一つの魔法を極める
見世物としての試合は終わり、これから始まるのはお互いの力を尽くす純粋な戦いだ。
ロードヴェルも本気を出してくるだろうし、先程までのように魔法を避けるのは難しくなるだろう。だからこそ貴重な魔石を消耗してでも地形を変えたのだが……あまり動揺している様子が無い。
おそらく地形を物ともしない魔法があるか、何か切り札を持っているに違いあるまい。油断は禁物だな。
それにしても、流石は金貨十枚近くした魔石だ。予想通りの効果を発揮してくれたのだが、予想以上にお金を使わせてくれた。そのせいで一時期生活費が気になり、おかずを一品減らそうかと呟いたら、弟子達が必死に稼いできた事もあった。そんな事をしなくても大丈夫だったのだが、やる気に水を差すのもあれなので放置しておいたけど。
まあ、お金に困っていなくても弟子達は基本的に稼いだお金を全部俺に預けてくる。俺が言ったわけじゃないのに、何故か自主的にそうしてくるのだ。その御蔭で家計のやりくりや、弟子達にお小遣いをあげたりとお金の管理がちょっと面倒だったりする。
……と、余計な事を一瞬考えつつも『ブースト』を発動させて駆け出したが、ロードヴェルは『マルチエレメンタル』による弾幕の効果が薄いと悟ったのか、『土工』で土壁や足場を弄る事によって足を止める戦法に切り替えていた。
足場は鍛えた反射神経と思考速度により何とかなるが、土壁に加えて少ないながらも中級魔法を放ってくるので厄介極まりない。遠距離からの『マグナム』が防がれる以上、近接戦闘に持って行きたいのだが、現状は普通に接近するのさえ難しい状況だ。ずるいように見えるが、それが魔法師の戦法なのだから卑怯と言うつもりはない。
そうして前へ行こうとする度に足止めされ、その間に距離を取られるというイタチごっこがしばらく続いた。
「貴方の回避は確かに凄まじいですが、接近させなければ良いのです」
「ならば正面から行かせてもらう!」
放たれた風の刃を紙一重で避けつつ前へ飛び出すが、すぐさま妨害の土壁が進路上に生み出されてしまう。この土壁を避ける瞬間を狙われて足を止めざるをえなかったのだが、ようは避けなければよいのだ。
「『ランチャー』」
魔力の弾丸を放ち、着弾と同時に内包させた強力な衝撃波を放つ魔法で、『インパクト』を発展させたものだ。硬い魔物の口内へ撃ち込む為に開発した魔法だが、厚みの無い壁を壊すのにも適しているのである。
放たれた魔力の弾丸が土壁に直撃すると、衝撃音を発し土壁を粉砕して中心に大きな穴を開けていた。そこから見えるロードヴェルの表情は呆気に取られており、すかさずゴム弾をイメージした『マグナム』を放とうとしたが、その前に正気を取り戻したロードヴェルがマントの能力を発動させてしまったので攻撃を中断した。
「いやはや、まさか『インパクト』の一撃で壊されるとは思っていませんでしたよ」
「正確に言えば『インパクト』ではなく『ランチャー』と言うんですよ。俺が満足に使える攻撃魔法は『インパクト』しかないので、種類は豊富にしてあります」
「全く、たった一つの魔法をそこまで高めてしまうとは。本当に君は常識が通じない相手です」
会話している間に集中していたのか、ロードヴェルが放ったのは風の上級魔法である『暴風』だった。
巨大な竜巻を生み出して飛ばし、対象を取り込んで無数の風の刃で切り刻む魔法だ。先程までは見世物だったので中級しか使ってなかったが、遂に上級まで放つようになってきたか。上級魔法を使う相手と戦うのは初めてなので勉強させてもらうとしよう。
『暴風』は広範囲を攻撃する魔法なので回避も難しい。横に走って範囲外へ逃げるべきだろうが、俺はあえて竜巻目掛けて走った。
『何をしているんだシリウス君! 上級魔法に突撃するなんて無茶だ!』
『学校長も大軍が相手でも無いのに上級を使わないでください!』
『私の使ったものよりずっと大きいですね。ですが……』
