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光のもとでⅡ-1 作者:葉野りるは

七夕祭り(07/07)

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Side 翠葉 04話

 ツカサの家に着いたのは四時過ぎ。
 少し早く来たのにはわけがある。
 真白さんに、飾り作りを手伝ってほしいと言われていたのだ。
「いらっしゃい! 早く来てもらってごめんなさいね」
「そんなことないです! ねっ、翠葉ちゃん?」
「はい! 笹の飾り作りなんて小学校以来で楽しみです」
 私たちはエアコンの利いたリビングに案内され、ローテーブルに着いて作業を始めた。
 そんな私たちの傍らでずっと吼えているのはハナちゃん。
「翠葉ちゃんには懐いてるんだって? 私、未だに吼えられるの」
 と、果歩さんは苦笑する。
「ハナ~? 今日もハナにプレゼント持ってきたんだよ? ほら、ジャーキーだよ。美味しそうでしょう? 美味しいよ? 食べたいでしょう? おいでおいで――」
 ジャーキーをチラつかせ、言葉巧みに近づこうとしてもハナちゃんは一切受け付けない。仕舞いには、私の膝に乗って吼える始末だった。
「ハナ……果歩ちゃんは家族よ? 何度もうちに来ているでしょう? そろそろ覚えない? ほら、いつもジャーキーをくれる人でしょう?」
 真白さんが宥めても、ハナちゃんは険しい顔でウーウー唸ってはキャンキャンと吼え続ける。
「ハナぁ……少しおとなしくしてて? これじゃ飾り作りもできないわ」
 真白さんが困り果てているところへ現れたのは涼先生。
「ハナは私が見ていましょう。ハナ、おいで」
 涼先生はハナちゃんを抱えるとリビングから出ていった。
「今日、涼先生もいらっしゃるんですね?」
 平日なのにおかしいな、と思いながら口にすると、
「毎年、七夕はお休みしてくれるんです」
 真白さんは嬉しそうに口にした。
 七夕は何か記念日なのだろうか、と思っていると、果歩さんがこっそり耳打ちしてくれる。
「お義母さんとお義父さん、七夕に出逢ったんだって」
「わぁ、すてき……」
 出逢った日が七夕なんて、運命を感じてしまいそうだ。それに、結婚記念日ではなくても、こういった記念日を大切にしてくれる旦那様なんて、憧れてしまう。
「翠葉ちゃんと司は? やっぱり学校で出逢ったの?」
「はい。高校の入学式の日に会ったんですけど、あとで知ったら、その日はツカサの誕生日でした」
「それもまたすごいね?」
 そんな話をしていると、真白さんが短冊を持ってきてくれた。
「短冊、作りだしたら止まらなくて、こんなにたくさんあるの」
 ひとつひとつ手作りされた短冊は、数枚の和紙がコラージュされていてとてもかわいらしい。でも、ひとり一枚だとするとだいぶ余ってしまいそうだ。
「だから、願いごと、たくさん書いちゃいましょうね」
 真白さんに笑顔で言われたら、「はい」以外の返事はないように思う。
 私も果歩さんも声を揃えて「はい」と答え、何を書こうかな、と逡巡した。

