CAPTURE + 25
銀色のトンネルを通ると、周りは海洋生物の楽園、といった感じか。泳いでいって上を過ぎ去るマンタ。イソギンチャクのかげに隠れるカクレクマノミ。
「やっぱり海の生き物ってかわいい」
わたしはひとりで呟いたつもりだったのだが、慶介君はにっこりと笑ってこっちを見ている。聞かれたのかな。
「なによー。わたしみたいのがこういう感想述べちゃ変ってわけ?」
「べ、別にそういうので見てたわけじゃ・・・・・・いや、普段とは随分違うな、と思っていましたけど」
じゃあ、わたしは普段はこういう台詞を言いそうもない、がさつな感じだとでも言いたいのか。そーかそーか、それはそれは・・・・・・・・・
「慶介君、わたしだって女だよ。かわいいものも好きだし、別に人のこといぢめたりするのばっか好き好んでるわけじゃ、ないんだからね」
「重々理解しております」
「よろしい」
わたしたちは笑いあい、トンネルを抜けていった。
「和泉〜少しはわたしも相手してよ〜っ・・・・・・・」
「一緒に居てやるだけ有難く思うんだな」
ドS魔人。和泉のバカーっ!
「愁お兄ちゃん、なにか食べない?」
「うん、そろそろ小腹が空いて来たな。何か買いに行こうか?軽食屋が館内にあるって聞いたけど」
すたすたと歩き去ろうとする二人。待ってよ〜っ・・・・・・・なんで置いていくの〜っ
「フランクフルト三つ」
「あいよ。九百円だ」
あれ?三つ?
「ほら、由紀」
和泉・・・・・・・・・・いずみ〜〜っ!!!やっぱあんた、一応わたしのことも気にかけてくれてるんだねっ!!!嬉しいなあ、たった三百円の品だけど、今のわたしなら黄金の価値をこれに見出すことが出来そうだ・・・・・・・和泉、ありがとーっ!!!!
「手切れ金な。もうついてくんな」
いずみ〜〜〜〜〜っ・・・・・・・・・・もう、そんなとこすら好・き・・・・・・アハ、ホント、なんでこんなドSなのに好きになるんだろ・・・・・・わたし、Mなんだな・・・・・・・気づいてたけど今まで信じないフリしてたんだな・・・・・・・
「愁お兄ちゃん、冷めてから食べていい?」
「うん、ほおばって冷ますといいんじゃないかな?絵的に」
アハハ、あんた、その子には優しいよね・・・・・・どっちの和泉も本物か・・・・・・?
麻衣子、どこ行ったんだか。全然見当たらない。おーい、どこ行った〜。・・・・・・あ、慶介と実だ。何やってんだろ、というか麻衣子は尾行してるから近くにいるかな。ちょっと近くに行ってみるか。気配を薄く、足音を最小にして・・・・・・・よし、OK。行くか。そういえば、シーフはどうしたんだろう。・・・・・・まあいいか。大人だし。
「わー、すげえなあ」
一人でも水族館ってのは楽しめるなあ。ホント楽しいなあ。石垣クンたちどこ行ったのかなあ。まあいいかあ一人でも楽しいからなあ・・・・・私本当に店長かなあ。みんな私を大事にしてくれない気がするんだが・・・・・・あれ?今私を無視した考えが聞こえたような・・・・・・石垣クンか?いや・・・・・・・気の、せい、だよ、な・・・・・・?
「慶介君、やっぱりこういうのって楽しいわね」
ジュゴンの泳ぐ姿を見ながら、そう言ったわたし。水族館というのはこうもロマンのあるものだったとは、思いもよらなかった。
「俺は実さんと一緒ならどこだって楽しいですけど」
茶髪をぽりぽりと掻きながら、恥ずかしそうに言う。
「それはわたしも同じだけどね。でも、こうやってデートするっていうのは、やっぱり特別な感じがするよ。普段見えない相手が見える、っていうか、見せられない自分も見せられる気がする」
「気分の良さが気持ちを出しやすくするんですかね」
「かもね」
二人共、なんか楽しそうにしてるけど・・・・・・麻衣子はいないな。どこ行ったんだか、全く。・・・・・・実も慶介も楽しんでるみたいなのに、俺一人だけここを楽しめてないよ。思えば実と付き合ってた頃は、よくどこかに連れて行かれることがあったな。こうやって水族館だったり、映画だったり、ショッピングだったり。今みたいに一人で行動することは少なかった気さえする。
でも、実の表情は俺といたときとは全然違う。慶介と居るときはあいつの顔は嬉しそうで、のんびり出来てる。それが、必要なんだろうな。あいつにはそれが合ってるんだろうな。
「あ、お兄さん。ごめん、ちょっとはずしてて」
「もう監視する気も必要性もないんじゃないか・・・・・・?」
「ははは、そうみたいね。もう帰ろうかな」
麻衣子はコートの裾を弄び、退屈そうに二人を見た。実と慶介は見られていることにも気づかず、楽しそうに談笑している。
「なら、このまま俺らもどこかに遊びに行くか?」
俺がこう提案すると、麻衣子は『エ?!』と驚き慌てふためき、それから顔を上げると嬉しそうに笑いかけた。
「じゃ、買い物に付き合ってくれるかな?お兄さん」
「いいぞ。どうせ今日は勉強する気がしないし」