無謀の突撃に見えるが、すでに『暴風』の対処法は見つけてある。
『暴風』はエミリアの卒業課題という事で、ダイア荘で練習していたのを見せてもらった事がある。数メートルはあろう大きな竜巻が迫ってくるので、一見すると回避が難しいように見えるのだが、実はそれほど高さがある竜巻ではない。なので少し実験してみたら見事に成功したのである。
『ブースト』で強化した肉体に、『エアステップ』で一度だけ足場を作って竜巻より高く飛び上がれば、真下に通り過ぎようとする竜巻の内部が見える。その中心部目掛けて『ランチャー』を数発叩き込めば、内部で発生した衝撃波が竜巻を吹き飛ばし『暴風』は僅かな風の刃を残して霧散したのだった。
『ご覧の通り中心部は弱いそうですので、シリウス様の手にかかれば問題ありません』
『そ、それも確かに凄いですが』
『シリウス君は今……空を蹴っていなかったかい?』
『あれは『インパクト』を足元に発生させて高く飛んだのです。制御の難しさから一度に一、二回くらいしか使えない技術ですね。前にレウスも使った事がありますよ』
「えっ? 姉ちゃん、あれってそんな感じだったか?」
『貴方は大人しく旗を振っていなさい』
「わかりました!」
後でどう誤魔化そうと思っていたが、ナイスフォローだエミリア。流石に空を自由に飛べると知られたら、馬鹿な連中が利用しようと絡んできそうだからな。
そのまま左右にある高台を蹴り、更に飛び上がってロードヴェルに接近しようとするが、彼は『暴風』が壊されようとも冷静で、再び『マルチエレメンタル』による中級魔法の弾幕を放ってきた。
「もう少し動揺すると思ったんだが」
「貴方の行動に一々驚いては戦いになりません。細かい事は後で考える事にしましたよ!」
魔法を避けるために『ストリング』を近くの岩に引っ掛けて移動するが、弾幕は執拗に俺を狙ってくる。土壁と地形操作の効果も薄いと察して再び弾幕に切り替えてきたが、同じパターンで攻めてくるような単純な相手ではない。何か裏があると思って気を引き締めておかねばなるまい。
それにしても遮蔽物が多い場所だというのに、こちらを正確に狙える腕の凄まじさに舌を巻きそうになる。地形を利用しつつ何とか避けているが、足を止めたら一瞬でやられるな。
『えーと……目の錯覚でなければ、彼は岸壁を走っているようですが……あれはどうやっているのですか?』
『普通に走っているだけですよ? 私とレウスは少し出来ますが……難しい技なのでしょうか?』
『僕に聞かれても困るのだが、少なくとも簡単に出来る技じゃないと思う』
『そうですか。いずれリースも挑戦してもらおうと思っていたのですが……』
「出来るわけないでしょ!」
外野が騒がしい中、俺は隙を突いて『マグナム』を放つが、ロードヴェルは動き回って避けるかマントの能力を使って防いでしまう。一向にダメージを与えられないが、俺の狙いは彼をとある場所へ誘導する為なので無駄ではない。その反面、俺の方は弾幕を回避し損なって何度か火の槍や岩の礫が体を掠めているが、致命傷には程遠いので大丈夫だ。
そして目的の場所に誘導したところで、俺は一気に加速して真正面から勝負を仕掛けた。
「ここに来て突撃ですか!」
疑問に思いつつもロードヴェルは魔法を放つが、すかさず右側の岩に『ストリング』を引っ掛けて引っ張り、ほぼ直角に曲がって魔法を避けた。そんな俺をロードヴェルは首を動かして追ってくるが、その間に俺は同じ方法で更に移動していた。
この場所へ誘導したのは『ストリング』が引っ掛けやすい岩場に囲まれており、更に左右が高台なので『ストリング』を使って飛び回れば上空からでも狙えるからだ。俺は足を止めず上下左右に動き回って撹乱し続け、遂にロードヴェルの背後を取った。
「もらった!」
一歩遅れて振り返るロードヴェルだが、すでにこちらは足を振りかぶった状態だ。狙いは顎で、掠らせて脳を揺らし戦闘不能にさせるのが目的だ。ここまでくればマントの能力を使う間も無いし、確実にいける筈。
