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光のもとでⅡ-1 作者:葉野りるは

メール友達(04/25~05/05くらいのお話)

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祖父母との対面 Side 唯 02話

「なんですか、この門構えっ……」
 洋館ぽい建物の門が自動で開く。
 そんなお宅は未だかつて訪問したことないんだけどっ!?
 どんどん追加されるハードルの高さに、俺の心臓は完全に縮み上がっていた。
 ガレージには外車と高級国産車が三台停まっており、さらに来客者の車が停められるようになっている。これはひょっとしてひょっとしなくても、家の中にはお手伝いさんがいたりするのではなかろうか。
 アンティーク家具屋を営む家に相応しい凝ったデザインの玄関ドアを開ければ、玄関とは呼べない空間が広がっていた。
 幸倉にある御園生家の玄関も広めに作られてはいるが、その比ではない。品格を感じる応接セットがあり、いかにも高そうなアンティーク調の柱時計まで置かれているのだ。その並びにはアンティーク調のショーケースが置かれていて、見るからに高価そうなものがディスプレイされている。
 俺、超場違い感満載なんですけど……。
「翠葉、いらっしゃい! もう身体は大丈夫なの? お見舞いに行けなくてごめんなさいね」
 シンプルなワンピースにロングネックレスをした品のいい女性はリィを優しく抱きしめた。
「身体はもう大丈夫。それに、おばあちゃんたちが来たいって言ってくれたとき、勉強が忙しいから遠慮して、ってお願いしたのは私だもの」
「試験は大丈夫だった?」
「はい、晴れて二年生になりました」
「じゃぁ、あとでお祝いしなくちゃね。今日は泊まっていくのでしょう?」
「はい」
 おじいさんと思われる人は零樹さんと立ち話をしていた。そこに、
「奥様、旦那様、お茶の準備が整いました。応接室へ移動されてはいかがでしょう」
 やっぱりいたっ! ザ、お手伝いさんっ。
 ぐおおおおおっ、蕁麻疹が出そうだーーー。
 そんな俺の心境を知る由もないリィに手を引かれて応接室へ移動する。
 廊下に飾られてる家具すべてが売り物だと言われても疑いようのない品が並ぶ中、俺は接触事故が起きないように、と通路の中央を歩くよう心がけた。応接室へ入ると、
「この子が唯芹よ。私たちの三人目の子ども。名前は唯芹で届けてあるけれど、私たちは唯って呼んでいるの」
 背中に碧さんの手を添えられ紹介された。このとき、間違いなく俺の顔は引きつっていたと思う。
「唯芹、です――」
 言いなれない名前を口にして、ほかにどんな言葉を添えればいいのか、と逡巡する。「よろしくお願いします」というのが適当そうだけど、こっちからよろしく願い申し出るだけでもおこがましく思えてしまう。
 頭を上げられずにいると、
「唯、そんなにかしこまらなくていいわ。私の両親なんだから、あなたの祖父母よ」
 碧さんはそう言ってくれるけど、対面するふたりからは硬質な空気しか感じない。間違いなく歓迎はされていない。そこへ朗らかな声が割り込んだ。
「翠葉、よく来たな!」
 応接室の入り口に立っていたのは小柄なおじさんだった。小柄、とはいっても一七〇はあるだろう。
「黄こう叔父さんっ!」
 リィが人に抱きつくところを初めて見たかも。リィにあんなことされたら、秋斗さんや司っちは間違いなくフリーズだな。
「お久しぶりです。四月にいただいたメールが海外からだったから、今日はもしかしたらいないかも、って思っていたの!」
「ははは! そんなにゆっくりはしていられないんだけどね、翠葉たちが来るっていうからこの週は国内での予定を組んでたんだ。蒼樹も久しぶりだな。それから――君が唯芹くん?」
「は、はいっ」
「碧の弟、叔父の黄だ。よろしくな」
 握手を求められ応じると、小柄にはそぐわない力でガシッとハグされた。バシバシと背中を叩く力には遠慮がない。
 どうしたらいいのかはわからない。でも、この遠慮のないハグは、自分に踏み込んでもらえた気がして、受けていて安心感を得られるものだった。
「姉さんも義兄さんも、相変わらず好き勝手やりたい放題だな。でも、唯くんを迎えるメリットがあったからこそ養子に迎えたんだろう?」
「そのとおりよ。うちには大きなメリットがあるの。すてきなことにデメリットはなしよ。最高でしょう?」
 碧さんは渋い顔をしている両親を気にせず、腰に手を当てて胸を張る。
 この図太さ、ちょっと見習いたいかも……。
 緊張からくる息苦しさなのか、ハイソな空気に触れて気管支あたりがアレルギーを起こしているのか、身体症状に異常が出そうな予感を感じていると、リィに手を握られた。
 ぎゅ、と握り締め、俺の目を真っ直ぐに見てくる。そしてにこりと微笑んだ。即ち、「大丈夫だよ」。
 なんだかな。リィの笑顔が薬に思えてくる。触れた瞬間に、す、と効果が現れ始める何か。
「唯くんにとっては規格外な両親ができて大変かな? でも、翠葉と蒼樹ともうまくやってるみたいだね」
「あ、はい……」
「そんなに緊張することも気後れすることもないよ。これからは気軽に遊びにおいで。ここに来づらかったら僕の家でもかまわないしね」
「は、い……」
 訪れた沈黙に心臓とか胃が裂けるかと思った。けれど、その沈黙は数秒で終わる。
「叔父さん、パソコンの調子悪いって言ってなかった? 唯に任せたら稼働率上げてもらえること間違いなし!」
 あんちゃんは俺の両肩に手を乗せ、人身御供よろしくずいずいと前へ追いやる。
「お、そうなの? メカ関連強いんだ? ちょうど良かった。友達にメンテナンスを頼もうかどうしようか悩んでたところなんだ。じゃ、ちょっと二階へ行こうか」
 そんな具合に、俺はアンティーク博物館のような応接室をあとにした。

