う友人に「バイバイ、ありがとう」と声をかける。
 昨日までは「バイバイ、またね」と言っていたあいさつも今日は言えない。

 「またね」はないから。

 あとは在校生のつくる見送りのアーチを抜けて校門を出れば終わりだ。
 もう、この学校に通うことはない。
 
 先に帰っていいとお母さんを帰して正解。
 生徒玄関から見える在校生たちの見送りのアーチは照れくさくなるくらい盛大だった。

 親と歩くなんて恥ずかしくてできないな。

 あたしは下駄箱にお母さんの靴がなくなってるのを確認してホッとした。

 「いよいよだね」

 優ちゃんが深呼吸する。

 「いよいよって何のいよいよ?」

 あたしはニヤリと笑う。

 「本当ですよね〜、何のいよいよなんでしょうね〜」

 「雪、お前はいいのか? コサージュくらい……」

 「久美ちゃん! いいんですっ、受験はまだ終わってないんですよ!」

 久美と雪ちゃんはムムムッとにらみ合いながら靴を履く。
 そして持ってきていた袋に内履きをつめた。

 「終わったね」と優ちゃんがあたしに微笑む。

 「うん……終わったね。寂しくなるね」

 もう優ちゃん、久美、雪ちゃんと一緒に机を並べることはないんだ。
 そう思うと胸がしめつけられた。

 「ダメだよ。最後まで笑って、友達やめるわけじゃないんだから」

 表情の曇るあたしに気がついた優ちゃんは励ますようにいつもの明るい笑顔をあたしに向ける。

 「うん」

 「そうそう」と久美も雪ちゃんも頷く。

 「あと、あれやめよう」

 突然、思い立ったように優ちゃんが人差し指を立てて言う。

 「あれって?」

 あたしたち三人は首をかしげた。

 「旧友って言うのはやめにしよう」

 旧友、つまり昔からの友達ってことだろうけど。
 また、どうでもいいことにこだわっちゃってるのかな?

 あたしは笑いを堪えながら真剣な顔の優ちゃんの話を聞く。

 「なんか嫌じゃない、友達は友達でしょ! 古いも新しいもないっての!」

 「おまえって……本当にくだらないことで力説するよな」

 久美が呆れたように笑うと、優ちゃんは「大事なことだよ!」と反発した。

 「いいじゃないですか、ステキな事ですよ。ずっと友達ですからね」

 雪ちゃんは嬉しそうに微笑むと優ちゃんの横へ立つ。
 あたしは「うん」と頷くと3人よりも先に外へ向けて歩き出した。

 玄関から一歩でると在校生が校門までの道を左右にわかれて花道をつくっていた。
 その数は半端じゃない。

 「おいおい、あそこ通るのかよ……」

 久美の怯える声に、優ちゃんがゴクリと唾をのみこむ。
 まさに圧倒されるくらいの熱気。
 まるで人気アーティストの出待ち状態。
 先にアーチを歩く卒業生はもみくちゃにされているんだから恐ろしい。

 「行くよ」

 あたしが決意したように歩き出す。

 「抜けられたら集合ね」と優ちゃんはあたしの前に立つ。
 
 「きゃーっ! 松田せんぱーいっ!!」

 歩き出して2メートルのところで優ちゃんはバレー部の後輩に捕獲されてしまった。
 その騒ぎにまぎれてあたしは花道をなんとか逃げ出す。
 どこではぐれたのか雪ちゃんと久美は反対側へ逃れていて、あたしは二人に手を振り、校門横の大きな桜の木の下でもういちど花道を振り返る。
 
 「ごめんね! 優ちゃん、おかげで助かったよ」

 こうなることは予想していたから、ちょっとした策略。
 だってコサージュを守らなきゃだから。
 遠くに見える人の塊に手をあわせる。

 「ひどいヤツ、松田を生贄にしてきたのか?」

 声のする横を見上げると背の高い男の子があたしを見下ろしていた。

 「げっ、熊田くん……」

 「げって事はないだろ? あれ? 緑川は?」

 「え? 一緒のわけないじゃん。それに……」

 秘密なんだから。
 みんなには秘密なんだからさ。
 
 あたしは桜の木を見上げる。
 枝に少しだふくらんだ蕾がついているのが見えた。

 「桜、咲けばいいのにね」

 話をそらすようにあたしは小さく笑う。

 「あんまり無理すんなよ」

 「え?」

 真剣な声にあたしは枝から熊田君の顔に視線をうつす。

 「だから、無理すんなって言ったんだよ。別に秘密にする理由なんてないだろ。もういいじゃん」

 見たことない真剣な顔があたしを見下ろしていた。

 熊田君?
 
 少しつらそうに微笑む熊田君が男の子に見えた。
 もちろん、今までも男の子だったんだけど。
 はじめて男の子だと意識してドキッとしていた。

 「別に……あたしは」

 胸をときめかせる事の罪悪感と高鳴る胸の喜びがマーブル状態で言葉が上手くでてこない。
 そんなあたしを「しょうがないな」と笑って大きな手があたしの頭にかぶさる。

 「ちっせーな。まあ、アイツとならお似合いだよな。澤田、オレさ……」

 「うん?」

 あたしは手をのせられたまま少しだけ首をかしげると、熊田君は目をそらす。

 「オレ、お前のこと嫌いじゃなかった……」

 え?

 言葉の意味がわからない。
 それはつまり……どういうこと?

 聞き返そうとすると熊田君はあたしの頭から手を離して質問を遮るように口を開く。
 
 「まっ、卒業っつーことで! それだけ言いたかったんだ。じゃあ松田をたすけにいく。新しい一歩だからな!」

 早口にそう言うと桜の木の下から優ちゃんがいるだろう人の塊に向けて走っていった。
 熊田君の背中を見つめながら言葉がでてこなかった自分を恨んだ。


  ※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
    (あとがきパスな方用に見えないようにしています。


















 















 ■あとがきという名の懺悔■

 本日もご来場ありがとうございました!
 驚きの告白! あれれ〜? みたいな。
 だからって何も起きませんが。
 熊田君が想いを隠しているのは最初から決まってたんですが
 どうこうすると、あまりにも優ちゃんがかわいそうなのでやめました。
 でも、最後に「卒業」ということにひっかけて言い逃げさせましたが。
 本人が言うように「卒業」させたわけです。
 これで優ちゃんを好きになるかは別問題ですけどね。
 「卒業」にはいろいろありますから。


 さて次回♪ ☆72☆ 桜の木の下で

 実は、妹にダメだしをされて、甘さが足りないと指摘されました。
 私にとっては死にそうなくらい甘い話のつもりなのですが、足りないようです。
 普通、もしくはドライな方だといわれました。
 で、何がそうさせるのか考えて次話、72話が追加されました。
 つまり、あと5話といってあと4話でしょ?つっこまれそうですが。
 書ききれなくて伸びています。ご迷惑をかけてすみません。






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