挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
光のもとでⅡ-1 作者:葉野りるは

紫苑祭後編(10/31)

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

124/176

Side 翠葉 07話

 右に海斗くん、左に佐野くんが座り、
「夏に俺らと海行ったじゃん」
 海斗くんの言葉に、
「そうなんだけど……」
「海斗、ムリムリ。御園生、あのとき海に入ることでいっぱいいっぱいだったから」
「あー……そっか。海が怖くてそれどころじゃなかったか」
 反論したいのにできない。
 なんだか、今日はそんなことばかりが続く。
 まだ視線を野放しにするのは危険で、人の足元しか見えない高さに視線を固定する。と、
「あ、司だ」
 声に反応して顔を上げると、一階フロアから上がってきたツカサが目に入ってしまった。
 ひとりで歩いていたわけじゃない。そこかしこに人はいたのに、どうしてツカサを見つけてしまったのか――。
「どうしてツカサがいるのっ!?」
 隣にいる海斗くんを見て、視界から強制排除。
「えええっ!? だって、黒組決勝まで勝ち残ってたし、決勝戦が終われば戻ってきてもおかしくないでしょーが」
「終わったら集計作業で本部じゃないのっ!?」
「翠葉さん……さすがに半裸のまま本部で仕事ってわけにはいかないでしょう……。それに、今は飛翔が本部にいるから問題ないんじゃない?」
「じゃぁっ、どうしてメガネかけてないのっ!?」
「お嬢さん、棒倒しでメガネなんてかけてたら外れたとき危険でしょーが……」
 あ、そっか……。
 でも、色々と不意打ちすぎて文句を言いたい。ものすごく申し訳ないのだけど、何か口にしていないと落ち着かない感じ。
 今まで、ふとしたときに腕の筋肉や首に浮き上がる筋を意識することはあった。でも、半裸姿なんて見たことないし、瞬間的に目にしただけなのに、瞼に焼きついたみたいに鮮明に思い出せる。
 白い肌に引き締まった肉体は、適度に筋肉がついていて、まるで彫刻品のように美しかった。
 どうしよう……。
 今までなら恥ずかしいと思いながらも「ぎゅっとして」と言うことはできていた。でも、今日からは無理な気がする。抱きしめられるたびに半裸のツカサを思い出してしまいそうで。
 黒組と思しき団体が近づくにつれ、いてもたってもいられず席を立つ。
「翠葉っ!?」
「御園生っ!?」
 海斗くんと佐野くんの制止を振り切って近くの階段を駆け上がる。と、数段上ったところで眩暈に見舞われた。
「しまった」なんて思わない。
 目眩覚悟で立ち上がったし、後悔よりも、もう少し遠くまで逃げたかったのに、という気持ちのほうが強い。
 ブラックアウトに加えてバランス感覚が失われ、自分が前へ傾いているのか後ろへ傾いているのかすらわからず手を伸ばす。
 階段の手すりを掴めるかもしれないと思ったけれど、そんな期待は甘かった。伸ばした手は何を掴むこともできずに空を掠める。
 背中に衝撃を感じ、背後へ落ちたことを悟る。
 明らかに何かにぶつかった。でも、痛いと思うほどではないし、なんだか安定感がある。
 あ、れ……? 背後に落ちたなら、硬い床か壁にぶつかるはずなのだけど――。
「あっぶねー……司、ナイスキャッチ!」
 海斗くんの言葉に冷や汗が背を伝う。
 ツカサ……? ナイスキャッチ……?
 視界が回復する直前、
「何度言ったら習得する? いい加減立ち上がりざまの眩暈くらいは回避できるようになってしかるべきだと思うんだけど」
 耳に息がかかるほど近くでツカサの小言が聞こえた。
 声を挙げそうになって、咄嗟に両手で口を押さえる。
 上半身を動かしたことで、身体に回されている腕の存在をはっきりと感じ取った。
 確認するまでもない。
 眩暈を起こした私をキャッチしてくれたのはツカサで、私は逃げるどころかツカサのもとに着地してしまったのだ。
 そこまで考えてはっとする。
 ツカサに着地……?
 それはつまり――今、私の背中が面しているのはツカサの胸ということ……?
 意識した途端に身体中が熱くなる。
 忙しく動き出した心臓を落ち着けるため、あれやこれやと考えるものの、何も考えられないし、心臓が落ち着く気配もない。
 こんなことなら今までだって何度もあった。でも、背中に面しているのが服を纏わないツカサの肌だと思うと、どうしようもなく恥ずかしい。
 視界が戻って一番最初に目に入ったものは、ツカサの腕だった。
 腕だって見慣れている。少し前までは夏服だったから毎日のように目にしていた。なのに、どうしてこんなにも恥ずかしく思うのか――。
 もう、やだ……。
「翠?」
「ごめん、なさい……」
 お願い。これ以上何も言わずに立たせてください……。
 神様に祈るような気持ちでいると、
「……バカ、顔赤すぎ。そんな顔、ほかの男に見せるな」
 そうは言われても、どうやったらこの熱が冷めるのかなんてわからない。
 それこそ、物理冷却を試みないことには熱は引かないような気がする。
「視界は?」
「……もう、大丈夫」
「なら、ゆっくり立って」
 立ち上がるように促されるも、顔を上げることができずにいた。すると、
「海斗、ジャージ」
「うぃーっす」
 そんなやり取りの末にジャージを頭からかぶせられ、もといた席まで送り届けられた。
「何、逃げるほどだめだった?」
 海斗くんに訊かれ、思わず涙目になる。
「だめっていうか……」
「ん? 何? 聞こえない」
 両隣にいるふたりに耳を近づけられ、
「だめっていうか……恥ずかしい……」
 ボソボソと答えると、
「でもさ、どっちかっていうなら脱いでるの司だし、恥ずかしいのは司じゃね?」
 そう言われてみたらそうなのだけど、どうしてかとても恥ずかしかったのだ。思わずその場から逃げ出したくなるほどに。
「相変わらず真っ赤だな」
 佐野くんにくつくつと笑われ、
「これ、さっき買ってきたばっかだからまだ冷たいよ。保冷剤にどうぞ」
 そう言ってスポーツ飲料のペットボトル差し出されたとき、佐野くんが神様に見えた。

