僕たちが恋する理由。(67/83)縦書き表示RDF



 あたたかいお見舞いのお言葉ありがとうございました!
 まだ本調子とはいえませんが、がんばります!
 
僕たちが恋する理由。
作:美月みゅん



☆62☆ 歪んだ世界


 学校の廊下を内履きがわりになってくれた靴下は洗濯機の中でぐるぐる回っていた。
 歯ブラシを左右に小刻みに動かしながらあたしは鏡ではなく回転する渦をみつめる。
 
 なんか……不安。

 手をつなぐことに抵抗もなくなって。
 一緒にいるのにも慣れてきて。
 目があうと笑ってくれるのも見つめ返すことができるようになった。

 変わっていく気持ちも確かめて不安なことなんてなはずなのに。
 どうして不安になるんだろう。

 あたしは洗濯機の半透明の窓からみえる渦を食い入るように見つめていた。

 「そんなに洗濯が面白いの?」

 いつのまに洗面所にはいったのかお母さんが首をかしげて立っている。

 「ふあっ」

 驚いた拍子に口からあふれ出した泡がこぼれそうになって慌てて洗面台へ走る。
 
 「やだ、きたない子」

 「そんな、おかーさんが急に話しかけるからでしょ!」

 洗面台に顔を落として、うがいの合間にこたえる。

 「おかーさんのせいなの? 洗濯機をあんなじっと見てたら怖いじゃない。受験ノイローゼにでもなったのかと思ったわよ」

 お母さんはケラケラと笑う。
 
 ちっとも思ってないくせに……。

 鏡越しにお母さんの背中を睨む。

 「彩、あんた。ちゃんと勉強してるの? 最近、帰りも遅いし」

 その言葉にドキッとしながらもゆっくりと歯ブラシを片付けながら「やってるよ」と笑ってごまかした。

 「それならいいけど。やっぱり、すべりどめの私立よりも公立の方がいいし。あんまりがんばってって言いたくないんだけど……がんばってよね」

 お母さんは洗濯機のまわりを忙しそうに動き回る。

 「がんばってるよ。そこそこには……」

 語尾は小さくなる。
 
 どう考えても、胸を張って勉強をがんばってるとは言えない。
 学校で受験! 受験! と騒いでるわりには家ではのんびりしていると思うし。
 
 きっと、みんなは今頃、勉強してるんだろうな〜……。

 「3月に入ったらあっという間に卒業でしょ。なんだか、いつの間にか大きくなっちゃうんだから……」

 お母さんはかがめていた腰を起こして首を回す。
 その姿に何か寂しさを感じた。

 あれ?
 お母さんってこんなに小さかったかな?
 気がつかなかったけど、もしかしてお母さんって……。

 「おかーさん……もしかして寂しいの?」

 肩をまわしているお母さんの背中にあたしはきく。
 あたしの言葉を聞いたお母さんの動きが一瞬止まると、がばっとあたしの方を振り向く。

 「誰が寂しいって!? そんな事いってないでしょ。 お金がかかるって言ってるの!」

 お母さんはふんっと大きく鼻をならして、どいてどいてとあたしを押しのける。
 そして、床においてあった洗濯カゴを抱え込んで洗面所からでていった。

 まるで、恥ずかしがるように。

 「へ〜……寂しいんだ」

 小さな洗面所に一人残されて閉められたドアを見つめる。
 ガタガタと洗濯機が最後の工程に入ったのか水を流しだす音が大きく響く。

 あたしは何故か嬉しくてお母さんの後を追うように洗面所を出た。

 廊下に出るとリビングの方から電話の鳴る音が聞こえる。

 「はい、澤田でございます」

 お母さんが「忙しいのに」と言ったあとに受話器をとっているのが聞こえていたから、急に別人の様な奥様声に苦笑した。

 まったく、よくやるよね〜……。
 
 あたしは首にタオルをかけたまま二階へ向かう。
 冷えた廊下に素足はさすがにキツい。
 
 ひゃ〜、早く部屋に行かないと足が。

 つま先で階段を一段一段あがっていく途中で大きな声があたしを呼んだ。
 
