4月11日、新学期初日。
再び学校生活が始まった。高校の春休みは大体1ヶ月近くあるんだけど、思えばあっという間だった。高校に内緒でしていたコンビニのアルバイトを辞め、春休みはゆっくりしようと思っていたのだが、それはそれで結構暇だった。毎度のように日向姉妹が押しかけるので、いつもどおりと言えばいつもどおりなのだが、修哉は家族旅行でどっかに行くし、和樹や他の友達も部活が忙しく、僕と遊ぶ暇など無かったのだ。
今日の朝は、日向姉妹に叩き起こされた。
「おらー! 起きろ――!! 朝だぞ! 遅刻するぞ!」
「……朝っぱらからやかましい女だな……」
うざったいほどに朝から元気な海ちゃん。耳障りだっての。
「私とお姉ちゃんの高校生活最初の日に、寝坊ってのはダメでしょ?」
「……だったら僕は関係ないだろ……」
僕は半分閉じている目で、時計を見た。
「あぁ……? 7時10分……って、おいおい……まだ1時間以上もあるじゃんか……」
「8時までが登校の時間のはずだよ?」
空はいつもの如く、呆れながら呟いた。
「朝の読書が始まるまでに行けばいいんだよ……。お前らは新1年生だから、そうもいかないかもしれないけど」
「どっちにしても、早く行って損はしないよ? やり忘れた宿題はできるしさ」
「あのな、空……春休みの宿題をどうやって、ものの数十分で片付けろってんだ? もう間に合わねぇよ……」
「……それはどんなに早く登校したって無理だと思う……」
「ともかく、あと20分寝させて……」
僕は布団の中へ潜り込んだ。まだ4月とはいえ、寒いっス。
「せっかくだから、起きろ!」
「…………」
結局、この日は僕の学生生活の中で、最も早く学校に到着することとなった。校門の近くで毎朝掃除している校長先生が、
「おや、東君じゃないか。こんな時間帯に君が来るなんて、珍しいこともあるものだね」
「ハハハ……好きで早く起きたわけじゃないんですよ……」
こんなことを言われる羽目に。はっきり言って、うれしくなかったり……。
僕は何度か校長先生と話す機会があったため、先生は僕のことを覚えてくれている。数百人もいる学生の中で、自分を覚えてくれているというのは結構うれしいことだったりする。
「そうなんですか? ……おや? 君は、新入生代表の……」
「日向空です。おはようございます、校長先生」
空は礼儀正しく頭を下げた。海もそれを見て、少し遅れて一礼した。
「……? 隣にいる子は、そっくりだが…………?」
校長先生は眼鏡越しで海を見つめた。海は目をパチクリさせて、自己紹介をし始めた。
「お、おはようございます。えっと……日向海です。お姉ちゃんとは双子なんです」
「双子? ああ、そう言えば……。これから、よろしくお願いしますね」
校長先生は、深々と頭を下げた。それにつられて、空と海は再び一礼した。
「そろそろ行こうぜ。眠い……」
無理矢理起こされたので、目がショボショボする。
「ハイハイ。じゃあ、失礼します」
「失礼しまーす」
僕の教室は2年3組。教室に到着したのは、7時51分。教室に入ると、真面目な人及び女子の数人しかいなかった。
「おはよ……」
僕は流れるように教室の中を進み、自分の席に座り、机に頭を乗せて眠ろうとした。しかし、ここでも障害が待ち受けていた。
「おはよっ、空」
「……美香か……おはよ……」
小山内美香。中学3年の時からクラスがずっと一緒の同級生。女子生徒の中では、最も仲が良い女子だと思う。女子にしては身長が高く、160センチ台半ばくらいだったか。
「どうしたの? 空がこんな朝早くに来るなんて。朝、何か起きたの?」
美香は微笑みながら言った。
「……やかましいやつらに起こされたんだよ……」
「やかましいやつら? 誰?」
「誰って…………日向姉妹だよ。知ってるだろ?」
「あぁ……空の幼馴染の双子ね。そっか、この高校に入学したんだったね」
空たちは彼女の後輩(当たり前)なのだが、あまり面識は無い。中学時代、たまに美香とは一緒に帰ったことがあって、その時に何度か空たちと遭遇したことがある(空と海は、ほとんど行動を共にする)。
「家が近いんだっけ?」
「まぁ、ね。『高校生活の初日だから、記念として一緒に登校しよう』……だってよ……」
僕はカバンから枕を取り出し、その上に頭を乗せた。あまりに眠い時は、僕はこうやってマイ枕を持参するのである。
「ふーん。相変わらず仲良いよね、3人は」
「……ま、んなもんだよ。……そゆことで、寝させてくれ……」
「ハイハイ。まったく、ホントに朝は弱いんだから」
美香は呆れながらも、笑いながら自分の席へと戻って行った。
(……ようやく眠れる……)
僕の席は教室の1番左奥であり、最も先生の視界から届きにくい場所でもある。だから、朝の読書が始まっても、何も言われないだろうと思った。
