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光のもとでⅡ-1 作者:葉野りるは

メール友達(04/25~05/05くらいのお話)

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祖父母との対面 Side 唯 03話

 その夜、碧さんたち夫婦に一室。俺とあんちゃんに一室。リィに一室が用意されていたものの、リィが一緒に寝たいとわがままを言いだし、俺と一緒のベッドで寝ることになった。
 お風呂から上がった直後は枕投げなんて初歩的なイベントを楽しみ、リィの息が切れてきたところでトークタイムにシフト。
「唯、すっごい緊張してたな?」
「あんちゃん……自分が俺の立場だったらって少しは考えてもみてよ」
「まぁ、そうだよな」
 そんな会話をリィはクスクスと笑いながら聞いている。
「明日は別の意味で緊張強いられるかもよ?」
「なんですって、翠葉さんっ!?」
「御園生のおじいちゃんは職人気質な人なの」
「えぇと……職人気質って言われると、鬼瓦みたいな顔しか想像できないんだけど……」
 そんなコメントに、リィはさらに声を立てて笑った。
「でも、家自体はこんなに大きくないし、日本家屋の落ち着いた趣の家だよ」
「あんちゃん……それ、いまいちフォローになってるのか微妙なんだけど。この家自体が規格外な大きさじゃん。それより小さかったとしても一般的には大きいでしょーがっ。それに、幸倉の家だってそれなりに敷地広いじゃんっ。このお坊ちゃんお嬢ちゃんめがっ!」
 幸倉の家は住宅街に建てられている。だが、周りの家と比べると、御園生家は倍近くの敷地を保有している。どうしてこんな広い敷地に大きな家を建てられ、さらにはゲストルームを買い取るなどと言えるのだろうか、と前々から不思議に思っていた。すると、
「あぁ、幸倉の敷地はもともと城井の敷地なんだ。城井アンティークのショールーム兼ティールームがあったんだけど、母さんたちが家を建てるって言いだしたときにおじいちゃんが譲ってくれた土地って聞いたことがある」
 じゃ、零樹さんたちが用意したのは上物、建物のみか。それも、零樹さんが建築デザインしたとなればそこにかかるコストは省かれるわけで……。
「幸倉の家をつくってくれたのは、御園生のおじいちゃんなのよ」
 リィがにこにこと笑いながら教えてくれた。
「は? 建築したのが御園生のおじいさんってこと?」
「うーん……設計したのはお父さん。でも、施工したのはおじいちゃん」
「……つまり、職人気質のおじいちゃんは大工さんって話デスカ?」
「「ピンポーン!」」
 ほうほうほう……それはそれはまた異質な緊張を強いられる気がしてまいりました。
「さ、明日は午前中に移動しなくちゃだから、もう寝よう」
 あんちゃんの言葉におとなしくベッドに横になる。
 すぐに隣ですぅすぅ、とリィの寝息が聞こえてきたけれど、俺はなかなか眠りにつけずにいた。すると、枕元に置いていた携帯がピカピカと光りだす。
 携帯を見ると、ひとつのアプリが起動していた。メッセージの送信主はこの部屋にいるあんちゃん。

 ――どうせ眠れてないんだろ?
 ――えぇえぇ……緊張の極致ですよ
 ――そんな唯に朗報
 ――何?
 ――御園生のおじいちゃんは日本酒好き
 ――知ってるってば
 ――だからさ、おつまみ作ればいいと思うよ
 ――は?
 ――たぶん、おじいちゃんは唯の料理が好きだと思う
 ――胃袋ゲット大作戦ですか?
 ――まぁ、そんなとこ。明日、おじいちゃんちの近くにあるスーパーに寄ろう
 ――それは助かる。さすがに初めて行く家の冷蔵庫事情はわかんないし、あれこれ使うのも申し訳ないから
 ――今日ほど緊張する家じゃないから大丈夫だよ
 ――そうは言われても緊張するものなんですっ! でも、すてき情報ありがとう
 ――寝不足と緊張が重なるといいことない。羊でも数えて無理やり寝ろよ
 ――ははは……了解。がんばって試みる所存

 携帯ディスプレイの光が消えると、俺はリィにぴたりとくっついた。
 くっつくだけじゃ物足りず、お布団に出ていた片手をゲット。
 リィ、ちょっとだけ――ちょっとだけぬくもり分けてください。