 笹に飾りつけが終わったところへ楓先生とツカサが帰ってきて、まずは夕飯を食べましょうということになった。
 夕飯はお庭でのバーベキュー。
 意外なことに、楓先生が手際よくセッティングをしてくれ、最後の最後まで鉄板奉行だった。
 ほどよくお腹がいっぱいになったところで、真白さんが涼先生と楓先生、ツカサに短冊を渡す。と、楓先生と涼先生は短冊を受け取ったものの、ツカサだけが「俺はいい」と拒否した。
 思わず、
「ツカサは無欲なのね?」
「無欲って……」
「だって、私なんてこんなにたくさん書いたのよ?」
 短冊の裏側をツカサに向けて見せる。それは全部で五枚あった。
「せっかく真白さんが一枚一枚丁寧に作ったのだから、何かひとつくらいお願いごと書こう?」
 ツカサは渋々短冊を手にした。
 ペンを持って五秒ほど考えると、すぐに願いごとを書きだす。
 どんな願いごとなのかには興味があったけど、それは見ないように、楓先生のもとへ向かった。
「楓先生。これも飾ってもらえますか?」
「おっ! たくさん書いたね」
「ふふ、欲張っちゃいました」
 楓先生は脚立に跨り、笹の先の方に短冊をかけてくれる。
 みんなで笹を見上げていると、楓先生に声をかけられた。
「翠葉ちゃん、七夕様弾いてくれる?」
「え?」
 振り返ると、楓先生が車からハープを取り出したところだった。
「ハープ……どうして……?」
「弾いてもらいたいなーと思って、楓さんに持ってきてくれるようにお願いしていたの」
 果歩さんに言われてあんぐりと口を開ける。
 たぶん、楓先生は仕事が終わってから一度マンションへ戻り、ゲストルームへ寄ってからきたのだろう。
「私も聴きたいわ」
「私も聴きたいです」
 真白さんと涼先生に言われて、私はハープを受け取った。
 調弦を済ませてからハープを構える。
「それでは、即興で……」
 柔らかな夜風が吹くお庭にハープの音が響く。
 屋外でハープを弾くことなどめったにない。サラサラと音を立てる笹の葉と、ハープの音が共鳴して聞こえる。そんな音たちが新鮮で、自分もその響きを堪能しながら弦をはじいた。
 一番目を引き終わると、二番目には果歩さんと真白さんが歌を口ずさむ。
 和やかな時間を過ごせば、最後には花火が待っていた。
 楓先生も果歩さんも子どものようにはしゃいで花火を楽しむ。
 一方、私は煙をまともに受けてケホケホと咽せ、目には涙が滲む始末。
「翠、それ――」
「え……?」
 涙で視界がぼやけているため、ツカサが何を指して「それ」と言ったのかがわからなかった。
「こっち……」
 手を引かれ、私は先導されるままについて行く。と、少し歩いたところで煙がなくなったことに気づく。
 吸い込む空気が新鮮……。
「ツカサ……?」
 手ぬぐいで涙を拭ってから話しかけると、ツカサは私の帯に釘付けだった。
「それ……」
 ツカサが指していたのは携帯のストラップ。
 帯の中に携帯を入れていたこともあり、それに付けてあったストラップが根付けのように表に出ていたのだ。でも、それだけといえばそれだけ。
「秋兄のストラップ、外したんだ?」
「あ、うん……」
 本当は、外す必要などなかった。
 ネックストラップを使う場合は外さなくてはいけないけれど、携帯ホルダーを使うのなら、ストラップをふたつつけられる仕様だったのだから。
 でも、誕生日のお祝いしてくれたあの日、ツカサは「秋兄がプレゼントしたストラップを外さないと付けられない」と言った。
 携帯ホルダーはオーダーメイドだ。そのデザインをした当人がわからないはずなどない。それでもそういう言い方をしたのは、秋斗さんからのプレゼントを外して欲しいということではないのか。
 少し考えたら、そのくらいは察することができた。だから、私は秋斗さんからいただいたストラップを外し、ツカサからもらったストラップのみをつけることにしたのだ。今となっては唯兄からもらった鍵も、オルゴールつきの小物入れにしまってある。
 ツカサは信じられないような目で見ているけれど、どうしてなのかな。どうしてそんなに驚くのかな。
 シンプルに考えるなら、私が秋斗さんからいただいたストラップを外さないと思っていたからだろう。でも、それはどうして……?
 ……不安、なのかな。自信家のツカサが……? まさか……でも――。
 私には秋斗さんを好きだった過去があるし、未だに秋斗さんには好きだと言われ続けている状態。
 だから、不安なの?
「……秋斗さんからもらったらストラップ、外さないと思った?」
 尋ねてもツカサは何も言わない。
 友達や家族、恋愛の意味での好きな人。好きや大切にも種類があって、それぞれニュアンスが異なる。でも――。
「あのね、秋斗さんも好きだし大切な人だよ。でも、ツカサ以上に好きな人も大切な人もいないの。だから、どちらかを優先させるなら、私はツカサを選ぶよ」
 ……これで不安を払拭できるだろうか。
 無愛想なツカサからはそのあたりの機微などわかりようがない。
 無言が続くところへ果歩さんがやってきて、
「翠葉ちゃん! 花火花火っ! あとちょっとしか残ってないよ! お義母さんと一緒に線香花火大会しよ!」
「あ、はい! ツカサも花火しよう?」
「俺はいい」
「そう……? じゃ、私行ってくるね」






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