「さようなら、今までありがとう。すっごく楽しかった」
彼女が僕に別れを告げた。
その日は秋の風が吹き、地面には紅葉が散っていた。
空は既に黄昏時で、彼女の顔と僕の顔をオレンジ色に染めた。
彼女は涙を見せるわけでもなく、淡々とそう言った。
何故?
どうして?
僕はまだこんなにも君のことが好きなのに。
その言葉が喉まで出かかったが、僕はその言葉を飲み込んで、ただ苦笑した。
もう笑うことしかできなかった。
最後の最後にまで彼女に情けない姿を見せたくなかったから。
僕は涙を堪え、
「俺も・・・楽しかった」
と言った。
それ以外の言葉は見つからなかった。
彼女も言いたいことは全て言い終えたというように黙ったままだった。
これ以上はどちらも辛くなるだけだと思い、僕は別れを告げた。
「じゃあ」
次に会うときには恋人同士ではなく、ただの友達だ。
彼女は無表情のまま、手を振って去っていった。
彼女の後姿がじわりと滲んだ。
最後に目に焼き付けておきたいのに、それすらも叶わないのか。
彼女の姿は滲んで見ることができないまま、秋の夕暮れの中に消えていった。
そんな別れから、もうすぐ数ヶ月が経とうとしている。
季節はもう冬だ。
地面を埋め尽くすほどに落ちていた紅葉も今は雪の中だ。
黄昏色の世界は銀世界へと姿を変えた。
僕は彼女がまだ忘れられないでいる。
だから、当然新しい彼女もいない。
彼女も誰かと付き合っているという噂は聞かない。
僕は彼女との別れであることを知った。
いや、知ったのではない。
それは誰もが最初から分かっていたこと。
『いつまでも、永遠に続くものなんてない』。
僕はその現実から目を背けていただけなんだ。
僕たちは幸せだった。
いや、彼女がどうかは分からない。
だけど、少なくとも僕はすごく、すごく幸せだった。
僕は彼女がいるだけで、世界が違って見えた。
彼女といる時間は長い時間でも一瞬に思えたし、歩きなれた道は彼女がいることで新しい道へと変わった。
たった数ヶ月の幸福だったけど、僕は幸せだった。
けれど、その幸せは早すぎる終わりを迎えた。
彼女にしつこく言い寄る気なんてない。
もう一度、と頼み込む気もない。
僕と彼女の別れは彼女が考えて決めた事なのだから。
僕は絶対に彼女の負担にはなりたくない。
けど、どうか君の幸せだけは願わせて。
僕は彼女と別れたあの場所に来ていた。
彼女の幸せを願うために。
時間は日付が変わるか変わらないかというところだ。
漆黒の空には満点の星。
その星たちに僕は願う。
本当に些細なことなんだ。
僕の願いは。
君が一人きりじゃなくて傍に誰かがいて、君の手を握ってくれますように。
君の身体も心も無事で傍に誰かがいて、君を抱き締めてくれますように。
彼女が望むのなら、その隣にいるのは僕じゃなくていい。
とにかく僕は君の幸せだけを願ってる。
君が選んだ誰かの隣にいる君が笑ってる。
それだけでいい。
それが君の彼氏だった僕の最後の願い。
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