アンティーク・オン・イグザミネーション(22/32)縦書き表示RDF


 祝300人突破。まだまだ少ないのは私の力不足ですかそうですか。
 前話までで七人の気持ちは、方向が違うけれどもまっすぐに相手に伝えられました。それに対する返答やいかに。ではどぞ。
アンティーク・オン・イグザミネーション
作:留龍隆



CAPTURE + 21


 俺が夜風を少し肌寒く感じ始め、そろそろ帰るか、とベンチから腰を上げたとき。公園の入り口に人影が見えた。眼鏡のブリッジを押し上げ、よくよくその姿を見てみると、パジャマ姿にコートを羽織った実さんだった。
 「・・・・・・実さん?」
 「慶介君。ここに居たのね」
 息を切らして肩が上下しているところを見ると、どうやら走り回って俺を探してくれていたらしい。なぜそんなことを・・・・・・・。
 「さっきの、返事。言いたく、て」
 返事。聞くのは恐ろしい。聞いてしまえばそこが始まりになるか、終わりになるか。でも、それがわからないから聞きたい。恐ろしいけれども、このまま返事が聞けない状態が続くなら死んだ方がマシだと思ったから。
 「・・・・・・・・・聞きます」
 実さんは大きく息を吸い込んで、公園の静寂を突き破った。いや、そのように感じたのは俺だけなのかもしれない。依然として公園は静かな雰囲気に包まれていたから。
 
 「・・・・・・・・・わたしは、小さいころ慶介君といつも一緒に居た。その時間は、家族と過ごしてるみたいに温かで、ゆったりとした気持ちでいられた。そんな時間を過ごさせてくれる人は、他にはいない。その、これまで一緒に過ごしてきた時間こそが、あなたと一緒にいたい、というわたしの気持ちの証明だと思う。―だから、・・・・・・・・ありがとう。気持ちを言ってくれて」
 
 あっさりと何もかもが進みすぎている気がして、一瞬、世界が止まったかに思われた。そして顔に風が当たっているのを感じ、世界が動いていることを再確認した。ずっと世界は動いていて、何一つ変わっていないはずなのに、十秒前と今とでは景色が全然違った。夜の闇で周りも上手く見えないはずなのに、全部光ってるように感じた。
 その、さっきまでとは全然違う景色の世界を、俺は一歩一歩踏み出し、実さんに近づいた。実さんの表情は毅然としていて、俺の返答を、答えの肯定を望んでいた。
 
 「ありがとう」
 
 俺はそれだけ言うと実さんに両腕を回し、ぶかぶかのコートごと抱きしめた。華奢で温かで柔らかな実さんの体は、普段の表に出ている態度とは対照的で脆そうだった。そんなところを感じることができることが嬉しくて、実さんが愛しくて。俺は腕を放した瞬間、ここまで後悔したことはない、と思った。もうちょっと放さなくても良かったな、と。
 
 俺たち二人はベンチに腰を下ろして、互いが互いに思っていることについて話し合った。実さんが俺に対して温かで落ち着いた気持ちでいられる、ということ。俺が実さんに対して隣に居て欲しいと思っていること。やがて、公園の時計が十二時を指しかかったころ、俺たちは帰ることにした。
 別れる間際、実さんは赤くした顔を近づけてきた。影は一瞬近づき、秒針が振れるまもなく離れた。
 
 
 
 
 