水族館を出て近くの駅に向かう麻衣子と俺。とりあえず手をつなぎ、服などを売っている店の多いショッピングモールのある最寄の駅まで行くことにした。
「でも以外だなー。お兄さんが提案してくれるなんて」
「おまえ暇そうだったしな。実と違って尾行とか向いてないんだろ」
「そうかなー?こういうのを楽しめるところは、みーちゃんにもひけをとらないんだけど」
もっといいところで実を超えろ、と俺が思っていると、電車は動き始めた。
「・・・・・・・・樹ちゃーん」
「なに?愁お兄ちゃん」
「しっ、小声で・・・・・・由紀から逃げるよ。こんなんじゃ全然楽しめない」
愁お兄ちゃん、なんだか鬼気迫る、って感じがするなあ・・・・・・なんか怖いよう。
「でも、由紀さんそれじゃかわいそう。愁お兄ちゃん、ひどいよう・・・・・・」
樹がこう言うと愁お兄ちゃんはあはは、と笑って、「フォローはあとでする」って言った。それで由紀さんは満足するのかなあ・・・・・・でも、樹も愁お兄ちゃんのこと好きだから、由紀さんに付いてまわられるのはちょっと、嫌だから・・・・・・
「わかった。愁お兄ちゃん、でもどうやって逃げるの?」
「次の角を曲がったら柱の陰に隠れて。あいつをやり過ごしたらすぐに逃げる。入り口まで走れるよね?」
「がんばるから、大丈夫」
「ようし・・・・・・・隠れて!」
曲がり角で樹たちは柱の陰に隠れた。由紀さんは後ろからついてきてたけど、樹たちがいなくなったのに気づくと先の方に走って行っちゃった。
「アハハ、これで安心。じゃ、行こうか樹ちゃん。このままデートだ」
デート、かあ・・・・・・何回やってもこの言い方は、照れくさい。
「うん。どこに行く?愁お兄ちゃん」
「じゃ、映画見に行こうか。近くの駅から二駅くらいで、映画館があったはずだから。勿論おごるよ。さあ行こうすぐ行こう!」
愁お兄ちゃんはそう言うと樹の手を握って走った。・・・・・・・ごめん、由紀さん。
「和泉――――――――――――っ!!!!!!!!!!!」
遠くから由紀さんの声が聞こえる。本当に、ごめんなさい。
「じゃ、慶介君、これで大体見て回ったし、そろそろ次の場所に行こうか?」
「そうですね。じゃ、とりあえず食事でも」
わたしたちは水族館を出ると、すたすたと歩いてどこかいい店はないか探した。近くに良さそうな雰囲気の店を見つけ、そこに入る。
「美味しいわね」「そうですね」
互いに料理を食べあったりして楽しい時を過ごし、わたしたちは店を出た。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「今日一日楽しかったよ。どうもありがとう」
「いえ、こちらこそ」
日が暮れる前にわたしたちは店の方に戻ってきていた。しかし店はもぬけのカラ、みんなの姿はなかった。まあ、その方が都合はいいのだが。
「じゃあね、慶介君」
「じゃ、また」
わたしたちは口付けだけして別れた。そして、静かな店内に戻って椅子に座り込む。
「今日は楽しかったな」
拓と一緒に昔デートしたことがあったが、そのときはこんなに楽しくなかった。拓のコースはめちゃくちゃで、時間ばかりすぎてゆく。どうにも、楽しめなかった。
「あんな奴とよく一緒に居られたなあ」
ふふっと笑い、わたしは今日一日を追想した。しかし、だ。
「あれ・・・・・・・・・・?」
楽しい、楽しくて仕方ない一日だったのに、何か足りない気がする、どこか抜けてる気がする。どこかもわからない、いや、むしろあるかどうかすらわからないのに、「なにか」パーツが抜け落ちたような、そんな喪失感にも似たものを感じた。
「なんで・・・・・・・・・・・・・・・」
夢のようなときだった、という表現がある。しかし、今わたしがこの言葉を使ったとしても、おそらく違う意味となるだろう。「夢」それは楽しいこと。そしてもう一つの意味。「夢」それは儚いこと。こちらの意味になる気が・・・・・・・違う。儚い、なんて、まるで先が見えてるみたいじゃないの。そういうものじゃない、そういうものじゃ・・・・・・
「『夢想』」
ふと口を突いて出た言葉。夢想?じゃあこれは全て夢だとでも?―――違う。ただ、わたしは夢のような、と形容したとき、普通とは違うことを思い描くのかもしれない。
「儚くて、そして・・・・・・覚えてない・・・・・・?」
昔テレビで見た気がする。人間は毎晩夢を見るが、忘れているだけだと。
「忘れる・・・・・・・・・・・・・」
わたしは、忘れている?いや、今日のことは細部まで話せる。儚いことなども何もない。悪いことなんてない。わたしだって・・・・・・・・・・・・
「夢なんかじゃないでしょ・・・・・・」
そう言って肯定させたつもりなのに・・・・・・なんで?この空しさというか、湧き上がってくる何かわからない喪失感・・・・・・・
「わたしは、幸せなはず・・・・・・・・・・・・・・・」
言って、自分が嫌になる。わたしは・・・・・・ |