☆23☆ テスト前につき
受験ムードたっぷりの教室は期末テストの話題でもちきりだ。
今回のテストが実質、最後のテスト。
私立受験者や進学校受験者にとっては運命の別れ道らしい。
ここまでくると授業も期末用というよりは受験にあわせた授業をやっていたりする。
国語・数学・英語の3教科メインの授業。
プリント授業はもうつまんないや・・・・・・。
あたしは黒板に書かれた自習という字にため息をつく。
机の上には大嫌いな二次関数の問題がたっぷりと印刷されているプリントがのっていた。
そのどの問題も計算してみては消しての繰り返しだった。
やっと1問を解いたところでチャイムが鳴る。
たすかった〜と思ったのもつかの間。
「じゃあ、プリントは今日中に本望先生の机の箱の中へ提出してください」
と田巻さんが教壇にあがって告げると教室中からブーイングが聞こえた。
あたしの場合はブーイングというよりはため息。
こんな量の問題とけるわけがない・・・・・・。
放課後、残り決定か・・・・・・。
通路をはさんで隣を見ると、優ちゃんはほとんど解いていた。
「もう終わるんだ。すごいね」
「こんなので残りたくないもん。本望先生も意地悪だね」
優ちゃんは最後の1問にとりかかりながら数学教師に文句を言う。
「あたしは残り決定だ」
「写しちゃう?」
「それはダメでしょ、あたしのためにならないしね・・・・・・」
あたしはクスッと肩をすくめてみせた。
「強がっちゃって、待ってようか?」
「いい。ひとりでやったほうが集中できるし」
「久美も残りでしょ、一緒にやればいいよ」
優ちゃんは少し離れた席に座っている久美を指差す。
「でも、久美って確か数学得意だったような・・・・・・」
あたしの記憶は確かだった。
放課後、残ることになったのはあたしだけになった。
クラスには数人が机から離れずにプリントとにらめっこをしている。
「オレ、なんでか二次関数得意なんだよな〜」
久美は少し申し訳なさそうに笑う。
「気にしないで、みんな帰って」
廊下で3人を前にあたしのほうが申し訳ない気持ちだった。
「何かお手伝いしましょうか?」
雪ちゃんは心配そうにあたしを見る。
「そうだよ、さーちゃん。みんなでやれば早いし」
「みんなテスト勉強しなきゃなのにそんな事できないって、いいから帰って」
あたしは手を軽くパタパタとふると教室の入り口に向かう。
「あ!」
優ちゃんの小さな声がしたかと思うとドンッと誰かにぶつかった。
「ご、ごめんなさ・・・・・・」
ぶつかった相手を見上げて声が出なくなる。
「残りなの?」
その顔は無邪気に笑いかける。
それなのにあたしは笑えない。
優ちゃんの泣き顔を見てから、あたしはまともに緑川君と話をしていなかった。
テスト前だからと言い訳をしては逃げていた。
あたしだけが浮かれていいわけない。
「うん。二次関数は苦手だから」
「何か―――」
「いいの! ひとりでやるから」
緑川君の言葉を最後まで聞く必要はなかった。
どうせ、手伝うとかつきあうとかそういう事なんだろう。
「澤田さ―――」
「いた! 緑川君! 探したよ!」
横から田巻さんのヒステリックな声が響いてきた。
「ほら、呼んでる。みんなも帰っていいから」
あたしは不自然にならないように笑って教室にはいる。
後ろからためらいがちな優ちゃんの呼ぶような呟くような声が聞こえたけど、もう振り返るつもりはなかった。
あの日。
あたしは気がついたんだ。
優ちゃんの本気も、あたしのずるさも、久美の優しさも。
あたしだけが優ちゃんの幸せを願ってなかった事も。
優ちゃんを一番の友達と胸を張って言えたのに。
あたしが優ちゃんにとって1番の友達になる資格のない人間で。
優ちゃんを傷つけたあたしだけが恋愛していいわけないんだ。
あたしみたいないい加減な気持ちの恋愛なんて壊しちゃえばいい。
あたしなんて傷つけばいい。
優ちゃんが傷ついたみたいに・・・・・・。
同じ気持ちに・・・・・・。
自分の席でプリントの問題をなんとかひとりで半分を解いていた頃には教室からクラスメイトが減っていた。
あたしもあと少しかな。
ふ〜っと息をつくと前の席に誰かが座る。
「だいぶ進んだね」
「緑川君・・・・・・」
どうして? と言いたそうなあたしに呆れたように笑う。
「みんな心配してたよ。最近、元気がないって、何かあったの?」
「何も」
「うそつき。マフラー返してくれてから避けてない?」
ギクッと体が硬直する。
優ちゃんの涙事件の次の日、あたしはコソコソと緑川君にマフラーを返した。
しかも、話もしないで逃げるように帰った。
それから、確かに避けていた。それを気づかれていたとは・・・・・・。
「やっぱりね・・・・・・何があったの?」
「だから、何もないんだって。それより変に思われるから帰りなよ」
「やだよ。ここ帰るとこじゃないでしょ」
トントンと指でまだ白い問題を叩く。
「とりあえず終わらせようか」
急に先生みたいな顔になると数式の説明をしだす。
説明している声が耳に心地よくて。
久しぶりに聞く声と間近でみる緑川君だった。
胸がきゅっと痛む。
「おせっかい・・・・・・」
あたしは小さく呟くと一瞬、説明していた声が止まってニヤッと笑う。
「テスト前なんて言い訳通用すると思ってたの? 甘いね」
そうか・・・・・・。
最初から何かあったとわかってて、それでも何も言わないでいてくれたんだ。
胸が押しつぶされそうに痛む。
体の奥からひたすら緑川君を呼ぶようなそんな感じ。
会いたかった。
話がしたかった。
顔がみたかった。
でも、もうだめ。
ここで止めさせて。
これ以上は先に進めない、進まない。
「意地悪・・・・・・」
伏せた緑川君の目を見つめていた。
緑川君は唇の端を一瞬だけ上げて笑い、すぐに戻す。
きっとあたしは今にも泣きそうな情けない顔をしているんだろうな。
でも、今なら見えてないから。
今だけあたしの気持ちを許して。優ちゃん・・・・・・。
「ほら、ちゃんと真面目にやらないと帰れないよ。澤田さん頭悪いんだから」
「なっ! ばかにしないでよ」
あたしはプリントにかじりつく。
前髪と前髪が少しだけ触れる、そんな距離で集中できるはずもなくて。
あたしは緊張で震えてしまう手をごまかすためにシャーペンをカチカチと押す。
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