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光のもとでⅡ-1 作者:葉野りるは

メール友達(04/25~05/05くらいのお話)

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Side 司 02話

 昨夜のメールのことを思い出すとばつが悪いどころの話ではない。
 あの、とりとめのない文字の羅列を読まれてしまっただろうか。読む前に削除してもらえただろうか。
 知りたくとも、メールの話題を持ち出すことすら躊躇われる。
 もしあのメールを読んだのなら、いくら鈍い翠でも気づいただろう。俺が鎌田を意識してメールを送ったことくらいは。
 気づかれてリアクションがあっても困る。
 そんなことを気にしていた俺は、翠を避けることはなかったものの、生徒会の仕事が絡む会話しかできなくなっていた。

 飛翔のクラスとバスケの試合をしているとき、
「司ーっ! 翠葉が応援に来てくれたんだからがんばんなよっ!」
 嵐の声が飛んできた。目の端に翠の姿を認め、余計なことを、と思う。
 試合は一年に圧されていた。
「先輩、外野を意識する余裕なんてあるんですか?」
 にこりと笑った飛翔にボールを取られた。直後、今まで聞こえていた女子の歓声とは異なる声が轟く。
「翠葉っっっ!?」
 何かと思って声の発信源に視線を向けると、そこには倒れた翠を囲むように人垣ができていた。
 どうしたことか、隣のコートからも人が駆け寄る。
「朝陽っ」
 審判をしていた朝陽に声をかけ、こちらのコートも一時中断させてから人垣のもとへ行く。
「翠葉っ、大丈夫? ね、翠葉っ!?」
 嵐が頻りに声をかけていた。
「嵐、何があった?」
「司っ……隣のコートからボールが飛んできて翠葉に当たったのっ」
 隣のコートが試合を中断している意味がようやくわかる。俺も膝をつき、翠の肩を叩きながら呼びかける。
「翠っ、翠っ――」
「翠葉っ、翠葉大丈夫っ!?」
「ん……」
 翠は薄っすらと目を開け、ぼんやりとした反応を見せた。
「翠、痛むところは?」
「え……?」
 パチリ、と目を開けた翠は、何を訊かれているのか、といった顔をした。そのあと、
「右半身、痛いかも……。あと、頭? 首?」
 自分の左手を痛む場所へと移動させる。
「右半身が痛いのは右を下にして倒れたから。首と頭が痛いのはボールが当たったから」
 俺にわかることを教えると、嵐が補足をするために口を開く。
「うちらの裏面コートのボールが当たったんだよ。一応、仕切りネット越しだったから、威力そのままではなかったと思うんだけど……」
「すみませんっ、自分が打ったボールでっ」
 隣のコートで試合をしていた男子が頭を下げる。と、翠はこれ以上ないくらいに目を見開いた。一気に上体を起こし、
「わっ、あの、本当に大丈夫なので――」
 宙を見たまま翠の上体が傾ぐ。咄嗟に右腕で支えると、
「ツカサ、本当に大丈夫だから……」
 翠は俺の腕に反する力を加えた。
「……慌てて起き上がろうとするくらいには頭働いてないんじゃないの? それとも、相変わらずその頭は有益な学習をしない飾り物なのか?」
 思っていることをすべて口にすると、
「……ただ慌てちゃっただけ。本当に大丈夫だから……」
 これ以上とやかく言っても仕方がない。俺は自分にできる簡単な問診をすることにした。
「激しい頭痛、吐き気は?」
「頭は痛いけど頭痛という感じではないし吐き気もない」
「手脚が痺れてたり力が入らないとかは?」
 翠はその場で手脚を振って見せる。
「大丈夫」
「じゃ、この指は何本?」
「二本」
「指を目で追って」
 眼球運動の状態は滑らかで指先を十分追うことができる。眼振はとくに認められない。輻輳ふくそうも異常は見られず複視もない。
「あんた、何医者の真似ごとしてんのよ」
 姉さんが息を切らしてやってきた。きっと誰かが呼びに行ったのだろう。
「所見は何もないと思う。でも、念のために病院で検査してきて」
「最初からそのつもりよ。ほら翠葉、病院行くわよ」
「えっ!? 今ですか?」
「そうよ。CT撮るだけだから一時間かからないわ。昼休み中には戻れるでしょ」
「でも集計作業――」
「集計のことなら気にしなくていい。翠が戻るまでは俺か優太が見る」
「……ごめんなさい」
「謝ることじゃない」
 あとは姉さんに任せればいい。
 俺はその場に集まった人間を散開させ、自分たちもコートへ戻り試合を再開させた。

 昼休みに入り、弁当を食べたあとに集計の滞っているところを中心に様子を見ていた。すると、携帯がメールを受信する。


件名 :検査結果
本文 :異常ありませんでした。


 内容にほっとした。
 改めてメールを見るも、報告しか書かれてはいない。
 それは別段珍しいことではなく、俺たちにおいてはこれが普通だった。そして、返事を必要としないものにはとくに返信をしないのも常。
 こういう場合も何か送るべきなのか、と迷いはしたが、検査が終われば学校へ戻ってくるし、学校へ戻ってくれば視聴覚室へ来る。
 それがわかっていればなおのこと、メールを送るという行為には及ばなかった。

「ツカサ、ありがとう。戻ったから変わる」
 病院から戻った翠に声をかけられた。
「全体的に滞っているところはない。ただ、気を抜くと一年が遅れるからフォローして」
「はい」
「……頭の痛みは?」
「まだズキズキしてるけど時間が経てば大丈夫だと思う」
「無理はするな」
「うん」
 そのまま昼食を摂らずに作業をしようとするから、
「その前に昼食。さっき簾条がかばんを持ってきた」
 翠のかばんがおいてある窓際へ連れていくと、
「ツカサはもう食べたの?」
「食べた」
 翠は弁当を広げながら、
「メール……嫌だった?」
 突然振られた「メール」というワードに反応しそうになる。それを必死で押し留め、
「もう少しまともな文章にして」
「鎌田くんとメールのやり取りしてるの、嫌だった?」
 嫉妬はしたと思う。でも、それが嫌かと言われると何か違う気もする。
 ただ、ザワザワと胸がざわつく。それをどう説明すればいいのかはわからないし、説明したいとも思わない。
「別に。近況報告のやり取りが楽しいっていうのは理解できないけど」
「じゃ、続けてもいい?」
「……そこまで干渉するつもりはない」
 これ以上メールの話をされたらたまらない。
 もし、昨日送ったメールの話になろうものなら八つ当たりをする自分が目に見えている。
 本当は翠が食べ終わるまでその場にいるつもりだったけど、俺は集計を理由に席を立った。

 この日の夜、「唯兄取り扱い説明書」というメールが翠から届き、昨夜のメールが削除されずに読まれたことを知る。そして、延々と綴られる唯さんのプロフィールを始め、決して俺の役には立たないであろう情報に目を通す羽目になった――。






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