ものの1分程度で、僕は眠りに就いた。
青い空。
白い雲。
体を包み込む太陽の温かい光と、優しい癒しの風。
僕自身は、空中に漂っていた。まるで、一切れの紙のようにヒラヒラと。
ゆっくりと後ろ……いや、地上へ目をやると、緑色の草原で広がる大地があった。その果てには、大海原が見える。
青海と蒼空の境界線。その果てに、僕たちが求める【永遠の答え】があるような気がした。遠い昔から追い求め続けている、神秘の宝石。誰にも奪うことのできない、光輝の秘宝。
心が奪われてしまいそうなほどの、美しい地球の姿。
これが……本当の宝物なんだろうな……。
「…………い…………おい……」
誰かが、僕の体を揺らしている。
「……おい。空、起きろって」
僕は目を薄く開けた。
「…………んぁ?」
「ホームルーム、始まるぞ」
「ホームルームを始めるぞー。学級委員!」
頭を上げると同時に、先生が大きな声で言った。
「起立!」
フラフラの状態で立ち上がり、一礼し、再び机の上で目を閉じた。しかし、一度起こされてしまうと、再び眠りに就くのは難しい。なかなか寝ることはできず、結局2年生最初の1時間目に突入した。
その日の昼、僕はいつものように、和樹と啓太郎(同じクラスの友達で、こいつは中学の頃から知り合い)の3人で昼食を取っていると、
「そう言えば、見たぜ? 空」
和樹がニヤついた表情で言った。
「……気味悪い顔するなよ……」
「まあまあ。今日の朝、一緒に登校してた女の子、誰なんだよ?」
僕は思わず箸を止めた。
こいつ……見てやがったのか……。
「あの子、昨日の入学式で新入生代表だった女だろ? 知り合いなのか?」
「?? 何の話だよ」
啓太郎は何も知らないので、サンドウィッチをほお張りながら言った。その姿はどことなく子供っぽい。
「啓太郎には後で説明してやるから。で? 誰なんだよ?」
「誰って……幼馴染だけど」
「幼馴染?」
僕はうなずいた。別に隠しておくことじゃないし、教えておいてやろう。
「近所の子供で、双子の姉妹なんだよ。だから、物心つく以前から一緒に遊んでた仲なんだ」
「双子? あぁ、たしかにもう一人いたな。よく見えなかったけどさ。それにしても、なんで今まであんなカワイイ幼馴染がいたことを教えなかったんだよ?」
「別に教えなかったわけじゃなくて、教える必要性がなかったんだよ」
「ホントかぁ?」
疑心に満ちた顔をする和樹。
「……ホントだよ。証拠に、啓太郎は知ってるもんな?」
「何が? その双子?」
啓太郎はきょとんとした顔をしていた。
「覚えてないか? 中学の時、1つ下の『日向姉妹』って」
「……あぁ、あの日向姉妹ね。和樹が言ってたのって、日向姉妹のことか」
他に双子はいないと思いますけどね……。
「おいおい、俺だけかよ? 知らなかったのは」
「和樹は中学が違うもんな。有名だったんだよ。空の幼馴染で、美人で聡明な日向姉妹って。まぁ、美人というより可愛いって言ったほうが妥当か」
少したれ目で、大人の女性受けしやすい童顔の萩原啓太郎。中学の頃からの友達。啓太郎はマンションが一緒だった和樹と知り合いで、そのつてで僕は和樹と知り合った。啓太郎は美香のことも知ってるし、修哉は勿論、日向姉妹のことも知っている。ちょっと天然な性格だが、根はしっかりしている。何事もそつなくこなし、みんなと分け隔てなく接することだ出来る。裏表のない性格だが、物事を見極められるやつだ。
「美人で聡明? おいおい、修哉の女バージョンじゃねぇか」
たしかに、言われて見ればそうだ。修哉もルックスは学校随一だしな。数ヶ月前、町中でモデル雑誌の人にスカウトされたって言ってたしな。…………断ったらしいけど。
「そんなんじゃあ、男子生徒が黙っちゃいないだろうな」
和樹は笑いながら言った。
「中学の時でも、男性陣は放っておかなかったね」
啓太郎は苦笑していた。
「あの頃、あいつらの幼馴染だからって、僕が取り次ぎ役とかさせられたんだぜ? 迷惑な話だったよ、ホント」
「と言うことは……空の幼馴染で、仲が良いってことがばれると、また同じことが起こるな」
和樹はハハッと笑った。
「おいおい……冗談じゃねぇよ」
あの時のことを思い出すと、ホントにめんどくさかったもんだ。「紹介してくれ」「俺の印象を良くしておいてくれ」とかさ。しかも、空と海は「代わりに断っておいてくれない?」などと言う始末……。そりゃ、面識の無い人だから会いたくないのもわかるけど、相手を生殺しにするようなことをするなっての。おかげで、怨まれることは多々あったんだからさ。いい迷惑だったよ……。
「ところで、その姉妹の名前は?」
「和樹さ、昨日の入学式で聞かなかったか?」
「ハハ、ボケッとしてた」
こいつは僕以上に怠け者だな……。こんなやつらが生徒会役員をしているこの学校って、おかしくないか?