 翌朝、七時になると碧さんが俺たちの部屋にやってきた。
「唯、一緒に朝ご飯作らない?」
 言われた途端、俺とあんちゃんは顔を見合わせた。
「何よ、ふたりして……」
 昨夜のやり取りを碧さんが知っているわけがない。でも、この提案は――。
「唯が料理上手なのお父様たちに自慢しようと思って。嫌?」
「いえっ、全然っ。むしろ大歓迎っ!」
「キッチンにあるものは何を使ってもいいわ。それと、これはまだお父様とお母様には内緒なの。朝食の席でびっくりさせましょ。吉田さんにもそうお願いしてきたから」
 朝一のコーヒーを飲んでいないにも関わらず、俺の脳内は恐ろしくクリアで、最短時間で身だしなみを整えると碧さんについて一階にあるキッチンへ移動した。
 洗面を済ませたリィたちが下りてきたとき、料理は大半が作り終わっていた。 大半、といっても一品料理だからわけはない。鶏肉と長ネギ、しめじ、卵を使った中華風の雑炊。リィの大好きな朝ご飯メニューだ。この味が苦手という人は少ないだろうし、朝食というボリュームにも敵っていると思う。
「唯兄の得意メニューだね」
「朝から麺ってのはどうかと思ってこのチョイスなんだけど、どう思う?」
「すごくいいと思う」
 キッチンでそんな会話をしていると、
「おはよう。みんな揃ってどうしたの?」
 おばあさんが入ってきた。その場にいる人間は顔を見合わせ俺を見る。いや、俺を見られても困るんだけどっ!?
「お母様、お父様には秘密よ? 今朝の朝食は唯が作ったの」
「まぁっ、お料理ができるの?」
「えぇと……困らない程度に」
 ぼかして答えると、
「おばあちゃん、嘘よ? 唯兄はとっても料理が上手なの。私よりもレパートリー豊富なのよ」
「ふふ、いただくのが楽しみだわ。じゃ、器によそってダイニングへ移動しましょう」

 ダイニングテーブルに人が揃い料理が運ばれてくると、目の前に出された器を前に、おじいさんが不思議そうな顔をした。
 城井家の朝食は洋食らしいので、雑炊が出てきたことを疑問に思ったのだろう。
「中華粥? 朝ご飯には珍しいメニューだね」
 黄叔父さんが口にしても、みんな知らんぷりを決め込む。裏側を知っている人間が揃って「いただきます」を口にする中、俺はおじいさんの動向から目が離せなくなっていた。
「……うまいな。吉田さん、これは美味しいですよ。たまには朝に中華粥というのもいいかもしれない」
 おじいさんの言葉に吉田さんがクスリと笑った。
「旦那様、今日の朝食は私が作ったものではないんです」
「そうなのかい? じゃ、誰が――翠葉かな?」
 おじいさんがリィを見ると、
「おじいちゃん、はずれ。唯兄よ」
 リィがにこりとかわいく笑んだ。その顔に目尻を下げたおじいさんは、すぐに俺に視線を移し、
「唯くんが、か?」
「はい……。お口に合ったようで良かったです」
「これならおかわりができそうだ」
 おじいさんはえらく上機嫌でスプーンを口に運び、口にしたとおりおかわりを所望した。
 料理は若槻の家にいたとき必然と身についたものだ。
 あのときは誰と一緒に食べることもなく、ただひとりで食べていた。まずいよりは美味しいほうがいいから――そう思ってある程度の工夫はしたけど、ひとりで食べるご飯は味気なかった。
 こうやって喜んでくれる人がいると嬉しいと思う。単なる雑炊でも、みんなが喜んで食べてくれると、それだけで美味しいものに見えてくる。
 それはリィたちと暮らし始めて割とすぐに感じたことだけど――今改めて、こんな笑顔を見られるのなら、俺のしてきたことに意味はあったのだと思えた。

 食後のコーヒーを飲んですぐに城井の家を出た。次に向かうは御園生の家。
 行きにスーパーに寄ってから向かったこともあり、対面の時点で不思議な空気が漂っていた。
「翠葉ちゃんも蒼樹くんも碧さんもいらっしゃい! ……あなたが、唯芹くん?」
「はい」
 緊張しているのに、碧さんにずいずい、っと前へ押し出される。
「零樹の母の佳苗かなえです」
 佳苗さんは城井のおばあさんとは対照的。食堂のおばちゃん的な雰囲気だ。
「あら? 唯芹くんが持ってるそれ、近くのスーパーのレジ袋? 何を買って来たの?」
 緊張して言葉に詰まっていると、するり、とあんちゃんがフォローしてくれた。
「唯、料理が得意なんだ。今日もおじいちゃんはお酒飲むでしょ? そのときのおつまみ作ってくれるって」
「あら、本当っ!? 助かっちゃうわ! 何もないところだけど上がって上がって」