 「彩ーっ! 優ちゃんから電話!」

 「え? はーい! 二階でとるー!」

 あたしは階段を上りながらリビングに向けて叫びながら「……優ちゃん? 何だろ?」と首をかしげて足早に階段をあがる。。
 つま先もそろそろ限界にきていた。
 
 「長電話はダメよ!」

 お母さんは廊下まで出てきて階段下からあたしを睨む。

 「わかってるって」

 あたしは手すりからお母さんを見下ろして、ハイハイと適当な返事をすると二階の廊下でプカプカと点滅している子機を取り部屋へ入った。

 暖房のついた部屋は暖かくて、一瞬で眠気を誘う。
 時計を見ると9時を少しすぎていた。

 「もしもし? どうしたの?」

 あたしはベッドの上に寝転ぶ。

 『どうしたのじゃないでしょ! こっちがききたい!』

 「わっ、え……?」

 優ちゃんの不機嫌な声が受話器の向こうから聞こえて、思わず身体を起こす。

 『ひどいじゃん! 神田さんとどうなったか心配で心配で勉強なんかできないっての!』

 「あ〜……そっか」

 優ちゃんたちに帰っていいと言ったとき、あの時は神田さんと話すとこだったっけ。
 いろいろありすぎて、何がどうだったか……。

 『あ〜そっかじゃないよ! まあ、元気みたいだから安心したけど、ひどいよ! 久美も雪ちゃんも心配してたんだから』

 優ちゃんは興奮したままで、あたしに話し続ける。
 こうなると、本当に優ちゃんはマシンガンの様に止まらない。

 『こっちはもう、やっぱり言えばよかったとか残ればよかったとか、もーっ後悔の嵐だったんだから! 聞いてるの!?』

 「あーっ、聞いてる聞いてるよ? だからね、あのね、ちょっと聞いてくれる?」

 あたしは優ちゃんをなだめながら、ゆっくりと話し出す。

 『聞いてるよ!』

 「うん。本当にごめん。電話しなくてごめんね。今日は本当、いろんなことがあって疲れちゃって……」

 あたしは長かった放課後を思い出して笑う。

 「優ちゃんこそ、聞いてる?」

 受話器の向こうが急に静かになったから心配になって問いかける。

 『うん。聞いてるよ……ごめんね。ちゃんと噂の事……言っておけばよかったね』

 優ちゃんの声に勢いがなくなると、今度は暗く沈んだ声が聞こえてきた。

 なっ!
 今度は落ち込むのか!
 いつもだったら笑うとこなのに……変なの。

 あたしはアレ? っと思いながら優ちゃんをなだめる。

 「な、なんで急に優ちゃんが落ち込むの? 大丈夫だよ、大丈夫。もう平気だから。それにね、あたし一人じゃなかったから……」

 『一人じゃない?』

 「うん」

 あたしは優ちゃんに笑いながら今日の放課後のたくさんのことを話した。
 神田さんとのこと。
 野村さんとのこと。
 そして、緑川君とのこと。

 優ちゃんは少しずつ驚いたり笑ったりしながら、ただ聞いてくれた。
 
 「だから大丈夫」

 最後にそう言うと優ちゃんは「うん」と短くこたえてくれた。
 
 『なんか、強くなった?』

 「え? あたし? 本当? やった! あたしも大人の女の仲間入りかな?」

 ふざけて笑うあたしに優ちゃんは「調子のりすぎ!」と注意する。
 二人でおもいっきり笑うとなんだか久しぶりに大笑いをしているような気がした。
 
 その二つの笑い声があたしの声だけになると。
 優ちゃんが深呼吸しているのかスーハーと息を吸って吐く音が聞こえた。
 そして「実はね」と付け加えた。

 実はね……。
 
 ためらうのと、決意したようなのとをいったりきたりしながら受話器から聞こえてくる優ちゃんの告白。

 『実はね……さーちゃん、本当はね……もうひとつあるの』
 
 優ちゃんは言いづらそうにゆっくりと言葉を切る。
 
 こうなったら逃げ道はない。
 優ちゃんはいつだってそうだ。
 逃げ道を塞いでからこわい話をする。