「日向空と海……だったっけ?」
啓太郎は確認するかのように僕の顔を見た。
「日向空!? マジで!? お前と同名!? 女なのに!!?」
リアクションが大きすぎるぜぃ、和樹君……。
「女でもアリな名前だとは思うけど……」
まぁ、啓太郎の言うとおりだ。
「はぁ〜〜なるほどなぁ……」
和樹はお茶を少し飲み、イスに深々と腰掛けた。
「飛びっきりの美人で、しかも頭が良い双子の姉妹が自宅の近くに住んでて、一人は同名。……なんかさ、運命を感じないか?」
和樹は薄気味悪い笑顔を浮かべた。と言うより、人の恋路をネタに笑う奴の顔だな。
「何言ってんだ。たまたまだろ、たまたま。偶然が重なっただけだよ」
「偶然ねぇ……」
「……なんだよ?」
和樹は意味深に呟いたので、思わず訊ねてしまった。
「それほど偶然が続くと、もはや運命だとは思わないか?」
「…………」
運命って……大げさだな。
「もしかしたら、空ちゃんか海ちゃんのどちらかが、お前と結ばれる運命にあったりしてな」
啓太郎の言葉で、僕は思わず吹き出しそうになった。
「……啓太郎、あり得ないことを言うなよ」
「思い当たる節はあるんだよ。……彼女たちってかなりの秀才だろ? 三瀬高校に100パー合格できるほどの」
「はっ? マジで!? んなに頭良いの?」
和樹は目を丸くした。前にも言ったが、三瀬高校はそれほど良いところである。
「そんな彼女たちが、わざわざ平凡高校のここに入学してくるかな?」
「……理由を聞いたら、『近いから』とかって言ってたけど?」
「それだけかな? ……もしかして、空と同じ高校に行きたかったんじゃないの?」
「…………」
僕は啓太郎に何も言い返せなかった。そんなこと、考えもしなかった。
「けどさ、あれだけの美人は空に勿体無いだろ?」
「……和樹……それは、どういう意味だ?」
「セリフどおりの意味ですが?」
和樹は自信満々の顔で言い放った。僕は一発、頭をはたいてやった。
「ハハハ、図星を突かれたからって怒るんじゃねぇよ」
「うっ……まだ言うか」
たしかに、僕と彼女たちではつり合わない。それは、中学の頃になってようやく気付いたのだが。
「けど、空はそこそこ良い方だと思うけどね」
啓太郎がサラッと言った。そんなこと言われたことがなかったので、僕は照れてしまった。
「……そ、そういうことを言うなよな……」
「まぁたしかに、啓太郎の言うとおりではあるな。空はいつも修哉とつるんでたから、みんな忘れがちになっちまうんだよな」
「そうそう。修哉は飛び抜けてるからね」
啓太郎はハハッと笑った。
「あいつと一緒にされたら、たまったもんじゃないよ」
「俺も、あいつと一緒にされたら嫌だな」
「まぁ、中身は馬鹿だけど」
「同意」
僕たちは同時に笑った。
修哉は誰もが認める、パーフェクトな人間だ。全国模試で1位を取るほどの頭脳、運動神経抜群で長身、細身でかっこいい。今まで、何十人という女性が(下は小学高学年から上は30代のおばさんまで)修哉に告白したのを目撃した。というより、一緒に歩いているといきなり言われたんだけど。
そんな修哉だが、実は今まで一度も女性と付き合ったことが無い。と言うより、付き合おうとしなかったと言ったほうがいいか。
「女性と付き合うと、いちいちめんどくさい」
そう言って、いつも微笑んでいる。そこのところは、人によって感じ方が違うから、僕はなんとも言えないんだけどな。
「だけど、お前は好きじゃないの? 日向姉妹は」
和樹が言った。
「……別に好きでも何でも無いけど……」
「おいおい、ホントかぁ? あれほどの女の子がいると、たまったもんじゃないと思うけどな」
「……どっかの親父みたいだな……」
「普通、好きになると思うけどな。幼馴染で、かわいかったら」
「…………」
う〜ん……。
「……深く考えたことはなかったけどな」
「そうなのか? まぁ好きじゃないなら、それはそれでいいけど、そんなんじゃあ、お前は他の女には見向きもしないんだろうな」
「?? どういう意味だよ」
「日向姉妹に恋愛感情を持たないなら、他の女性には目もくれないってこと」
啓太郎が丁寧に説明した。
「そ、そんなこと無いよ」
「だったらお前、誰かを好きになったり、誰かに告ったりしたことあるのか?」
「…………」
「そう言えば、空に関する恋愛という類の話は挙がらないよな、昔から」
啓太郎が言った。
「勿体無い人生歩んじゃってるなぁ、お前は」
「余計なお世話だっての」
僕は弁当のおかずの最後、ウィンナーを口に運んだ。
「……逆に、日向姉妹のどちらかが、空のこと好きだったり」
「むぐっ」
僕はウィンナーを口から発射しそうだった。
