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「夏祭りい?」
「そうです、夏祭りです。近所の神社でやるんでみんなでいきましょう」
「愁、おまえまた誰かに押し付けられたんじゃないだろうな」
「いえいえ。今度は違います。ジャ○アンたちなら黒人さんたちと一緒に捕まったんで。なんなら、全員にりんごあめと綿菓子と射的と金魚すくいの料金を払いますよ」
「ほんと?いやーラッキーだな。金曜日が楽しみになってきたよ。さんきゅー和泉君。わたし楽しみだわ」
「え?ちょっと、冗談ですって、大体、実さん最近太ってきたんじゃないですか。りんごあめなんて許されませんよ」
「・・・・・・・・ウエスト三センチも増えててさ・・・」
「良かったですね。ふくよかな体型になれて。ちょっと太ってるくらいが丁度良い世の中ですよ。僕はスレンダーが好みですけど」
「・・・・・・大半の男がやせてるほうが好みでしょうよ・・・・」
「・・樹も、連れてってくれる?」
「わっ!!樹ちゃん、いたの?!」
「・・今、学校から帰ってきたの」
「樹ちゃんはもうなんでも買っていいよ。射的もいいもの落としてあげるよ」
「愁、・・・・・いや、まあいい」
さすがの拓も満面の笑顔で和泉君に受け答えをしている樹ちゃんには何も言えない。
「じゃ、金曜日の五時半に迎えに来るんで。忘れずに!」
「混んでるったらないわね〜」
黄色地に花模様のついた浴衣をきて、麻衣子ちゃんが不服そうに言う。こんな格好でも、チャームポイントのポニーテールはおろさない。
「人気がない祭りなんて恐ろしいと思うけど」
和泉君はそう言ってメガネのくせに作務衣姿でパタパタとうちわを扇ぐ。しかし、涼しげな風は和泉君本人をスルーして樹ちゃんや麻衣子ちゃんに当たっている。
「シーフは来ないってさ。一緒に回れないんだって」
欠伸をする拓は紺色の着物を着ている。そしてふところに手を突っ込んで出さない。そこに財布が入っているようだ。こういう風に財布などを死守する形の人はたまにいるが、仮にも盗賊であるはずの拓がそこまでするのはどうだろうか・・・・・祭りを楽しめないのではないだろうか。
「・・・・人ごみ、はぐれそう・・・」
もともと低身長(140センチくらい?)であるため、樹ちゃんはすぐ人ごみで見えなくなる。衣装は、紫の浴衣に黄色の帯で愛らしい。が、ほぼ同じ身長である麻衣子ちゃんは、ポニーテールで実際の身長より5センチは高く見える。便利なものだ。
かくいうわたしも少しは洒落っ気を出してきた。タンスにしまいっぱなしだった母の赤い浴衣を着用して、顔にも化粧をしてきた。もとの品位を損なわぬよう、薄めにつけた化粧こそが、人の美しさを際立たせる。
「じゃ、射的やろうか。樹ちゃん、どれかとって欲しいのある?」
「・・じゃあ、あのぬいぐるみ・・・」
チョイスとしては女の子っぽくて良い。だが、あんな巨大なぬいぐるみ(目算約六十センチ)、はたしてコルク玉で落とせるのだろうか。・・・いや、取る。和泉君はまず間違いなくとる。樹ちゃんに好かれるためなら最早なんでもする気がする。
「わかったよ〜じゃああれとってプレゼントするよ」
この勝利宣言にも動じない店の人。流石に何年も屋台出してる人は違う・・・・・アレ?
「てんちょおおおお!!?」
「ははははは!和泉クン。まさか君は、完璧なる重心調整を施したこの的たちに勝てるというのか!?無理だ。知り合いでも容赦はせんぞ!!」
鬼と化した店長。哀れなる和泉君の周りでは先に挑戦したらしき人々が、おい、無理だよせ、ここのはイカサマやってる、と忠告している。しかし、和泉君は涼しい顔してコルク玉を詰めている。
「負けられない理由がある」
かっこよすぎ。でもたかが射的。
そして、第一発。くまのぬいぐるみの耳にヒットし、重心は大きく崩れ、たかに思われた。まったく動かない。
「やっぱりイカサマだ!!重りをいれてるんだろ!!」
店の客たちが騒ぎ出す。店長は、はーっ、とため息をつくと、客の一人を手招きしてぬいぐるみを持ち上げさせた。
「かっ、軽い・・・・こんな大きいのに二百グラムもなさそうだ・・・」
「さあ、残り四発だ。落とせるかな」
不敵に笑う店長。すると和泉君は何を思ったか銃を持ってギャラリーの中へ入っていく。
「敵前逃亡、か。君には期待していたのだが。その程度だったか・・・というか銃返せ」
しかし、和泉君は逃げてなどいなかった。十分な距離をとると、一気に駆け出したのだ!!そうか、助走をつけてそのスピードを玉に乗せれば・・・・!