 「現実」というこわい話を……。

 「もうひとつ?」

 『うん……あたしも久美からきいて、最初は信じられなくて……でも、あたし見ちゃったの! どうしよう! さーちゃん、あたしじゃ……」

 話の途中でまた興奮して内容がぐちゃぐちゃで理解ができない。

 久美から聞いた話で?
 信じられない話で?
 優ちゃんが見ちゃったもの?

 「ゆ、優ちゃん? 全然わかんないよ? 何がどうしたの?」

 頭の中で言葉を整理するけど、やっぱりつながらない。
 優ちゃんはブツブツと小さく何かを言っているがよく聞こえなかった。

 『雪ちゃん……雪ちゃんがおかしいの』

 やっと聞こえた単語は「雪ちゃん」だった。

 久美から聞いた話。
 信じられない話。
 優ちゃんがみた話で。
 雪ちゃんの話?

 「雪ちゃんの信じられない話?」

 あたしは首をかしげながら受話器を首にはさむ。

 『あのね……雪ちゃん、寝てないみたいなの……眠れないって言ってたし。でもそんなのちょっと眠れないのかと思ってたから。でもね! 全然寝てないって言うの。それに……』

 そこからが本番とばかりに、優ちゃんは黙る。

 「それに……? まだあるの?」

 あたしは少しだけ声をひそめる。
 受話器の向こうから優ちゃんの呼吸が聞こえて、震える声で小さく優ちゃんが囁く。

 『雪ちゃんね……切ってるの……』

 「え?」

 聞き取りにくくてギュッと受話器を耳に押し当てる。

 『だから、切ってるの……』

 「な……何を?」

 受話器の向こうでゴクリと喉が鳴る。
 あたしも思わず受話器を持つ手に力がはいる。
 
 優ちゃんはかすれたような泣き声の入り混じったような不思議な声で小さく震えながらこたえる。

 『て……手首』

 え……。

 衝撃が目の奥で光を走らせる。
 なにかがぐにゃりと捻じ曲がるような、あたしだけが逆さまになったみたいに感じた。
 優ちゃんはすすり泣くばかりで。
 あたしはただ押し黙った。

 不安が大きくて。
 いつも笑顔で優しかった雪ちゃんの顔も歪んで頭に浮かぶ。

 雪ちゃんが?
 雪ちゃんが何?
 あたしはまた自分のことばっかりにとらわれて周りを見ていなかった?
 雪ちゃんは笑ってたよね?
 
 あれが……全部ウソだったってこと?
 雪ちゃんに何があったの?

 これは何かの間違いで。
 きっと優ちゃんと久美の見間違いなんだって何度も言いきかせる。

 だって、雪ちゃんはいつも笑ってたじゃない。

 


※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
    (あとがきパスな方用に見えないようにしています。



 










 ■あとがきという名の懺悔■

 本日もご来場ありがとうございました!
 体調不良、本当にすみませんでした。
 風邪をひきやすいので気をつけていたのに、今回は防げなかったですね;;

 お話は突然の不穏な感じ。
 しかもなんかこわい感じ。きゃーっ><
 かなり悩んだんですよね。ドロリ終わったばかりだし。
 でも、ちょっと課題があって、大きく出されてるのがメインっぽいですが実は
 その裏側が課題だったりして。
 そこんとこちょこっと狙いもあって前ほどドロリはしませんし引っ張らないので
 ご安心してお付き合いいただけたら嬉しいです♪

 さて次回♪ ☆63☆ 向けられた敵意

 このへん、シリアスですよね!(たぶん
 いつまでも笑ってられると思うなよ!というちょっとヒヤッとなお話。
 高校受験の末期ってかなり情緒不安定な友達が多くて悩んだりもしたので
 やっぱり私って図太いよな〜と思い出しながら書こうと思っています。
 
 






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