「それこそあり得ないだろーよ、啓太郎」
和樹は笑いながら言った。
「そうかな? あまりに仲が良いから、あり得るかと……」
「なぁにぃ〜? それは実に許せん! ……ああぁ! そうか!!」
和樹は何かを思い出したかのように、立ち上がった。その瞬間、他の席で食事をしているクラスメイトの視線が和樹に集中した。
「入学式の時、空ちゃんがニコッと微笑んだ相手は……お前か!」
和樹は勢い良く、僕を指差した。
「な、なんだよ? それの何が――」
「てめぇ! 羨ましいんだよ!!」
その時、和樹はご飯粒をデコピンで、僕の顔に飛ばし始めた。
「ちょ、ちょっと…………止めろっての!」
悪ふざけが過ぎる、和樹。こんなのがそれなりにもてるんだから、世の中おかしいよねぇ……。
運命、か。
隣の家で生まれ、同じ名前を持ち、共に過ごしてきた。たぶん、彼女たちといる時間が最も長いのかもしれない。
幼稚園、小学校、中学校……そして、高校。16年と半年生きてきた自分の人生の中で、4分の3以上が彼女たちと一緒だ。
運命ねぇ……。
まぁ、あいつらが僕と同じ高校に行きたかったから、この高校を選んだわけじゃないだろう。あいつらにとって僕は、長い付き合いの幼馴染でしかないんだし。
きっと、あいつらは僕と同じように、その『幼馴染』という感覚でしかないはずさ。恋愛感情だとか、そんなのは一切無いと思うけどね。今まで、そんな素振りを見せたことはなかったもんな。
午後3時半頃。6時間目が終わり、ようやく初日が終了した。ほとんどが授業と言うより、これからの授業の説明や、新しい先生の自己紹介or生徒の自己紹介みたいなのばかりで、楽と言えば楽だった。しかし、1ヶ月近くもグータラな生活をしていた自分としては、結構こたえるものがあった。しかも、空たち(ほぼ海だが)に早起きさせられたために、普段よりも滅茶苦茶眠くなってしまった。おかげで、1〜3時間目の授業はほとんど起きていた記憶が無いのが現状。
「空ーー」
クラスメイトが教室から出て行く中、出入り口付近で美香が呼んでいた。
「何?」
「柊君が来てるよー」
「修哉が?」
僕は教科書をカバンに詰め込み、のらりくらりとそこへ行った。
「おっす、空」
教室から少し出た所に、修哉がカバンを持って突っ立っていた。相変わらず、制服のボタンを閉めていない。
「おっす。何か用?」
「まぁ少しな。帰り道で言うから、帰ろうぜ」
「……?? ああ、わかった。じゃあ、また明日な。美香」
「あ……うん、バイバイ」
美香は小さく笑って、手を振った。
廊下を歩いていると、時おり修哉は後ろへ振り向いていた。
「さっきから、何を気にしてんの?」
「ん? ああ、さっきの……小山内だったか? お前と仲が良い女」
「そうそう。よく名前覚えてたな、お前」
「女の名前は忘れねぇよ」
修哉はハハッと笑った。
「ホントかよ? ふった相手の名前とか、覚えてんのか?」
「面識の無い奴の場合は、覚えないんだよ。覚えても、話すことなんて未来永劫無いだろうからな」
「相手もかわいそうに……。で? 美香がどうしたって?」
「ああ、そうだった。……お前、なんであの女と仲が良いわけ?」
修哉は軽く質問してきた。
「普通に、話してておもしろいからだろ? ていうか、それなりに話が合うんだよ。それに、中学の時からのクラスメイトだし」
「ふ〜ん……」
修哉は微笑を含んだため息をついた。
「……なんだよ? その意味深なため息は」
「いや、なに。お前には空ちゃんと海ちゃんがいるのにってことよ」
「……はっ? 何言ってんだよ。空と海は、別に僕の恋人でもなんでもないだろ?」
「そりゃそうだけどよ、小山内のほうはそう思ってないんじゃないかってことさ」
「??」
僕は頭をかしげた。
「つまりさ、小山内だけじゃなく、他のやつから見れば、空ちゃんと海ちゃんはお前の彼女に見えちまうってことさ」
「な、なんだよ? それ」
すると、修哉はフッと笑った。
「ようするに、これからは彼女たちと接する時は気をつけろってことだ」
「……な〜んか……なーんとなくだけど、お前が言いたいこと、わかった気がする」
「おっ? マジで?」
僕の苦笑とは対照的に、修哉はうれしそうに笑った。
修哉が言いたいことはつまり……。
「中学の時と同じことが起こるって事か」
僕は大きくため息をついた。
「ハハ、そういうこった」
「……人事だと思ってさ」
「だって、人事だもんよ」
「……ぬぅ……」
修哉の笑い方が、妙に腹立つ。
「そういうお前も、周りの女が放っておかないんじゃねぇの?」
「んなの、もう慣れたし。簡単にあしらっておけばいいじゃん」
僕は皮肉染みたことを言ったつもりなのに、修哉は軽くかわしやがった。
