FILE 9
官次郎たちが歩いている一本道は、サイドに飲食店が挟むかのように立ち並んでいるものだった。いつ奴等がきても可笑しくない中、今は何事もなく慎重に進んでいる。
「もうすぐだ。最後まで慎重にだぞ。」
官次郎が呟くような声で三人に言うと、先程よりさらに慎重になった。
「よし、エスカレーターが見えたぞ!」
官次郎は安心したのか、今までずっと手を掛けていた鞘をはなしてしまった。
……その一瞬だった。不意に分かれ道の曲がり角からゾンビが出てきたのだ。
「うわっ!?」
官次郎はなにも抵抗出来ないまま、そのままゾンビに押し倒されてしまった。
「新田くん!」
理名が叫ぶと、悠介が咄嗟に反応しゾンビに蹴りをいれ、官次郎を無傷で助けられた。
(素晴らしい……)
幸治はよくわからないことを考え、三人にバレないようにシャッターを降ろした。
「大丈夫か!?」
悠介が駆け寄り手を差し出すと、官次郎は短くああ、と答えて悠介の手を借り立ち上がった。
「逆に迷惑かけちまったなぁ……」
官次郎がうつむきながら呟いた。悠介は気にすんな、と答えてニカニカしている。
「二人とも、そこまでにしろ。どうやらおでましのようだ……」
幸治が言うと、皆幸治が向いている方向に目をやった。
いつ見ても変わらない者。奴等だった。
「だりぃ。早く上に行くぞ!」
官次郎はまた鞘に手を掛けてエスカレーターを駆け上がった。三人も付いていく。
八階は屋上の一個下のフロアだ。同じようにここも飲食店が並んでいる。
「カンちゃん。その刀レプリカじゃあないよな?」
悠介が不安げに聞くと、官次郎も不安げに答えた。
「わかんね………」
「ちょっと………」
理名が急に入ってきた。どうやら理名は突っ込みキャラのようだ。
「えーい、使ってみるしかない。」
官次郎は刀を抜くと近くにあった段ボールに斬りかかった。
「斬れた☆」
段ボールは真っ二つになった。斬れた断面を見ても、綺麗に斬れていることから、相当な切れ味があるのだろう。
「新田!こんな非常時になにをしている!」
幸治が鋭くいうと、官次郎は飛び跳ねて戻ってきた。
「次のエスカレーターが見えたぞ!」
どうやらこのエスカレーターが屋上に続くようだ。四人は必死で駆け上がり、屋上のドアをぶち破り外に出た。
屋上は殺風景で、空も相も変わらず暗かった。
近くにあったあらゆるものでドアを開かないようにして、近くにあったベンチに腰掛けた。
「ハァハァ、流石にアイツラも時間はかかるだろう。」
悠介は安心し、ベンチをベッドの代わりにして横になった。
「悠介。一つ聞くけど、水島を助ける時になんでびびらなかったんだ?」
「私も、天宮くんはゾンビに出会っても冷静だし、慣れてるように見えるけど…」
悠介はノソッと起き上がると、そうか?と短く応えた。
「こんなときに寝るやつがいるかよ……」
官次郎は悠介を問い詰めた。悠介は面倒くさそうに立ち上がり、官次郎達が座っているベンチの前に座り込んだ。
「……俺が無断で学校を一週間休んだことあったよな?」
二人が頷くと、悠介はまた続けた。
「最近、可笑しな殺人事件が話題になってたよな?近くの工場で。」
二人が頷くのを気にせず、単に呼吸を調えてしゃべりだした。
「それは今の状況と全くと言っていいほど同じことが起きた。そして、俺はその中の生存者なんだ。」
二人とも驚いているようだ。何か言いたそうだったが、悠介はまた続けた。
「その時はワケわからないまま逃げ道を探したよ。最初にいた仲間もみんな変わり果てて、俺は必死で逃げた。
一人で戦ったよ。自分の為だけに。仲間も捨てて、そして逃げた。工場はなぜか爆発して証拠もパーになったよ。誰も信じてくれなかった。でもわかった、いずれまた起きるってな。」
悠介の話に二人は何も言えなかった。驚きと苦しさの重い空気のためだろう。
「隠して悪かった。俺がそういう経験をしたことを喋ったらもっと困惑していたと思ったから………」
悠介にも悠介なりの考えがあったようだ。この事については二人とも深くは追求しなかった。
ただ一人をのぞいて…
「あぁ、俺はもう貴様らの計画から抜ける。」
(正気か?お前はこの地獄から抜けられなくなるぞ?)
「貴様らの犬になるのはお断りだ。私は仲間と行動する。」
(やはりやくたたずか。
お前には失望した。)
「私はカインズの為にとるのではなく、この災厄を二度と起こさないようにするためにシャッターを降ろす。」
(無駄なことを。まぁいいこれで最後だ、じゃあな幸治。)
「真田さん?」
幸治は焦ることもなく後ろに振り返った。そこには水島が立っていた。
「すまん、この事についてはまたの機会にしてくれ。」
「あの………」
「私は君たちの仲間だ、これは絶対だ。」
「ではなく、天宮くんのことなんですが……」
幸治も合流すると、悠介はまた同じことを話し始めた。
幸治も驚きを隠せなかった。そして、自分も本当のことを話さなければならないことを悟った。
「私も言おうか。危険な時にシャッターを降ろす理由を。」
三人は静かに幸治の方を向き、ベンチに座り始めた。
「最初、私は世界にこの災厄を伝えるためにシャッターを降ろすといった。
しかし、それは嘘だ。本当はこの災厄を巻き起こした【カインズ】と呼ばれる会社のためだった。」
「カインズって、あの薬品会社の?」
「そうだ。私は実験結果をカメラに納めろと言われ、この市街地に下ろされたのだ。」
「これが実験だと!?
多くの犠牲者を出してまでする必要があるのか!?」
官次郎が声をあらげて言った。幸治は冷静に話を続けた。
「それは分からない。私もそこまでは言われていない。しかし、私は君たちの味方だ。いま決心したのだ。」
幸治は今までにないくらいの声の大きさで訴えた。
「真田さん。俺達は貴方を信じていないとは一言も言っていません。
だから俺達は貴方を仲間と信じていますし、そんな話で揺れ動くわけでもありません。」
悠介は幸治に優しく応えた。幸治はしばらく俯いていた。
「天宮くん……」
理名がドアの方を指差した。誰かがドアを叩いている音が聞こえてくる。
「とうとうきたか……」
官次郎は鞘に手を掛けたが、幸治が首を横に降った。
「あそこの非常階段を使おう。ここで迎え撃っては埒があかない。」
幸治は非常階段を確認するために、階段に向かった。
「大丈夫だ!使えるぞ、速くこい!」
三人は急いで走り出した。
もうカウントダウンは始まっている………
「ゥオオオオォォォ………」
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