 あんちゃんが家でパソコンのパーツを用意してる時点で何かやらされるかな、とは思ってた。けど……うん、いいよいいよ。こういう場を作ってもらって、少しは使えるやつくらいに思ってもらえるに越したことはないからさ。
 少々斜に構えていた俺だけど、黄叔父さんはとても人当たりが柔らかく、碧さんの弟、というのがしっくりくる人だった。
 二階へ行くと名刺を取り出し、その裏に自宅住所や電話番号を書いてくれた。
「いつでも来てよ」
「ありがとうございます……」
「唯、叔父さんちに行くときは必ず連絡つけてから行ったほうがいいよ。この人、国内滞在率が低めだから」
「ははは! そうなんだ。実は、仕事で海外にいることが多くてね。ま、ちょこちょこは帰ってきてるんだけど」
 叔父さんは頭を掻きながらガハハと笑う。正直、そこらに並ぶ調度品にそぐわない。「お上品」な感じがなくてなんとも親しみやすい。
「さて、これが問題のパソコンなんだけど」
 俺は差し出されたパソコンをいじりながら、数時間を男三人、二階の一室で過ごした。

 夕飯の時間になると、お手伝いさんである吉田さんが呼びに来た。
 二メートルはあるかと思われる幅広な階段を一段下りるたびに緊張が助長する。と、ポン、と背中に手をかけられた。手の主は叔父さん。叔父さんはにっ、と笑って、
「緊張は伝染するぞ?」
 妙にあんちゃんっぽい言葉を口にした。