「お前も大変だよなぁ。かわいい幼馴染がいるとさ」
「……それ自体は別にいいんだよ。そもそも、空と海が自分で対応すればいいんだよ。……憎まれ役を、なんで僕が…………」
僕は顔を沈めた。嫌なんだよなぁ……僕が代わりに断る時の、相手の悔しそうな顔や、悲しそうな顔とか。たまに、突っかかってくる奴もいるし。
「そういう星の下に生まれたんだよ、お前は」
修哉はポンと僕の肩に手を置いた。
「星の下って……大げさだな」
「ハハハ、たしかにな。ま、俺のクラスの野郎どもが3人、明日2人のどっちかに告るらしいから、よろしく〜」
「僕に言わないで、本人に言えっての!」
「それも俺に言わないで、告白しようとしている野郎どもに言えよ」
修哉は笑いながらあしらった。
その日、修哉と僕は一緒に帰った。久しぶりに、僕の部屋でゲームがしたいんだとさ。家に着いたのは4時前。僕の家から高校までは、ほんの15分程度の距離なので、登下校には便利なのである。自転車があれば尚良いんだけど。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
「あらあら、修哉君じゃないの」
「お久しぶりです、おばさん」
修哉は玄関から、礼儀正しくお辞儀した。
「相変わらずカッコイイわねぇ〜。惚れ惚れしちゃうわ」
「……気持ち悪いこと言ってんじゃねぇっての」
僕は吐き付けるように言った。40代半ばのババァが何言ってんだって話だよ。
「……あんたも、修哉君みたいな男の子になってくれればねぇ……」
「あのな、遺伝的に無理ですよ。遺伝的に!」
僕はそこを強調して言った。
「ほほぅ? 実の母親に向かって、そんなこと言っていいのかな?」
「…………」
僕はそれ以上言われたら不利になりそうなので、何も言わず2階へ上がろうとした。
「あれ? 逃げるつもり?」
「……ハイ、逃げるつもりです。ホラ、修哉、行こうぜ」
「ハハハ、相変わらずですねぇ」
僕たちは僕の部屋で、昔懐かしのゲームをした。現代の小学生はきっと経験したことの無いゲーム機で。
そんなゲームをしていると、日が山に隠れ始めた。この時期だと、6時過ぎの時間帯と言ったところか。
その時、
「こんちは〜!」
元気の良い声が響いた。この声は、海だ。
「元気良いなぁ、海ちゃんは」
修哉もいい加減、聞き慣れている。
「それがあいつの取り柄だからな」
「『大海原』の海。元気が良いと言うより、何もかも包み込む大きな優しさ……っていうイメージなんだけどな」
「あぁ、なるほど。修哉にしては、うまいこというじゃん」
「『海』って名前を付けたってことは、そういう人になってほしいっていう両親の想いが込められてるんじゃないかと思ってね」
「僕もそうだけど、自然の名前を付けられたことは、最初はなんだか恥ずかしいなぁって思ってたけど……なんか……」
「こんちはー!!」
言いかけた瞬間、僕の部屋の扉が勢いよく開いた。そこから、空と海が入ってきた。想像通りのご登場です。2人は、高校の制服のままだった。
「あっ! やっぱり修哉君だ」
「おっす、海ちゃん」
「こんにちは」
空はペコリと一礼した。
「こんちは。相変わらず、空ちゃんは礼儀正しいな」
「何? 私は礼儀がなってないと?」
海はギロッと、上から修哉を睨んだ。
「ハハ……冗談だよ、冗談」
「……で? お2人は何の用で?」
「……なんで怒ってるの?」
空は目をパチクリさせた。
「……別に」
僕はそっぽを向いた。
「ハハ。明日、大変な目に会うってわかってるからイライラしてるんだ。気にしなくていいよ」
修哉は笑いながら言った。
「…………?」
空はよくわかっていないらしい。まぁ、別にいいんだけどさ……。
「そんで? 何か用?」
「別に用は無いよ」
海が言った。
「だったら来んなよ。てか、今日の朝来たばっかじゃねぇか」
「高校生活最初の授業日のことを話したいんだってさ」
空がなぜか説明した。
「……わざわざ、なんで僕に言いたがるんだよ……」
「まあまあ、聞いておくんなし」
なぜか海は昔話をしようとするおばあさんのように、彼女は満面の笑みで今日一日のことを話し始めた。
同じ中学の順子ちゃんと同じクラスだったとか、女子の友達ができたとか、お姉ちゃんが学級委員に抜擢されたとか、男子生徒が何度も何度も話しかけてきてめんどくさかったとか、担任の先生は少しはげてるとか……。
「……ってことでさ、なんだかおもしろかった! 高校って、想像以上に楽しいね。中学の時とは違う友達ができるし」
「ハハハ……なるほど……」
修哉は笑顔で答えていた。しかし、内心「めんどくせぇ〜」とかって思ってんだろうな……。
