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光のもとでⅡ-1 作者:葉野りるは

海水浴(08/20)

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Side 明 01話

「蒼樹さん、蒼樹さんっ! みんなで遠泳対決やりません?」
 海斗が蒼樹さんに声をかけると、
「あ、いいね。ちょうど沖のほうに岩が出てるし……。やるとしたらあそこまで?」
「ですです」
「桃華たちもやる?」
 蒼樹さんが訊くと、
「勝てる気はしませんけど参加はします」
「私も私もー!」
「佐野もやるだろ?」
「や、俺はちょっと飲み物飲んでくる」
「じゃぁさ、浜辺に戻りがてら、秋兄たちにも声かけてきてよ」
「了解した」
「っつか……蒼樹さん、なんで翠葉あんなところにいるんです?」
 海斗の質問に、蒼樹さんは苦笑のみを返す。俺は不思議に思いながら、御園生と秋斗先生たちがいる場所まで泳いだ。

「秋斗先生、唯さん、海斗と蒼樹さんが遠泳対決しませんか、って。あそこの岩までらしいですけど」
 沖にある岩を指差すも、唯さんと秋斗先生は御園生を見て苦笑を浮かべる。それはまるで、さきほどの蒼樹さんの表情と似通ったものだった。
「御園生がどうかしたんですか? ってか、なんでこんなとこ……?」
 御園生は今までにないくらい情けない顔をしていた。そして、御園生の手はがっしりと唯さんの手を掴んでいる。
 これはもしかして……。
「御園生、もしかして泳げない?」
 御園生は情けなさの中にも悔しさを垣間見せる表情になる。
 図星ですか……。
 すると、見るに見かねた唯さんが口を開いた。
「あはは、なんていうか海が相当久し振りで入るのにもびびってた口なんだよね。今、ようやく慣れてきたところ。みんなのいるとこまで行くのはちょっと無理だろうなぁ……」
 思わぬ情報にまじまじと御園生を見てしまう。御園生はさらに情けない表情で俯いた。
 つまり、御園生は誰かが一緒じゃないと海には入っていられない現状なのだろう。
 これはグッドタイミングかも。俺、御園生とふたりで話したいことあったし。
「俺、飲み物飲みたいから御園生付き合って。唯さんと秋斗先生は遠泳対決行ってきてください」
「リィ、大丈夫?」
「……浜辺に戻れるならがんばって戻る。佐野くん、手、つないでもらってもいい?」
「了解」

 御園生は俺の手にしがみつく状態で浜辺まで戻ってきた。
 目が涙目で、本当に怖いんだな、と思う。
「何が苦手?」
「……顔に水がかかるのとか、足が掬われる感じ。あと、泳ぎにも自信がないからすべてが恐怖」
「……もしかして、小さい頃はシャンプーハットにお世話になった人デスカ?」
 その質問にも、御園生は視線を逸らしてコクリと頷いた。
 くっ……なんかおかしい。
 普段はなんでもそつなくこなすくせに、苦手なものはとことん苦手なんだ。さらには、それを認めるのがひどく悔しいような素振りが笑える。
 翠葉さん、実はとっても負けず嫌いですね?
 そんな一面を見て思う。またひとつ御園生の新しい一面を見られた、と。
「今度プール行こうか? 泳ぎなら教えるよ?」
「あの……プールの塩素でかぶれちゃうの」
 なるほど……。
 これはもしかしたら学校のプールにもあまり入ってこなかった口だな。
「じゃぁさ、今度は川に行こうよ。藤川の上流に行けば水きれいだし、大きな岩の近くは水深結構あったりするからさ」
「……本当?」
「うん。だからさ、心臓が大丈夫なら少しやってみない?」
「……たくさんは動けないけど、少しだけなら大丈夫だと思う。あくまでも息が上がらない程度なら」
「じゃ、次はみんなで川ね」
 そんな話をしながらタープのとこまで戻ってきた。
 御園生はいの一番にタオルで顔を拭いた。そんな御園生を笑うと、
「佐野くん、ひどい……」
 俺は珍しく御園生に睨まれた。