 夕飯を食べる部屋は一般的に言われるダイニング、という感じではない。
 広い部屋に細長い大きなテーブルと、背もたれの高い椅子だけが置かれた部屋。
 もちろん、テーブルの中央には料理のプレートを邪魔しない程度に花がいけられている。
 咄嗟に思い出すのはパレスでの晩餐会。そんな記憶が引き出される程度には非日常なる空間。
 向かいには、おじいさん、おばあさん、碧さん、黄叔父さん。こちら側にはあんちゃん、俺、リィ、零樹さん。そんな席次で夕飯が始まった。
 テーブルマナーが必要とされる食事に何を味わうこともできずにいたけれど、ホテルで習ったことを必死に思いだして対応。それに、時折両サイドのあんちゃんとリィがさりげなくフォローしてくれていた。
 何より、俺の席からは少し離れた黄叔父さんが頻りに話しかけてくれることで、対面にいるおじいさんとおばあさんとも言葉を交わせるようになっていた。
 言葉を交わせるようになったとはいえ、対応しているのは猫を被っている俺なわけだけど……。
 もっと素の自分で接したい。そうは思うけど、受け入れられなかったときのことを考えると、いい子でいたほうがいい、と判断する自分がいる。
 最初に猫を被ってしまったら、今後ずっと被り続けなくてはいけない。わかっていながら拒絶を怖がる自分が先に立つ。そんなとき――。
「父さん、さっき蒼樹から聞いたんだけど、お年賀にワインを手配してくれたのは唯らしいよ」
 その言葉に心臓が止まりそうになった。
 あの酒を用意したのは「いい子」を意識した自分――与える印象を良くするためだけに動いた自分だ。でも、この場にいる人は、あんちゃんですらそんなこととは思いもしないだろう。
 俺は途端に後ろめたくなる。
 おじいさんは席を立ち、部屋の中にあるワインクーラーから一本のワインを取り出した。そのワインこそ、俺がお年賀に贈った白ワイン。
「このワインは前に一度飲んだことがある。とても美味しかったんだが、なかなか手に入るワインではない。手配するのは大変だっただろう?」
 俺は言葉に詰まる。
 それは確かに手に入りにくいワインで、俺はそれを「ウィステリアホテル」を介して手に入れた。
「すみません……それ、自分だけでどうにかしたものではありません。自分、以前ウィステリアホテルに籍を置いていたことがあります。そのときに知り合った人を頼って手に入れました」
 ここまで明確に話す必要はなかったかもしれない。でも、ここで話さないと窒息しそうだったんだ。ここでカミングアウトしないと、俺はずっと猫を被った状態でいることになると思った。
 たぶん、この人たちがどうでもいい人たちならこんな思いを抱くことはなかっただろう。
 適当にいい印象を与えておけばいい――そう思える人たちならこんなに考え込むことはなかった。でも、ここにいるのは碧さんの両親で、リィとあんちゃんのおじいちゃんおばあちゃんだから。
 自分を受け入れてくれた人たちの家族に嘘はつきたくない。もし、「いい子」の自分を受け入れられたとしても、それは本当に自分が受け入れられたことにはならないし、そんな状況は、どんどん自分が苦しくなる一方だ。
「君は正直な子だね」
「いえっ――」
 咄嗟に反する言葉を口にしたけど、それ以上は何も言えなくて……。
「吉田さん、グラスを」
 おばあさんが声をかけると、お手伝いさんがワイングラスを持ってやってきた。
 差し出されたグラスを持つように言われ、俺はおじいさん直々にワインを注がれる。
「君の事情は碧から聞いている。だが、私は君という人間を知らない。君も私という人間を知らないだろう? 昨日の今日で家族になれるわけじゃない。だから、今日から始めよう。君が歩み寄る努力をしてくれるのなら、私たちからも歩み寄る努力をしようと思う。どうだろう?」
 お互い急には家族になれない。急に何かが変わるわけじゃない。それでも、「これから」を提示してもらえたことが嬉しくて、今の、そのままの俺を受け入れてもらえた気がして、こみ上げるものを抑えることはできなかった。
 年甲斐もなくボロボロと涙を零し、俺の正面に座っていたおばあさんにハンカチを差し出される。
「すみませっ――」
「涙を拭いたら私たちのグラスにワインを注いでくれないかい?」
「はいっ」
 俺は震える手でワインボトルを持ち、おじいさんの持つグラスにワインを注いだ。時計回りでワインを注いで回る際、
「出迎えたとき、すぐに声をかけられなくてごめんなさいね。唯くんのことは碧から聞いていたのだけど、いざ会うとなると緊張してしまって……。何せ、こういった形で新しい家族を迎えるのは初めてだったの」
 食事を始めていっそう上品さを増したおばあさんは、控え目な笑みを見せた。
 硬質、歓迎されていない、と感じたそれは「緊張」だったのだろうか。
 どう接したらいいのかわからない、と思っていたのは自分だけじゃなかったのかもしれない。
「それは仕方ないでしょう? 三人とも初対面なんだもの。お父様とお母様が緊張していたように、うちの唯だって緊張してたのよ。だから、三人ともお相子。ね?」
 碧さんの一言に場が和んだ。
 リィを除く全員にワインを注ぐと、
「じゃぁ、今日、私たちが出逢えたことに乾杯しよう」
 おじいさんの一言が乾杯の音頭となり、俺たちはグラスを高く掲げた。






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