☆10☆ 伝わる想い
こんな時間にごめんね。
と優ちゃんは小さな声で電話をかけてきた。
夜の8時を過ぎたところ。
いつもなら元気いっぱいで。
力強いのに、今日はおかしい。
『勉強、してた?』
「まさか〜、ゴロゴロしてたよ」
本当にベットの上で音楽雑誌を広げてゴロゴロしていたから。
受験生の危機感なし。
『そっか・・・・・・』
電話の向こうで小さいため息が聞こえる。
何か重大な告白をしようとしている、そう思った。
「優ちゃん?」
『ねえ、今日、どうだったの?』
突然の質問。
逃げたな・・・・・・今日の事は明日きくって手紙に書いてあったのに。
あたしもよく使う手だ。
遠くから攻めていく。
本当の事を言う勇気が足りないから、様子を見る。
「田巻さんの事?」
『うん』
「野村さんが来ちゃってお話できなかったよ」
『野村さんってあの野村さん?あ、だってあの人・・・・・・』
「うん、大変」
『修羅場か・・・・・・』
「修羅場って事はなかったけど、田巻さん泣いてたかも・・・・・・」
実際、それは心配だった。
あの時、泣いていたように見えたから。
『気にすることないんじゃない?』
「そうかな・・・・・・」
『それよりさ』
本題?きたか?
あたしは思わずベットから身体を起こす。
『さーちゃんはいいよね』
「え? いい?」
羨ましがられるものは何もないと思うけど・・・・・・。
身長も低いし。
顔も人並み。
偏差値なんか低いほうだ。
優ちゃんとは比べようもないくらいにへっぽこなのに。
『今日、緑川君、待ってたでしょ』
「あ〜・・・・・・うん」
『下駄箱のとこでね、雪ちゃんと久美と待ってたんだけど、緑川君にさーちゃんの事きかれて教えたの。そしたら、自分が待つからって』
うっとりとした声で事のはじまりを教えてくれる。
「へ〜」
『へ〜って、青春しちゃってるのに何? その気のない声っ!』
「待っててくれてもね・・・・・・」
方向違うし。
わざわざ遠回りさせるなんて。
『うれし〜ありがと〜ってそのくらいは言ったんでしょ!?』
優ちゃんの声が大きくなる。
「い、言ってないかも・・・・・・」
あれ?言ったかな?
言ってないような・・・・・・。
『だめだーっそんなんじゃダメっ』
「え〜・・・・・・」
『もっと優しくしてあげなさいよ〜』
優しくって・・・・・・。
「・・・・・・」
『聞いたんだよ、どうしてもっと堂々としちゃわないのか』
「えっ!?」
驚いた。
ものすごく驚いた。
何てことを話してるんだ。
『だってさ〜、みんなに教えちゃえばみんなのおかしな冷やかしも田巻さんの嫉妬もなくなるんじゃないのかな〜って思って』
「それは・・・・・・」
そういわれてみたら何で秘密にしてるのかな。
特にそういう約束をしたわけじゃないし。
あたしは変な噂になるのは嫌だけど、あまり気にしてなかった。
あれ?
本当だ。
なんで?