 朝。寝不足でぼけた頭を振りかぶり、鏡の前に置いた紐を手に取る。頭の後ろで髪を束ね、そして紐で結わえる。服を着替えると一階の食卓に向かった。
 「おはよう、麻衣子」
 「あ、慶兄さん・・・・・・みーちゃんとは、上手くいった?」
 慶兄さんは笑いながら指でマルを作ってみせた。上手く、いったんだ。良かった・・・・・・。
 「麻衣子、トーストにするかご飯にするか?」
 「じゃ、トースト」
 あたしを気遣ってか、慶兄さんはキッチンで朝食を作ってくれていた。両親はもう出かけたらしい。
 「樹、いないね?どっか行ったの?」
 「ああ、墓地に行くってさ。愁君に呼び出されたみたいだ」
 「ふーん・・・・・・・・・」
 すると、上からどすどすと音がして、お兄さんが降りて来た。一瞬あたしと目を合わせたが、何も言わずに席につく。目は依然、逸らしたままだ。
 「お兄さん、おはよう」
 話しかけてもうんともすんとも言わない。昨日の今日で話す事はない、か・・・・・・・。
 「・・・・・・・・麻衣子、髪、なんで下ろした位置なんだ」
 「え?・・・・・・コレ?」
 お兄さんはあたしの頭を指差し、うなずいている。たしかに今日のポニーテールは、いつもより位置を下ろしていた。
 「これね。・・・・・・もう、背伸びしなくていいからさ。わざわざ髪を高い位置で縛ること、ないでしょ」
 「俺は、・・・・・・・・前のままでいいと思うぞ」
 「あたしの気分的にダメなの」
 そう言ってあたしはトーストをかじった。サク、と音がして焦げたバター味が口に広がる。
 「・・・・・・・・・・お兄さん」
 「なんだ?」
 「昨日、ゴメン。兄妹ってこと、気にしなさすぎた。・・・・・・もう、お兄さんのことはなんとも思ってないから。これからは、ただの兄妹、として接していくから」
 「・・・・・・・・・・・・・・・そうか。俺は、別に構わなかったんだが」
 「ううん、いいの。もう、いいの」
 トーストを食べ終わってあたしが席を立とうとすると、お兄さんはそれを押し留めた。席に無理やり座らせ、つかつかとキッチンに消える。
 「目、つぶってろ」
 それだけ言うとゴソゴソと何かを探し、キッチンを荒らしまわる。
 「目っ、て・・・・・・・」「いいから」
 仕方なく目をつぶる。すると、しばらくしてから口になにかを突っ込まれた!!
 「うぐぐぐうう!!もが、げほっ!!」
 ガラス製の瓶の口。それが、口に突っ込まれたものの正体だった。中身の液体は口の中を満たし、胃に流れ込んだ。体が芯の方から熱くなってくる。これって・・・・・・・・
 「酒だ」
 やっぱり・・・・・・・・・なんで!?
 顔が赤くなる。気分が晴れる。頭がぼーっとして、思考能力が低下する。でも・・・・・・もう今までのような酒乱にはならない。もう、する意味がない。必要性がないから。
 「・・・・・・・??あれ?なんで酔っ払わないんだ?量が足りなかったかな・・・・・・。それとも質か?もっといい酒じゃないとダメか?」
 お兄さんは首をかしげた。意味が分からない。
 「なんで、こんな、ことを・・・・・・?」
 「きまってる。いつも通りのおまえに戻したいからだ。酒を飲めば酔って絡んでくるような麻衣子に戻したいからだ」
 しれっと言い切ったお兄さんは、さらに酒を注ごうとしてくる。あたしはその手を払いのけ、お兄さんを睨みつけた。しかしお兄さんは動じない。むしろそれを楽しんでいるかのようだ。それが、余計に苛立った。
 
 『なんで!!!なんでこんなことするの!!!もう、只の兄妹だって・・・・・・言ったのに!!!こんなことしてなにになるのよ!!!』
 
 叫び、怒鳴り散らす。しかしお兄さんはそれをどうするでもなく、あたしの手をとった。
 「兄妹じゃなくてもいいだろ」
 「何言ってるのよ!!だって!!だってもう・・・・・・・・お兄さんとあたしは・・・・・・・・」
 「いいよ別に。俺は言ったろ?兄妹としておまえを見たことはないって。それはこれからも変わらない。血の繋がりがない以上、やっぱり妹には見えないから。だから、って言うんじゃないけど、そうやってあからさまに態度を変えないでくれよ。俺はそのままの麻衣子がいい。髪型を変えたり、変にかっこつけた麻衣子はいやだ。全部元には戻せないかもしれないけど、頼むからいつも通りにしてくれよ・・・・・・・・・」
 お兄さんはまっすぐにあたしの目を見つめてきた。その目を直視したら何もいえなくなる気がして、卑怯な気がしたけれどもあたしは目を逸らした。
 「なんで・・・・・・・・昨日、言ったじゃない!!眼中にないって!!」
 「そりゃおまえの勝手な解釈のせいでそういう風に聞こえたんだ。たしかに俺は今、おまえを恋人のように見ることは出来ない。でも、この先はわからない。だって、俺は今のおまえがいい、と思ってるから。・・・・・・・・・・・いや、おまえが好きなのかもしれない」
 慶兄さんがぶふっ、とコーヒーを口からぶちまけた。眼鏡に飛んだ飛沫をふき取りながらこちらを呆然と見ている。
 「・・・・・・・・・うそ・・・・・・・・・じゃないね・・・・・・」
 うそをついてる人はこんなまっすぐな目をしていない。じゃあ―・・・・・・・
 「麻衣子。いつも通りにしててくれ」
 「・・・・・・・・・・・・うん。・・・・・・おにいちゃん」 
 