 クーラーに入れていた飲み物を取り出し、ペットボトルの半分ほどの分量をガブガブと流し込む。
 少し空気を変える感じで、
「御園生御園生、内緒話しませんか?」
 声を潜める必要はどこにもなかったけれど、雰囲気づくりのために声を潜める。と、同じくらい御園生も小さな声で、「ん?」と首を傾げた。
「ちょっとした報告」
「報告……?」
「俺、七倉と付き合うことにした」
「えっ!?」
 御園生のセンサーがピコン、と立った気がした。そんな反応に思わず笑みが漏れる。
「あのっ……あれ? あ……えと、佐野くんはすでに告白されているし……でも、一度は断っているから……えと――」
 どうしたことか、御園生が急にてんぱり始めた。
「インハイが終わって、入賞したって連絡をするときに俺から告った」
 御園生は大きな目をさらに大きく見開いて俺を見ていた。そして、
「おめでとう!」
 そう言ったかと思えば、
「あれ? 告白におめでとうは変? でも、こういうときはなんて言うの?」
 右に左に首を傾げる様が妙にコミカルに見える。俺はくつくつと笑いながら、
「おめでとう、でいいと思うよ」
「本当……?」
「うん」
「……おめでとう。良かったね」
 おめでとうの言葉と共に見せるふわっとした笑顔が妙に御園生っぽい。そういえば、七倉がこんなことを言っていた。
 ――「翠葉ちゃんの髪の毛は柔らかくて艶やかで、風で舞い上がったところが壮絶にかわいいの! あと、ふわっと空気を含んでる感じの笑顔がたまらなくかわいいよね」。
 そういうの、なんかわかる気がする。
 心の底から「おめでとう」の言葉を言われているのがわかるから、嬉しくて、ちょっと気恥ずかしい。
「香乃子ちゃん、喜んでるだろうなぁ」
「うん。……その、どうして、とか訊かないの?」
「……どうして?」
 御園生は首を傾げたまま固まってしまった。数秒後、機械的な動きで首をもとに戻すと、
「どうして、とは思わないけど……訊いてほしいの?」
 きょとんとした御園生に尋ねられ、ドキッとする。
 あれ? 俺、訊いてほしいのか? 言いたいのか?
「佐野くん……?」
 俺は答えが出ないままに、
「……言いたい、のかな?」
 御園生に習うようにして首を傾げる。と、
「なら、教えて?」
 話の運びはものすごくおかしかったのに、相手が御園生だとそんなの関係なく話せるから不思議だ。
 興味津々で訊かれるわけでもなく、だからといって全くの無関心というふうでもなく、聞いてもらえる環境がきちんと整ってます、そんな感じ。変な安定感があるところが御園生だ。
「ずっと立花のことを好きで、七倉に告白されてからも立花以外のことは考えられなかったんだけど、そういう返事をしても七倉はずっと俺を見ててくれて、俺が走ってるところの絵を何枚も何枚も描いてくれてたんだ。もちろん、見ていた分だけ俺の努力とか、悔しい気持ちとかもわかってくれてて……」
 御園生は相槌を打つでもなく、じっと俺の目を見ていた。
 なんだろう……この安心感。俺は不思議に思いながら、胸にある気持ちを紐解く。
「ずっと見ててくれるのが嬉しくなった」
 たぶん、そういうことなんだと思う。
 人を追いかけて見ることばかりしてきたからか、真っ直ぐに俺を見ていてくれる眼差しに心が動いた。
 御園生はにこりと笑う。
「見ていてもらえるの、嬉しいよね。それから、口にしたわけでもないのに、思っていることを理解してくれるのも」
「うん……。インハイ前も、見ていてくれることが励みにもなってて、それがきっかけだったと思う」
「良かったね」
 その言葉に、「おかえり」と言われたような安堵感を覚えた。
 好きな子とは違う。友達ともちょっと違う。
 簾条や立花は仲がいい女子という括りだけど、御園生はそこからは少し外れたところにいて……。
 俺にとって、御園生はどんな存在なんだろう。
 大切であることはわかるんだけど、まだ明確な言葉は見つからないみたいだ。
 こういうのも話せばきっとわかってくれる。でも、今はあえて口にする必要はないかな……。






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