「吹っ飛べ」
パン、と乾いた音一発。くまのぬいぐるみは台から滑るように落ちた。その瞬間にわっと沸く歓声。店長も帽子を脱いで、こう言った。
「完敗だ。乾杯!」
客はゼロになった。ここは南極?
「ほら、ぬいぐるみ」
もこもことした巨大ぬいぐるみを手渡す和泉君。樹ちゃんもそれはそれは嬉しそうだが、
「そんな大きいの持って歩くのか」
拓の心無い一言で二人が固まる。ぬいぐるみは樹ちゃんの身長の半分くらいあった。
「うん、じゃあ僕が担ぎながら歩くよ。それなら大丈夫だよね」
そう言いながら和泉君はスタスタと通りを進み、りんごあめの店に着いた。大きなりんごが一玉丸ごと入ったあめをなぜか五人分だけ買う。すると和泉君は大きなぬいぐるみで両手が塞がってるのを思い出したように、
「ごめん、樹ちゃんか麻衣子ちゃんか、僕に食べさせてくれないかな。ホラ、手が使えなくてさ・・・・」
と言いおった!!今までの行動は全てここへの布石だったのか!!そこで樹ちゃんが、
「・・・じゃあ、新しいのを買って食べたら・・・」
「ごめん、もうお金ないんだ。食べかけでいいからもらえないかな?」
・・・・・究極だ。もともと食べかけを食べることしか考えていなかったんだ・・・・
「え・・・・・でも、汚いし・・・・・」
樹ちゃんがしどろもどろになりながら言うと、
「そんなことないって。食べさせて。あーん」
口をあけてそこにあめが入るのを待っている。たまりかねたわたしは、拓が買ってきたばかりのアツアツイカをそこにぶち込んだ。
「純真な少女にそんなことを要求した罰よ」
和泉君はあふい、あふい!!と叫ぶが、両手が塞がっているので口から外せない。かといってプレゼントであるぬいぐるみを落とすようなふとどき者にはなれない。無間地獄でハフハフ言い続けるしかないのだ。
「おにいさん、ちょっとどうしてそんなにへたくそなの。おじさん、あたしにもポイちょうだい」
決してジャグリング道具の話ではない。そう、小さな海を泳ぎまわる紅のルビーを捕まえる、あの屋台である。
「ここの屋台はすぐ死ぬ金魚じゃなさそうね。あたしからも合格点。でも、水の温度が少し高くて金魚が弱ってるから、少し減点ね。あと紙が和紙じゃない。店主が出目金のことを愛していない。それから極め付きは、お椀ですくってるやつがいるのに気づいてないこと」
ぶつぶつと屋台に点数を(難癖)つけているが、その間もポイは次々と赤い宝石を捕まえてジュエリーボックス(お椀)にぶちこんでいる。そして最後の台詞を言った瞬間、ジュエリーボックスで宝石(金魚)を捕らえるという暴挙を犯した子供に、空のジュエリーボックスを投げつけた。その男の子は泣き叫び、親を呼んだ。
「ちょっと!うちの子に何してくれてんのよこのちんちくりん!!」
堪忍袋の緒が切れるとはこのことか。背丈のことを言われてよほどイラついたのか、麻衣子ちゃんは一気にその親にまくしたてた。
「たーけ。ちょこっとだまってろ。おおちゃくこいて金魚よーけ盗って、おみゃーあれであんばようやったつもりか。かんこーしてちょーせんかね?オイ、おみゃーこっすい真似して、だましかるつもりか。とろくせゃあことやっといて、このたーけが。あーあ、八十日目だがや楽しかったのに。かえれ」
う〜ん、麻衣子ちゃんは名古屋は名古屋でもどこの旧家から石垣家の養子になったんだろう・・・
「・・麻衣姉ちゃんなんて言ったのかわかんないよう・・・怖いよ」
「ああ、あれは、『あほ、少し黙ってろ。汚いことして金魚を沢山盗って、おまえあれでうまくやったつもりか。工夫してやってくれませんかね?オイ、おまえ狡い真似して黙ってるつもりか。ばかばかしいことやっといて、この阿呆が。あーあ、久しぶりに楽しかったのに。かえれ』と言ったんだ。」