『緑川君が秘密にしたいのかと思ってたよ、でもアイツ・・・・・・さーちゃんが喜ばないからって笑ってた』
えっ。
『さーちゃんが考えてるより、アイツは真剣なんだと思うよ。だってね、笑ってたって言ったけどかわいそうな感じした』
「かわいそう?」
『両想いなのにそんな情けない顔するなーって慰めたくなったよ』
両想い。
緑川君の情けない顔。
今にも思い浮かぶ。
きっと今のあたしも同じ顔をしているのかも。
緑川君の優しさにどう答えていいかわからない反面、嬉しくて切ない。
本当に両想いなのかな・・・・・・。
『きいてる? さーちゃんは贅沢だよ、すごく想われてるんだよ、アイツあんなヤツだったなんて知らなかったよ、見直した』
「うん・・・・・・」
受話器を耳にあてながら勢いよくベットに倒れる。
知ってる。
今まで見ていた緑川君とは違ってた事も。
あたしが考えてるよりずっと大人だったことも。
優しさも。
でも、どうしたらいいかわかんないんだよ・・・・・・。
『ねえ・・・・・・雪ちゃんが2年生のときに酒井君をフッたの知ってる?』
「えっ! 雪ちゃんがっ?」
ガバッと起き上がる。
またまた衝撃。
『そうだよ、雪ちゃんは超進学校の第一高校ねらいだから恋愛はしないんだって』
「第一・・・・・・そうだったね」
雪ちゃんは4人の中で一番、偏差値が高い。
2年のはじまった頃にはもう受験勉強を始めていたくらい。
でも、あのおっとり雪ちゃんが告白をされていたとは・・・・・・。
『本当は興味あったとおもうんだよね〜、でも我慢しちゃってさ』
「そっか、受験のためなんだ・・・・・・」
雪ちゃんならやりそうだ。
堅実派だし、なにより将来の事を一番考えている。
『久美ちゃんはまだ1こ上の先輩。一之瀬センパイ一筋でしょ』
「うん、聞いたことある。センパイと同じ高校行くって」
久美にとってはレベルが高い高校だって事も。
『でしょ、両想いってスゴイ事なんだよ、もっと大事にしないと・・・・・・ね』
声が小さくなる。
あれ?
優ちゃん・・・・・・もしかして。
「・・・・・・ねえ、優ちゃんは?」
『・・・・・・』
急に静かになる。
図星か。
「好きな人、いるんだ」
『す、好きっていうか、気になるだけだよっ』
やっぱり、そういう事か。
「気になる人?」
優ちゃんの動揺が伝わってくる。
タイミングをはかっているみたいに長い沈黙。
言葉が返ってこない。
時々、あっとかうっとか声が聞こえる。
あたしはゆっくりと待つ。
コホンと咳が聞こえてからモジモジと言いだす。
『・・・・・・言ってみようかな、あたしも』
「誰か聞いてもいい?」
『まだ、だめ。だって見てるだけでよかったの、時々、話せたららラッキーで嬉しくて。でも、さーちゃん見てたら、緑川君の顔みたら・・・・・・』
告白したくなった?
それが好きになったって事なの?
出かかる言葉をのみこむ。
「優ちゃんに好きって言われたら男の子は舞い上がっちゃうかもね」
『そんなことないっ! だってアイツ、今日、話かけたら変な顔してたし、この前も逃げてる感じがしたし・・・・・・あ、あの時もっ』
これが本題だったんだ。
優ちゃんは告白の後押しをあたしにしてほしかったんだ。
好きな人の事をたくさん記録しているみたいにあの時はあの時はと言う優ちゃんに胸が痛む。
そんな膨大なデーターはあたしにはない。
雪ちゃんも久美も優ちゃんも。
田巻さんも野村さんも。
みんな真剣に相手を想う。
恥ずかしそうに、それでいて自慢話でも聞かせるみたいに嬉しそうに話す。
結局、優ちゃんは好きな人の話を満足するまで話し「ありがとう」と言って電話を切った。
好きな人が誰かは最後まで言わなかった。
時計が11時をさしている。
ベットに顔をうずめる。
あたしにはない。
優ちゃんが気になる人を想うように、たくさんの緑川君を思い出せない。
これで両想い?
緑川君も優ちゃんみたいにあたしの事を話すのかな。
それで、また悲しそうに笑うのかな。
どうしてあたしの事ばっかり考えてるの?
どうして自分が傷つかないようにしないの?
あたしの事なんて・・・・・・。
優しすぎだよ。
バカだよ。
あたし、返せてないのに・・・・・・。
緑川君の気持ち、いっぱいいっぱいもらってるのに。
あたし・・・・・・何も返せてないよ。
――――ずっと、こうしていられたらいいのにな。
帰り道での一言が繰り返される。
胸がきゅっとしめつけられる。
目が熱くなる。
唇が震えて思わず声がでた。
「緑川君・・・・・・」
明日、会ったら・・・・・・。
ちゃんと、うれしかったって言おう。
それで、また一緒に帰ろうって言ってみようかな。
ゆっくりと意識が薄れていく中であたしは緑川君を想った。
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