FILE 5 幸治・官次郎編
悠介達のグループから離れた官次郎・幸治グループはまだ三階を探索していた。
「まだ二階が精一杯なのか?ゾンビ共は。」
官次郎は少し気をゆるめてリラックスしていた。幸治は無愛想な声で「さあな」と答えた。官次郎はまたキレだしそうになったが必死で抑えた。
三階は至って普通だった。流石に明かりなどのレベルは二階や一階と同じだが、臭いや気配といったものはなかった。
「たしか、三階は完全に隔離されているって言ってたな……妹が…」
どうやら三階はエレベーターのみしかいけないようになっているようだ。誰がこんなにややこしい建て方をしたのかは分からないが、実際はエレベーターに特別なカードを射し込んではいるVIPエリアと呼ばれているフロアである。そのカードの忠告もやはり電気の停止で動かず、緊急の予備電力で動いているエレベーターには作動しなかった。
「不幸中の幸いか。しかし何が出るかは分からないから気を付けろ。」
官次郎は分かってると言わんばかりの態度をとっていた。
官次郎はふと思った。自分にはたった一人の妹がいたことを。親は自分六歳の時に他界しており、親戚のところで育てられた。ちょうど妹は中学二年生だった。官次郎は急に不安になった。この災厄の中で無事なのか。まだ今は5時。5時といっても冬なので辺りは真っ暗である。官次郎はエレベーターに戻りだそうとしたとき、幸治が止めた。
「放せっ!!」
「誰が放すか。一つ聞くが何処に行くつもりだ?」
「妹のところだ!」
「ほう、この災厄の中でいくのか?しかも一人で。」
「そうだ!だから放せ、コラァ!!」
「じゃあ聞くぞ。お前一人で行けるのか?」
「いってみなきゃ…」
官次郎は思った。自分の力だけで本当に妹を助けられるのか。
「もしだ。万が一行けたとしてもどうする?携帯で連絡するのか、自分達だけでするかは知らん。しかし、どちらにせよ迷惑をかけるのは変わりないことだ。今は信じるしかないんだ。」
「………ちっ!」
官次郎は自分の肩を掴んでいる幸治の手をふり払った。幸治も何も言わずに歩き出した。
「おい…」
官次郎は幸治を呼び止めた。幸治は足を止め無言で官次郎に振り向いた。
「……ありがとう。もう少し状況を把握しないとな。」
「いや、いいんだ。俺もお前達と会ってやっと集団の大切さに気付いたからな。」
「ならお互い様だな!」
官次郎は嫌な空気を吹き飛ばすように言いはなった。
「じゃあ先に進むか。」
幸治はまだ探索していないエリアに歩き出した。…と思いきや急に足を止めた。
「どうした?」
官次郎が問うと、幸治は呟くように言い出した。
「……言ってなかったな。俺が集団を嫌う理由を。」
幸治はこちらを向いて言い始めた。
「俺は最初のころは集団を大切にしてきた。だが、集団の意見はほとんどが多数決で決まってしまう。俺は自分が思った意見と違ってもあまり言わなかった。だが、ある日その意見のままにジャーナリストととして戦地に行ったとき、俺以外の仲間が死んだ。その時に思った。こんなになるならわざと嫌って抜け出したほうがいいと。だからだ。」
官次郎はこの時、幸治には辛い過去があったことを知った。その表情はいつもと違いなにかが抜けていた。
「…すまんな。じゃあいくか。」
幸治はそう言うと歩き出した。官次郎も何も言わずに幸治の後に付いていった。
ただこのエリアを探索するしかなかった。違う階にいくとまた奴等がいるかもしれないからだ。官次郎達はまた最初のエレベーターの前まで来ていた。
「結局なにもなかったな…。VIPエリアだからってちょっと期待したのになぁ。」
官次郎が残念そうに言った時に幸治もそうだなと呟いた。
「悠介達が心配だけど、今は少し休んでいこう。」
幸治も近くのベンチに座り込んだ。官次郎も自販機でなにかを買おうとしている。
官次郎はふと気付いた。悠介に携帯で連絡をとろう。すかさずアドレス帳を開け「天宮悠介」のアドレスを開き電話をかけた。
(トゥルルルル……)
『はい、天宮です。』
「あ、悠介。官次郎だ!」
幸治は官次郎を見つめてなにを喋っているのか聞き取っていた。
『そっちはどうだ?』
「ああ、うまくいってるぜ。で、そっちはどうだ?」
『あぁ。いまのところは奴等とも会ってはいないから大丈夫だ。』
「よかった。こっちは探索したけど何もなかったからそっちに行こうか?」
『あぁ。いまは四階だから間違えるなよ。』
ドゴォォン…!
その時、何処かでなにかが壊される音がした。幸治は音のする方に振り向いた。そこにはあきらかに人間ではないなにかがいた。
「何者だ…!」
幸治はベンチから立ち上がりシャッターを下ろした。その何かは此方に気付いたのか歩みよってきた。いくら店の看板の明かりでも、相手の容姿や状況はわからない。
「新田、はやく電話をきれ。」
幸治の声に気付かないのかいっこうにきろうとはしない。
「新田!!」
「悠介ちとタンマ。なんだ?
………!」
官次郎もやっとその何かに気付いた。
『カンちゃん〜?』
「悪い、いまきるわ。」
『えっ、ちょっ……ぷつっ
プープー……』
官次郎達は後退りしながら何かを注視している。もうすぐ何かに微かな月光があたるのを待っていた。
何かはは姿を現した。容姿は体は服をきていない。体色はすべてが深緑色である。髪の毛もなく、あるのは人間とは思えないほど鋭い眼光。そして右手にある人の背丈ほどありそうな巨大な爪。
「何物だ…!?」
官次郎は恐怖を覚えた。幸治も一回シャッターをおろして、自分の安全に回りだした。
「どうするんだ…?」
官次郎が幸治に問い出した。幸治もただただ後退りしているだけだった。
「ここは冷静にしないとヤバイな……。」
先に動いたのは奴の方だった。自分の顔を見られたのを嫌うかのようなタイミングだった。
「コオォォォォ!!!」
大きな雄叫びをあげた。そして、右手の大きな爪を振り上げてこちらに向かって走ってきた。
「逃げれねぇ……」
官次郎は恐怖を感じた。死ぬという感覚が迫ってきていた。しかし、こんな官次郎を助けたのは幸治だった。
「新田しゃがめ!」
官次郎はすかさずその場にしゃがみこんだ。すると、官次郎がさっきまでいた場所に爪が降り下ろされギリギリにかわせた。
「うお!」
「新田!静かにしろ…」
二人が静かにすると奴は辺りを見回し始めた。どうやら、耳が発達、いや退化しているため官次郎達が下に隠れていることもわからないようだ。万が一、下を確認しても周りの暗さで見えないだろう。
そして奴はいないことを察したのか、官次郎達から離れていく。
「はぁ……」
官次郎は一息つく。幸治も少しリラックスしていた。
「ここは危ないな。とにかく上を目指すぞ。」
「分かった。」
官次郎達は一応忍び足で近くのエレベーターに向かった。運良く、エレベーターは三階で止まっており中にも誰もいなかった。
「急ごう。」
幸治が四のボタンを押した。彼等は四階へ向かった。
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