「拓、あんた名古屋弁しゃべれたの」
「うちのばーちゃんが方言を大事にする人だったからさ。でも、あそこまでしゃべれるほどに鍛えてはくれなかったけど」
二人の親子は麻衣子ちゃんのあまりの迫力に圧倒されて、その場をそそくさと立ち去った。あとに、観衆から拍手をうける麻衣子ちゃんが残った。
「やっぱり、真剣に金魚と勝負してこそ、の屋台でしょ。金魚が欲しいだけなら、ペットショップに行ってくればいいのに」
「いや、でもよくやったな。あそこまで言われちゃ、引き下がるよ」
そこではっと我にかえったかのように、麻衣子ちゃんの表情が一変した。
「お、おにいさん。・・・・あたし、はしたなくなかった、かな・・・・?」
「別に。小さいころからああいう風になるのはよく見てきたわけだし」
麻衣子ちゃんは深く落胆した様子でどこかへと立ち去った。拓は、「俺、なんか悪いこと言ったかな」と頭を掻いた。妹の心に気づいてやれよ。たーけ。(阿呆)
祭りの後はわびしいものだ。人が少なくなって閑散とし始める様子は耐えられない。というわけで、わたしたちは適当に祭りを楽しむと、店に帰って二次会をやることに決めた。唇をタラコのように腫らした和泉君は引きずって連れて帰り、神社の境内でどよんとしていた麻衣子ちゃんは金魚をちらつかせて連れて帰った。
「かーんぱーい」
店長から秘蔵の酒をふるまわれ、みんな顔を赤くする。これは旨い。さらに、わたし以外の五人は、和泉君が店の品の中から見つけてきたなんなのかよくわからない炭酸水のようなものでぶどう酒を割って飲んだりしていた。わたしは先にもらった秘蔵の品のほうが好みだったのでぶどう酒は飲まなかった。そして店長はどこだかの部族の演舞を始め、麻衣子ちゃんはその横で扇子を持って阿波踊りをしている。樹ちゃんだけは普段とあまり変わらないように見えたが、よく見ると目が死んでいる。とゆうか、寝ている。手にコップを持って中身を時折口にしながら、寝ていたのだ。
「あー、火照ってきた」
妙に身体が熱い。酒は成人式の日から半年経った今日まで、欠かさず毎日飲んでいたほどだというのに。やはり秘蔵の品だけにアルコールが強いらしい。あまりに暑くて苦しいので、少々の身の危険(隣にケダモノがいる)を省みないで浴衣をはだけたほどだ。
「ほんと、あっついなあ・・・・。実」
隣の拓が急にこちらを向いて真剣な顔をしている。
「何よ」
「おまえってよく見ると美人だよな」
なんだ、そんなことか。自覚症状のあることを言われても女はあまり喜ばない、というのを、いつになったら理解するのかしら。
「気づくのが遅いわね」
「愛してる」
・・・・はあ?
「なにいってんの・・・・・?ちょっと、あんた目がおかしいわよ」
さっきの樹ちゃんと同じで目が死んでいる。いや、違う。濁っているけどその奥で妙な光が宿っている・・・。狂気?
「本気だ。なんでだろう、幸せの青い鳥はやっぱり近くにあったのかな」
「おかしい。やばい薬でもきめたの?」
拓は、う〜、と言って震え始めた。?なに?と思っていると、犬の如く飛び掛ってきた!!
「ぎゃあ!!」
とっさに近くにあったお盆を前に突き出すと、拓は顔面からそこに突っ込んだ。こんな行動は常人ならしない。狂っている!
「み〜の〜り〜」
ゾンビだ。欲求不満で動くゾンビだ。身を翻して店内を駆け回るわたし。その後をゆらゆらと拓が追ってくる。これはまずい。普段優勢に立ってやつをいたぶってる分、こういう風に爆発したときは敵うはずがない!!
