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アンティーク・オン・イグザミネーション
作:留龍隆



CAPTURE + 10


 CAPTURE + 10

 夏休みは終わった。バイトと予備校を往復する毎日だった。まあ、なんにせよもう少しバイトすれば総返済額に達する。そのうち、自由の身になれる日が来たら、また今度は受験に向けて頑張る日々が続くだろう。
 「というか、わたしがここに勤め始めて二ヶ月くらいになりますけど、客ってほとんどこないですよね。経営大丈夫なんですか」
 「たしかに、この二ヶ月のみでいえば客は十人くらいだな。もともと、たくさん客が来ればいい商売じゃないんだ。肝心なのは、高い品を買う客が一人でもいること。それに品物は仕入れ値ゼロ円だし、黒字にしかならんからな」
 「その二ヶ月で一体いくら儲けたんです」
 「五百万」
 「うそー・・・・そんなに儲けてたなんて知らなかった。」
 店長はふふ、と笑ってこう言った。
 「でもな、この仕事は本っ当に金の入りの幅が広いんだ。去年なんか、半年の間誰も客が来なかった」
 「今の客入りはわたしのおかげですね」
 「ははは、そうだな・・・だから、借金返済されて店から出て行かれたら困るなあ」
 「大丈夫ですよ。ここの三階にその後も住ませてくれれば」
 「そーか。じゃあ商売として月二万で貸そうか?」
 「そんなら引っ越しますよ。というか、前から思ってたんですけど、なんであの日わたしが二十万もの借金作っても何も言わなかったんです?」
 すると店長はわたしから目を離した。いや、グラサンしてるからわかんないけど、とにかく顔を背けた。
 「なんか、見えたから、かな」
 「なにがですか」
 「・・・・こんなこと言うのもなんだけど、無いはずの左目に映るんだよ。ここの古物に実ちゃんが惹かれてる、だからここで働くようになったんだ、と。」
 「店長、霊は見えないんじゃないんですか」
 「霊じゃない、オーラってやつかな・・・」
 よくわからない。まあでも、臓器売れやー、ここの店で水商売してもらおうかのー、といったことを言われなくて本当に良かった。だからそのことに恩義を感じ、わたしは仕事に励むの「ガシャン」
 「おい、・・・・・・ちょっと、今度は百万の茶碗を・・・・・あーあ、これはさすがに親御さんを呼ぶしかないな・・・・」

 「ここが実家かい」
 一年ぶり、だろうか。変わらない和風の我が家。
 「はい・・・・ほんとにすいません。」
 「いいけどな・・・・・さっき、また見えたよ」
 「・・なにがですか」
 「オーラっていうのかな・・・実ちゃんを包むような形で、古物達から発せられてるみたいなんだよ。まるで「離さない」、って言ってるみたいに」
 まさか。でも、たしかに最近は返済額に近づいていた。それを察知した古物達がわたしを離すまいと借金を増やしたんだろうか・・・・・・恐ろしい。
 「ピンポーンピンポーン」
 「はい、我が家は二回も連続してインターホンを押すような不届き者に敷居の上を通って頂きたくありません速やかに今来た道を戻って自宅でじっくり考え親に躾をしてもらうところからいや生まれるところからやり直してください プツッ」
 「・・・・・・・いや、借金の返済を手伝ってくれなかったところからして、厳しそうだとは思ってたけど、まさかここまでとは、な・・・」
 「すいません、頭のネジをきつく締めすぎた人たちなんで」
 「陰口を言う奴は人間のクズだそれがわが子とは嘆かわしい産むところからやり直さなくてはいけないな プツッ」
 「インターホン、切れてなかったのか」