 何もない、というのは非常に適切な表現だった。
 家自体は城井の家と比べたら格段に、個人宅といえる規模だ。けれども、物という物が置かれていないためか、やけに広く感じる。
 たとえるなら、入居前の部屋を見て広いと思うあの感覚。人が住んでいるのに、どうやったらこんなに物がない家でいられるのか――。
 そんな些細なことを気にすることができる程度には緊張が緩んでいたのかもしれない。
 長い廊下や丸い形状のまま使われている柱は、経年劣化で味のある飴色に変化している。そのツルツルとした表面は思わず手を伸ばして感触を確かめたくなるほどだ。
 リィは嬉しそうに壁に触れながら歩いていた。その壁は珪藻土の塗り壁。自然素材が好きなリィには大好きなアイテムなのだろう。それが壁、っていうのは女子高生的にちょっとどうかと思うけど……。
 居間に通されると、今時珍しい囲炉裏があった。
 ぐおぉぉぉ……魚とか肉を串に刺して焼いて食いてぇ……。
「唯、涎垂らしそうな顔してる……」
 あんちゃんに突っ込まれ、
「うん。今、俺の脳内には鮎の串焼きが描かれてる」
「あはは! 来る前に囲炉裏があることを話しておけば良かったな」
 本当だよ、まったく……。
 囲炉裏に気を取られていた俺は、鬼瓦の存在を忘れていた。
「唯、この人が俺のお父さん、大樹たいじゅさんです」
「は、初めましてっ、唯芹です」
 名前の前に「御園生」が付けられないこのつらさ……。
 御園生先住民に「御園生」を名乗るほどの度胸はなくて、「御園生」を付けずに名前だけを名乗ると座り悪いったらありゃしない……。
 大樹さんはいかにも頑固者チックな雰囲気を纏っていた。
 こういう人にはどうやって接したらいいんだろう……。
 対人経験を積んできていないうえに、躾の行き届いたホテルマンや変人プログラマーとしか関わったことのない俺的にはかなりピンチな局面だ。職人さんってどう接したらいいのかな。
 ぐるぐる考えがめぐる中、ひとつの疑問がふつふつと……。
 どうしてこんな頑固一徹って雰囲気の人から零樹さんみたいな子どもが生まれたんだろう? いや、違うかな。佳苗さんの気質を多いに継いでいるのが零樹さんってところか。さらには、もしかしたらリィの頑固ちゃんは大樹さんの血を継いでいるからなのか……?
 俺は胡坐をかくおじいさんの前に正座をして固まっていた。すると、
「父さん、お年賀に贈った酒飲んだ?」
「まだだ。珍しくいい酒を贈ってきたじゃないか。蒼樹も碧さんも好きなんじゃないかと思って来るのを待っていた」
「わぁっ! 嬉しいです」
 日本酒好きな碧さんが即座に反応する。そして、
「その日本酒、唯が手配したものなんです」
 碧さんはにこりと笑みを添えた。大樹さんは一瞬だけ俺に視線を戻し、立ち上がって囲炉裏を離れる。
「佳苗、お年賀にいただいた酒はどこにやった?」
「あぁ、それならキッチンに出してありますよ」
 そのまま部屋を出ていくところを見ると、どうやら酒を取りに行ったようだ。
「みみみ、碧さん……俺、心臓を吐く前にキッチンへ退避したいんですが」
「唯ったら緊張しすぎ」
 パシパシ、と前から肩を叩かれたけど、大樹さんと初対面で緊張しない人がいるならぜひともお目にかかりたい。
 身長はでかいし、おじいさんなのにマッチョだし、顔はイケメン風味だがややいかつい。
 身長がでかい人間というなら相馬先生と昇先生を思いだすが、どうやっても同種ではない。ザックリ分けるとインテリ系ワイルドと、職人系マッチョ。そんな感じ。
「ま、お酒を注がれたら席立ちにくくなるし……。お義母さーん、唯が台所借りたいって言ってるんですけど、今大丈夫ですか?」
 奥から顔を出した佳苗さんが、
「お茶でもどうかしら、って思ったのだけど……」
 佳苗さんは俺の顔を見て何か悟ったらしく、
「いらっしゃい」
 と手招きしてくれた。それに付いてきてくれたのはリィ。
「唯兄、触ってみてもいい?」
「はい?」
「今、唯兄に触ったらカチコチしていそう」
 きょとんとした目で見られ、リィはつつく気満々で人差し指を用意していた。






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