魔法使いは絞首刑の夢を見るか?
舞台中央、女性が一人二人の男に挟まれて立っている。天井からはロープが伸びていて、先端が輪になっている。
ナレーション「絞首台に立った彼女は、おびえているようには見えなかった。いつもと変わらない空洞のような眼がわたしの胸をかき乱す。妖しげな空気を纏う彼女はやはり美しかった。
彼女の最後を見届けようとする者は少なかった。家族は死んでしまったし、同じ研究室の学生たちも出席日数を犠牲にしてまで犯罪者などと関わりになりたくはなかったのだ。今頃彼らは彼女を恐ろしい魔女とでも噂しているに違いない。もっとも、別にそれを聞いたところで彼女は傷つきなどしないだろうが」
やがて片方の男が腕時計を確認する。
男「定刻12時をもって、殺人の罪状により絞首刑を施行する」
もう一方の男が厳かに女を促しロープを掛けさせる。女は抵抗せず素直に従う。
暗転、落とし戸が開く音。
ナレーション「そしてわたしの思い人は、悲鳴一つあげず黙したまま逝ってしまった」
図書館。中央に机が二人分。女は厚い書物をめくり。男は頬杖をついて女の向かいに座っている。
ナレーション「わたしが知る限り、彼女を知らない人間は周囲にいなかった。傍から見れば彼女は明らかに少しアブナイ人間で、あまり近寄ろうとする人間はいなかった。
例えば、その日も彼女は大まじめでこんな風に言ったものだった」
女「私はね、魔法使いになりたいんだ」
わたし「君が手品をするとは知らなかったよ」
女「違う、手品師じゃなくて魔法使い(マジシャン)だ」
女は読んでいた本を(わたし)に見せる。
(わたし)は頭を小突きクルクルパーとやる。
女「真面目に言ってるんだよ」
わたし「おいおい、そんなものにどうやってなるつもりだ」
女「魔法使いはある種の酒を死体を掛けて仲間を増やすのさ。新しい命を吹き込んでね。生き返った魔法使いは、もう老いることがない。ただの死体じゃだめなんだ。誰か第三者に殺された死体じゃなきゃね。だから彼らが仲間を増やすのはなかなか難しいんだ」
わたし「そこまでして何がしたいんだ、誰か振り向かせたい男でもいるのかな?」
女「そういうわけじゃない、強いて言うなら……夢かな」
暗転
女、ナレーションに合わせて演技。
ナレーション「彼女が自分の家族を惨殺したと聞いたとき、驚いた者はそう多くなかった。彼女ならやりかねない、という評価が学生仲間での一般的な評価だった。
ある日の深夜、彼女はベッドから抜け出すと、台所で大きな包丁を手に取りまず妹の部屋へ向かった。彼女はそこで2つ下の妹をめった刺しにした後、両親の寝室へ向かい同じようにめった刺しにした。その場で自ら通報し、駆け付けた警察に取り押さえられている。
付近の住民の話によると、意外なことに家族仲は良好だったらしい。
彼女が調べに協力的だったこともあり、比較的早く事件は終わりを迎えたのだが、なぜ殺したのか、という一点だけは彼女は最後まで語らなかった。」
暗転
図書館。
女「君とずっと一緒に居たいんだ」
(わたし)は黙っている。
女「100年も200年もずっとだ。いつか言った私の夢は君とずっと居ることなんだ。知ってたんだ、君が魔法使いだってこと。だから、私を君と同じにしてくれないか」
暗転
舞台に棺桶のようなものがあり、スコップが転がっている。女はそれに腰掛け(わたし)はそばに立っている。
わたし「気分はどうだい」
女「あまり良くはないね。あの酒がこんなにキツイとは思わなかったよ」
わたし「もっと喜べよ。念願の魔法使いになれたんだ」
(わたし)は女に背を向ける。
わたし「これでずっと一緒に居られるね」
女「ああ、そのことだけれど」
スコップを手に取り(わたし)の方を向く。
女「お前とだけは、絶対にごめんだ」
スコップを振り上げたところで照明が落ち、幕引き。
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