 「失礼します」
 「どうぞ。・・・実、敷居を踏むなと何度言えばわかる」
 「すいません、お父さん」
 熊みたいな髭、似合ってねーよ。相変わらずの堅物ジジイめ。
「あなたが、娘がお世話になってる古物商の方ですか。いつもお世話になっております。実の父の前田道也です」
 「いえ、とても気のつく人で、いつも助かっています。・・・お父さん、実は今日はその古物、のことで伺いました」
 「売買の話ですか」
 「いえ、・・実は今日、また実さんが私の店の品を壊しまして。さすがに経営に影響するので、どうにかして頂きたいと思って参上した次第です」
 「なるほど・・・これはうちの娘が失礼を致しまして。まことに申し訳ない。」
 「すいませんでした、店長さん」
 「実、謝るときくらいはその人の名前で呼びなさいと何度言えばわかる」
 「え・・・・」
 名前・・・・・店長の、名前・・・・聞いたこと、ないじゃん!!
 「勤め先の方の名前すら覚えておらんのか!!まったく、そうやって名前も覚えられんほどにボーっとしとるから、何度もなんども物を壊すんだ!!!」
 だって、聞いたことないんだもん。拓もシーフって呼んでるし。本名は何?
 「いや、いいんです。名前を教えていないので」
 名無しの店長がそう言うと、齢五十の父は吼えた。
 「名を教えていない?失礼だが、人とかかわる際にはまずお互いの自己紹介をするのが普通だろう!なぜそれを怠っているのか?それは店員への配慮がなっとらんからだろう!だから店内の物の配置も雑なのではないか?それ故に物を壊されるのだ!!」
 なんでそんなことを初対面で言うかな・・店長、すいません。こんな父で、すいません。
 「すみません。なにしろ名前が無いので、教えるも何もないのです。・・・こうなっては、その理由をお聞かせしないといけませんかな」
 「そうです、な。親から貰った名を、捨てるなどとは腹立たしい」
 なんで人の過去まで掘り起こそうとしてるのよ!!もうやめて。店長と一緒に働くのが辛くなるから・・・
 「親から貰うも何も、私は捨て子でしたから。名前は、拾ってくれた奴が付けてくれました。私は実は外国育ちでしてね。英語で不吉、を意味する「evil」と名づけられました。まあ、世間でよく言う、虐待、を受けていましてね」
 「・・・すみませんでした。そんな過去があったとは露知らず、失礼なことをお聞きした。申し訳ない」
 「いえ、いいんです。こういうことも、話しておいたほうが良いと思います。実さんは私の店の店員ですから」
 店長・・・・
 「ええ、で、まあ虐待が辛かったので私は逃げ出しました。それから・・・・・・・・これは実さんにはもうお話してありますが、泥棒稼業をして生き延びてきました。」
 「・・・・・・・お続けください」
 「はい。でもまあ、これも言い訳にしか聞こえないでしょうが、私は金持ち、しかも汚いことをした奴らからしか盗まないことに決めていました。ポリシーと言いますか、虐待されていた故の世間への復讐でもある以上、自分の規律だけでも守りたかったのです。そして現在に至りまして、今は昔盗んだ品を売り物にし、古物商としているのです」
 「よく、わかりました・・・・一つ、聞いておきたいんですが、あなたは、うちの娘を脅迫して、そのことを言わせないようにしていたのですか?」
 そんな、ムチャクチャなことを聞くな!
 「・・いえ、そんなことは、一切しておりません」
 「そうでしたか。失礼しました。それだけを確認しておきたかったので。では、その壊してしまったという物の代金、それから、まだ払い終えていない前に壊した物の代金もお支払いしましょう」
 え?前は払わない、って言った代金を、どうして今払うっていうの?
 「それで、お宅の店との関係を切らせてもらいたい。また失礼なことを言うことになりますが、自首もせずにコソコソと商売をするような人に、しかもしゃあしゃあと盗品を売るような人の店に、うちの娘を預けてはおけない。それに、知人から聞いたのですが、娘と同じ建物にあなたと、更に男が一人住んでいるとか。・・・悪いですが、そんなことを承認するような方は、信用できません」
 ばか!!店長は何もしないのに。それに「一緒にいる男」だってお父さんも知ってる、拓じゃない!そんなことで・・・・・
 「・・・・・・そうですね。たしかに。では、この口座に残りの借金の百十万円、払っておいてもらえますか。この契約書にサインしてください」
 「わかりました。おい、おかあさん。判子とペンを持ってきてくれ。・・・・これで、あなたの店とは縁を切りましたよ」
 「わかりました。では。娘さんは、東京までお送りしましょうか?」
 「結構です。このままここで暮らさせますので。家財道具は、あとから引越し屋をよこします」
 「・・・では、失礼します」
 もう黙ってられない。なんで会話に入れてくれないのよ!
 「店長!わたし、そっちの店でまだ働きたいんです!東京に連れて行ってください!」
 ・・・店長は、目を逸らした。
 「前田さん、もう、あなたは店員じゃないんです。この契約書に書いてある」
 「そんなの!わたしは了承してない!!」
 「親御さんの意思でもやめさせられるんですよ。では、さようなら。・・ああ、私の過去については、通報すると言うのならここで待ちます。どうしますか?」
 「いえ。別にそんなことをするつもりは今も、これから先もありません。お気をつけてお帰りください」
 「心遣い、痛み入ります。では」
 店長は、夕闇の中に消えていった。わたしは・・・−なぜか泣いていた。
 「そういえば、言っていなかったな。お帰り、実。かあさんが、今日は鍋だと言っていたぞ」
「いらない」
「・・・・そうか。・・敷居、踏むなよ」












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