☆4☆ もしもしが言えなくて
4、2・・・・・・。
――――――ピッ。
「これで何回目?」
かれこれ30分はこの繰り返し。
すでに般若と化している一番の友人。
「で、できない〜っ」
「電話できなはずないでしょ〜」
イライラした優ちゃんの声。
「最後の番号まできてたですよ〜」
「まだかよー」
雪ちゃんと久美はすでに雑誌に夢中。
「代わってあげようか?」
「やっ、自分で!!」
「さーちゃんできないじゃん」
「だって・・・・・・」
小さな声が情けなさ倍増。
「マニュアルまで作ったのに」
そう・・・・・・。
電話で、何を言えばいいのーってわめいて。
逃げようとしたら。
3人はご丁寧に電話大作戦マニュアルを書いてくれた。
優しい友達でしょ。
優ちゃんは満足そうだった。
ほんの30分前までは。
「最後の数字は9ですよー」
「がんばれよ〜」
2人はすでに外野も外野。
優ちゃんだけが電話とあたしにはりついている。
「もう・・・・・・次でかけなかったら暴れるよ」
脅しなのっ!?
優ちゃんの目が怖い。
「わ、わかったよ・・・・・・がんばるっ」
深呼吸して。
指が押したがらないボタンをゆっくりと押し始める。
最後の9っ!!
――――――ピッ!!
「よしっ!!」
優ちゃんはガッツポーズをする。
すぐに。
しーっと唇に指をあてて2人にサインをだす。
トゥルルル。
トゥルルル。
――――――ピッ!!
「え?」
「はっ?」
「・・・・・・何してるの?」
恐ろしくて優ちゃんを見れない。
3人の視線が痛い。
「切っちゃった・・・・・」
ヘヘへっと笑うあたしに3人は、まさに鬼の形相。
こわーいっ!
優ちゃんなんてまさに目が光ってるって感じだよっ。
切っちゃったものは仕方ないっ!
指が勝手にうごいたんだものっ。
なんだか出そうだったし。
怖いし。
なんか緊張してるし。
「切っちゃったじゃないでしょー」
「さーちゃんらしいと言えば、らしいですよね」
雪ちゃんは雑誌へ視線をもどす。
あきれてる?
なんだかすごくあきれてらっしゃる。
「ってか、ただのイタ電だぞ」
久美の言葉に凍った。
そうですね。
イタズラ電話と言われても言い返せませんっ。
ワンギリではないものの。
いや、そもそも固定電話にワンギリ通用するのか?
そういう問題じゃないか。
「・・・・・・ごめんなさい」
「だめなの?やめる?」
優ちゃんはため息をついた。
「時間・・・・・・時間たつと言い出せなくなるんじゃない?」
優ちゃんは決して意地悪をしていたのではなく。
明日からのあたしを心配していた。
「良くわからないけど、終わっちゃいそうじゃない?」
確かに。
終わった事になりそう。
もう、すでに終わってるのかもだけど・・・・・・。
グッと唇をかむ。
そして勢いよく番号を押す。
「さーちゃん、がんばれっ!」
優ちゃんは両手をブンブンと振っている。
ピピピッピッ。
「やるよっ!」
気合をいれる。
だってやるしかないじゃない。
友達がこんなに心配してくれてるのに。
自分で呼んでおいてできませんじゃダメじゃない。
オンナでしょっ!
あたしのオンナ見せてみろっ!
トゥルルルル。
トゥルルル。
コール音と心臓の音が重なって聞こえる。
受話器にあてた耳が熱をもちはじめる。
―――――プツッ。
『はい、もしもし緑川です』
聞こえてくる声は聞き覚えのある声だった。
頭の中が真っ白になる。
『もしもし?』
「あっ、あのっ!」
失敗だ。
マニュアルには「もしもし、澤田ですが・・・・・・」と書いてある。
『・・・・・・澤田さん?』
やはり、緑川君だった。
『どうしたの?』
「ご、ごめんなさいっ。急に電話なんか」
『いいよ、別に・・・・・・』
「あのっ! ・・・・・・昨日の、この前のことで」
『・・・・・・』
「ちゃんと、はっ、話したくてっ・・・・・・」
『・・・・・・』
「あの・・・・・・」
何を話せばいいのかわからない。
マニュアルを見る余裕もない。
見守ってるであろう友達の気配すら感じない。
麻痺してる??
まずいっ!
何かっ。
何か言わなきゃ。
『ねえ・・・・・・』
緑川君のため息まじりの声。
「・・・・・・うん?」
『学校の近くに島田神社あるでしょ』
「え・・・・・・? うん?」
『これからそこに行ける?』
「うん」
『じゃあ、すぐ出るから待ってて』
「うん・・・・・・?」
『じゃ』
――――――ガチャ。
電話が切れる。
顔が熱い。
手が震えている。
心臓がとびでそうだ。
っていうか・・・・・・。
何?
「さーちゃん! さーちゃん! どうだったのっ!?」
優ちゃんの顔の後ろに雪ちゃんと久美の顔が重なって見える。
「学校の・・・・・・」
「学校?」
3人は目を輝かせている。
「島田神社で待ってるって・・・・・・」
きゃ―――――っ!!
3人の黄色い叫びが部屋に広がる。
「なになにっ? 密会ってヤツ?」
「優ちゃん、言い方がやらしいですよ」
「うっわーっ、なんかあぶねーな」
彼女たちの楽しそうな会話は遠く。
あたしはといえば。
まだ事態を把握できないでいる。
ただひとり。
ひとりで呆然と座り込んでいた。 |