奇しくもライオルを気絶させたのと同じ方法であるが、あの時と違う点は……。
「接近戦が出来ないと思っていましたか?」
相手は油断しておらず、実は体術に覚えがあった点だ。
俺の蹴りは首を仰け反る事により回避され、更に右アッパーを放ってきたのである。非常に危険な体勢だが放たれた一撃を何とか受け流し、着地と同時に相手を見ればロードヴェルが俺に二本の指を向けているのに気付いた。
魔力の高まりを感じた瞬間、今まで無かった動きと『岩盾』の件が脳内を駆け巡り、俺もすかさず人差し指と中指を相手に向けて魔法を放った。
「『風散弾!』」
「『ショットガン!』」
『ショットガン』は細かくした『インパクト』を無数に放つ魔法だ。放った衝撃弾は扇状に広がるが射程距離が短く、遠くへ行くほどダメージ効率が下がる。だが点ではなく面で放つ魔法なので、接近戦には便利なのだ。
名前からわかると思うが、『インパクト』を『風玉』に変えたのが『風散弾』で、エミリアが『ショットガン』を真似て作った新しい魔法だ。なので彼女以外に使う人はいなかったのだが、革命騒ぎで使ったのを見て真似たに違いあるまい。
『岩盾』の原理を真似た事といい、一度見ただけで再現出来る腕は驚嘆に値する。
属性が違うが同じ能力の魔法がぶつかればどうなるのかと思ったが、無数の散弾を放ちあうのだから相殺しきれない部分が当然出てくる。
結果……数は少ないが潜り抜けてきた部分が体に直撃し、俺達は揃って後方へぶっ飛ばされた。
ほとんど相殺されたので大したダメージはないが、また距離を離されたのは痛い。それに不意の一撃を避けられる技量と言い、闇雲に接近戦を挑めば良いわけじゃなさそうだ。
「まさかあれだけの魔法を使いながら、格闘術まで使えるとは思いませんでした」
「長生きしていると色々とあるんです。それにあの拳を受け流したシリウス君の方が凄いですよ」
「こちらも色々とありまして、あれくらい出来なければ生きていけなかったのですよ」
「その若さで一体どのような人生を歩んできたのでしょうかね? 本当に君は面白い生徒です」
どのような人生って聞かれたら、二度目の人生ですとしか答えられないよな。彼なら信じそうであるが、説明するのも面倒なので放っておこう。
消耗した魔力を回復させ、今度はどうやって攻めるかと考えていたら、ロードヴェルは手を向けて待ったをかけてきた。
「このまま続けたいところですが、闘技場では限界のようです。生徒達には十分過ぎるほど見せましたし、次で終わらせませんか?」
上級魔法になればとにかく広範囲を巻き込む魔法が多い。闘技場もかなり広いが上級魔法を放つには足りないし、その為に用意した結界もロードヴェルのレベルになると心許ないそうだ。おそらくだが、俺の『マグナム』でも結界を貫通できると思う。これ以上続けて、戦いが激しくなれば生徒達も危険になるってわけか。
「そうですね。学校長が本気で魔法を放ったら結界の方が持ちそうもありませんし、それで行きましょう」
「ありがとうございます。それにしても、只者では無いと思っていましたが、正直ここまでとは思っていませんでした。私の魔法を受けて無事だったのは、剛剣に続きシリウス君だけですよ」
「剛剣と戦った事があるのですか?」
「ええ、二十年前くらいですがギルドに頼まれて大きな闇組織を潰す際に戦いました。どうやら彼は騙されて雇われていたらしく、私の魔法と鉄のゴーレムを全て剣一本で斬り捨てるという離れ技を見せてくれましたね。あわや本気になるところで誤解が解けて、その後一緒に闇組織を潰したのですよ」
……何をやっているんだ爺さん。
おそらく腑抜けになる前の話だと思うが、その頃が絶頂期だったんだろうな。ロードヴェルの魔法とゴーレムを笑いながら斬っている姿と、二人の最強に襲われたその組織が完膚無きまで叩き潰される光景が目に浮かぶ。
