アキレス最後の戦い
龍次は改めて熊さんに尋ねた。「どうして、龍の玉だと思ったの?」
「どうしてって、そう感じたんだよ。」
「そう感じたって?」
「なんちゅうか、この世のものとは違う感じだったんだよ。」
「じゃあ、あの世の?」
「そう、あの世のものっていう感じだったよ。」
「ユーフォーなんかじゃなかった。」
「そう、なかった。」
「確かに伝説じゃあ、龍の玉は、この世とあの世を行き来するという話しだけど…」
「あれは、絶対に龍の玉。」
「そう言えば、昨日の豊沢会長の乗物も、緑色に光ってたな~~。」
熊さんが尋ねた。「豊沢会長の乗物?」
「直径が三メートルくらいの円型の乗物なんだけど。」
「何それ、人が乗れるの?」
「転がって走るんだけど、中は回転しないらしいんだよ。だから、人が乗れる。」
「何それ?」
「不思議な乗物なんだけど、ちゃんと転がって走って行ったよ。」
「それは、不思議な乗物だ。」
「まあ、不思議な乗物と言えば、そうだけどねえ」
「その乗物が飛んで行ったってことは考えられないよな。」
「空を飛んで?」
「そう、ひょっとしたら、あるかもよ。」
「まさか、あれが空を飛ぶとは思えないよ。どう見ても、転がるのが精一杯って感じだったよ。」
杉本とアキラは、黙って二人の話しを聞いていた。龍次が二人に尋ねた。「二人は、どう思う?」
杉本が答えた。「会長の乗物を見なかったのでね~~、でも直径三メートルほどだと、今の科学じゃ無理じゃないの。」
アキラも答えた。「無理無理!そんなものが空を飛ぶなんて!」
杉本は相変わらず、美味そうに濁り酒を飲んでいた。龍次の目が行った。
「杉さん、何飲んでるの?」
「天野の濁り酒。」
「美味しそうだね?」
「うん、とっても美味しいよ。」
「龍次さんは飲まないの?」
「わたしは、ビールだけ。これから帰って飲むんだ。」
「これからは寒くなるよ。ビールじゃあ駄目でしょう?」
「冬は、ホットビール。」
「ホットビール?」
「マグカップにビールを入れて、蜂蜜を入れて、電子レンジでチン!」
「へ~~~~え、そんなのがあるの?」
「チンは難しいよ。長すぎると泡だらけになっちゃう。」
「そうだろうね。」
「それ、誰が考えたの?」
「ビールを鍋で温めて飲むのは、ヨーロッパでは古くからあるんですよ。」
「へ~~え、そうなんだ。」
龍次は、頭の中で何か考えがまとまったようだった。龍次は静かに熊さんに話し出した。「熊さんの言うように、龍の玉かも?」
「えっ、何が?」「昨夜の会長の乗物。」「え~~~え、何だって!?」
「会長は、実は幽霊だったんですよ。」
三人は驚いた。「え~~~~~え!?」
「実は、会長は、今年の二月十一日に亡くなっているんですよ。」
三人は驚いた。「え~~~~~え!?」
龍次を除き、三人の背筋は冷たくなった。みんなの足元で、一輪の別名幽霊花こと彼岸花が、幽霊のように風にゆらゆらと揺れていた。
「龍次さん、なんか寒くなってきた。俺帰るよ、おやすみ!」「俺も帰る!龍次さん、おやすみ!」熊さんと杉本は早足で帰って行った。「俺も帰る!龍次さん、おやすみ!」アキラも早足で帰って行った。
「やっぱり、会長は幽霊だったのか…」龍次は星空を見上げた。
「人間は、皆死ぬ…なのにどうして必死に生きているんだろう…」
なんだか虚しくなってきた。「われわれは、単に子孫を残すために生きているのか?結婚し子を産み育てるために?」
悲しくなってきた。「同じことの繰り返しじゃないか?神はそのために人間を造ったのか?それがいったい何になるんだ?われわれは神の奴隷なのか?」
背後から、ヨコタンの声がした。「龍次さん、何してるの?」
「うん、ちょっとね。」「何か考え事してるように見えたけど。」
「うん、ちょっと哲学を。」「哲学?」「この前の、会長の乗物のことを考えていたんだよ。」
「会長、幽霊だったんでしょう。驚いたわ。」
「そう、今でも信じられないけど、本当なんだよ。で、あの乗物は、あの世とこの世を行き来する龍の玉だったんだよ。」
「え~~~え!?」
「驚いた?」
「うん、でもなんとなく分かっていたわ。」
「さすがヨコタン!」
「ところで龍次さん、質問があるんだけど。いいかしら?」
「いいよ、何だい?」
「何で今まで結婚しなかったの?」
「なんでって、したくなかったからさ。」
「どうして?」
「僕は、神に対しても革命家なんだ。そんなものは必要ない!革命家には、そんなものは必要ない、チェ・ゲバラのように、最後まで革命家として戦って死ぬ!」
「でも、龍次さんは女性にもてるって誰かが言っていたわ。恋人はけっこういたんでしょう?」
「まあね。」龍次は毅然としてヨコタンを見ていた。その目には強い決意がみなぎっていた。
「かっこい~~!アキレス最後の戦いってところね?」
「何だいそりゃあ?」
「ロック界のカリスマ、レッド・ツェッペリンの曲。」
「そんな曲があるんだ?」
「龍次さんにぴったしの、とってもかっこいい曲よ。」
「今度聞いてみるよ。言っておくけど、これは僕個人の思想であって、人間村の思想じゃないよ。」
「分かったます。」
そして、「おやすみ!僕は最後まで戦って死ぬ!」と言い残し去って行った。ヨコタンの脳裏には、アキレス最後の戦いの曲が勇ましく聞こえていた。「やっぱり凡人じゃないわ、かっくいい~~!」
雨が降ってきた。小雨だった。「あっ、雨だわ。帰ろっと!」
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作画:11さん(どうもありがとう!)
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