「空、聞いてんの?」
「……はっきり言って、聞いてませんね」
「この、馬鹿空!」
海は僕の頭をはたこうとしたが、僕はその前に海の手首を掴み、未然に防いだ。やられる前に、どうにかするってことさ。
「いちいち叩こうとするなっての。ホント、めんどくさい女だ」
「なんですってぇ!」
もう片方の手で、海は僕の頭をはたいた。
「いってぇな!!」
「うっさい! お姉ちゃん、帰ろ!」
海は立ち上がり、部屋から出ようとした。
「もぅ……巻き込もうとしないでよ。私、もうちょっとゆっくりしたいしさ」
「ちぇっ。じゃあ、私は先に帰ってるね。……明日は、起こしに来てやんないからね!」
海はいたずら小僧みたいに舌を出して言った。
「お願いした覚えはありませんがね」
僕も彼女と同じように、舌を出して言った。海はドアを強く閉め、出て行った。途中で、「お邪魔しました〜!」と、海の声が聞こえた。
「……なんだかんだ言って、海ちゃんも礼儀正しいよな……」
修哉は窓の外を見つめた。
「……ああやってやんちゃっぽく見せようとしているのは、空との違いを強調するためなんだと思うけどな。髪の長さ以外、まったく同じだもんな」
空はロングで、海はショートである。いや、セミロングっつーのかな?
「海は、私と2人っきりのところじゃあ大人しいもん」
「……だろうなぁ。まっ、それがわかってるから、多めに見てやれるんだけどな」
「…………」
僕はハハっと笑った。
「それじゃ、そろそろ俺もお暇するとしますか」
すると、修哉は立ち上がり、カバンを掴んだ。
「? 帰んの?」
「ああ。もう7時過ぎてるしな。沙希が、7時半までには帰れってうるさいしさ。まぁ……この分だと怒られるのは必至だな」
修哉は優しく微笑んだ。咲希ちゃんのこととなると、なんだか表情が和らぐんだよな……修哉って。
「じゃあな、空。また明日。じゃあね、空ちゃん」
「ああ、またな」
「うん、バイバイ」
そして、修哉は部屋から出て行った。
「……んで? お前は帰んないの?」
「……帰ったほうがいいの?」
「……別に、いたいならいてもいいけど」
なんか調子狂うな。空はたまに、わけのわからないテンポを繰り出す奴だからな。
「昨日の新入生代表の言葉といい、1番最初の学級委員になったといい……お前はいきなり優等生ぶりを発揮か」
僕は笑いながら言った。
「好きでなったわけじゃないよ」
「わかってるよ。もし好きでなってたとしたら、なんか嫌味な奴って思うし」
「そうだね」
空はかわいらしく笑った。
「そう言えば、どうしてイラついてたの?」
「ん?」
「修哉君が、明日空は大変な目に会うって言ってたから……」
「ああ、そのことか」
今更、その質問をされるとは思わなかった。
「修哉の同じクラスの男子が、明日お前か海、どちらかに告白するってんで、中学の時みたいに僕が迷惑するんじゃないか……って話さ」
「えっ? こ、告白?」
空は顔を赤くした。
「らしいぜ。お前は中学の時もそうだったけど、今回もなんだか大変なことになりそうだな」
「もう、嫌だなぁ……。空、どうにかしてよ」
「それこそ嫌だよ。ていうか、それが嫌だからイラついてたって言ったじゃねぇか」
「あっ、そうだった」
「すっとぼけたこと言うなって……」
「……それにしても、なんで知らない人から告白されなきゃならないんだろ……。一度も話したこと無いのに」
空はため息をつきながら天井を見上げた。
「そりゃお前、かわいいからだろ?」
「……えっ?」
空は僕の方に顔を向けた。
「幼馴染の僕から見ても、学校内ではトップクラスだと思うけどな」
「…………」
「まぁ、男ってのは単純だから、かわいい人を見つけるとどうにかして近付きたいって思うんだよ。修哉のクラスメイトも、当たって砕けろって考えでもしてんじゃないの?」
「はぁ……嫌だなー……」
空はため息をつき、顔を沈めた。
「そんなに嫌なんだ、お前」
「だって、これから目が合ったりすると気まずいじゃない。……同じ学校にいる以上、廊下ですれ違う可能性はあるんだからさ……」
「……ふ〜ん……」
彼女の落ち込む表情を見ると、本当に嫌なんだと思った。彼女は相手の心を傷付けることが、最も嫌なのだ。そういうやつだから。
「気にすんなよ。修哉のクラスメイトなんて2年生なんだし、学校行事や校外でしか遭遇しないはず」
「遭遇って…………モンスターじゃないんだから」
「お前に近寄ってくるモンスターってことで」
「変なの、それ」
空は小さく笑った。
「じゃあ、空がその人たちから守ってくれるの?」
「はっ?」
彼女が僕を見つめる瞳は、きれいだった。
あれ……こんなんだったっけ?