「ああ!!樹ちゃん!!」
さきほどまで椅子に座っておとなしくしていたはずの樹ちゃんも、ふらっと立ち上がってわたしの進路を塞いでいる。恐ろしいのは、彼女も暑かったのだろう、浴衣がはだけていて、それを和泉君が狙っていることだ。
「樹ちゃーん!!!うしろ!!」
もう和泉君と樹ちゃんの間は3メートルもない。わたしに出来ることは・・・・
「うりゃあ!!!」
跳躍、そして横にあったクロゼットを蹴り飛ばす。空中での動きを可能にしたわたしにとって、周囲1、5メートルは制空権の範囲だった。
「ちぇえすうとおおおおお!!!!!」
下駄シュート。べこっ、と音を立てて和泉君のわき腹にめり込む。和泉君を倒した。わたしは経験地を13ポイント習得・・・・後ろから拓が来たあ!!!!
「右足下段左回転蹴り・踵」でふくらはぎを殴打。そして腹に向けての左の掌。しかし頑丈な腹の筋肉でガードされる。
「功夫が足りんな」
「襲ってきてるくせになにを言ってんだあんたは!!」
左手を掴まれ、ぐい、と引き寄せられる。まずい。奪われる!
「・・・・お兄ちゃん、実さんから手をどけてあげて」
樹ちゃん!?なに今の台詞!!?
「なんだ・・・?げふうっ!!」
樹ちゃんが左手を後ろに引くと、カウンターに置いてあったコップが拓の後頭部にぶつかった!これ幸いと逃げ出すわたし。
「な、なにやったの!?」
「糸」
短い答えだが、なにをしたかはよくわかった。指先に結わえてある糸でコップを引っかけたらしい。どこでこんなスキルを・・・・・
「樹・・・・・どいてくれ」
「・・・いや」
拓が樹ちゃんんに襲いかかる!危ない!
「おにいちゃーん!」
そこに風の如く麻衣子ちゃんが現れた!なんだこれ!?
「おにいちゃん、あたしを置いて、どっこいっくの♪」
いやいや、麻衣子ちゃんが拓を呼ぶときは、「おにいさん」のはずだったが。なんでこんなにフレンドリー?むしろブラコンじゃないか!!
「ちょっと、麻衣子ちゃん!危ない!!拓は今」
「ぐげげげげげげげげげげげげげげげげ・・・・・・・」
絞まってる。見事なまでに。麻衣子ちゃんが拓にヘッドロックをかけている。
「どこ行くのか教えてくれないと、はなさなーい!おにいちゃん♪」
怖い!本気でやばい!殺る気まんまん!?むしろ「おにいちゃん」ってブラコンなのが怖い!究極の愛情表現!?
「・・・・愁お兄ちゃん・・・」
「樹ちゃん、もう糸は使わなくていいから、わたしと上の階に行ってみんなの酔いが醒めるのを待とう?怖いから。ほんとに恐ろしいから」
「・・・愁お兄ちゃんはどこ?」
和泉君はノックアウトした、とは口が裂けるまで言えない。
「上にいるだろうから、ね?」
「うん」
樹ちゃんは素直に応じてくれて良かった・・・もうここは修羅場だ。早く逃げないと・・
「君は♪なにを今♪みーつーめてーいーたーの♪」
店長は狂ったオルゴールの如く歌っている。しかもこのワンフレーズのみをリピートして。もう、一体全体、この騒ぎの原因は何よ・・・・
和泉が見つけてきた炭酸水。実はラベルのはがれた恋の媚薬。
「いつになれば収まるのか・・・・」
下の階から相変わらず聞こえてくる歌声、わめき声、叫び声のハーモニー。なにがどうなったのかわからない状態は朝まで続き、元に戻ったみんなは二日酔いと自分の行動についての恥によって、次の日動くことがなかった。拓と麻衣子ちゃんの自問自答にいたっては、「俺の最初が・・」と「あたしはなんで・・・」を繰り返すという悲惨なものとなった。
「あれだね、酒は飲んでも飲まれるな、ってやつ?」
「「「「「あ、頭が痛い・・・・」」」」」
悲惨なる夏のおもひで。
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