 女子の長縄跳びが終わる頃には顔の熱もすっかり冷め、海斗くんと佐野くんにお礼を言ってジャージとペットボトルを返した。
 長縄跳びの次は、またしても女子全員による玉入れだ。
 玉入れは出る予定の競技だったけれど、昨夜痛みが出始めた時点で人と接触の恐れがある玉入れは見学することに決め、早々に先生と体育委員へ申し出ていた。
 引き続き観覧席から一階フロアを眺めていると、私の左側に座る佐野くんがそわそわし始める。
「佐野くん、どうかした?」
 そっと話しかけると、
「御園生、体調悪い?」
 佐野くんの目は不安そうに揺れていた。
 考えてみたら、「玉入れは見学?」と訊かれたとき、「うん」と答えただけで理由まで話してはいなかった。
 でも、佐野くんのことだ。今までの経緯から、人との接触を避けたくて見学していることには気づいているだろう。
 佐野くんがわからないのは、どの程度痛みが出ているのか。どの程度接触を恐れているのか。たぶんそんなところ。
 佐野くんはダンスのパートナーだし話しておくにこしたことはない。
 ただ、どう話したらいいかな、と少しだけ考える。
「本調子ではない」と話すことがマイナスにならない話し方とは、どんな話し方だろう。
 現在の身体の状況と気持ちを正直に話すことで不安は払拭できるだろうか。
 私は佐野くんの方を向いて座り直し、佐野くんの目を見てから口を開いた。
「今日、お天気が悪いでしょう? 私の痛み、低気圧とは相性が悪いの。昨夜から痛みが出ているのだけど、そこまでひどく痛みだすことはないと思う。ただ、うっかり人とぶつかって、それが引き金になったらやだな、と思って……。組代表のワルツには絶対出たいから、玉入れは見学」
 佐野くんは相槌を打つでもなく、じっと私の目を見ていた。その視線を逸らさずにいると、
「ワルツのとき、ホールドするのは平気?」
「もちろん。問題ないよ」
 佐野くんはようやく表情を緩め、「わかった」と言ってくれた。






個人サイト【Riruha* Library】
riruha_library.jpg

img.php?id=riruhasuiha&img=1

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