「私をモンスターから守る役目……でしょ?」
彼女の言葉で、ハッとした。いかんいかん、何ボーっとしてんだ。
「……なわけねぇだろ。嫌だよ、めんどくさい」
「私だってめんどくさいよ」
「あのなぁ、僕は関係ないだろ? 相手は、お前に告ってるんだ。お前……お前たちがちゃんと言ってやらないと、相手がさらにかわいそうだろ?」
「…………」
「そうやって断ったりするのが嫌なら、さっさと誰かと付き合えばいいんじゃないの?」
「えっ?」
空は顔を上げた。
「お前が誰かと付き合っていれば、他の男は寄り付かないよ。と言うより、告白しようとする奴はいなくなるんだろうけど」
「誰かって……誰と?」
「そりゃお前、好きな奴だろ? んな当たり前のこと聞くなよ」
「好きな……人……」
いちいち訊ねなくても、わかることだとは思うのだが。空って時々ではなく、結構な頻度でボケたことを言う。……一般的なものが抜けてるのかなぁ。
「お前、今まで誰とも付き合ったこと無いだろ? まさか、いないことはないだろ〜」
「……まぁ…………いないことは、無いけど……」
空は恥ずかしそうに顔を隠し、小さくうなずいた。
「へぇ、そうなんだ。初耳だけど、誰なの?」
野次馬精神とでも言いましょうか。こういう話を聞くと、聞かずにはいられない。それが幼馴染の彼女なら尚更だ。彼女ほどの女を恋に落とさせている奴ってのは、どんな奴なのか?
「誰って……教えなきゃ……ダメ?」
「へ? ま、まぁ、嫌なら言わなくてもいいけど……。でも、幼馴染としては気になるじゃんよ。お前も、僕の好きな人がいるかどうとか気になるだろ?」
「え……? そ、そりゃ……気になるけど……」
「……けど?」
僕はニヤニヤしながら言った。何でか知らんけど、困ってる空の姿はちょっとおもしろい。
「…………もぅ! 変なこと言わせようとしないでよ! 恥ずかしいじゃない!」
空は顔を真っ赤にして言った。
「ハハハ、ごめん、ごめん」
「もぅ…………空って、いつも思うけど私をからかうよね」
彼女はそっぽを向いた。どっかの子供みたいだ。
「いやいや。お前と海、同じくらいからかってるつもりなんだけど?」
「そう……? なんか、私の時の方がひどいような……」
「海の場合は、すぐムキになるからそう見えるんだよ。まぁ、あいつのそういうところはある意味、からかいやすいんだけどね」
「何よ、それ」
「……なんにしても、僕からしたらお前たちはある種の妹みたいなもんだからなぁ……。一応、年下だし」
「…………」
「生まれた時から隣同士で、物心つく前から知り合いで。何をするにしても、幼い頃は一緒だった。…………時間が過ぎていくのと同時に、一緒にいる時間も減っていったような気はするけどな」
僕はベッドの上で横になった。
「……そうだね……」
「僕はお前たちと出会った時のことなんて……覚えて無いもんな。初めて会った時、何を思ったんだろうな……」
「…………」
人間ってのは、生まれから見てきたもの……すべてを記憶し、脳に内包している。しかし、人は歳を取っていくのと同時進行で、その引き出しを開ける力を失っていく。記憶することがどんどん多くなり、末端のものは引き出されないまま、隅に追いやられていく。物置に入れられた、子供のときのおもちゃと同じ……だな。
「……私は、覚えてるよ……」
「ん?」
「私は空と初めて会った時のこと……覚えてるよ」
「マジで?」
空は小さくうなずいた。
「うん。……いつもニコニコしてて、私が泣いたら励ましてくれた」
「ハハ、そんなことしてたのか? 全然記憶に無いもんな〜」
「いつも、空の後を追っかけてた……」
「……お前はのろいからな、何かと」
「余計なお世話」
「そりゃそうだ」
僕と空は同時に笑った。
「……でも、もうあの頃には戻れないんだね……」
「まぁな。もうガキじゃないんだし。あと何年かしたら成人するわけで」
「……そうだね」
「けど、これからもお前が泣いたりしたら、昔の時と同じように、お前を励ますよ」
「……空」
「それが幼馴染の専売特許だろ?」
「……ありがとう……」
空はニコッと微笑んだ。
「…………」
「…………」
なぜか、変な沈黙が流れた。何かを言わなきゃって思うんだけど、同時に言い掛けたりしそうで、なかなか言葉が出てこない。そういうもんじゃないか?