 
 
 
 朝もやのかかった墓地。僕は昨日掃除したばかりのゆかりの墓に水をかけて、供え物をしていた。
 「ゆかり・・・・・・僕は臆病で、卑怯だ。だから、・・・・・・・・僕に、兄に、力を貸してくれないか。二人にはっきり言える勇気を。今、一番必要な力を・・・・・・・・」
 ひとしきりゆかりにお願いをすると、線香の火を手で煽って消し、ろうそくをしまった。二人と約束した刻限は既に過ぎ去り、時計は七時半を指していた。二人共、来る気になれなかったのだろうか。急な呼び出しだったから、対応出来なかった・・・・・・・・いや、もしかしたら僕に愛想をつかしたのか。
 そんなことを考えていたから、七時四十分ほどになって二人分の足音が近づいてきたとき僕は心底ほっとした。二人は、決然とした表情だった。
 「・・・・・・二人共ありがとう。来てくれて」
 「愁お兄ちゃん」
 「和泉・・・・・・・・返答を聞ける、ってこと?」
 登場早々核心に切り込む由紀。あまりにも唐突すぎる気もしたが、この方がこちらも気が楽だ。話そう。僕の返答を。二人への気持ちを。
 「・・・・・・・・わかった。話すよ、全部。由紀・・・・・・・。由紀は僕に、好きって言ってくれた。それはたしかな、本気の気持ちなんだろ。・・・・・・・でも、ごめん。僕は、そこにいる樹ちゃんが好きなんだ。だから・・・・・・由紀とは付き合えない」
 「和泉。それは、この子が年下だから、とかじゃ、ないんだよね・・・・・・?」
 「勿論だ。年齢云々うんぬんじゃない、樹ちゃんが樹ちゃんだからこそ、僕は由紀を選べない。僕には樹ちゃんが一番なんだ。他の人は考えられない・・・・・・・。」
 言い切った僕を、由紀は生暖かい目で見つめた。これだけはっきり言ったのだ、由紀も混乱してるのかもしれない。僕は由紀の反応がどのようになるのか、沈黙を保ち続けた。怖くて動きが止まっていたとも言える。ところが、由紀が何か言う前に、樹ちゃんが口を開いた。
 「・・・・・・愁お兄ちゃん。由紀さんを、選べないの・・・・・・?」
 「え?」
 「だって・・・・・・・・・・・由紀さんは、樹よりもずっとずっと長く、愁お兄ちゃんを追いかけてたんだよ?一緒に居た時間も、由紀さんは樹よりもずっと長いんでしょ?だったら・・・・・・愁お兄ちゃんはその時間を大切にして、由紀さんを選ばなきゃダメだよ・・・・・・・・由紀さんとの時間を、大事にしなきゃダメなんだよ・・・・・・・・」
 時間。過ぎていった時間。由紀と過ごしてきた数年の月日。それはとても大事で、失えない物だ。でも、僕は、僕には―
 「・・・・・・樹ちゃん、それは違う。僕には今まで由紀と過ごした時間じゃなくて、これから過ごしていく時間が大事なんだ」
 「でも!・・・・・・・・でも、樹には長い時間を一緒に過ごしたことがないもの・・・・・・だから、樹にはこれから一緒に過ごす資格なんて、ない・・・・・・・・」
 「違う!!もしそんな理論が通じるなら、僕がゆかりと過ごした時間はどうなるんだ!!もうゆかりはいないだろ?なら、僕はその過ごした時間に対してどう生きればいい!生き残ってしまった、ゆかりを守れなかった、それだけを考えて自分を不幸にすればいいのか?違う!!・・・・・・・・僕は先を見て生きていたいんだ。だから、その先、では樹ちゃんと一緒に居たい」
 一気にまくしたてると、樹ちゃんは泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。少し、強く言い過ぎたか。
 「・・・・・・・・・・樹ちゃん、だっけ?」
 「え・・・・・・?」
 由紀が樹ちゃんに話しかけた。うつむいたままで、暗い声で。
 「あなたは、和泉から気持ちを受けることが出来るんだよ・・・・・・?わたしはそれが出来ない。羨ましくて仕方ない。なのに、なんでその権利を捨てようとするの?そんなの・・・・・・・。わたしに対してどれだけの無礼なのか、わかってる?」
 「・・・・・・・・・・!!」
 眼鏡をたたみ、由紀はポケットにそれをしまいこんだ。心なしか視線はさらに鋭くなり、樹ちゃんを見据えていた。
 「もし、あなたが和泉を嫌いだ、と言うのならば話は別よ。・・・・・・・・・でも、あなたも和泉を好きなんでしょう?だったら・・・・・・和泉をなんとかしてみなさい」
 「でも」「でもなんて言わない。わたしも、もう何も言わない。決めて。どうするのか」
 「樹は・・・・・・・・・愁お兄ちゃんの傍にいたい。ずっと近くに居たい」
 「じゃあそうしなさい」
 由紀はそれだけ言うと墓地から立ち去ろうとした。そして、数歩進んだところでピタリと止まり、携帯電話を取り出した。ピポパ、と番号を押し、どこかに電話をかけている。
 「和泉、知ってる?」
 「・・・・・・何を」
 「わたし、蛇年なんだ・・・・・・あ、お父さん?これからわたし、東京に住むから。うん、うん。転入手続き済ませといて。下宿か・・・・・・・山楽荘ってとこ。じゃ、よろしく」
 ・・・・・・・・・・・・・どういうこと?山楽荘は僕の下宿先なんだけど。
 「和泉、樹ちゃん。・・・・・・・・第二ラウンドだよ。わたしは執念深い、しつこい女だから。たとえ振られても最後の最後まで粘るから・・・・・・・そんじゃね」
 そして今度は本当に立ち去った。訳が分からない〜どうすればいーの僕。
 「愁お兄ちゃん・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・樹ちゃん」
 