「そういえばレウス君も剛剣と同じ剛破一刀流でしたが……もしかして君は剛剣と面識があったりします?」
「その通りです。剛剣と偶然出会って親しくなり、レウスを紹介したら剣を叩き込んでくれました」
「ふふふ……なるほど。あの剛剣と知り合いなら君の強さも納得です。ならばあれを放っても大丈夫そうですね」
お喋りはここまでらしく、ロードヴェルの空気が変わったのでこちらも戦闘態勢に切り替える。
「さあ、続きと行きましょうか。それと戦いの前に一つだけ伝えておきましょう」
「もしかして、この場所の事ですか?」
俺がそう答えると同時に、ロードヴェルは不敵な笑みを浮かべながら魔力を解放した。
「ええ、その通りです。君は私をこの場所に誘ったつもりでしょうが……逆です。私がここに貴方を誘い込んだのですよ。『土縛鎖』」
魔法が発動すると周囲の岩が鎖のように変質し、俺を捕らえようと伸びてくる。土の鎖で相手を縛る拘束魔法だが、この岩に囲まれた場所ならば地上だけでなく横の岸壁からも伸ばす事が可能だ。周囲から無数に伸びる鎖を避けるのは流石に難しい。
なるほど、俺を誘ったとはこういう事なんだろうが……。
「俺の方が速い!」
鎖が絡みつくより早く前へ飛び出し、ロードヴェルを仕留めればいいのだ。大きく一歩踏み出すと、させぬとばかりに土壁が生み出されるが『ランチャー』で撃ち抜き、その穴を抜けようとしたところでとある魔力の反応に気付いた。
「『風衝撃』」
これもまた『風散弾』と同じくエミリアが使った魔法だ。風を限界まで圧縮した玉を作り、触れた相手にその風を一気に叩きつける『インパクト』を真似た魔法である。
それが土壁の抜けた先に数個放たれており、回避しようにも隙間がほとんどないので厳しい。少し覚悟を決めるしかないな。
「一度離れてもらいますよ!」
『風衝撃』が破裂し、膨大な風の衝撃によって俺は後方へ吹っ飛ばされた。しばし空中を飛んだ後に地面を数度転がり続け、途中にあった岩に激突してようやく俺の動きは止まった。
『シリウス様!?』
『お、落ち着くんだ! マグナ先生、すぐに試合の中断を!』
『学校長、攻撃を中断してー……学校長?』
マグナ先生が戦闘中断を呼びかけるが、ロードヴェルは痛みを堪えるように蹲っていたのである。
その反面、俺はほとんどダメージが無いので立ち上がっていた。衝撃が当たる直前に後方へ飛んでダメージを抑えた御蔭であるが、大きく距離を離されてしまったのは痛い。だが、ただで飛ばされたわけじゃない。
飛ばされる直前にロードヴェルの横にあった岩目掛けて『マグナム』を放っていたのである。今回の弾丸はゴム弾の上に威力を抑えて放ったので、岩を壊す事無く跳ね返りロードヴェルの脇腹に直撃したわけだ。跳弾を利用した死角からの一撃だが、脇腹を押さえつつも立ち上がっているので思いのほかダメージが少なかったようだ。
ローブの御蔭か? 何にしろ今ので決まらなかったのは不味いかもしれない。
「いつつ……見事な一撃です。まさかあの状況から攻撃するとは驚きました。思わず集中させた魔力を乱すところでしたよ」
「それはどうも。で、わざわざ距離を離したって事は……」
「はい。この魔法で終わりですよ。当たれば確実に死ぬので、判断を誤らないようにしてくださいね」
いや待て、仮にも俺は貴方の生徒なんだから、そんな台詞を笑いながら言っちゃ駄目だろう。
ロードヴェルの魔法が発動すると、周辺にあった小さな石や岩が突如浮かび始めたのである。それらを飛ばしてくるかと身構えるが、石や岩は更に上空へと昇ったかと思えば一箇所に集まり始め……。
『が、学校長!? それはやり過ぎです!』
『すぐに逃げるんだシリウス君! 早く!』
『シリウス様! お逃げください!』
俺の体より数十倍はある、巨大な岩となったのだ。
