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光のもとでⅡ-1 作者:葉野りるは

紫苑祭後編(10/31)

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Side 翠葉 05話

 黒組はフロア中央に整列しており、各組の団長副団長はそれと向かい合うように整列する。その間は約五メートル。
 一列目に団長が並び、二列目に副団長がずらりと並ぶ。二列目にいる私から測っても、ツカサまでの距離は七メートルもないだろう。
 場所的に、ツカサの姿は前列に並ぶ団長たちの合間から見える程度。
 観覧席からなら何に阻まれることなくツカサが見えたはず。けれども、長ラン姿のツカサは格好良すぎるから、ダイレクトに見えるより、物陰から見えるくらいがちょうどいい。
 辺りが静まり硬質な空気が漂う中、
「校歌、斉唱っ」
 ツカサの号令が桜林館に響き、大太鼓が三つカウントしてから校歌が歌われた。
 昨日は組作成の応援歌だったわけだけど、今日は全校生徒――すべての組を分け隔てなく応援するため、自組を応援する内容の応援歌は校歌に差し替えられるのだ。
 校歌が終わると、陣形を新たにエールへと移行する。
「各組の健闘を祈って、エールを送るっ」
 昨日グラウンドで聞いたものとは違う。天井の高い館内に高らかに響くそれを聞いて、思わず鳥肌が立つ。
 普段話すときに聞く声とは違うし、電話から聞こえてくる声とも違う。マイクを使わず声を張る姿をこんなに間近で見たのは初めてだった。
 そんなふうに思ったのは私だけではないのだろう。
 ツカサの声を消すような大きな歓声こそ起こらないものの、観覧席は女の子を中心にざわめいている。
 さらには、黒組には校内で二番人気の朝陽先輩もいるのだから、ざわめかないわけがないのだ。
 ツカサは組ごとにエールを送り、淡々とその場を締めた。

 観覧席で拍手が起こり放送委員が賞賛の言葉を送る中、ツカサは私目がけて真っ直ぐやってくる。
 ちょっと待って――今は来られたら困るっ。
 顔が熱いことは嫌というほど自覚しているし、赤面した状態でツカサと向き合うだなんて、どんなバツゲーム……。
 そのうえ、観覧席にはツカサを目で追う女の子たちがわんさといるのだ。その女の子たちにどんな目で見られるかと想像すれば、地獄にしか思えないわけで……。
 反射的に回れ右をすると、背後にいた人とぶつかった。
「ごめんなさいっ」
 謝りながら顔を上げる。と、
「前方不注意にもほどがある」
 眉間にしわを寄せた飛翔くんに見下ろされていた。
「本当にごめんなさい……」
「……顔、尋常じゃなく赤いけど……」
 表情を変えず指摘され、
「えっ? あっ、これは、その――」
「……なんとなく察しはつく」
 言って、「つまらないものを見た」くらいの勢いで視線を逸らすのだからひどい。
 それなら訊かないでよっ。
 無言で文句いっぱいの視線を送ると、背後から「翠」と声をかけられた。
 この声はいつも聞いている声なのに、過剰反応してそれまで以上に顔が熱を持つ。
 どうしよう……振り向けない。
 助けを請うように飛翔くんを見上げたけれど、助けを求める相手を間違えた。甚だしく間違えた。
 この顔は、「知るか」。もしくは、「俺に振るな」という表情以外に見当がつかない。
「翠」
 真後ろから声をかけられ渋々振り向くと、
「……発熱?」
 真面目な顔で訊かれ、額に伸びてきた手を思わずよけてしまう。
「翠……?」
 ツカサの顔を直視できずに俯くと、次に聞こえてきたのは飛翔くんの長い長いため息だった。
「ったく面倒くせぇ……。コレ、たぶんですけど、先輩の応援姿だか長ラン姿に赤面しただけですから」
 やっぱり飛翔くんは意地悪だ。
 そんな的を射た説明をされたらますます顔を上げられなくなる。
 このあとはどうしたらいいものか考えてあぐねていると、頭に手が乗せられた。
「発熱じゃないならいい。痛みは?」
 心配そうな声音にはっとして顔を上げ、
「それは大丈夫っ」
 目が合った状態でまじまじと見られるから困る。
「そんなに見ないで……」
 情けない声で文句を言って顔を背けると、ツカサはくつくつと笑い出した。
 たぶん、どうにも言い訳のできない赤面具合を笑われているのだろう。それに加え、登校時の報復を受けているような気もする。
 でも、よくよく考えてみれば、私は赤面した顔を見ようとしただけで、笑ったわけでもなんでもない。さらには、その場できっちりと報復を受けた覚えだってある。
 冷静に考えれば考えるほど、目の前で笑い続けるツカサに文句を言いたくなるわけで。
 なのに、結果的には笑っているツカサを見ていたくて何も言えないのだから、自分自身に呆れるほかない。
 そして、普段笑わないツカサが笑えば女の子たちが騒がないわけがない。あちこちから痛い視線と甲高い声が届き始める。
 注目の的から外れたくて、そっとツカサから離れようとしたそのとき、
「翠葉っ、司っ! こっちこっち!」
 観覧席から海斗くんに呼ばれそちらを見上げる。と、カメラを構えた真咲くんがいた。そして、
「ほらほら、ふたりとももっとくっついて!」
 言いながらツカサを押したのは風間先輩。
 私の肩を人差し指で押したのは飛翔くん。
「わっ……」
 ツカサの腕にぶつかって鈍い痛みが生じると同時、女の子たちの悲鳴が一斉に降り注ぐ。
 ツカサとふたり唖然としているうちにシャッターは切られ、
「ふたりとも、今日の後夜祭は大変そうだな? ふたりがワルツでも踊ろうものならどんな騒ぎになることか」
 風間先輩はケラケラと笑いながら観覧席へ戻っていった。






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