「……あのね、空……」
空がこの沈黙を破った。
「ん? 何?」
「……私、いつも空に言いたかったことがあるの」
「うん?」
「……私……」
……聴こえるかしら……
「!!」
僕は天井を見上げた。そして、すぐさま部屋の隅々を見渡した。
「…………?」
何もいない。なんだ? 今のは……。
「?? どうしたの? 空」
空は頭をかしげていた。
「……今、何か聞こえなかったか?」
「え? 別に、何も聞こえなかったけど……。どうかしたの?」
「……いや、なんでもない……」
僕は肩の力を抜き、視線を落とした。
今のは……ただの幻聴か? 女性の落ち着いた声……。なぜだかわからないけど……とても懐かしい……感じがする。
幻聴…………だよな……。
……お願い……
「!!!」
まただ! また聞こえた!
……永遠に……りし、言霊…………私たちの……を……
「な、なんだ!?」
僕はベッドの上から降り、立ち上がった。
「ど、どうしたの?」
空は目をパチクリさせている。
「聞こえなかったか!? 今、変な声が―――」
その瞬間、頭の奥で何かが「ピキー」と鳴り響いた。それと同時に、頭の奥で何度も叩かれているような痛みを感じた。
「ぐっ……!」
その痛みに耐えられず、僕は顔を沈めた。
「ちょ、ちょっと……大丈夫? 頭でも痛いの?」
空は心配そうに、僕の頭をさすった。
……ワレ……エニ……ミヲカタ…………ケヨ……ムクナル…………テイシャ……ヨ……
なんだ……!? この声……違う、すごく不気味だ……やめろ……やめてくれ!!
「いっ……てぇ……!!」
あまりの痛みに、僕は立っていられなくなり、その場に沈んだ。
「そ、空? どうしたの?」
空は何がなんだかわからず、声を上げる。
「……あた…………まが…………!!!」
何かで頭を叩かれているかのようだ。鐘が鳴り響くかのように、大きな振動となった頭痛が波紋みたいに広がる。
……ありとあらゆる………………メイヲ……ワガテニ……ルソノトキ……タ……!
「くっ……!!」
なんだ……なんだって言うんだ……!?
この痛みは……一体……??
「空!? 空!!?」
空の声が、遠くから聞こえる。
沈む。沈む。
どこかへ。
「しっかりして! 空…………空ぁ!!」
彼女の僕を呼ぶ声が、僕の奥で木霊する。あっちに行って、こっちに行っている。
その時、僕は気を失ってしまった。
「…………ここは……どこだ?」
辺りを見渡すと、見たことも無い風景が広がっている。……いや、真っ暗だ。何もかもが、黒い。黒く塗りつぶされているみたいだ。
「……おーい! 誰もいないのかぁー!!?」
還って来るのは、沈黙だけ。
足を進ませてみた。けど、それがわからない。前へ進んでいるのかどうかさえ、わからないのだ。
完全なる暗闇。
人間、こういう場所に立たされると、今、自分が何をしているのか、どこを向いているのか、立っているのかさえも不明になってくる。
――……ヴェス…………………………セヴェス……――
誰かの声が、遠くから聴こえて来た。
「……誰かいるのか?」
そう言っても、何も還って来ない。なんだってんだと思った時、
――2つの『はかり』にかけられたお前は、どう生きる――?
「……??」
まったく、意味がわからない。その言葉は、僕に向けて言ってるのか? そもそも、僕はセヴェスって言う名前じゃあないし。
――道のりは厳しく、同時に激しい。それは川の濁流の如し。獰猛なる風の如し――
「……だからさ、意味わかんねぇって」
僕は呆れ交じりの声で叫んだ。
――時を同じくしてその権利を得たのならば、その権利を行使し、すべきことがあるということだ――
「おいおい、僕の声、聞こえてるんだろー?? 無視すんなー!!」
――あぁ……そう、私たちは還るのだよ――
――時は……来た――
僕の意識は、また遠くなった。
また、沈む。
どこかへと。
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