その巨岩がゆっくりと動き始めたかと思えば、俺を中心に落下し始めてきたのである。これはもう小さな山だな。『ランチャー』程度では壊せそうにない。
「土属性の上級魔法『山崩落』です。本来はもう少し小さいのですが、相手がシリウス君なので大きめにおまけしておきました」
そんなおまけはいらん。
というか、こんなドラゴンの様な相手に向ける魔法を放つなんて何を考えているんだよ。
外野も逃げろと叫んでいるし、さっさと範囲外に逃げようとしたところで気付いた。上空の巨岩は中心が窪んでいて、下手に動かなければその窪みによる空間で助かりそうなのだ。
「気付きましたか? 落下速度も遅めにしていますし、動かなければ死にはしないでしょう。ただ……閉じ込められた時点で君の負けですよ?」
今の台詞で完全に理解した。
ロードヴェルは俺を倒そうとしているんじゃなくて試しているのだ。彼は俺と戦うのが楽しいのではなく、俺が魔法によってどう切り抜けていくのかを見るのが楽しいんだ。
これはもう重症だな。ライオルが剣の変態ならば、ロードヴェルは魔法の変態なんだろう。現に今もこの状況をどうやって切り抜けるのかと、子供のような笑みを浮かべて俺を眺めているからな。
全く、いい年した大人が情けない。だけど俺も人の事を言えないかもな。
だってここまでされたら……期待に応えたくなるじゃないか!
やってる事はアホみたいだが、嫌いじゃないぞ俺は。
『対巨獣用の魔法を生徒一人に向けるとは……正気ですか学校長?』
『シリウス様、もしかして……』
『何で立ち止まっているんだ! もしかして足が竦んで動けないのでは!?』
『あれを壊すつもりじゃ……』
『『……はぁっ!?』』
『土工』で俺の足元だけを深く掘って避ける方法も考えたが、それだと窪みに入って助かるのと一緒だ。
期待に応えるならば、あれをぶち壊すのがわかりやすいだろう。何より、俺自身が壊せるかどうか試してみたいのもあった。
ご丁寧に落下速度を遅くしてくれているので、直撃までおよそ十数秒といったところか?
まずはポケットから特殊加工した投げナイフを四本取り出し魔力を込めた。それを空に向かって全力で投げ、等間隔を持って巨岩に突き刺さるのを確認してから『マグナム』を放つ。狙ったのは刺さったナイフで、『マグナム』によってナイフを巨岩の内部へと押し込めば準備は完了だ。後はタイミングを合わせるだけである。
「対物ライフル……セット」
イメージするのは対物ライフル。過去に対戦車ライフルとも呼ばれ、名前の通り戦車でも撃ち抜く威力を持っていた銃器だ。
それを俺の魔法によって放てばどれほどの威力になるか想像もつかない。なにせ、本気で放つ『マグナム』は本物以上の威力を持つし、スナイパーライフルをイメージすれば最大射程が二倍近く伸びているのだから。
つまり本物より何倍も強くなるので、最強レベルの銃器ならばあの岩に対抗できると思ったのだ。保険もかけておいたし、たとえ失敗しても窪みに入れば助かるし、勝負に負けるだけの話だ。全力でぶつかってみるとしよう。
観客席から悲鳴が響き渡る中、俺は右手に左手を添えて巨岩の中心に狙いを定めた。
「『アンチマテリアル』……発射!」
全魔力を込めた弾丸は巨大な風圧を発生させながら発射され、巨岩の中心に命中した。全体を揺らして大きな穴を開けたが、巨岩は健在である。
「魔力補充……発射!」
瞬時に魔力を回復させ、再び同じ箇所に弾丸を叩き込むが、巨岩は砕ける事無く落下は止まらない。
そして三発目……。
「魔力補充……弾頭変更。三……二……一……発射!」
着弾後に衝撃を放つ弾丸をイメージし、タイミングを計って撃ち込んだ。内部で弾丸が炸裂すると同時に、事前に刺しておいたナイフが時間により効果を発揮した。
あのナイフには魔石が組み込んであり、刻んだ魔法陣は『インパクト』だ。俺の魔力をたっぷり注ぎ、数秒後に魔石の自壊と共に相当な衝撃を発する仕組みである。所謂、時限爆弾みたいなものだな。