 僕ら二人はゆかりの墓の前に佇んでいた。他にどうしようもなく、とりあえず話していた。
 「樹ちゃん。時間はたしかに取り戻したり出来ない。君と僕の過ごした時間は短いよ。でも、これから先はそうじゃない。長く、一緒に居られるだろう。だから、離れないでほしい。時間は大事だけど、僕には必要じゃないものだ。先に必要なのは、君が隣にいることだから」
 「愁お兄ちゃん・・・・・・・樹、・・・・・・・・ごめんなさい」
 「いいよ、なんでも。ただ、これからは離れないでほしい、それだけだ。約束、してくれ」
 「・・・・・・・うん」
 
 
 
 
 『まもなく、列車は東京に着きます。お忘れ物のないよう、今一度注意してください・・・・・・』
 

 帰郷は終わり、それぞれの思いは繋がったり、線が引かれたりした。全員が全員、うまくいったわけではない。それでも時間は流れてる。それは関係を深めたり、またはさらに溝を作ったりもする。かといってそれらは時間の流れのみが作るものではなく、けっきょく、人が自分で選択したからそうなるだけだ。
 思いは力だ。受ける方も渡す方も覚悟がいる。それだけだ。


 またお店に戻ってはちゃめちゃだよ〜ただカップリングが成立しつつあるので今までよりコメディーが減るかも。・・・・・・ここ数話はシリアスに恋愛路線でしたから。ええ、由紀は東京に来ます。こいつと樹の戦いがコメディーの主体になるかもです。・・・・・・?ええ、樹はお気に入りですよ。だからこそいじめます。こっから先はエンディングに向けて転がりますが、それとは関係なしに樹はイビラレマス。こうご期待。











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