そんな衝撃を、最後に撃ち込んだ弾丸も含めて五つも同時に食らわせたのだ。内部から放たれる複数の衝撃によって、巨岩は轟音を立てて内部から砕け散ったのであった。
『『…………』』
『シリウスさまぁ……惚れ惚れします……』
「兄貴ぃーっ! 最高だぜぇーっ!」
粉々に砕く事は出来なかったので、落下してくるそれなりの大きさの岩を避けつつロードヴェルを見れば、彼は満面の笑みで人目もはばからず笑っていた。うむ、満足してくれたようで何よりだ。
「ふ……ふふふ! 何て素晴らしいのでしょう! 道具を使いつつも『インパクト』であの巨岩を砕くとは。魔法の可能性は本当に無限大ですね!」
「……喜んでいるところ悪いのですが、一つよろしいですか?」
「何でしょう?」
「まだ戦いは終わっていません」
処置を済ませて指を鳴らせば、ロードヴェルの隣に聳える高台から衝撃音が何度も響き渡ったのである。それはあの壁を走り回っておいた時に仕掛けた『インパクト』で、巨岩を砕いた後に『ストリング』を伸ばして発動させたのだ。なので指を鳴らす必要はないが、ちょっとした演出でやってみた。
今度はリモコン式の爆弾みたいなものだが、角度を計算して配置しておいたからそろそろ落ちる筈だ。
何が落ちるかと言えば当然……。
「お、おおっ!? 岩が!」
俺に落とした大きさほどじゃないが、高台の一部を砕いて大きな岩を落下させたのである。満足するのは結構だが、あんな巨岩を相手にさせられたんだ。しっかりとお礼はしておかないとな。
「くっ! 『ウインド』」
咄嗟に風を自身に当てて跳躍していたので、岩の直撃は何とか避けたようだ。
地面に落下した岩が砕け、盛大に砂埃を巻き上げてしまい視界を塞いでしまう。だが、そんな中でもロードヴェルの笑いは収まる事が無かった。
「ふふふ……そうですねぇ。確かにまだ戦いは終わっていません。ああ、それにしてもこんな使い方もあるのですか。本当に君は面白い」
「それはどうも!」
「やはり来ましたか!」
その砂埃に紛れて俺は一気に肉薄するが、笑いつつもロードヴェルは冷静に動いて右拳を繰り出してきた。その一撃は鋭く、拳の先端が見えない速度で放たれたが……。
「速いだけだ!」
さっきは油断もあって回避されたが、近接戦闘においては俺の方が確実に上なのだ。放たれた拳を紙一重で回避すると、すかさずロードヴェルは左手の指を俺に向けてきた。
「エアショットー……」
「そして!」
『風散弾』を放とうとする腕を肘で押しのけ、逆手で抜いたナイフをロードヴェルの首に押し当てれば。
「近接になれば、銃器よりナイフの方が速いのですよ」
チェックメイトである。
砂埃で周囲から見えない状態の中、首に感じるナイフの冷たさにロードヴェルは一度目を閉じた後、俺に向かって笑いかけた。
「私の……負けですね」
おまけその一
シリウスが『風衝撃』で飛ばされた頃の外野。
「兄貴ーっ!」
「結界殴っても無駄ですから止めてください!」
『山崩落』が発動した頃の外野。
「兄貴ぃぃーっ!」
「誰か止めてーっ! 結界が軋んでます!」
「こらレウス、ハウスよ!」
「リース姉! ハウスできねえよぉ! 兄貴が、兄貴が!」
その後、舎弟達数人の手により何とか抑えたそうな。
おまけその二
ロードヴェルがエミリアの魔法を使ったの見て。
エミリア『私が苦労して作った魔法が簡単に……』
マグナ『まあ……学校長ですからね。ああいうのが得意ですから仕方ありません』
エミリア『シリウス様とお揃いの魔法でしたのに! もう、二人だけの魔法じゃないんですね……』
マーク『そっち!?』
というわけで、勝負が終わりました。
本来は前の話とくっついた話なので、今回はちょっと短めですね。
今日中に活動報告をあげようと思います。
それと申し訳ありませんが、次の更新は二日ほど遅れそうで、おそらく11日頃になると思います。ご了承ください。